【「欧州とインド太平洋の同盟間協力プロジェクト」のポリシーペーパー掲載のお知らせ】

 この度、IINA(国際情報ネットワーク分析)では「欧州とインド太平洋の同盟間協力プロジェクト」と提携して、米欧と日韓豪の専門家による欧州とインド太平洋の同盟間協力構築のための情報を日本語と英語で掲載いたします。今後の世界の戦略的中心となるインド太平洋と欧州の米国の同盟国間の協力について少しでもIINA読者の理解にお役にたてれば幸甚です。


 本稿では、NATOと日本がアフガニスタンでの共通の課題に直面し、その結果日本が突如NATOとの関係拡大に踏み切った2001年以降、日NATO関係は「成り行き上の協力から意図を持った協力」へと移行してきたと論じていく。2001年の米国同時多発テロ事件は戦略的状況を一変させ、武装解除・非軍事化・再建・復興支援という平和的外交政策をけん引していた日本の立場を大きく変えた。当時の日NATO関係を描写する語が「意図せぬ協力」である。

 現在の両者間の協力関係はそれよりはるかに構造的であり、かつ真の意味でグローバルだ。例えばNATOと日本は、2023年NATO首脳会合で国別適合パートナーシップ計画(ITPP)を締結している[1]。両者は、2022年のロシアの侵攻以降続いている共通のウクライナ支援策が象徴するように、欧州大西洋とインド太平洋の両戦域は互いにつながり合っているとの認識を共有している。こうしたNATOと日本の相互連結性をより強いものとしているのが、それぞれの海洋連結性だ。これを唱道する日本の「自由で開かれたインド太平洋」概念を日本だけでなくNATOも支持していることが、意図せぬものではなく意図を持った共通理解を両者間に生み出している。

 日NATO協力関係の変化は、戦略面にとどまらず、戦域や戦術の面にも変容をもたらしている。

連結性への課題:戦略面

 NATO加盟国と日本は近年、新たな脅威に直面しても信頼性ある抑止力を維持できるよう、拡大抑止を提供する防衛態勢の強化を進めてきた。2022年のロシアによるウクライナ侵攻は、欧州の抑止力が機能しなかった結果である。それでも、ウクライナと国境を接するNATO加盟国への武力攻撃はまだ起きていない。その意味ではNATOは、自身の拡大抑止は「鉄壁」だと主張することができる。北大西洋条約第5条が規定する、加盟国に対する武力攻撃が起きた場合の集団防衛義務は、今日までの欧州・大西洋地域内連帯の中核を成すものだ。第5条の義務は1960年に改定された日米安全保障条約にも含まれていることから、NATOと日本の防衛当局者は似たような状況図を想定可能である。

 2024年にはこうした戦略面での連結性がこれまでにないほど注目を集め、日NATO関係の利点と欠点の両方に光が当てられた。利点の1つは、ロシアのウクライナ侵攻は欧州とインド太平洋両方の米同盟国に対する安全保障上の挑戦である、という見解でNATOと日本が一致していることだ。これは、日本が2024年7月に米国ワシントンDCで開かれたNATO創設75周年を記念する首脳会合に、IP4の一員として韓国、豪州、ニュージーランドとともに参加することにつながった。ウクライナとEUも参加したという事実は、NATOのこの会合での主眼はウクライナ軍が強靭な軍事態勢を保てるよう支援することにあると示唆するものである。特に、ウクライナの安全保障部門改革には莫大な支援が必要であり、IP4はその優先付けを支持している。

 ウクライナ強靭化への支援は、同国が必要とする戦争遂行支援に対するNATOとIP4共通のアプローチの構成要素だ。強靭化支援は、対ロシアでの信頼性ある抑止力を維持しつつ、NATO責任地域外における戦争への積極的関与を避けるものである。ウクライナは正式なNATO加盟国ではなく、NATO集団安全保障の保護の下にはない。しかしウクライナは、多くのNATO加盟国と国境を接する重要なパートナー国だ。こうした複雑な状況においては、ウクライナ強靭化への支援が信頼性ある抑止力維持に向けた最良の方策であるという点でNATO加盟国は合意したのである。日本もこの考え方を取り入れ、ウクライナとの間で安全保障を含む協定を締結している[2]。これは「拡大抑止プラス」とでも呼び得るものだ。米国と日本は台湾海峡有事を防ぐべく、これと似た形式を取り入れられるかもしれない。

 NATOと日本の戦略的連結性が持つ2つ目の利点は、欧州諸国がインド太平洋地域の抑止力への貢献を後押しするようになったことだ。2024年には、フランス、ドイツ、イタリア、オランダを含む欧州NATO加盟国の艦艇が、インド太平洋地域への合同派遣として環太平洋合同演習(RIMPAC)に参加した。欧州・大西洋とインド太平洋両戦域の海洋連結性を実現し、域外関与の限界に関して相互の期待値を整合させることは、両戦域での抑止力強化に向けた重要な取り組みだ。NATOの第一の義務は欧州大西洋戦域にあり、IP4の第一の義務はインド太平洋戦域にある。両者の利害対立を上手に調整するためには、それぞれの期待値を調整することが不可欠だ。

