3月3日、ロシアのウクライナ侵攻に際して、国連総会における緊急特別会合で、ロシアを非難し軍の即時撤退を求める決議に対して、日米欧など141カ国が賛成したが、アフリカのエリトリアを含む5カ国が反対し、35カ国の棄権した国家のうち、スーダン、中央アフリカ共和国、マリなどのアフリカ諸国が17カ国とほぼ半数を占めた[1]。これは以下にみていくロシアによるアフリカ諸国の軍事セクターへの関与とは無関係ではない。アフリカでは昨今、クーデターや軍部による騒擾[2]が次々と発生している。世界全体で2021年1月から2022年2月までに、9件のクーデターもしくは騒擾が発生したが、このうち、アフリカのマリ、チャド、ギニア、スーダン、ブルキナ・ファソで「成功」し、その後もクーデター(もしくは騒擾)後の体制が持続している。これは2000年以来、最も高い発生件数である[3]。グテーレス国連事務総長は、「クーデターの流行(epidemic of coup d’etats)」と呼び、危機感を露わにしている[4]。

 アフリカで何が起こっているのか。またこの現状を変えることはできるのか。以下、クーデター発生の背景、および今後の展望について考察する。

大きな変貌を遂げたアフリカの外交地図

 アフリカを取り巻く環境は過去数年で大きく変化している。

 ロシアは、アフリカの軍事セクターに積極的に関与を行っており、紛争の進展を左右する多大な影響力をもっている[5]。ロシアは、スーダン、中央アフリカ共和国をはじめとし、チャド、ニジェール、マリ等の西アフリカにもネットワークを拡大している[6]。そもそも軍事ビジネスの拡充による利潤追求が目的であったが、その後、パートナー国を増やすという政策的意図が追加されていったと考えられる。現在、ロシアは、アフリカに対する最大の武器輸出国であり、アフリカ大陸に流入する武器の半分をロシアが占めている[7]。また、ロシアの傭兵が確認された国は、2016年以降、アフリカ大陸で10カ国以上にのぼる[8]。ロシアの民間軍事会社ワグネル(Wagner)は、中央アフリカ共和国、スーダン、西アフリカ等で幅広い軍事ビジネスを展開しており、マリでは2021年、ワグネル関連会社が60億CFAフラン(910万ユーロ)の契約を締結し、約1000人の傭兵を派遣している[9]。中央アフリカ共和国ではワグネルは政府をコントロールするまでの支配力を獲得している[10]。ロシアは、このほか、情報操作・統制など情報セキュリティ部門でもアフリカに積極的な技術提供を行っている[11]。

 投資・経済分野では中国がアフリカで絶大な存在感を発揮している。2007年から2020年まで、中国の開発系銀行がサブサハラアフリカで実施したインフラ投資額は230億ドルである。これは、米国、ドイツ、日本、フランスの支援合計額の2倍以上、世界銀行の支援額を上回る規模である[12]。

 中国は、従来、内政干渉を行わないスタンスを取ってきた。これは、人権や民主主義等の価値観の共有を前提に支援を行い、人権侵害などの問題が発生した場合には厳しい姿勢で臨む西洋諸国とは対照的であり、アフリカの国々はこのスタンスを歓迎してきた[13]。現在、中国はアフリカ各国の社会経済と深く絡むこととなったため、中国のスタンスにも変化が見られる。例えば、これまで中国は、「アフリカの問題はアフリカに委ねる」との立場から、西アフリカ経済共同体(Economic Community of West African States: ECOWAS)など地域機関の判断を尊重する姿勢を取ってきたが、ECOWASが取るクーデターを非難する方針に対し、ギニアではECOWASを支持する一方、マリでは旗色を鮮明にしない立場を取っている[14]。様々な利害関係が生じることになったため、個別に対応を変えざるを得なくなったものと思われる。

 現在、中国は、アフリカに対する姿勢をさらに強化しており、従来の投資・インフラ重視の姿勢から、貿易関係の促進などソフト面での関係を重視する方針に切り替えている[15]。外交面でも存在感を高めようとしており、2022年1月には、中国としては初めて「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ東部地域を担当する特使の派遣を発表し、2月にXue Bing氏を任命している[16]。

