戦略的競争に直面する中、同盟国が三か国間の絆を強化

安全保障アナリストの間では、日米豪印による「クアッド」や米英豪による「AUKUS」といった戦略的なミニラテラル(少数国間)協力体制が大きな注目を集める傾向があるが、さらにもう一つ、インド太平洋地域で結成された第三の戦略的なミニラテラル体制についても精査する必要がある[1]。日本、米国、オーストラリアの三国間協力体制の始まりは、日米豪戦略対話(TSD:Trilateral Strategic Dialogue)が発足した2001年までさかのぼる。TSDは、共通の安全保障問題について検討する閣僚級フォーラムである。「TSD」という名称は、その制度の下で行われるあらゆる三国間協力活動を指す総称として、本稿を含め広く一般に使用されている。TSDの補完として日米豪防衛相会談(TDMM:Trilateral Defense Ministers Meeting)が開催され、そこで三か国の防衛態勢がさらに綿密に調整される。日米豪の三国協力体制が本格化し、軍事的な性質を強めていることを受けて、本稿ではその現状を分析するとともに、共同の抑止力の強化に向けた三か国の進捗を評価する。

2024年11月17日にダーウィンで開催された日米豪防衛相会談(TDMM)では、共同の抑止力の追求を目的として、各国の防衛態勢の緊密な統合を目指す新たな取り組みが数多く発表された[2]。三か国だけの防衛相会談は14回目となり、2024年だけで2回行われた。開催地にダーウィンが選ばれたことは非常に象徴的でもある。というのも、オーストラリアのノーザンテリトリーにある軍事施設・設備は米豪戦力構想の拠点であり[3]、同時に、故安倍元首相が2018年にこの地で演説を行い、日豪の歴史的和解が成立したという背景もあるからだ[4]。現在、日本をオーストラリアの「同盟国」とみなし得る状況になったこと、そして、太平洋戦争で大日本帝国海軍が激しい爆撃を行った地で自衛隊の訓練が実施される道が開かれたことは、それだけで非常に意義深い進展である[5]。

TSDというミニラテラルが再び活発化している背景にあるのは、何よりもまず、中国をはじめとする対抗勢力の国々との戦略的競争が激化していることへの対応である[6]。米国は、インド太平洋地域やその他の地域で安全保障上の利益が脅かされる中、軍事同盟の積極的な強化、主要国との新たな戦略的パートナーシップの構築、そして競争優位を追求するための少数の国によるミニラテラル体制の模索に乗り出している[7]。米国のような権力や影響力はないものの、日本とオーストラリアも、戦略的利益を確保する手段としてこのようなミニラテラルに積極的に参加するようになっている[8]。

以下では、直近のTDMMで取り上げられた最も重要なポイントについて検討するが、その前に、日米豪三か国間の安全保障協力の現状とその内容についてここで簡単に振り返っておきたい。

インド太平洋地域における共同の抑止力の柱となる日米豪三国体制

この三国間協力体制は、地域安全保障に関する話し合いでは(不思議なほど)認知度が低いにもかかわらず、政策当局は共同抑止の戦略の柱としてこれにたびたび言及している。地域内にある数多くの他の「三国間体制」と区別するために、通常は「TSD」という略称が用いられる[9]。2001年に発足したTSDは、2000年代半ばに段階的に正式に制度化された。関連組織との統合と拡大が徐々に進み、ここ数年で活動が著しく活発化している。三国間協力体制の政治的な方向性は、TSD閣僚級戦略対話(前回は2022年に開催)により決定される。しかし現在、三か国間の活動の中心は明らかにTDMM(防衛相会談)に移っているようだ。こうした動きは、安全保障に関する幅広い「対話」よりも、具体的な防衛協力に重点が置かれるようになっていることを示している。とはいえ、名目上、TSDは「制度的な」ミニラテラルの形式を維持しており、TDMMはそれに属している[10]。これらの会合の補完として、日米豪安全保障・防衛協力会合(SDCF:Security and Defense Cooperation Forum)が開催される。SDCFは、詳細は不明だが、三か国の防衛関連の議題の実行を任務としていることは明らかである。

