トランプ政権のベネズエラ攻撃とグリーンランド購入姿勢をどう見るか?
渡部 恒雄
米国の軍事作戦によるベネズエラのマドゥロ大統領の逮捕は、世界に大きな衝撃を与えた。幸いにもまだ実行はされていないが、米国のグリーンランド領有への武力行使の示唆も同様だ。どちらも、既存の国際秩序を守る側の米国が、国際ルールに反する行動を、正当な理由も示さずに、堂々と行ったからである。
日本が理解すべきは、トランプ政権内では、国家戦略の方向性について大きな合意はなく、トランプ氏自身の方向性は、自身の経済的利益と名声のためのディールを結ぶことが優先されている、ということだ。そのような指導者を米国政府は経験、想定していないこともあり、政府内で政策・戦略の合意を図ることは至難の技であることが想像できる。実際のところ、政権内の異なる思惑を持つ勢力を、国家安全保障担当補佐官が調整するような、過去の米国政府が経験してきた、これまででは通常だった機能は期待できない。
同時にベネズエラでの米国の軍事作戦について理解すべきは、米国の歴史において、自国に近接する中米諸国に対して、一方的な軍事行動を取ることは過去にも多々あったという事実である。トランプ政権のようなアメリカ・ファーストを強く打ち出した政権でなくとも、これまでの米国政権は、自国の安全に死活的な影響を与える近隣の中米諸国には、国際ルールを逸脱した「ダブルスタンダード」を適用してきたし、米国の同盟国はその行動を受け入れてきたことも、忘れてはいけないだろう。
トランプ政権内に大きな戦略的な合意はあるのか?
今回のベネズエラ侵攻においては、スティーブン・ミラー大統領次席補佐官と国家安全保障担当大統領補佐官を兼任するマルコ・ルビオ国務長官の二人が、作戦の立案と遂行の中心人物といわれているが、ミラー氏、ルビオ氏、トランプ氏の三人の思惑は異なると目され、政権内でこれを調整する人物もいないため、今回の方向性が今後のトランプ政権の方向にどのように反映していくかは、現時点では不明な点も多い1。
例えば、米国のグリーンランド領有については、ミラー氏は、CNNの番組で、トランプ政権の正式な立場は「グリーンランドは米国領であるべきだ」と述べ、さらに軍事介入の可能性について聞かれると、以下のようにデンマークの北極圏領有権の主張に疑義を呈して否定しなかった。「デンマークの領土主張の根拠は何だ。グリーンランドをデンマークの植民地とする根拠は何だ。米国はNATO(北大西洋条約機構)の大国だ。米国が北極圏の安全を確保し、NATOとその利益を守るためには、グリーンランドは当然、米国の一部であるべきだ2。」これは国際法と同盟関係を無視した発言といえる。
一方、ルビオ氏はグリーンランドについて、購入を通じての取得を目指す考えを示している。ルビオ氏は記者団からグリーンランドを購入する意向があるかを問われ、「最初からそれがトランプ大統領の意図するところだ」と語り、米軍活用の可能性については「安全保障上の脅威を特定すれば、どの大統領も軍事的手段の選択肢を持つ」と述べる一方、軍事的圧力ではなく交渉を重視する考えを示した3。ミラー氏と比較すれば、最低限度、同盟関係や国際法に配慮した発言といえる。
トランプ氏は、グリーンランドは「いずれにせよ」米国が領有することになると述べ、米国が行動しなければロシアと中国によって支配されると主張し、鉱物資源が豊富なグリーンランドを米国が管理することが国家安全保障にとって重要だと発言している。しかし事実としては、中露のどちらもグリーンランドに対する領有権を主張していない4。これらはトランプ氏が不動産の中小企業の社長だった経験を、米大統領職にあてはめ、米国を国家ではなく自分の所有する企業と考えて動いている発言のように思われる。実際、ニューヨークタイムズ紙へのインタビューで、トランプ氏は「私には国際法は必要ない」と発言している5。
このような立場の違いをみると、NATOとの同盟関係の維持や、最低限の国際ルールを守りたいルビオ氏に対して、あくまでもアメリカ・ファーストでの脱外交的な姿勢を主張するミラー氏とでは、明確にアプローチが異なる。一方で、トランプ氏は自分が望むような「ディール」が成立すれば良く、成果が出せれば、どちらのアプローチでも構わないと考えているように思われる。
今後、ミラー氏とルビオ氏のどちらがイニシアティブをとっていくかはわからないし、今回はJDヴァンス副大統領が、あまり積極的に関与をしていないことも気になる要素だ。
トランプ外交は「新帝国主義」か「ネオローヤリスト」か?
