海洋情報(水温・塩分濃度・特長)


大陸沿岸水の影響
第2次世界大戦後、尖閣諸島周辺海域においては、1963年に琉球大学による調査に同行する形で、琉球気象台(伊志嶺安進)による水温・塩分・栄養塩(リン酸塩)の観測が行われている。同報告書(琉気時報第7号・1963年5月30日付、尖閣諸島文献資料編纂会による尖閣研究「高良学術調査団資料集」に収録)によれば、1963年5月15日に那覇港を出発した折の沿岸水温は25℃であったのが、黒潮の流軸にかかるに従って1.8℃上昇して26℃~26.8℃を示し、大正島の大陸棚外縁附近で最高26.8℃を観測したが、魚釣島付近では25.2℃、塩素量が18.95‰に低下し、明らかに大陸からの沿岸水が混入しており、5月中旬でも魚釣島近海で大陸系水と暖水が接していることを推察している。(Ref.1)

尖閣諸島のある大陸斜面上の鉛直方向の水温変化も顕著であり、表面水温と水深20mの水温に1.1~1.6℃の差があり、表層付近は日射の影響を強く受け、表面から浅層、そして海底に向かうにつれて急激に変化していることを述べている。(Ref.1)

1971年3月29日~4月10日にも、琉球大学による総合的な学術調査の一環として、沖縄県水産試験場が海洋観測及び漁場調査を実施している。この結果からも、魚釣島南西に設けた観測点6点について、大陸棚上の奥部にある観測地点(ST3)と黒潮流の影響の強い大陸棚の縁の観測地点とは約10℃の水温差(表面)があり、塩素量にも1.8~2.0‰の差が見られたと報告している。(Ref.2)

栄養塩と豊かな漁場
伊志嶺安進氏による報告書(1963年)では、尖閣諸島の各島周辺の直接の測定値は得ていないものの、リン酸塩の分布について、大陸棚上や黒潮上の観測から得られた等量線図に基づけば、表面で0.2ug-Atoms/L、100m層で0.5ug-Atoms/L、200m層で0.7ug-Atoms/Lと、黒潮主流よりもかなり急な鉛直勾配をしていることを報告し、リン酸塩はプランクトンの栄養源であるため、一大漁場源をなしていることは論をまたないと述べている。(Ref.1)

近年の観測
近年では、2012年9月に東京都の調査団が魚釣島・南小島・北小島周辺の海洋調査を実施している。水深、離岸距離、沿岸・海底地形、潮位・流況などを魚群探知機などを元に調査している。この調査においては、魚釣島沿岸の表面水温は28.1℃~28.6℃を記録している。(Ref.3)


tit
Ref.1 :伊志嶺安進「尖閣列島海洋調査報告」『琉気時報』第7号(1963年5月30日)
(尖閣諸島文献資料編纂会による尖閣研究「高良学術調査団資料集」に収録)

Ref.2 :兼浜安信・金城武光「尖閣列島周辺の海洋観測及び漁場調査」『琉球大学尖閣列島学術調査報告』(1971年)

Ref.3 : 東京都『東京都尖閣諸島現地調査報告書』(2012年)