 アフリカへの関与を強めるのは、ロシア、中国にとどまらない。かつて繁栄を極めた「オスマン帝国」の回帰を夢見るトルコのエルドアン大統領は、アフリカ30か国を訪問し、アフリカとの関係強化の姿勢を明確にしている[17]。またアラブ首長国連邦(UAE)をはじめとする湾岸諸国もアフリカへの関係強化を進めている。2022年2月に開催された国連のスーダン専門家会合では、UAEがスーダンの武装グループの活動を資金面で支えているとの報告が国連の専門家により行われた[18]。

 諸外国のアフリカ関与が顕著になる一方、従来、アフリカに強い影響力を持っていた欧米諸国の勢いに陰りが見える[19]。西アフリカの仏語圏で絶大な影響力を誇っていたフランスは、同地域の長引く紛争で有効な解決策を提示できず[20]、2021年にはマリから軍事的撤退をすると発表したが、このタイミングに乗じ、ロシアの関与が強まり、2022年1月フランス大使がマリから国外退去命令を受ける事態にまで発展した[21]。2022年2月に開催されたEU-AUサミットは、中国等が巨額の支援を行う中で、EU諸国が提示する支援額も少なく、アフリカ諸国の参加者の間で「失望感」が漂う内容だったと言われている[22]。アメリカがスーダンに対し発動をちらつかせる経済制裁も、諸外国の影響力が強まる中、実効性が疑問視され、クーデターや騒擾が発生した国に対し有効な対抗措置が見いだせない状況となっている[23]。

 国連は、安全保障理事会の常任理事5カ国間のコンセンサスビルディングが難しく、紛争への介入で有効な役割を果たせない状況に陥っている[24]。アフリカ連合(AU)やECOWASなどのアフリカの地域機関も、懸念のある国のメンバーシップの一時停止などの措置を行うものの、その影響力は限定的である[25]。

 様々なアクターがアフリカ諸国に関与し、クーデターを陰で支える国が現れた結果、当該国との関係悪化を恐れ、武力による政権奪取を「クーデター」と呼称し、クーデターの実行者を非難することができない状況が発生している[26]。冷戦時代、アフリカでは資本主義陣営と社会主義陣営間の囲い込み競争が行われ、どちらかの陣営に入ることの見返りとして多額の支援を享受する状況が存在した。冷戦後、資本主義陣営が勝利し、西側諸国の持つ民主主義の価値観が規範力を持つようになり、どの国も民主主義の推進には抗えない状況が誕生した[27]。その一方で、社会主義との戦いに勝利した西側陣営はアフリカに関する関心を無くし、アフリカ諸国は「自らの問題は自らで解決するしかない」状況に陥った。その後、時代は変わり、今や諸外国がこぞって関係強化を申し出る時代となっている。これは人口100万人以上の都市が100以上あり、なおも人口増加が見込まれるアフリカの現在および将来に大きな商機を各国が見いだしているからである[28]。今やアフリカ諸国は、世界から見離された地域ではない。むしろ、アフリカ各国が自らのパートナーを選ぶ時代である。クーデターや騒擾は、アフリカ諸国の軍部や実力者が選ぶことができるカードとなったのである。 (後編に続く)

(2022/3/11)

*本論考は後編に続きます。後編はこちらからお読みいただけます。
「クーデターの時代」のアフリカ(後編):クーデターの連鎖を止めるには?