トランプ政権の、ベネズエラやグリーンランドに対して見せた、力の行使で領土や資源獲得を目指すという外交姿勢については19世紀の大国による植民地競争時代を彷彿させる「新しい帝国主義」という評価がなされている6。
しかし、トランプ氏の利益を中心に動く外交の本質について、ステイシー・ゴダード、ウェズリー・カレッジ教授とアブラハム・ニューマン、ジョージタウン大学教授は、むしろ17世紀の絶対王政時代の王室外交を彷彿させる「ネオローヤリスト(Neo-Royalist)」ではないかと考察している。
この理論によると、現在の米国政権の外交政策は、トランプ氏と彼に近い利害関係者たちのグループに対して、金銭やステータスを与える道具と考えられる。そして、これらの私益を達成するために、国益上のライバル国とも結託することも起こり得るため、長期的な国益が損なわれる可能性もある。
例えば、ベネズエラのケースでいえば、ミラー次席補佐官は、米国への麻薬流入を阻止するために、ベネズエラに対する米国の「力による統治」の必要性を主張している。しかしトランプ氏はかつて同じ南米で「白人たちを麻薬漬けにしたい」と発言したホンジュラスの前大統領を恩赦するという、麻薬流入阻止とは矛盾する行動をとっている。
しかしこの外交を国益重視ではなく、トランプ氏およびトランプ氏の身内への私益だと考えると矛盾しない。また、トランプ氏は、ベネズエラを米国がコントロールすることは、米国の繁栄に寄与するとしているが、将来的に米国が利益を得るかどうかは、まだ不透明だ。一方で、トランプ氏の有力支持者のポール・シンガー氏が支援する「アンバー・エナジー」社は、昨年ベネズエラの国営石油会社の子会社「CITGO」社の経営権を競売で市場価値の半値近い価格で落札した7。
つまり、ベネズエラ攻撃は、少なくともトランプ氏の身内の利益には寄与している。この仮説が正しければ、トランプ政権の外交は、過去のどの米国の政権とも違う外交をしているということになる。日本はこの点を踏まえてトランプ外交の方向性を見ていく必要がある。
トランプ政権に日本はどう向き合うべきか?
