尖閣諸島の水質


飲用には向かない水(1968年)
1968年に魚釣島・南小島・北小島の水質調査を行った兼島清氏(琉球大学)は、魚釣島に数条の小渓流があること、南小島・北小島には泉や渓流はないが、岩の間から滴下する水溜りがあること(黄褐色で酸味が強く飲用できない)などを確認し、7試料を採水して分析を行っている。その結果、概して海水の影響を強く受けており、食塩が主成分になっていることや、一例を除いてpHが2.8~4.4と異状に低い値を示すこと、南小島・北小島の水は海鳥の糞の影響によりpHが低くかつリン分が高いことなどを確認している。また、魚釣島で採水した一部の試料については、硫酸を含んだ水であることを明らかにしており、鉱床の存在等との関係を示唆している。(Ref.1)

流量が多く飲用に供される魚釣島の水(1971年)
琉球大学の吉田一晴氏・平良初男氏・渡久山彰氏は、引き続き1971年に陸水を45個採水し、詳細な分析・検討を行っている。この調査において、魚釣島の北側斜面には流量も多く飲用に供され、海水の影響が比較的少ない水があることを新たに明らかにし、魚釣島・北小島・南小島の水を3つのグループに区分した上で、その生い立ちを以下のように推定した。 (Ref.2)

① 海水からの風送塩+砂岩+降雨水で作られる水(魚釣島)
② ①に鳥糞からの溶出成分を加えたもの(南小島)
③ ②にさらに枯草や腐植土からの溶出成分を加えた水(北小島)

その上で、魚釣島・北小島・南小島の水は、島の傾斜(水、枯草、腐植土をためやすいか否か:滞留・接触時間の長短)や、生えている草木や鳥類が多いのか少ないのか、などと関係していることを推察している。(Ref.2)

利用開発の可能性からみた水質(1979年)
沖縄開発庁は1979年の利用開発可能性調査において、水質調査を実施している。10地点の表流水サンプリングおよび魚釣島3地点と南小島1地点のボーリング調査から得られたサンプルを元に行った分析では、上水道水質基準値への適合について検証を行っている。結果として、魚釣島の表流水は一般細菌数、大腸菌群および一部pH値が飲料水として不適合(いずれも海岸に近い位置で採水している)、南小島では3項目が不適合であり、飲料水として使用するためにはpH調整、凝集沈殿砂ろ過による浄化処理および消毒が必要とした。北小島では過マンガン酸カリウム消費量およびpH値の2項目が不適合で、飲料水とするには南小島と同様の措置を必要とするとしている。尖閣諸島最大の魚釣島でも流域面積は14ha程度と狭く、蒸発散量が多く保水能力が弱いという地域特性があることから、全般に用水の安定確保が難しいと結論づけている。(Ref.3)

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Ref.1 :兼島清「尖閣列島の水質」『工業用水』第128号、日本工業用水協会(尖閣諸島文献資料編纂会による尖閣研究「高良学術調査団資料集」に収録)(1968年)

Ref.2 :吉田一晴・平良初男・渡久山彰「尖閣列島の水質調査」『琉球大学尖閣列島学術調査報告』(1971年)

Ref.3 :沖縄開発庁『尖閣諸島調査報告書(利用開発可能性調査編)要約版』(1980年)