2026年4月16日、豪州政府は、2年ごとに政策を更新するという公約に基づき、「2026年 国家防衛戦略(2026 National Defence Strategy(NDS))」の公表版を発表した。同文書には大きな「サプライズ」こそないものの、国防計画担当者の決意の強化と、単独あるいは日本や米国等の主要なパートナーや同盟国と連携して豪州の能力を構築するという揺るぎないコミットメントが反映されている。こうした方向性は、先行する「2023年 国防戦略見直し(2023 Defence Strategic Review(DSR))やそれに続く「2024年 国家防衛戦略(2024 National Defence Strategy)」において示されていたが、世界や地域の安全保障環境の悪化に伴い、新たに勢いを増している[1]。

 それから1カ月も経たないうちに、アルバニージー首相と高市首相は年次首脳会談を開催し、奈良条約(日豪友好協力基本条約)の締結50周年を記念して、 日豪関係をさらなる高みに引き上げ、互いの経済・安全保障上の目的を相互に支援する 一連の新たな合意を発表した[2]。中国の国力が増大し、トランプ政権をめぐる不確実性が高まる中、日豪両国は、利害や価値観が密接に合致し、インド太平洋におけるルールに基づく秩序の維持に共通の利害関係を有する「同志」国として、ますます互いに目を向けるようになった。

オーストラリアの国防:戦略、能力と実施

 実際の防衛戦略に関して言えば、NDSは「拒否的抑止」に向けた豪州の投資を改めて強調している。本質的に、豪州国防軍(ADF)が目指しているのは、同国の沿岸からより遠距離において敵対国を継続的に脅威にさらす能力を備えた戦力を獲得・展開することである(後述)。同戦略は、同国への「北方からの接近路」を守る、東南アジア南部や南太平洋にまたがる島嶼国群を「主要な軍事的関心地域」としている。以下で概説するような関連軍事能力の獲得に加え、豪州は、豪州・インドネシア共同安全保障条約(「ジャカルタ条約」)[3]、パプアニューギニア・豪州相互防衛条約(「プクプク条約」)[4]、このたび最終合意に至った豪州・バヌアツ二国間安全保障協定(「ナカマル協定」)[5]等の一連の新たな安全保障上の合意を通じて、地域の安全確保を図ってきた。

 上記戦略の信頼性を確立するため、NDSでは、豪州海軍の戦力を強化するという包括的な計画の一環として、AUKUSに基づく原子力潜水艦の取得や、英国や日本からのフリゲートの調達といった主要プロジェクトを含む、軍事力の持続的な拡充について概説している。さらに、豪州は(日本と同様)、陸(精密打撃ミサイル(PrSM))、海(海軍用トマホークミサイルとSM-6ミサイル)、空(統合打撃ミサイル(JSM))の各部隊に配備される新たな長距離打撃能力の獲得に注力している。最終的な目標は、より機動性が高く、実戦においてより高い殺傷力を持つ「統合的で 集中的な部隊(Integrated, Focused Force)」を配備することにある。ADFへの入隊者数が予想外に急増しており、2030年代までに人員数を(ファイブ・アイズ諸国の希望者がADFで従軍する資格を含めて)約6万1,000人から6万9,000人に増員する計画にとって好材料となっている。こうした部隊再編と並行して、主要な軍事的関心地域へと戦力を投射するための拠点として、また米国や日本の訪問部隊を定期的に受け入れる拠点として、北部基地のインフラ整備と堅固化が継続的に進められている。また、「2026年 統合投資プログラム(2026 Integrated Investment Program)」では、軍事力増強の背景にある予算・調達プロセスについて説明されており、防衛経済学者にとっては興味深い内容となっている[6]。現在、国防予算をGDPの約2%(現在は622億豪ドル)から、2033年までに3%(約1,000億豪ドル)に引き上げる計画が進められている。この予算の大部分は、海上戦力獲得(AUKUS・水上艦隊・水陸両用艦隊)、打撃能力、航空・ミサイル防衛、サイバー・宇宙・先端技術に重点的に配分される予定である。

 これらの目標は、豪州が「統合的ステイトクラフト(integrated statecraft)」を実践するために「国力の全要素」の動員を図る国家安全保障体制という、より広範な文脈の中に位置づけられている[7]。NDSは、「国家防衛」という大きな目的を実現するためには、「政府全体」・「国民全体」としての取り組みが必要であることを認めている[8]。その鍵となるのは、 「より大きな自立性」の確立であり、その一環として、軍需品の生産や燃料備蓄を含む、自国の防衛産業基盤の活性化が挙げられる。これは、世界的な混乱や経済的威圧から自国をよりよく守るために、国家のレジリエンスと国民の準備態勢を向上させるという、より広範な取り組みの一環である。日本や英国と同様に、豪州も官民パートナーシップを活用してイノベーション・科学技術(IS&T)を推進し、防衛分野における成果がより広範な経済的利益へと波及する「防衛の配当(defence dividend)」を享受しようとしている。詳細については、今年後半に策定が予定されている「2026年 防衛イノベーション・科学技術戦略(2026 Defence Innovation, Science and Technology Strategy)」で明らかにされる見通しである。

