【「欧州とインド太平洋の同盟間協力プロジェクト」のポリシーペーパー掲載のお知らせ】
この度、IINA(国際情報ネットワーク分析)では「欧州とインド太平洋の同盟間協力プロジェクト」と提携して、米欧と日韓豪の専門家による欧州とインド太平洋の同盟間協力構築のための情報を日本語と英語で掲載いたします。今後の世界の戦略的中心となるインド太平洋と欧州の米国の同盟国間の協力について少しでもIINA読者の理解にお役にたてれば幸甚です。
多くの指標が示すところによれば、民間ビジネスと国防分野の垣根を越えた先進技術の応用においては、(中露のような)戦略的ライバル国が先行している。例えば、中国の台頭を可能にしたのは、その軍民融合(MCF)戦略だ。そして中国のさらなる進歩を後押ししているのが、無制限の戦略的パートナーシップを掲げるロシアとの防衛技術協力である。(中露のような)修正主義国家の協力は欧州大西洋とインド太平洋の両戦域をまたぐことから、NATOとそのインド太平洋パートナーである豪州、日本、韓国、ニュージーランドの戦略的課題は、次世代技術分野における取り組みを、それぞれの国家だけではなく、国境を越えた全体での取り組みとして加速させることである。こうした取り組みは科学イノベーションの枠を超えて広がり、あらゆる分野での戦略的競争に色濃く影響を与える。
量子コンピューター、AI、機械学習、ビッグデータ、サイバー領域、宇宙領域、センサー、バイオ技術、ロボット工学等の新興破壊的技術(EDT)(または重要・新興技術(CET))は、軍民両方の用途で活用の可能性を秘めている。さらに、自律型無人兵器システム、指向性エネルギー兵器、極超音速ミサイル、極超音速迎撃兵器、ドローン、ステルス機、電磁戦について防衛技術に特化した研究を行えば、実戦場での戦いかハイブリッド戦かを問わず、決定的な軍事優位性を生み出す可能性がある。こうした技術進歩によって、重要部品や武器弾薬のための安全なサプライチェーンや国内生産能力の維持を含め、防衛技術の強靱性が必要となっている。
次世代技術に関する防衛技術面での協力・連携強化は、NATOとIP4の「共通の安全保障上の課題に取り組むためのアジェンダ」においても、NATOと各国との2者間の国別適合パートナーシップ計画(ITPP)においても大きく取り上げられている。次なるステップは、連携に向けた熱意を一体化した行動へと昇華させることだ。本稿では以下の2点から成る解決策を提案する。
- 1. 体系的な監視と調整の強化
- 2. 具体的な実施に向けた枠組みの見極め
いずれの解決策においても、政治トップレベルでの連携と防衛現場での実行を着実に行い、その相乗効果を確実に高めることが求められる。それが実現できれば、防衛技術産業のエコシステム(複数の企業や団体が連携し、それぞれの強みを活かしながら、共存共栄を図る仕組み)がネットワーク化され、軍事技術分野における同盟間協力による全体的な効果を高めることになるだろう。
1. EDTに関するNATOとIP4レベルでの体系的な監視と調整の強化
NATOとIP4間の現行構造は協議、情報共有、意見交換に重点を置くものであり、技術交流や共同防衛技術開発を調整する正式な制度は存在しない。メンバー国には、NATO-IP4の関係を煩雑な手続きを伴う正式な組織に移行させようという意欲はほとんど見られないものの、だからといって、これを防衛技術協力の調整の場として利用できないわけではない。実務的協力はNATOとIP4のレベルで行う必要はなく、全関係国の承認や参加も不要だ。それでも、専門のワーキンググループの立ち上げや、政府と非政府の専門家が一堂に会するトラック1.5対話の設立は、各分野特有の情報を洗い出し、関連活動を監視するとともに、メンバー国間の連携機会を模索する上で有益なものとなり得る。
