これまで長年にわたって構築してきた国際秩序の枠組みが危機に直面している。従来存在していた「国際的に合意されたルールに基づく統治システム」が「力による支配」に取って代わり、国際秩序の維持で重要な役割を果たしてきた国際機関・システムがその役割を果たせなくなっている。この現状をどう理解し、また今後どのようにして国際秩序の枠組みを形成していけばよいのか。現在の「力による支配」の構造を分析するとともに、中堅国、とりわけ日本が果たす役割について述べることとしたい。
「力による支配」の時代
現在、超大国が国際規範ヘの抵触を顧みず、「力による支配」を実力行使するケースが散見されるようになっている。米国は、2026年1月にベネズエラへ侵攻し、マドゥロ大統領を拘束した。また、2月以降イランに対し軍事攻撃を繰り返し行っている。さらに8月、国際刑事裁判所の赤根所長をはじめとするICC判事や検察官などに対する経済制裁も発表した。
国際規範を軽視する動きは、米国のみにとどまらない。ロシアも中国も類似の行動を行っている。アメリカン大学名誉教授のマイルズ・ケーラーは「〔ポピュリズムの訴えに呼応する〕ナショナリズム的な政策運営、強権的なリーダーおよび、リーダーを支える取り巻きグループの存在が、超大国に共通する昨今の現象」と指摘する[1]。このように国際規範を軽視し、「力による支配」を追い求める超大国の行動が、国際秩序の枠組みを機能不全化させる主要因となっている。

「力による支配」は「負け組となる戦略」
「力による支配」は持続可能なものではないだろう。国際政治学者のスティーブン・ウォルトは、「力による支配」を「略奪的覇権(Predatory Hegemon)」と呼んでいるが、これは同盟国や国際社会の信頼を落とし、各国の自国に対する依存度を低下させるため、最終的に「負け組となる戦略(losing strategy)」であると述べている[2]。「力による支配」は、相互に緊張関係を高め、軍事費支出の増強に駆り立て、教育、インフラ、社会福祉など社会・経済の安定と発展に資する事業への予算配分を逼迫させ、結果的に、各国で困窮化と疲弊を招き、国民の不満を高めることとなるからである。実際に、「力による支配」の趨勢が強まる現在、世界全体の軍事費支出は、過去最高額を更新している[3]。「力による支配」は、不安と緊張を高めるものであり、持続可能なものではない。
現在の超大国には、「力による支配」を放棄し、かつての国際秩序のシステムに戻るインセンティブが働いておらず、超大国に国際秩序再構築の役割を期待することは難しい。ケーラーは、「ブレトンウッズ体制を作った1945年型の大国主導秩序は戻らない」と指摘する[4]。超大国間が対立する中では、国際秩序の枠組みを再建することは期待できない。そもそも米国は国際社会システムのリーダーとしての役割を果たすことを拒絶しているようにもみえる。国際秩序の枠組みを再建するには、それを支える多くの国々の支持が必要だが、米国にしても、中国にしても、その影響力の強化に警戒感を抱く国は少なくないのである。
期待される中堅国の役割
超大国による国際秩序の枠組みの再形成が期待できない一方、中堅国にはこのような役割を果たすことができるかもしれない。「国際的に合意されたルールに基づく国際秩序形成の重要性」や「多国間協調枠組みの重要性」を理解するのは、超大国より、むしろ中堅国だからである。
カナダのカーニー首相は「中堅国主義」という概念を提唱している。これは、大国間の対立や「力による支配」により旧来の国際秩序が機能不全に陥る中で、大国が築く安全保障システムに依存するのではなく[5]、中堅国同士が結束し、より公正で実務的な多国間協調を再構築・維持しようとする外交構想・戦略である[6]。