 しかし、豪州のようなミドルパワーにとって、「同盟国やパートナーは、今後もかけがえのないフォース・マルチプライヤー(戦力倍加要素)であり続ける」だろう[9]。米国との同盟関係は、豪州自身の取り組みを強化し、条約に基づく防衛と先進的な軍事装備へのアクセスを確保する上で極めて重要である。英国や日本(後述)といった他の軍事分野での供給国や、AUKUSのようなミニラテラルの取り組みに加え、豪州独自の「誘導兵器・爆発物事業(GWEO)」においても外部パートナーとの連携を進めている。主要な兵器プラットフォームに加え、AI、量子コンピューティング、極超音速、ドローン開発といった「新興破壊的技術(EDT)」に関する協力も、こうした枠組みを通じて行われている。そのような実務的な協力と並行して、これらの同盟国やパートナーと、より信頼性の高い「集団的抑止」の戦線を構築したいという意向もある[10]。

日本との経済・安全保障・防衛協力の強化

 国際情勢が激変する中、豪州の防衛政策は日本にとってかつてないほど重要となっており(その逆もしかり)、こうした状況が日豪戦略的パートナーシップそのもののさらなる強化を後押ししている。5月4日、アルバニージー首相と高市首相が年次首脳会談を行った際、両首脳は二国間の戦略的パートナーシップを「さらなる高み」へと引き上げる一連の新たな宣言、声明、その他のイニシアチブを発表した[11]。その中でも特に重要なのが、「経済安全保障協力に関する日豪共同宣言(JDESC)」であり、サプライチェーンの混乱や経済的威圧に対して経済的レジリエンスを構築する必要性を両国が共有していることを認めたものである[12]。この目的のため、JDESCとともに、エネルギーと重要鉱物の供給問題における協力強化に合意した共同声明が発表された[13]。日本は2010年の尖閣諸島問題を契機に(レアアースの供給停止という形で)経済的威圧を受け、豪州も2020年に新型コロナウイルス感染症に関する国際調査を要請したことを背景に一連の輸出関税措置を課されたことから、両国ともこの戦術が再び用いられる可能性に敏感になっている。

 2026年のJDESCは、2007年に署名(および2022年に更新)された基盤となる「安全保障協力に関する日豪共同宣言(JDSC)」を見事に補完するものであり、経済安全保障上の課題が両パートナーの政策課題において重要な位置を占めるようになったことを反映している[14]。JDSCは、新たな「強化された防衛・安全保障協力に関する首脳声明」においていっそう強化された[15]。これは、2022年の円滑化協定(RAA)や2025年の「戦略的防衛調整枠組み」といった重要な節目も踏まえたものであり、共同演習、(「『日豪戦略的サイバー・パートナーシップ』に関する共同声明」などの)インテリジェンス・情報の共有、兵器試験、海洋安全保障を通じて、軍事的な相互運用性を高める方向性を示している[16]。

 これに先立ち、日本の三菱重工業が豪州にもがみ型フリゲートを供給するという画期的な合意は、両国間の防衛協力の深化の証左であり、2016年に日本が豪州の将来の潜水艦隊への供給を競う入札で負けた不幸な出来事(その後AUKUSに取って代わられることとなる)を乗り越えることに寄与するものである。皮肉なことに、米国のバージニア級原子力攻撃型潜水艦(SSN)の取得が遅れた場合に(既存のコリンズ級潜水艦の「型式寿命延長(LOTE)」を通じて)生じる、またAUKUS級SSNの就役が遅れることで生じると指摘されている「能力のギャップ(capability gap)」を踏まえ、批評家らはこのギャップを埋めるために日本の潜水艦を調達することを提案している[17]。

 このような二国間の取り組みの拡大・深化は、パートナー間の「前例のない戦略的整合性」を象徴している[18]。そして、こうした動きは共通の同盟国である米国から好意的に受け止められている一方で、条約上の同盟国としての米国の信頼性が、厄介な第二次トランプ政権下でまたしても疑問視されている状況において、(いわゆる)ミドルパワー諸国が共同でより多くの行動を起こすための一定の余地も与えている。米国が自由主義的国際秩序へのコミットメントを欠く中、ミドルパワーが「協調」して協力し、進んで取り組むべきだという考えは、2026年1月20日にダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会において、カナダのマーク・カーニー首相によって広められた[19]。(「2025年 国家安全保障戦略」からうかがえるように)米国が中国との直接対決を避け、西半球を優先し、イランで軍事的冒険に乗り出す一方で、同盟国を非難し続けている中、こうしたミドルパワー諸国は、ルールに基づく秩序の「守護者」として機能し、修正主義国家によるそうした秩序への挑戦に対処する役割を担うことをいっそう強いられるようになっている[20]。