日本が理解すべき点はもう一つある。それは過去の米国外交の歴史を振り返れば、米国が中米諸国に対して国際法を逸脱する行動を取ったことは何度もある、という事実だ。1990年1月に、ブッシュ(父)政権が、中米パナマに軍事作戦を行い、独裁的指導者のノリエガ将軍を拘束して米国に移送した。ノリエガ氏は米国内の裁判において麻薬密輸等の罪で有罪となり、禁固40年が求刑され、最終的には17年に減刑されて米国内で服役した。ノリエガ氏は、麻薬密輸で米国から起訴されたことや、選挙結果を無視して指導者の地位に留まり続けていたことなど、マドゥロ氏と共通点が多い8。
当時の米国の行動も、国際法から見れば違法の可能性が高い。しかし当時の米国民は、独裁者を力によって引きずりおろしたブッシュ大統領を支持し、支持率は、それ以前から約10ポイント上がり80%に達した9。
今のトランプ政権はこの事例を参考に、今年11月に控える中間選挙に向けて、政権浮揚も考えていたはずだ。当時、ソ連を中心とする共産圏に対抗して、自由主義観のリーダーとして、冷戦に勝利しかけていた米国の行動は、欧州からも日本からも、強い批判を受けることはなかった。
それもそのはずで、主権国家を超える世界政府は存在していないため、世界は無政府状態にあるからだ。つまり、米国の行動を制御し裁ける主体はこの世界に存在していない。国際法もあくまでも主権国家同士の合意に基づいてのみ機能している。ただし、第二次世界大戦を経験した諸国は国際連合を作り、その安全保障理事会が侵略を定義し、国連加盟国が軍隊を出して、侵略あるいは平和への脅威に対抗するという仕組みを作った。
しかし安全保障理事会の常任理事国に拒否権を持たせたことで、少なくとも、ソ連(今はロシア)、中国、米国、英国、フランスの一国でも反対すれば機能しないことになり、国連軍はほとんど機能しなかった。最後に国連軍的なものが機能したのは、皮肉なことに、ブッシュ政権がノリエガ氏を逮捕した同じ1990年の8月に、隣国クウェートを侵略したイラクに対抗して多国籍軍が戦った湾岸戦争だった。
当時、冷戦終結を受け、米ソが一致してイラクへの武力行使容認決議を可決させ、米軍中心の多国籍軍が組織されてイラクのクウェート侵略は阻止された。当時も今も、世界最強の軍隊を持つ米国が国際法違反をしたからといって、それを咎める力のある国家は存在しない。
だからといって、米国の指導者が勝手気ままに振舞えたわけでもない。その制約は国内から来るからだ。1991年に湾岸戦争に勝利したブッシュ大統領は、さらに支持率を上げて、約89%の高い支持率を記録した10。しかし翌年、景気の悪化に不満を持つ有権者は、ブッシュ再選を阻み、クリントン候補が勝利した。
当時と比較しても、アフガニスタンとイラクで長く続いた米軍派兵に不満を持つ米国有権者は、トランプ政権に対してより厳しいはずだ。1月4~5日のロイター・イプソス世論調査によれば、トランプ政権の支持率は42%と、昨年12月から3ポイントしか上昇していない。さらにベネズエラ攻撃への支持は33%に過ぎず、72%がベネズエラへの米国の過度な軍事関与を懸念している11。
もし今後、ベネズエラの政権が安定せずに、トランプ氏が排除しないと話した「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」(陸上兵力の派兵)という状況になれば、政権の支持率浮揚どころか逆風が吹くことになる。米国の無謀な政策は最終的には、米国の有権者が正してきたのが過去の歴史である。
日本にとっては、4月のトランプ訪中時の米中接近のリスクもあり、3月に訪米する高市首相が、トランプ氏との良好な個人的関係を損なわないように、ベネズエラおよびグリーンランド問題に対する批判的なコメントは避けたことは賢明だった。もし日本政府が、米国をいたずらに批判して日米同盟の機能を弱体化させたとしても、世界はさらに不安定化するだけだ。
一方で、日本が既存の国際秩序を否定するような姿勢も避ける必要がある。その意味でベネズエラについての高市首相の発言12および同趣旨の外務報道官談話13は、トランプ氏との関係と国際秩序の維持の間の難しいバランスを取ることで苦慮したものだろう。
これらの発言は、自由、民主主義といった基本的価値や国際法の原則を尊重する姿勢を示しながらも、米国の行動が国際ルールに違反しているという点にあえて言及しなかった。日本はトランプ氏との関係を維持しようとすると同時に、民主的価値や国際法などを重視する姿勢を捨てていないという微妙なニュアンスのメッセージを発信した。
一方で、上記の短期的な外交配慮とは別に、長期的には、日本は今後、世界の秩序維持に米国を再関与させるために、欧州諸国などと知恵を絞っていく必要があるだろう。欧州諸国との水面下での対話や協力、そして米国内の共和、民主両党の国際関与派との関係構築も重要となる。例えば、キューバ移民の二世であるルビオ氏は、自己の政治的な信条からも、トランプ政権内で生き残るためにも、キューバの左派政権に厳しい姿勢をとっている。しかし保守的ではあるが、その対外姿勢は、ヴァンス氏やミラー氏のように内向きではなく、むしろ国際関与を志向しているという点も理解すべきだろう。日本としては、2029年からのポスト・トランプ時代を睨み、米国を国際関与に上手に誘導していくためにも、欧州諸国と協議をすると同時に、米国内の国際関与派との関係づくりも不可欠だ。
(了)