近年、欧州の各国も大国でなく中堅国であると言われているが[7]、筆者は中堅国に含まれる国々を考える際には、グローバル・サウスの国々も含めるべきであると考えている。米国・イスラエルとイランの戦争において、外交や和平調停で重要な役割を果たしたのは、日本や欧州ではなく、パキスタン、トルコ、カタール、オマーンといった国々である[8]。近年では、経済力や発言力の点でも、グローバル・サウスの国々のプレゼンスは高まっている。今後の国際秩序の枠組みの再建を図る際には、中堅国の範囲をグローバル・サウスの国々も含めて捉え、良きパートナーとして、ともに行動していくことが不可欠である。
日本への期待:平和構築分野での貢献
「力による支配」が持続可能なものでない以上、国際秩序の枠組みを再建するためには、対話による緊張緩和と共存体制の構築が必要である。中東地域では、イスラエルが周辺諸国の脅威を力で排除しようとしてきたが、イスラエルが期待するような地域秩序は生まれていない。むしろ政治指導者を武力で排除したことにより、イスラエル周辺諸国や地域のガバナンスの能力がより脆弱になり、テロリストグループなどの温床となったと考えられる[9]。必要なのは、対話を実現するためのガバナンス体制の強化であり、共存体制の構築である。
このようなガバナンスの構築・強化や、共存体制の促進は、日本がこれまで長く取り組み、知見・経験の蓄積がある分野である。例えば、1990年代にはカンボジア復興支援会合を[10]、2000年代にはアフガニスタン復興支援会合を[11]、関係各国や国際機関とともに主導し、和平の達成、復興支援までの一連のプロセスを担ってきた経験がある。また、フィリピンのミンダナオ和平の達成は、日本が紛争当事者双方と強力な信頼関係を構築していたがゆえに、日本が仲介者として双方から信認を受け、和平が実現した好事例である[12]。さらに、国際協力機構(JICA)では、ルワンダ、コートジボワール、シエラレオネ、コロンビアなど、かつて国内紛争があった国々で紛争当事者間の信頼醸成や社会復帰・自立化支援を行ない、共存社会の実現に向けた平和構築事業をこれまで実施しており、多くの知見を蓄積している[13]。
現在、日本では和平調停を推進しようとする動きがいくつか見られる。2026年3月、外務省は国際和平調停ユニットの設置を発表した[14]。また笹川平和財団も2026年4月、和平調停センターを設立した[15]。こうした動きは、このようなこれまでの日本の知見を活用できるもので、歓迎すべきことである。
日本は、これまで世界の多くの国々から信頼を勝ち得てきた、たぐいまれな国である[16]。こうした信頼は、和平調停を推進する上で有利に働くであろう。また、和平調停は、軍事力増強により平和と安定を確保しようとするアプローチと異なり、対話と信頼関係の構築により平和を実現するものであり、国家財政支出の観点から負担が少なく持続可能性が高いものである。
1980年代、1990年代と異なり、現在の日本は経済力の低下とともに、国際的なプレゼンスが弱まっている。資源の乏しい日本は、国際社会全体の安定および諸外国との信頼関係が担保されない限り、存続することができない。国際社会のシステムが機能不全となる中、安定した国際秩序の再構築は日本の生命線である。カナダのカーニー首相が主張するように、国際社会のシステム構築を大国に委ねるのではなく、自ら率先して構築していくことが重要である。それは国際社会の一員として、また信頼を置くことができる国際社会システムの受益者としての責務である。和平調停を切り口として、国際社会の秩序再形成に向けた日本の積極的な関与に、大いに期待したい。

(2026/10/05)
脚注
- 1 Miles Kahler, “Global Governance in the Twenty-First Century: Sustain, Reform, Transform,” Carnegie Endowment for International Peace, June 11, 2026.
- 2 Stephen M. Walt, “The Predatory Hegemon,” Foreign Affairs, March/April 2026, February 3, 2026.
- 3 Xiao Liang et al., “Trends in World Military Expenditure, 2025,” SIPRI, April 2026.
- 4 脚注1参照
- 5 Stephen Nagy, “The ‘Ugly American’ and the ‘Ugly Ally’,” Real Clear World, July 8, 2026.
- 6 Mark Carney, “’Principled and pragmatic: Canada’s path’ Prime Minister Carney addresses the World Economic Forum Annual Meeting,” January 20, 2026.
- 7 Galip Dalay, “Yes, Europe Is a Middle Power, Too,” Foreign Policy, July 30, 2026.
- 8 Ibid.
- 9 F. Gregory Gause III, “The New Old Middle East,” Foreign Affairs, September/October 2026, July 30, 2026.
- 10 外務省「カンボジア和平及び復興への日本の協力」2007年1月。
- 11 外務省「アフガニスタンの復興に関する国際会議等」2003年2月。
- 12 JICA「ミンダナオ和平への取り組み」2026年9月30日アクセス。
- 13 JICA「JICAグローバル・アジェンダ(課題別事業戦略) 11.平和構築」2026年9月30日アクセス; JICA「平和構築」2026年9月30日アクセス。
- 14 外務省「国際和平調停ユニットの設置」2026年3月17日。
- 15 「笹川平和財団が「和平調停センター」設立:アジアの紛争に対処」『Nippon.com』2026年4月2日。
- 16 「海外における対日世論調査」(外務省)によれば、アジアだけでなく、アフリカ、中東、中南米等、多くの地域で、日本は「信頼できる国」とのポジティブな評価を受けている。外務省「海外における対日世論調査」2026年8月17日。
