はじめに
2026年2月28日に始まったイラン戦争を契機に、ホルムズ海峡では不安定な通航状況が続いており、中東産油国からの石油・天然ガス輸出は低迷している。こうした中、アジアのエネルギー調達を支える存在として、米国の重要性が高まっている。一方、イラン戦争が長期化する中、米国が今後もアジア向けのエネルギー輸出を継続できるかが注目される。
本稿では、イラン戦争下における中東産油国のエネルギー輸出動向と、米国によるアジア市場への代替供給の実態について考察する。また、この先も米国が十分なエネルギー輸出余力を維持できるかを検討する。

中東産油国からの輸出低迷
イラン戦争開始以後、ホルムズ海峡の通航状況は米国・イラン間の軍事的緊張や停戦協議の進展に大きく左右されてきた。イランによる船舶への威嚇・攻撃を背景に、ホルムズ海峡を通過する船舶数は、イラン攻撃前日の2月27日の95隻から、3月2日には4隻まで減少した。その後も、4月中旬からの米国によるイラン船舶への海上封鎖を受け、通航量は概ね10隻以下の低水準で推移した。一方、6月17日に米国とイランが停戦に向けた覚書を締結すると、通航船舶数は増加に転じ、6月24日に44隻、翌25日には43隻まで回復した[1]。
しかし、ホルムズ海峡の航路を巡る米国とイランの立場の隔たりは解消されていない。イランはオマーン側海域を通る航行ルートに反発し、イラン側海域を利用する点に固執している。そして、オマーン側海域を航行する船舶を攻撃対象としている。その結果、ホルムズ海峡における航行は再び制約され、通航量は7月中旬以降、再び1日10隻以下となっている。
ホルムズ海峡の通航困難を受け、中東産油国のエネルギー輸出量は低迷している。ホルムズ海峡を通過する原油・石油製品の輸送量は2025年10~12月期の日量2,160万バレル(b/d)から、2026年1~3月期には1,490万b/dへ減少し、4~6月期には490万b/dまで落ち込んだ[2]。
また、ホルムズ海峡を迂回可能な代替ルートも限られている。まずサウジアラビアには、東部の油田地帯アブカイクから西部の紅海沿いの港町ヤンブーまでを結ぶ、東西原油パイプライン(輸送能力500~700万b/d)がある。次にアラブ首長国連邦(UAE)には、アブダビ首長国の油田地域ハブシャーンからホルムズ海峡のインド洋側に位置する港町フジャイラに通じる、アブダビ原油パイプライン(輸送能力180万b/d)がある。
サウジアラビアの原油輸出量は2026年2月時点で715万b/dで、このうち634万b/dがホルムズ海峡経由、81万b/dがヤンブー港からの出荷であった。3月以降、サウジアラビアは原油輸出のヤンブー港への振替を進め、6月の輸出量465万b/dのうち、432万b/dがヤンブー港から出荷された[3]。
UAEはフジャイラ港からの輸出に加え、シャトル輸送を活用することで原油輸出を維持している。これは、石油タンカーがAIS(自動船舶識別装置)を停止してホルムズ海峡を通過した後、オマーン湾において原油を調達する企業側のタンカーに積み替えて輸送する手法である。UAEの原油輸出量は2026年3月の217万b/dから6月には426万b/dへ増加した[4]。
一方、迂回パイプラインを持つサウジアラビアやUAEとは対照的に、イラクやクウェート、カタールの原油輸出量は依然として回復していない。2025年のホルムズ海峡経由の原油輸出量は、イラクが332万b/d、クウェートが140万b/d、カタールが73万b/dに達していた[5]。UAEが利用するシャトル輸送は、これら3カ国の原油輸送にも使われるようになっているとされる[6]。ただし、同手法だけで2025年並みの輸出量をカバーするのは難しい。
また、イランがホルムズ海峡の管理権を強めようとする中、イラン側の同意なしに実施されるシャトル輸送には大きな安全上のリスクが伴っている。実際、UAEのアブダビ国営石油会社(ADNOC)関連の船舶が8月8日、13日、14日にホルムズ海峡通航中に相次いで攻撃を受け、いずれもイラン側の関与が疑われている。シャトル輸送は同海峡の通航制約を補完する有効な手段ではあるが、安全性の確保が難しく、持続的な代替輸送手段とは言い難い。
