動物相概観

北方領土および千島列島周辺の動物については、古くから哺乳類をはじめとする陸棲動物の分布の調査が行われ、動物相の分布境界に関する考察がされてきた。

例えば、野沢(1984)は、陸棲脊椎動物相から、択捉海峡によって二分され、択捉海峡の南側の動物は北海道本島から、北側は北方カムチャッカから移ってきたものと考えた(Ref.1)。八田(1910)は、哺乳類では国後海峡を境界と考え(Ref.2)、その後、八田(1921)において、北海道のカムチャッカに対する動物地理上の境界線は至って明瞭を欠いているとしつつも、一定の分割線が得撫島と択捉島の間の瀬戸(択捉海峡)を通っているのは疑いないと指摘した(Ref.3)。その他、動物地理学上の境界は、得撫島と新知島との間に置くとする考えなど、北方領土周辺の動物相の分布境界線については諸説存在する(Ref.4)。

具体的に動物の分布をみると、哺乳類では、オオアシトガリネズミ、エゾヤチネズミ、ヒグマ、カワウソなど北海道との共通種が国後島や択捉島などには分布するものの、それより北には分布しない。一方、チシマヤチネズミ、ホッキョクグマ、チシマクロテンなどのカムチャッカ系の動物は、中部千島以北のみに生息しており、南北に共通して分布する種は数種に限られる(Ref.5)。

両生類および爬虫類については、哺乳類と同様に、南千島には北海道本島と共通する種が認められる。また、中・北千島には爬虫類は全く産しないという特徴がある(Ref.4)。

海鳥が多く繁殖しており、海岸の岸壁に造巣する種が多い。南千島では、チシマライチョウ、チシマシギなどカムチャッカ系統の鳥類はみられず、キタキバシリ、ミヤマカケス、エゾコゲラ、エゾアカゲラなど、北海道と共通の種がみられる(Ref. 4)。