脚注

  1. 1国連総会のロシア非難決議 反対・棄権は計40か国」NHK 『News Web』、2022年3月3日。
  2. 2 暴力行為により社会秩序を変えるという点では、クーデターも騒擾も変わりはないが、クーデターと呼称することにより、経済制裁などの関連法規が適用されることがあるため、同一の行為に対しても呼称は各国、機関等によって異なる場合がある。
  3. 3 Christopher Faulkner, Jaclyn Johnson, Naunihal Singh, “Don’t Blame Contagion for the Resurgence in Coups,” World Politics Review, March 1, 2022.
  4. 4 Mucahid Durmaz, “2021, the year military coups returned to the stage in Africa,” Aljazeera, December 28, 2021.
  5. 5 Declan Walsh, “Russian Mercenaries are driving war crimes in Africa, U.N. says,” The New York Times, July 27, 2021.
    Mike Eckel, “In Russian action film, bullets, bloods, blasts, bad guys – and a whitewash of mercenary atrocities?,” Radio Free Europe/Radio Library, May 22, 2021.
    Salem Solomon, “Military contractor deaths raise questions about Russia’s security presence in Africa,” Voice of America (VOA), November 4, 2019.
  6. 6 Mathieu Olivier, “Russia-Africa: Sergei Lavrov, Vladimir Putin’s global thinker,” The Africa Report, December 23, 2021.
  7. 7 John Parachini and Ryan Bauer, “What does Africa need most now: Russian arms sales or good vaccines?,” The Rand Blog, November 17, 2021.
    Heather Ashby, Jude Mutah, Andrew Scobell, Mona Yacoubian, “How Putin’s invasion of Ukraine affects the rest of Russia foreign policy,” United States Institute of Peace, February 24, 2022.
  8. 8Private military contractors bolster Russian influence in Africa,” France 24, February 4, 2022.
  9. 9Mali – Russia: Bamako to sign contract with Wagner Group,” The Africa Report ,Source: Jeune Afrique, September 17, 2021.
    Joyce Karam, “US ‘alarmed’ over potential Russian Wagner group mercenary deployment in Mali,” The National, December 16, 2021.
  10. 10 Joyce Karam、op.cit.;(註9のJoyce Kanamの前掲記事に同じ)
    Mathieu Olivier, “Russia/Africa: Wagner, an investigation into Putin’s mercenaries,” The Africa Report, July 28, 2021.
    "CAR's former prime minister Firmin Ngrebada was a victim of France and Russia’s power struggle,” The Africa Report ; source, Jeune Afrique, June 18, 2021.
  11. 11 Benjamin Roger, Georges Dougueli, “Russia – Africa: Behind the scenes of Moscow’s soft power,” The Africa Report, July 29, 2021.
  12. 12 Andrea Shalal, “Chinese funding of sub-Saharan African infrastructure dwarfs that of West, says think tank,“ Reuters, February 9, 2022.
  13. 13 Andres Schipani, “China envoy appointment signals deeper ties with Horn of Africa,” Financial Times, January 24, 2022.
    Mucahid Durmaz, op.cit.,(註4の前掲記事に同じ。)
  14. 14 Jevans Nyabiage, “Why China has ‘drifted away’ from its African allies on military coups,” South China Morning Post, January 29, 2022.
  15. 15 Jevans Nyabiage, “Is this the end of the line for China’s big belt and road funding in Africa?South China Morning Post, January 17, 2022.
  16. 16 Andres Schipani, Financial Times, January 24, 2022, (註13に同じ)
    China appoints new special envoy for turbulent Horn of Africa region,” Reuters, February 22, 2022.
  17. 17 Chris Olaoluwa Ogunmodede, “Erdogan’s Engagement finds willing partners in Africa”, World Politics Review, February 25, 2022.
  18. 18UN experts: ‘UAE-funded mercenaries in Libya bankroll Darfur armed movements’,” Radio Dabanga, February 6, 2022.
  19. 19 Niall Duggan, Toni Haastrup, Luis Mah, “Africa’s ties with Europe should be shaped by African agency,” World Politics Review, February 15, 2022.
  20. 20 Alex Thurston, “One step backward: US to assist French in failing African counter-terror ops,” Responsible Statecraft, January 18, 2022.
  21. 21 Neil Munshi, “Mali expels French ambassador over ‘outrageous remarks’,” Financial Times, January 31, 2022.
  22. 22 Patrick Smith, “Russia/Ukraine: How the war drums in Europe will echo in Africa,” The Africa Report, February 22, 2022,
    Niall Duggan, World Politics Review, February 15, 2022;
    David Pilling, “Europe seeks to reboot relation with Africa,” Financial Times, February 17, 2022.
  23. 23 Nicholas Mulder, “How America learned to love (ineffective) sanctions,” Foreign Policy, January 30, 2022,
    Erica Gaston, “Targeted Sanctions are trendy, but not very effective,” World Politics Review, February 7, 2022.
  24. 24Why the UN Security Council stumbles in responding too coups,” International Crisis Group, Commentary / Global,January 24, 2022,
    Aishwarya Machani, “The U.N. is in danger of becoming irrelevant,” World Politics Review, Mach 1, 2022.
  25. 25 Mucahid Durmaz, op.cit.(註4に同じ。)
  26. 26 Christopher Faulkner, op.cit.(註3に同じ。)
  27. 27 Christopher Rhodes, “America and China opened the door for African coups to return,” Aljazeera, December 3, 2022.
  28. 28 David Pilling, op.cit. (註22の前掲記事に同じ。)