天然ガス供給については、カタールおよびUAEから輸出される液化天然ガス(LNG)のうち、クウェート向けを除くほぼ全量(年間約8,000万トン)がホルムズ海峡を経由しており、2025年には同海峡経由のLNG貿易量が世界全体の約20%を占めた。原油の場合は迂回パイプラインを通じて一部を輸出できる一方、LNGの場合、迂回のために活用できるパイプラインがなく[7]、専用のLNG運搬船で輸送されるため、ホルムズ海峡の通航停止による影響をより直接的に受ける。たとえば、カタールのLNG輸出量はイラン戦争前には月間おおむね600万~800万トンで推移していたが、2026年3月以降は100万トン前後まで急減している[8]。
代替調達先としての米国の存在感
中東諸国からの石油・LNG供給が低迷する中、アジア諸国では、中東に代わるエネルギー輸入先として米国の重要性が高まっている。米国は2010年代のシェール革命を背景に石油・天然ガスの生産量を大幅に増やし、エネルギー輸出を解禁した。とりわけ2022年2月からのウクライナ戦争以降は、欧州向けの石油・LNG輸出を拡大し、同地域のエネルギー調達を支えた[9]。そして現在、米国産エネルギーは日本だけでなく、アジアの同盟国にとっても戦略的重要性を一段と増している。
イラン戦争下、米国は原油と一部の石油製品の双方で輸出を拡大している。米エネルギー情報局(EIA)の統計によれば、米国の原油輸出量は2026年2月の1.2億バレルから、4月には1.6億バレル、5月には1.7億バレルへ増加した[10]。特に、主要輸出拠点であるメキシコ湾岸からの原油輸出は2月から5月にかけて倍増した。
石油製品の輸出は2月~5月の期間、主に軽油(ディーゼル燃料)に相当する低硫黄留出燃料が約69%、ジェット燃料が約39%、船舶用燃料などに使われる重油が約51%増加した。また、液化石油ガス(LPG)[11]の輸出も増えている。家庭用・工業用燃料や石油化学製品の原料として使われるプロパンとブタンがそれぞれ約24%と約67%増え、プラスチックなどの原料となるエタンも約7%増加した。そして、石油化学製品の原料であるナフサの輸出量も2月の約801万バレルから3月が約1,748万バレルに伸び、4月も約1,588万バレルを記録した。このように、米国は単なる原油の代替供給国にとどまらず、輸入国が直ちに利用できる精製済み燃料についても高い供給力を有している。
米国の原油輸出は輸出量の増加と並行して、仕向け先がアジア市場へ大きくシフトしていることが特徴である。アジア向け輸出は、2月の3,411万バレルから5月には8,364万バレルへ大幅に拡大し、輸出全体に占める割合も28%から47%へ上昇した(図1)。国別では、日本向けの増加が最も顕著で、3月の770万バレルから4月には1,980万バレル、5月には3,361万バレルへ急増した。韓国向けも3月以降、約2,500万バレルの高水準で推移している。さらに、タイやシンガポール向けの輸出も拡大しながら、台湾やインド向け輸出も一定程度維持している。中東からの供給不足が深刻化する中、米国の原油輸出がアジア市場へ重点的に振り向けられている。
図1:米国の原油輸出先(2026年1月~5月)
米国のLNG輸出についても、仕向け先をアジア市場へ振り替える動きが強まった。2026年2月と5月の国別輸出量を比較すると、日本向けが約515%増、韓国向けが約568%増、タイ向けが約262%増、インド向けが約107%増、台湾向けが約23%増を記録した。また2月に輸出実績がなかったシンガポール向けも、5月に1,025億立方フィートまで拡大した。これと並行して、欧州の一部では米国産LNGの輸入量が縮小している。たとえば、英国向けが2月から5月にかけて約88%減、フランス向けが約45%減、トルコ向けが約89%減となった[13]。こうした輸出先の変化は、需要や市場環境に応じて仕向け先を柔軟に変更できる米国産LNGの特性を改めて際立たせている[14]。
アジアにおける対米エネルギー依存の高まり
米国のアジア向け資源輸出の拡大を受け、アジアにおける対米エネルギー依存の高まりが見られる。2026年2月と6月の原油輸入構成を比較すると、アジア諸国では米国産原油の比率が上昇する動きが目立つ。日本が7%から31%、タイが4%から26%、シンガポールが0%から36%へ大幅に上昇し、韓国も18%から19%へ小幅ながら増加した(図2)。米国産原油はアジア市場において中東産原油を補完する重要な供給源となっている。
図2:アジア市場における米国産原油の輸入割合(2026年2月および6月)