実のところ、TSD、TDMM、SDCFという三国間協力体制の制度的枠組みは曖昧模糊としており、同盟国間で実際に何が起きているのかを理解しようと分析を試みる際の最初のハードルとなっている。さらに、日本とオーストラリアがそれぞれ米国と結んでいる二国間条約による同盟、それに加えて日豪二国間の「特別な戦略的パートナーシップ」を介して、パートナー国間で広く構築された二国間ネットワークが背後にあるため、ますます複雑な状況となっている[11]。このような多方面にわたる広く深い連携は、最もセンシティブな問題に関する三か国の協力と、「深い信頼」を確固たるものにする[12]。実質的に、数多くの取り組みが並行したり交差したりしながら進む中で幅広い協力関係が築かれることになり、それが三か国間の枠組み全体を補強する役割を果たしている。

TSDは、インド太平洋時代の明確な戦略的競争が活発化する前に立ち上げられたが、その設立の過程で、多くの競争領域における新たな課題に徐々に適応してきた。多大なパワーリソースを活用できるという点で、「戦略的ミニラテラル体制」の優れた事例の一つだと考えられる[13]。つまり、地域内のパワーバランスを形成しようという戦略的意図のもとで設計され、そのような成果を達成する能力を備えているということである[14]。自由、民主主義、人権という「共通の価値」で結ばれ、「法の支配が堅持され、主権が尊重され、国家が威圧や武力による威嚇を受けることなく意思決定ができる平和で安定し繁栄したインド太平洋地域に対する確固たるコミットメント」を体現する枠組みとなっている[15]。TSD(またはTDMM)は、南シナ海や東シナ海、朝鮮半島、台湾海峡で起こっているような、地域の「平和と安定」を脅かす行為を非難するための統合プラットフォームとしての役割を果たす[16]。TSDのパートナー国は、ASEANや太平洋諸島フォーラム(PIF:Pacific Islands Forum)などの他の地域的枠組みを積極的に支援し関与する意向を一貫して強調してきた。

しかし、TSDのパートナー国は、戦略的メッセージを伝える重要性を認識すると同時に、外交においては、平和と安定を脅かす動きを抑止するために信頼できる能力の裏打ちが必要だということも理解している。

信頼性の高い共同の抑止力の構築とその後のステップ

トラック1.5対話では、共通の戦略的利益をより首尾一貫した三国間アプローチに転換し、それを実行するための手段を作り上げることが長らく提唱されている[17]。最新のTDMM声明が示す通り、これは現在、「共同の抑止の強化に対する不屈のコミットメント」と表現され、より具体的な形で実現しつつある[18]。共同の抑止力の信頼性を確保するために、現在、様々な重要な取り組みが進んでいる。

第一に、地域の安全保障問題や有事に共同で対処することを目的として、専門の日米豪防衛協議体(Trilateral Defense Consultations)が設立された。これにより、「平時から緊急事態に至るまで」、日米豪の国軍間で政治的、作戦的目標の足並みが揃うことになる[19]。

第二に、ノーザンテリトリーにおける米豪間の戦力態勢に日本がますます組み込まれる予定となっている。例えば、米豪間の軍事演習に自衛隊が参加するとともに、オーストラリア国防軍が様々な日米共同演習に相互参加することが可能になる。実質的に、このような関連演習は今後、すべて三国体制となる[20]。

第三に、日米共同情報分析組織(BIAC:Bilateral Information Analysis Cell)へのオーストラリアの参加により、情報収集・警戒監視・偵察(ISR:Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)も同様に三国体制となる。これにより、三か国はそれぞれの国家資産(無人航空機など)によって収集された情報を共同で分析することが可能になる[21]。

第四に、TSDのパートナー国は、各国の司令部間の作戦調整、計画、情報共有を改善していく予定である。日本とオーストラリアは互いの共同作戦司令部に共同の連絡将校を任命し、在日米軍は共同軍司令部として再編されることになる[22]。