こうした枠組みは、個別国内や、二国間や複数国間で、関連のある活動を相互に繋ぐことができる。また集合知を集めるために進行中の関連プロジェクトの国家間の垣根を取り払い、プロジェクト間やメンバー国間の連携機会を見出し、共通目標達成に向けた相乗効果の創出を評価する場ともなる。この枠組みの役割は、各プロジェクトの活動をあらゆるレベルでモニタリングすることであって、NATOとIP4の旗印の下で、進行中のプロジェクトに指図することではない。
NATOとIP4の防衛技術フォーラムは、両者間の協力を以下の方法で円滑化することが可能だ。
- NATOの北大西洋防衛イノベーションアクセラレータ(DIANA)やIP4各国における同様の取り組みとともに、産官学の対話の場として機能すること(産学官連携の三重らせんモデルの活用)。
- 共通目標の達成に向けて戦略的一貫性を確保するため、そしてサプライチェーンを含む生産面での取り組みをこれまで以上に整合させるため、全体状況を俯瞰した上であらゆるレベルでの関連活動を評価すること。
- 自国の科学イノベーションの推進ではなく、複数領域作戦など、戦略・作戦面で求められるニーズにどう活動が適合するかについて助言を行うこと。
- 国際的な官民連携等を含め、戦力増強効果の創出について意欲と比較優位性を持つ参加国の拡張性が生かせる機会を見極めること。
- スケールメリットの獲得や生産拠点の国際分散に資する活動等の集約により、重複や無駄の削減を推し進めること。
- データセキュリティ、情報戦、サイバー空間活動の適用に関する合意を形成するとともに、AIやバイオ技術等のEDT利用に向けた取り組みを調和させること。
- 規制問題や輸出管理問題について、さらには参加国間の技術移転や武器移転を円滑化するためにはこうした問題をいかにして克服すべきかについて、議論を戦わせること。
- 自律型兵器等のEDTの倫理的かつ責任ある利用に向けた共通基準をメンバー国・パートナー国間で策定すべく、この問題に関する共通アプローチを協議すること。
- 個別国・機関の視点を超えてNATOと非NATO諸国との橋渡しをする共通の組織文化を形成すること。
- 進行中か完了済みかを問わず、生産加速化、拡張性、互換性等に関するプロジェクトを共に振り返って教訓を引き出すとともに、その情報をメンバー国間で共有すること。
2. 現実的に実行できる枠組みを見つけること:ミニラテラル・コンソーシアム
NATOとIP4のレベルでの防衛技術協力の運営・管理は実現が難しく、しかも常に望ましいとは限らない。このため加盟国やパートナー国は、各国単独での取り組みと並行して、少数国間や二国間での協力という現実路線を引き続き追求することとなろう。その結果として生まれるのは、同じ課題に向けて取り組むプロジェクトが網の目のようにつながり合う状態だ。NATOとIP4のレベルでの協調強化は、それぞれの国の関心事や比較優位性に基づく連携の増加や拡大を後押しするものとなるかもしれない。
NATO加盟国の中には、防衛技術に関する大型プロジェクトを単独や2国間で追求できるだけの力がある国もある。その例が、英豪間のフリゲートプログラムや独豪間の装甲戦闘車両(AFV)プログラムだ。しかし、少数国で集まって技術ノウハウを出し合い、研究開発・生産費を分担する道を選ばざるを得ない国も増えつつある。NATO加盟国やIP4の多くが今後取るべき道は、有志・能力連合に基づいて国家間連携を拡大すべく、ミニラテラル(少数国間)なコンソーシアム(共通の目標のために企業や組織が作る共同体)を新たに立ち上げることだ。