また、アジア市場ではカタールやUAEからの供給減少を補う形で米国産LNGの輸入が拡大した結果、各国のLNG輸入に占める米国産の比率も大きく上昇した。日本が1%から9%[15]、韓国が3%から26%、台湾が18%から41%、インドが13%から21%へ上昇した。さらに、2月時点で米国産LNGの輸入が確認されなかったタイとシンガポールでも、6月にはそれぞれ42%、48%を占めた(図3)。カタールやUAEからのLNG輸出の全面再開が見通せない中、米国産LNGは中東産LNGへの依存を低減する代替調達源としての役割を果たしている。
図3:アジア市場における米国産LNGの輸入割合(2026年2月および6月)
米国のエネルギー輸出能力の行方
中東からのエネルギー供給途絶の影響を緩和する上で、米国の原油輸出は重要な役割を果たしてきた。ただし、今後も現在の輸出能力を維持できるかは不透明になりつつある。米国の原油生産量は2026年2月の約3.8億バレルから3月には約4.2億バレルへ増加したが、4~5月はほぼ横ばいで推移し[16]、輸出の増加に見合うほどの大幅な増産はみられていない。このため、急増した海外需要への対応は、国内の商業在庫や戦略石油備蓄(SPR)の取り崩しによって支えられた。
現在、SPR在庫量は2月27日の約4.1億バレルから8月14日には約2.9億バレルまで減少している(図4)。SPRの大幅な減少は、米国が今後も高水準の原油輸出を維持できるかを考える上で懸念材料となっている。米国はイラン戦争開始後、国際エネルギー機関(IEA)加盟国による緊急協調放出の一環として、SPRから約1.7億バレルを市場に供給する方針を決定した。問題は、米国が十分な備蓄余力を持たないまま今回の危機を迎えた点にある。バイデン前政権は2022年、ウクライナ戦争に伴う原油価格高騰への対応としてSPRから1億8,000万バレルを放出した。その後、買い戻しは進められたものの、備蓄量は放出前の水準まで回復しないまま2026年の危機を迎えた。
原油の民間在庫の方は8月14日時点で約4.2億バレル残っているものの、米国内の原油生産量が大幅に増える見通しが立っていないため[17]、今後、サウジアラビアやUAEの迂回パイプラインからの原油輸出停止など新たな供給途絶が発生した場合、米国が追加供給で対応できる余力は徐々に縮小しつつある。さらに、米国が国内ガソリン価格の安定を優先して備蓄水準の維持を図る場合、追加の備蓄放出を抑制したり、海外向け原油供給を縮小したりする可能性も否定できない。
図4:米国のSPR在庫量の推移(1982~2026年)
米国産LNGについては、これまで既存の液化能力の範囲内で仕向地を再配分する動きが中心だったが、2027年より液化能力そのものの拡大が、アジア向け輸出を一段と押し上げる可能性がある。EIAによれば、稼働中のLNG施設の最大公称生産能力(Peak nameplate capacity)は2026年時点で年約1.6億トン規模だが、2027年には年約2.1億トンに拡大する見通しである。さらに、テキサス州やルイジアナ州を中心に大型案件の建設が進んでおり、承認済みの未着工案件も順次実現すれば、2030年頃には年3億トンを超える可能性がある(図5)。
この能力増強は、米国が欧州とアジア双方の需要増に対応する余力を広げることを意味する。今後もイランがホルムズ海峡の管理権を巡って強硬姿勢を維持し、カタールやUAEからのLNG供給の本格回復が遅れる場合、アジア諸国が代替調達先として米国産LNGへの依存をさらに強めるだろう。特に日本の場合、ウクライナ戦争の展開次第でロシア産LNGへの依存低減が進めば、供給余力が拡大する米国産LNGは、日本のエネルギー安全保障において重要性をより一段と高めるだろう。
図5:米国の液化能力の見通し(2016~2032年)
ただし、実際に米国の輸出能力を高めるには、米国内の天然ガス生産量の拡大に加え、ガス生産地とLNG液化施設を結ぶパイプライン網の整備も不可欠となる。これらの点を踏まえると、米国産LNGへの依存を高めるアジアの消費国としては、エネルギー安全保障の観点から、LNG調達契約にとどまらず、米国のガス田開発やパイプライン網など関連インフラへの投資をこれまで以上に進めていくことも重要となる。
(2026/09/02)
脚注
- 1 “Port Monitor: Strait of Hormuz,” IMF Portwatch, accessed August 23, 2026.