 日豪戦略的パートナーシップは、外交、経済、安全保障、防衛、人的交流といった協力のあらゆる側面において、双方にとってますます重要になっている[21]。しかし、日本が豪州の政策決定層(と国民)の間で強い支持を得ている一方で、批判派からは、現首相の下で日本との連携を強めれば、中国を敵に回すリスクがあり、さらに深刻な場合には豪州が日中間の紛争に巻き込まれる恐れがあるとの警鐘が鳴らされている[22]。とはいえ、これは豪州がとりわけ米国との同盟関係を通じて直面する潜在的に厄介な巻き込まれの問題の「数ある事例の一つ」に過ぎず、より広範な地域情勢から切り離して考えることはできない[23]。いわゆる「準同盟国」(日本側の用語)として、日豪は、それぞれの国益を守り、インド太平洋地域の平和と安定を維持するために共同で役割を果たすべく、互いにますます期待を寄せ合っている[24]。

(2026/08/04)

*こちらの論考は英語版でもお読みいただけます。
Australia’s National Defence Strategy and the Strengthening of Bilateral Ties with Japan

脚注

  1. 1 Department of Defence. (2023). National defence: Defence strategic review. Commonwealth of Australia.; Department of Defence. (2024). 2024 National defence strategy. Commonwealth of Australia.
  2. 2 Ministry of Foreign Affairs of Japan. (2026, May 4). Japan-Australia leaders' meeting and signing ceremony.
  3. 3 Department of Foreign Affairs and Trade. (2026). Treaty between the Government of Australia and the Government of the Republic of Indonesia on Common Security. Australian Government.
  4. 4 Department of Foreign Affairs and Trade. (2025, October 6). Papua New Guinea – Australia mutual defence treaty. Australian Government.
  5. 5 Department of Foreign Affairs and Trade. (2026). Australia-Vanuatu Nakamal agreement. Australian Government.
  6. 6 Department of Defence. (2026). 2026 Integrated investment program. Commonwealth of Australia.
  7. 7 Department of Defence. (2026). 2026 National defence strategy. Commonwealth of Australia., p. 6
  8. 8 Ibid, p 19.
  9. 9 Ibid, p. 12.
  10. 10 Ibid, p. 27.
  11. 11 Department of the Prime Minister and Cabinet. (2026, May 4). Australia-Japan joint declaration on economic security cooperation. Australian Government.
  12. 12 Ministry of Foreign Affairs of Japan. (2026, May 4). Japan-Australia joint declaration on economic security cooperation.
  13. 13 Ministry of Foreign Affairs of Japan, (2026, May 4). Japan-Australia Joint Statement on Energy Security Cooperation Energy; Ministry of Foreign Affairs of Japan (2026, May 4) Japan-Australia Joint Statement on Elevated Critical Minerals Cooperation.
  14. 14 Hayley Channer, (2026, May 4). Japan was first mover on economic security. Australia's now a partner. United States Studies Centre.
  15. 15 Ministry of Foreign Affairs of Japan, (2026, May 4). Leaders Statement on Enhanced Defence and Security Cooperation.
  16. 16 Ministry of Foreign Affairs of Japan, (2026, May 4). Japan-Australia Strategic Cyber Partnership.
  17. 17 Richard Gray and Mike Hughes (4 May 2026), Hedging our bets: a Japanese option for managing risk in the AUKUS Optimal Pathway, The Strategists, ASPI.
  18. 18 Ministry of Foreign Affairs of Japan, (2026, May 4). Leaders Statement on Enhanced Defence and Security Cooperation, op. cit.
  19. 19 Mark Carney, (2026, January 20). Davos 2026: Special address by Mark Carney, PM of Canada, World Economic Forum.
  20. 20 Thomas Wilkins, T. (2025, January 24). “Middle Power Minilateralism”: The Australia-Japan-Korea trilateral. The Japan Forum on International Relations.
  21. 21 Thomas Wilkins, (2016). The Japan choice: reconsidering the risks and opportunities of the ‘Special Relationship’ for Australia. International Relations of the Asia-Pacific, 16(3), 477-520.
  22. 22 James Curran, (27 April 2026). ‘Japan’s hawkish PM could drag Australia into conflict with China’, Australian Financial Review.
  23. 23 Alex Bristow, (3 May, 2026), ‘James Curran is wrong about Japan’s realist PM and China’, Opinions, ASPI.
  24. 24 Rintaro Inoue (9 Apr 2026) ‘Japan and Australia need a broad defence treaty’, The Strategist, ASPI.