- Adam Taylor, Samantha Schmidt, Natalie Allison and Karen DeYoung, “U.S. plan to ‘run’ Venezuela clouded in confusion,” The Washington Post, January 4 (updated), 2026, <https://www.washingtonpost.com/national-security/2026/01/04/us-venezuela-plan-trump-rubio-miller/>accessed on February 15, 2026.(本文に戻る)
- 「トランプ政権の立場はグリーンランドが米国の一部であるべき 大統領次席補佐官」、CNN、 2026年1月6日、<https://www.cnn.co.jp/usa/35242345.html>, accessed on February 15, 2026.(本文に戻る)
- 「米長官、デンマーク高官と来週協議 グリーンランド領有巡り」、時事ドットコム、2026年1月8日、<https://www.jiji.com/jc/article?k=2026010800265&g=int> accessed on February 15, 2026.(本文に戻る)
- 「『いずれにせよ米国が領有』グリーンランドめぐりトランプ氏」、時事ドットコム、2026年1月13日、<https://www.jiji.com/jc/article?k=20260113048360a&g=afp> accessed on February 15, 2026.(本文に戻る)
- David E. Sanger, Tyler PagerKatie Rogers, and Zolan Kanno-Youngs, “Trump Lays Out a Vision of Power Restrained Only by ‘My Own Morality,” The New York Times, January 10 (updated) 2026, <https://www.nytimes.com/2026/01/08/us/politics/trump-interview-power-morality.html> accessed on February 15, 2026.(本文に戻る)
- Kanishka Singh, “Trump's foreign policy called imperialist by experts,” Reuters, January 16, 2026, <https://www.reuters.com/world/americas/trumps-foreign-policy-called-imperialist-by-experts-2026-01-15/> accessed on February 15, 2026.(本文に戻る)
- Stacie Goddard and Abraham L. Newman, “This Theory Explains Trump’s Baffling Foreign Policy,” The New York Times, January 26, 2026, <https://www.nytimes.com/2026/01/26/opinion/trump-foreign-policy-neo-royalist.html?searchResultPosition=2> accessed on February 15, 2026.(本文に戻る)
- 「パナマ・ノリエガ氏と経緯酷似 米政権がマドゥロ大統領拘束」, NEWS.jp (共同通信),2026年1月4日、 <https://news.jp/i/1380456437524644058?c=302675738515047521?c=302675738515047521> accessed on February 15, 2026.(本文に戻る)
- RJ Reinhart , “George H.W. Bush Retrospective,” Gallup, December 1, 2018, <https://news.gallup.com/opinion/gallup/234971/george-bush-retrospective.aspx> accessed on February 15, 2026.(本文に戻る)
- Ibid.(本文に戻る)
- 「マドゥロ氏拘束「賛成」33%にとどまる、トランプ氏支持率は42%に回復=世論調査」、Reuters、2026年1月7日、<https://jp.reuters.com/video/watch/idOWjpvC807CIPQ7MOB03SS9E7DOLGEYZ/> accessed on February 15, 2026.(本文に戻る)
- 「高市首相『ベネズエラ情勢安定へ外交努力』 米の攻撃への評価避ける」、『日本経済新聞』、2026年1月5日、<https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0546J0V00C26A1000000/>accessed on February 15, 2026.(本文に戻る)
- 外務報道官談話「ベネズエラ情勢(米国によるマドゥーロ大統領の身柄拘束)」、2026年1月4日、<https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/pageit_000001_00040.html> accessed on February 15, 2026.(本文に戻る)