- 2 “Short-Term Energy Outlook: Global Energy Security Data,” U.S. Energy Information Administration (EIA), August 12, 2026.
- 3 Julian Lee, “Saudi Oil Shipments Slip in July as Red Sea, Hormuz Risks Grow,” Bloomberg, August 4, 2026.
- 4 Yongchang Chin and Alex Longley, “UAE Defies Hormuz Risks to Keep Crude Flowing to Global Market,” Bloomberg, August 6, 2026.
- 5 “Strait of Hormuz Factsheet,” International Energy Agency, February 2026.
- 6 Alex Longley et al., “Covert Mideast Oil Flows Are Keeping Global Prices in Check,” Bloomberg, August 16, 2026.
- 7 カタールからUAEを経由し、ホルムズ海峡の外側に位置するオマーンまでつながる「ドルフィン・ガスパイプライン」は存在する。ただし、輸送されたカタール産ガスはUAEでは火力発電向け燃料として、オマーンでは産油量の維持・向上を目的としたEOR(原油増進回収)に利用されていることから、オマーンで液化して第三国向けにLNG輸出を行う供給体制にはなっていない。
- 8 Andrew England, “Qatar cuts state spending at home and abroad as war shrinks economy,” Financial Times, August 22, 2026.
- 9 拙稿「石油・ガス輸出国としてのアメリカ:米欧エネルギー協力の進展」国際情報ネットワーク分析IINA、2023年7月24日。
- 10 “Petroleum & Other Liquids: Exports,” EIA, accessed August 23, 2026.
- 11 LPGは、原油や天然ガスの採掘時、あるいは石油精製の過程で得られるガスで、プロパンやブタンを主成分とする炭化水素を液化したものである。一方、LNGは、メタンを主成分とする天然ガスから水分、硫黄化合物、二酸化炭素などの不純物を除去した後、約マイナス160℃まで冷却して液化したものである。吉田斉「LPガス」『用語辞典』エネルギー ・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、2006年3月; 堀和秀「液化天然ガス」『用語辞典』JOGMEC、2010年2月改訂。
- 12 “Petroleum & Other Liquids: Exports by Destination,” EIA, accessed August 23, 2026.
- 13 “Natural Gas: U.S. Natural Gas Exports and Re-Exports by Country,” EIA, accessed August 23, 2026.
- 14 拙稿「米国のLNG輸出と気候変動対策の影響――大統領選挙でどう変わるか」国際情報ネットワーク分析IINA、2024年8月20日。
- 15 日本が他のアジア諸国に比べて米国産LNGへの依存度が相対的に低い背景には、最大調達先のオーストラリアから大規模かつ安定的に輸入していることや、ウクライナ戦争下においてもロシア産LNGの輸入を継続していることがある。2025年の日本の国別LNG輸入量では、オーストラリアが最多約2,581万トン(総輸入量の約40%)を占め、マレーシアが約961万トン(約15%)、ロシアが約580万トン(約9%)と続き、米国は約451万トン(約7%)で第4位であった。また、今回のホルムズ海峡危機により供給が不安定化したカタールからは約342万トン(約5%)、UAEからは約67万トン(約1%)を輸入した。
- 16 “Petroleum & Other Liquids: Crude Oil Production,” EIA, accessed August 23, 2026.
- 17 EIAの最新の「短期エネルギー見通し(STEO)」では、米国の原油生産量は2026年平均の1,380万b/dから、2027年には1,420万b/dへ増加すると予測されているが、増加幅は限定的である。“Short-Term Energy Outlook: Overview,” EIA, August 11, 2026.
- 18 “Petroleum & Other Liquids: Weekly Stocks,” EIA, accessed August 25, 2026.
- 19 “U.S. liquefaction capacity 2Q 2026,” EIA, June 30, 2026.