地域を越えた少数国連携である三国間安全保障パートナーシップ(AUKUS)は、今後の道筋を示す存在だ。まず、AUKUSが欧州・大西洋地域とインド太平洋地域をまたぐ防衛技術協力の模範であることは、戦略分析でも認められている。つまりNATO加盟国とIP4の一部にとってAUKUSは、見習うべき対象であり土台として拡張することもできる絶対的基準といえる。AUKUSの最終的な成功についてはまだ疑問が残るものの、2本の明確な柱を中心とする緻密に設計された組織構成は特筆すべき点だ。「第1の柱」は原子力潜水艦プログラムで、豪英米3カ国限定の連携により世界有数の水中能力の獲得を目指す野心的な内容となっている。これに対して「第2の柱」は先進技術に関するもので、水中能力、量子コンピューター、AI、自律型システム、先進的サイバー能力、極超音速ミサイル、極超音速迎撃能力、電磁戦、イノベーション、情報共有などを幅広く対象としている。
なおAUKUSは、「第2の柱」は3カ国以外との連携にも門戸を開くと言明している。すでに日本を第2の柱のパートナー国として正式に指名したほか、韓国、ニュージーランド、カナダからも関心が表明されている。こうした点から、NATO加盟国とIP4全体でさらなる防衛技術プロジェクトを追求する際には、AUKUSが総体となって中枢機能を果たす可能性もある。重要なのは、先進能力に関してAUKUSはすでに、AI制御型ドローンスウォームの試験や極超音速飛行試験および実験(HyFliTE)プロジェクト協定の締結という成果を出しつつあることだ。AUKUSはさらに、その加盟国が第2の柱の下で開発した技術については、合同演習の際にNATO-IP4諸国に対して披露する可能性があるほか、パートナー国への技術移転を通じて共に防衛統合を推進することも考えられる。
既存のミニラテラルモデルを活用し、NATOとIP4の全域から、そして恐らくそれ以外の地域からもパートナーを加えることは、共通目標の達成にさらに近づくための実行可能な方法に思える。NATOとIP4がこのように的を絞った取り組みをしっかりとした構造の下で展開すれば、世界中に無数に存在する利用可能な防衛技術の中から厳選した技術を活用することが可能となる。しかもその際には、NATOの32加盟国やEUといった数多くの構成ステークホルダー間の調和を図る必要もない。こうしたミニラテラル連携の拡大や新設は、多くの場合2国間形式を取る現行協力関係の活用にもつながる。その代表が、英国と日本、ポーランドと韓国、フランスと豪州のように欧州諸国とインド太平洋諸国の間で数多く締結されている戦略的パートナーシップだ。
本稿で説明したアプローチは、同盟国間協力によくある問題に直面するかもしれない。例としては、政治的意志、生産能力の制約、公平な資金拠出、利益分配、知的財産権、データセキュリティに加え、国際武器取引規則(ITAR)のような現場での輸出管理規制が挙げられる。防衛技術協力をNATOとIP4のレベルで戦略的に調整する専門の枠組みがあれば、こうした問題のいくつかにつき、完全に解決するとまではいかないにしても対処する上での助けとなるだろう。
その一方で、NATO加盟国とIP4の一部のみから成る枠組みは、ミニラテラルレベルを中心に、今後も急速に進んでいく可能性がある。多数参加国の全会一致を必要とせず、枠組み全体に幅広い共通利益をもたらすためだ。少数の特定国から成る集団で的を絞ったプロジェクトを実行することは、膨大な数に上る国内外関連ステークホルダーがもたらす複雑性を避け、集団として望む成果に向けて進んでいくための唯一の方法である。NATOとIP4に必要なのは、関心を持つ具体的なプロジェクトを見極めること、そして、これに取り組むべくAUKUSのような既存のミニラテラルを基盤に意志と能力を兼ね備えたパートナー国を加えるか、新たなコンソーシアムを結成することだ。本稿が提案する方策は、ネットワーク化されたエコシステムに広がる防衛技術協力の政治的監視と具体的実施との間に必要な接点を生み出すものとなるだろう。
(2025/07/04)