ヤギの食害問題


尖閣諸島魚釣島においては、野生化したヤギの食害が環境問題になっている。 魚釣島では、1978年、民間の政治団体が意図的に放逐したヤギが爆発的に増加、現在300頭以上に達していると考えられている。 (Ref.1)

その結果としての魚釣島のヤギの食害については、衛星画像による分析も行われており、高解像度人工衛星イコノス(2000年撮影)、Quickbird(2004、2006年撮影)、ALOS(2007年撮影)の衛星画像、また1978年(ヤギ放逐以前)に撮影された航空写真との比較解析により、魚釣島の総面積3.8k㎡のうち、13.59%が裸地になっていること、随所での崖崩れの発生、隆起サンゴ礁植生や森林への被害の拡大などが確認されている 。(Ref.2)

魚釣島には固有種や生物地理学的に重要な種が多数生息するが、現状を放置すれば島の生態系全体への重大な影響によって、貴重な生物種の多くは絶滅することが懸念される。日本生態学会はこの問題に対し、2003年3月の第50回大会において「尖閣諸島魚釣島の野生化ヤギの排除を求める要望書」を決議し、環境省、外務省などに提出した。同様の要望書は、日本哺乳類学会(2002年)、沖縄生物学会(2003年)においても決議されている 。(Ref.1)

魚釣島の野生化ヤギの食害の問題は、国会でも繰り返し取り上げられている。
2001年3月「尖閣諸島魚釣島の野生化ヤギ問題に関する質問趣意書」 (Ref.3)
2012年2月「尖閣諸島への上陸及び実効支配に関する質問主意書」 (Ref.4)

また、地元石垣市においても、石垣市議会(入嵩西整議長)が、全会一致で「尖閣諸島(魚釣島)のヤギ捕獲を求める要請決議」を可決(2008年3月)。国に対して、現地の事態調査と自然保護対策を要請している 。 (Ref.5)

2012年9月に実施された、東京都による尖閣諸島現地調査(小型船上より10倍の双眼鏡および肉眼で観察。海岸線より概ね200m以内であった。)においても、魚釣島の植物に対する野生化ヤギの食害が報告されている。隆起サンゴ礁上に植生が全く見られないこと、かつてのビロウ林が芝生状の裸地になっていたこと、崖部の草本植物が失われ土砂崩れが進行していたこと、カツオ節工場跡地も芝生状の裸地となり表面土砂の流失が見られたことなどが報告され、これは野生化ヤギによる過度の採食の結果であろうとしている 。(Ref.6)

野生化ヤギによる魚釣島の生物相への影響全般については、以下の論文が問題点を網羅し、詳細に論じている 。 横畑泰志・横田昌嗣・太田英利「尖閣諸島魚釣島の生物相と野生化ヤギ問題」『広島大学平和科学研究センター』(2009年)。(Ref.7)


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Ref.1 :横畑泰志「尖閣諸島魚釣島の野生化ヤギ問題とその対策を求める要望書について (The Problem of Feral Goats on Uotsuri-jima in the Senkaku Islands and Appeals for Countermeasures to Resolve the Problem,Yasushi Yokohata)」『保全生態研究』8(1)、日本生態学会(2003年)

Ref.2 :横畑泰志・金子正美・横田昌嗣・星野仏方「高解像度衛星画像を用いた尖閣諸島魚釣島のヤギによる生態系変化の追跡 (Yasushi Yokohata, Masami Kaneko,Masatsugu Yokota,Buho Hoshino. Surveillance of the change of ecosystem on the Uotsuri-jima in Senkaku Islands with goats, using highresolution satellite images,)」『 国立情報学研究所KAKEN:科学技術データベース 2007-2008 環境影響評価・環境政策分野 基盤研究(C)』 (2007-2008年)

Ref.3 :「尖閣諸島魚釣島の野生化ヤギ問題に関する質問主意書」『平成十三年三月一日提出質問』第三六号(2001年3月1日)

Ref.4 : 「尖閣諸島への上陸及び実効支配に関する質問主意書」『平成二十三年二月七日提出質問』第四八号(2011年2月7日)

Ref.5 :石垣市議会HP 意見書・決議「尖閣諸島(魚釣島)ヤギ捕獲を求める要請決議」(2008年)

Ref.6 :小城春雄・山田吉彦『東京都尖閣諸島現地調査 調査報告書』東京都(2012年10月)

Ref.7 :横畑泰志・横田昌嗣・太田英利「尖閣諸島魚釣島の生物相と野生化ヤギ問題」『IPSHU 研究シリーズ』42、広島大学平和科学研究センター(2009年)p.307-326