1970年までの戦後の調査2(1970・1971年:琉球大学)


(1)魚釣島・北小島・南小島・久場島の植物相(1970・1971年)
1970年9月29日~10月7日、1971年3月29日~4月10日にかけて琉球大学によって学術調査が実施され、それらの結果が「尖閣列島学術調査報告」としてまとめられている。この中で新納は、玉城松栄・新城和治・宮城康一らとともに、南小島・北小島・魚釣島・久場島の植物相について詳細な報告を行っている。

魚釣島:標高300m台の山が連なり、植物もよく繁茂している。頂上付近にはコショウノキ、テリハノギク、オトギリソウ科の1種など分布上興味ある植物がみられ、オトギリソウ科の1種は新種であることが分かり、センカクオトギリと命名された。北斜面の中腹付近は、同島で最も森林が発達しており、タブ、シロガジュマル、オオタニワタリ、シマオオタニワタリ、リュウキュウセキコク、イリオモテランなどが着生し原始林の状態を呈している。頂上付近は霧におおわれていることが多いためか湿度が高く、イリオモテラン、リュウキュウセキコク、リュウキュウマメズタ、マメズタカズラ、クスクスヨウラクラン、ウチワゴケなどが根際から地上1m位の所に着生している。琉球列島の他地域では見られない相観であり、同島からは297種(羊歯植物以上変種を含む)を記録できたとしている。 ※尖閣諸島の中で最も所産植物が多く、木本性植物などの生長も良い。人為的撹乱が少なく、自然度が高い。 (Ref.1)

久場島:植物の種数はわずかに87種(羊歯植物以上)、噴火口の周辺にはオオクサボク、オオバギ、シロガジュマル、リュウキュウガキ、ウラジロエノキ、タブ、ビロウなどの良く生育した森林が見られる。林床植物としての草本類や羊歯植物は貧弱。噴火口にはサトウキビ、カライモが野生化し、カラムシ、ツルソバ、キケマンなどとともに代償植生の群落構成種をなしている。山の中腹付近の斜面にはギシギシ、ホソバワダン、テッポウユリ、ダンチクなどがよく生育し、草地景観をなしていると報告している。 ※尖閣諸島の中で最も人為的撹乱を受けている。 (Ref.1)

南小島・北小島:南小島で51種(羊歯植物以上)、北小島で24種(羊歯植物以上)記録したのみで植物相は貧弱。木本植物は海岸近くでシロガジュマル、クサトベラ、モンパノキが見られるだけで森林の発達がない。両島の主な植物として、ハマダイコン、ハマボッス、ギシギシ、ハママンネングサ、キヌゲメヒシバ、ノゲダイヌビエ、キケマン、オオハマグルマなどがあげられると報告している。(Ref.1)

全体的に、台湾との共通種が最も多く、関係が深いように思われ、維管束植物(327種)の帰化率の計算(1.8%)から、自然度が高く保有されている事を示しており、植物自然は自然植生に近く、特に魚釣島(同1%)の自然度の高さを特筆している。(Ref.1)

(2)魚釣島・北小島・南小島・久場島の陸生動物(1971年)
池原貞雄(琉球大学理工学部)・下謝名松栄(琉球政府普天間高等学校)は前述の琉球大学尖閣列島学術調査報告(1971)に、1971年に実施した魚釣島・北小島・南小島・久場島の陸生動物に関する調査結果を報告している。特に、南小島において計12羽のアホウドリを確認しており、尖閣諸島にアホウドリの棲息が確認されるのは、宮嶋(1900)の報告以来となり、実に71年ぶりのことになる。 (Ref.2)

調査によって確認された陸生動物は126科260種で、その過半数は新たに記録されたもの。久場島で確認された無脊椎動物の殆ど全部は同島の新記録種としている。哺乳類ではクマネズミとネコの2種を認め、人為による移入種と考えられている。陸鳥類は魚釣島に多く(ただし、種類は少ない)、海鳥類は南小島、北小島、久場島が主要生息地であり、久場島ではカツオドリとオオミズナギドリとの明瞭な棲み分け現象を確認している。両生類は認められず、蛇類はシュウダが南小島・北小島・魚釣島に生息していることを記載している。昆虫類は56科102種を採集したが、鞘翅目・蛾類が多く、台風に対する抵抗力の相違に起因すると考えている。他、クモ形類(全て新記録)、多足類(11科17種)、陸産貝類(6科10 種)であり、尖閣諸島の陸生動物相は、島の面積、地理的隔離、地質・土壌、水分の量と質、植生、人為的働きかけなどの影響をかなり強く受けているようであるとまとめている。 (Ref.2)

(3)魚釣島・北小島・南小島・久場島の海岸無脊椎動物(1971年)
仲曽根幸男(琉球大学教養部)・長浜克重(琉球大学教育学部)は、琉球大学尖閣列島調査報告書(1971)にて、1971年に実施した海岸無脊椎動物の調査報告を行っている。調査では141種を確認し、それまで海岸無脊椎動物の調査は殆ど行われていないため、多くは新たな記録であるとしつつも、琉球列島の動物相に特に追加されるものは見当たらず、沖縄本島・奄美大島・小笠原諸島の各島の動物相とかなり類似していると述べている。目録には、I. 海綿動物門(ムラサキカイメン以下3種)、II. 腔腸動物門(オウギウミヒドラ以下19種)、III. 軟体動物門(クサズリヒザラガイ以下67種)、IV. 節足動物門(カメノテ以下37種)、V. 棘皮動物門(オニヒトデ以下15種)が記載されている。 (Ref.3)


tit
Ref.1 :新納義馬・玉城松栄・新城和治・宮城康一「尖閣列島の植物」『尖閣列島学術調査報告』琉球大学(1971年)p.37

Ref.2 :池原貞雄・下謝名松栄「尖閣列島の陸生動物」『尖閣列島学術調査報告』琉球大学(1971年)p.85

Ref.3 :中宋根幸男・長浜克重「尖閣列島の海岸無脊椎動物」『尖閣列島学術調査報告』琉球大学(1971年)p.115


tit