TSDのパートナー国は、共同対応力を前もって構築するための必要条件として、競争力と戦闘力の両面で優位性を確保することを目指し、先端技術分野における協力関係を強化していくことを約束している。これは、AI、自律システム、極超音速技術など、紛争時に各国の軍事力を有効化する新興破壊的技術(EDT:Emerging and Disruptive Technologies)に関係する[23]。このような取り組みは、研究、開発、試験及び評価(RDT&E:Research, Development, Test and Evaluation)プロジェクトに関する日米豪取り決めにより監督される。ネットワーク化された三か国間の防空・ミサイル防衛アーキテクチャの構築に関しては、すでに最初のステップが進められている[24]。先端技術分野における三国間協力の鍵となるのは、日本がAUKUSの「Pillar II」と連携することである[25]。また、各国の産業基盤やサプライチェーンの強化を目的とする多国間フォーラムである「インド太平洋における産業基盤強靭化パートナーシップ(PIPIR:Indo-pacific Industrial Resilience)」の枠組みの中で、TSDは三か国間の防衛と産業の連携を推進する予定である[26]。

このように、EDTの連携を支えとしながら軍事力と指揮統制(C2)の統合を目指す決意のもとで、TSDの三か国は地域内の危機を抑止し、必要に応じて対応できる態勢を整えていくだろう。上記の取り組みはいずれもすぐに簡単に実行されるものではないが、信頼性の高い抑止力および共同対応の選択肢としてTSDを「稼働可能」にするために必要なステップである。この意図は妥当ではあるが、予算や制度上の制限、予想外の危機、不安定なリーダーシップといった国内問題が、こうした野心的な計画の進捗や成否に影響を及ぼす可能性がある。

トランプ政権下における三国協力体制の行方

トランプ大統領の2期目の政権が、オーストラリアや日本のような米国の緊密な同盟国にどのような影響を及ぼすのか、様々な憶測が飛び交っている[27]。トランプ大統領の動きは極めて予測不可能だが、これまでの分析によれば、日豪同盟関係の進展の見通しに関しては慎重ながらも良好だと評価されている。特に、日本とオーストラリアは、トランプ大統領にとって長年の懸案事項である国防費を大幅に増やし、共同防衛の負担を積極的に引き受ける姿勢を強めている。TSDはその現れであると同時に、日本とオーストラリアの戦略的関心事と米国を結ぶ役割も果たす。このため、TSDのもとで、首脳級の(この点がTDMMとは異なる)議論を復活させ、パートナーの三か国間で共通の政治的・戦略的目標を確認できるならば、大きな価値があるだろう。だが、トランプ大統領が首脳級TSD会合の開催に意欲的でなかったとしても、三国間協力体制はこの閣僚級フォーラム以外にも多方面にわたりしっかりと組み込まれ、それぞれが活発化している。最後に、三国間協力体制がごくありふれた官僚的なものであることを考えれば、TSDというミニラテラル本体の存在がトランプ新大統領の怒りを買うことはなさそうである。それよりも他に取り組むべき独自の課題をトランプ大統領が抱えていることは間違いないからだ。

(2025/02/07)

*こちらの論考は英語版でもお読みいただけます。
US-Japan-Australia Trilateralism Takes off!