 逆にNATOと日本の戦略的連結性がもたらす欠点は、欧州・大西洋とインド太平洋の両戦域をまたぐ形で戦略的競争国間の協力が強化されており、それにより、両戦域に対する米同盟国のコミットメントの強さが試されていることだ。例えば、北朝鮮とロシアは2024年6月に相互軍事支援を盛り込んだ包括的戦略的パートナーシップ条約を締結しており、この条約に基づき、北朝鮮はロシアのウクライナでの戦争を兵士派遣や弾薬提供によって支えることに注力している。欧州戦域における露朝間の軍事協力は、欧州大西洋戦域とインド太平洋戦域の連結性から生じる脅威の実例といえる。

連結性への課題:戦域面

 「自由で開かれたインド太平洋」という日本が掲げる概念は、欧州・大西洋とインド太平洋の両地域が経済面でも政治面でも相互依存の関係にあることを強調している。こうした相互依存性は、海洋連結性の管理にも影響を及ぼす。ロシアと中国が米同盟国にとって二正面の脅威を形成しつつある中、欧州大西洋とインド太平洋の両戦域をまたぐ戦略的競争国間の協力に対応すべく、日本は自衛隊の態勢見直しを行ってきた。その一環として実施されたのが、海上自衛隊の指揮統制構造の包括的な見直しである。

 防衛省は2024年9月、海上自衛隊の護衛艦隊と掃海隊群を廃止し、それらに代えて水上艦隊を新編すると発表した[3]。1961年に創設され、横須賀、呉、佐世保、舞鶴の4つの護衛隊群を擁する護衛艦隊は、戦後日本の専守防衛概念に沿い、日本の領海とその周辺海域を守ることを主たる使命としてきた。これに対し新たな概念で必要とされたのが、水陸両用戦や機雷戦に向けた編成の導入である。

 こうした海上自衛隊の見直しは、米露中間の戦略的競争を反映したものだ。日本の2022年国家安全保障戦略ではすでにこの前提が明確にされ、自衛隊にインド太平洋地域における複数領域作戦への寄与を求めている。海上自衛隊の新たな任務は、台湾海峡を含む東シナ海と南シナ海の安定性を確保することだ。海上自衛隊がこれらの地域での作戦責任を担うこと自体は新しいものではない。変わったのは、海上自衛隊の指揮構造である。

連結性への課題:戦術面

 海上自衛隊の組織再編の目的は、複数戦域への対応にある。日本がこうした対応を必要と考えたのは、中露朝の軍事協力や軍民両用技術協力が強化されているためだ。海上自衛隊は、米国が中国とその戦略的パートナー国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)態勢強化に対応すべく採用した分散型海上作戦(DMO)という海軍構想と似た形を採る[4]。海上自衛隊が400発のトマホーク巡航ミサイルを配備することや、ヘリコプター搭載護衛艦「ひゅうが」と「いせ」をF-35B戦闘機の搭載に向けて改修することは、DMO構想の例だ。

 海上自衛隊の組織再編は、2023年に締結された日NATO間ITPPが掲げる目標にも合致する。日本とNATOは信頼できる必然のパートナー[5]として、海洋連結性や新興破壊的技術(EDT)をはじめとする共通の課題に取り組んでいく。

NATOとインド太平洋地域の関係:意図を持った協力

 日NATO間の協力の歴史を振り返ってみると、転機となったのは2001年の米国同時多発テロ事件であった。この事件をきっかけとして、NATOとインド太平洋その他のパートナー国は世界的なテロとの戦いに取り組み、アフガニスタンやイラクでの平和維持活動や平和構築活動に関与した。しかし、こうした努力は永続的な平和にはつながらなかった。

 アフガニスタンやイラクの安定化と復興は、後方支援や再建事業などのために高いレベルでの海洋連結性確立を長期にわたって必要とし、地方復興チームや国際治安支援部隊をはじめとする数多くの仲介機関がその調整にあたった。こうした中で海上自衛隊が支援したのは、不朽の自由作戦における給油任務である。日本が最初に行ったのは米国海軍艦艇の支援に向けたインド洋への部隊派遣であったが、海上自衛隊は徐々に協力の幅を広げ、米国以外のパートナー国にも支援を提供するようになった。こうした作戦は海上自衛隊にとって、NATOの基準に則した運用を習得する学習機会となったのである。

 日NATO関係は意図せぬ協力として始まった。しかし、ロシア、中国、北朝鮮等との戦略的競争の激化によって、両者間の関係は意図を持った協力へと進化し、欧州・大西洋とインド太平洋の両戦域をつなぐに至っているのである。

(2025/06/27)

*こちらの論考は英語版でもお読みいただけます。
【Cooperation between European and Indo-Pacific Powers in the US alliance system project:Policy Paper Vol. 8】
Cooperation by Design: The Implication of Maritime Connectivity for NATO and the Indo-Pacific Partnership