Notes

  1. 1 Collins Chong Yew Keat and Rahul Mishra, 'The Quad is here to stay’, The Strategist, Australian Strategic Policy Institute, (12 Aug 2024); Thomas Wilkins, 'Australia and AUKUS into 2030s' International Information Network Analysis, Sasakawa Peace Foundation, (14 Sept 2023).
  2. 2 Australian Government: Defence, 'Australia-Japan-United States Trilateral Defence Ministers Meeting November 2024 Joint Statement', Australian Government, Canberra (17 Nov 2024).
  3. 3 Australian Government: Defence, ‘United States Force Posture Initiatives’ Australian Government (no date).
  4. 4 Ryosuke Hanada, ‘Abe’s historic visit to Darwin a moment of truth for the rules-based order’, The Strategist, Australian Strategic Policy Institute, (16 Nov 2018).
  5. 5 Thomas Wilkins, ‘Australia-Japan relations 80 years after the bombing of Darwin: A case study of reconciliation and partnership’, JIIA Policy Brief, Japan Institute for International Affairs, Tokyo, (22 Mar 2022).
  6. 6 Thomas G. Mahnken and. Aidan Greer, 'The 2023 U.S.-Australia-Japan Trilateral Strategic Dialogue on Great Power Competition', Center for Strategic and Budgetary Assessments, Washington DC (May 2023).
  7. 7 Thomas Wilkins, 'A Hub-and-Spokes "plus" model of US alliance in Indo-Pacific:Towards new "networked" design' Asian Affairs. (2022), pp.
  8. 8 David Envall, Miwa Hirono, Kyoko Hatakeyama & Thomas Wilkins, ‘Indo-Pacific Minilateralism and Strategic Competition I: Australia/Japan and Chinese Approaches Compared’, EWC Occasional Paper #9. East West Center, Washington DC, (June 2024).
  9. 9 Thomas Wilkins, ‘US-Japan-Australia Trilateralism as the Inner “Core” of Regional Order-Building and Deterrence in the Indo-Pacific’, Asia Policy Vol. 19, no. 2 (April 2024), pp. 159-185; ‘The “Core”: Operationalising the Australia-Japan-United States Defence Partnership’, Track 1.5 Dialogue. The United States Study Centre, Sydney, (10 Dec 2024).
  10. 10 MOFA, ‘Sixth Japan-United States-Australia Trilateral Strategic Dialogue’, MOFA, Tokyo, (26 Jul 2016).
  11. 11 Thomas Wilkins, ‘From “Strategic Partnership” to “Strategic ‘Alliance”? ‘Australia-Japan Security Ties and the Asia-Pacific.’ Asia Policy No. 20, (July 2015), pp 81-111.
  12. 12 Australian Government: Defence, 'Australia-Japan-United States Trilateral Defence Ministers Meeting November 2024 Joint Statement', Australian Government, Canberra, (17 Nov 2024).
  13. 13 Kei Koga, ‘A new strategic minilateralism in the Indo-Pacific’, Asia Policy Vol. 17, no. 4 (2022), pp. 27-34.
  14. 14 Thomas Wilkins, ‘What is the future of strategic minilateralism in the Indo-Pacific? The Quad, AUKUS and the US-Japan-Australia trilateral’ Australian Outlook, Australian Institute for International Affairs, (20 Dec 2024).
  15. 15 Australian Government: Defence, 'Australia-Japan-United States Trilateral Defence Ministers Meeting November 2024 Joint Statement', Australian Government, Canberra, (17 Nov 2024).
  16. 16 同上
  17. 17 Thomas G. Mahnken and.Aidan Greer, 'The 2023 U.S.-Australia-Japan Trilateral Strategic Dialogue on Great Power Competition', Center for Strategic and Budgetary Assessments, Washington DC (May 2023); 'The "Core":Operationalising the Australia-Japan-United States Defence Partnership’, Track 1.5 Dialogue.The United States Study Centre, Sydney, (10 Dec 2024).
  18. 18 Australian Government: Defence, 'Australia-Japan-United States Trilateral Defence Ministers Meeting November 2024 Joint Statement', Australian Government, Canberra (17 Nov 2024).
  19. 19 同上
  20. 20 The Associated Press, 'Australia, Japan, U.S. to hold trilateral military training', Indo-Pacific Defense Forum, (23 Nov 2024).
  21. 21 US Indo-Pacific Command, 'U.S. and Japan Hold Bilateral Intelligence Analysis Cell Opening Ceremony', US Forces Japan, (2 Dec 2022).
  22. 22 US Indo-Pacific Command, 'U.S. Intends to Reconstitute U'S Forces Japan as Joint Forces Headquarters', U.S. Department of Defense, (28 July 2024).
  23. 23 Aiden Warren, Adam Bartley, and Charles T. Hunt, 'Bringing Strategic AI Collaboration to Trilateral Strategic Dialogue' The Diplomat, (19 Sept 2024).
  24. 24 Malcolm Davis, 'Australia's next step in integrated air and missile defence', The Strategist, Australian Strategic Policy Institute, (16 Apr 2024).
  25. 25 Diego Castillo, ‘Bridging the gap: How innovation will see Japan become the first nation integrated into AUKUS Pillar II', Policyrief, UWA Defence & Security, (Nov 2024).
  26. 26 Connor Fiddler, ‘Pay the PIPIR: US and Indo-Pacific Defense Industrial Base Cooperation’, Hub-and-Spokes, (16 Oct 2024).
  27. 27 Tomohiko Satake, ‘Trump’s Victory and Implications for Australia’s Foreign and Domestic Policy’, International Information Network Analysis, Sasakawa Peace Foundation, (16 Dec 2024).