はじめに

 2026年8月5日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、クレムリンにアンドレイ・ベロウーソフ国防相、ヴァレリー・ゲラーシモフ参謀総長ら国防省・ロシア軍の最高幹部を招集し、「特別軍事作戦」におけるニーズと経験から、ロシア国防省の組織を改善していると発言した[1]。その上で、中央軍管区司令官のヴァレーリ・ソロドチュークを国防次官に任命するなど、一連の人事発令を行った[2]。

 ウクライナ東南部の前線におけるキルゾーンの拡大、ロシア国内における「蜘蛛の巣」作戦、さらにはエネルギーインフラや物流倉庫等をターゲットとしたウクライナ軍の深部攻撃を受けて、長期化するウクライナ戦争の形態には変化が見られる。そうした中、2024年5月に国防大臣に就任したベロウーソフは、テクノクラートの属性を背景として組織のマネジメントに注力しており、業務効率化局の設置に象徴される軍事行政プロセスの合理化、無人機の研究開発や運用を担う将来無人技術センター(ルビコン)、新たな兵科としての無人システム軍の設置をはじめ[3]、国防省・ロシア軍では組織改革が進展している。この点について本稿では制度変更や人事動向等に焦点を当てて検討する。

国防省管理部門――財務官僚と警察官僚

 ロシア科学アカデミーの研究室長を務めた経済学者で、典型的なテクノクラートの属性に分類されるベロウーソフは、国家政策そのものへの参画に熱心な人物で、1990年代末から2000年代にかけて首相の非常勤顧問を務め、2006年には経済発展・通商省次官に就任した。リベラル系の経済政策で知られるゲルマン・グレフと現在の中央銀行総裁エリヴィーラ・ナビウーリナの下で次官を務めた後、メドヴェージェフ政権期の2008年から2012年までは、プーチン首相のもとで、連邦政府内部部局の経済・財政局長を務め、2012年に発足した第2次プーチン政権では、ついに経済発展大臣に就任した[4]。2013年から2020年までは大統領補佐官を務め、2020年からは第1副首相として、新型コロナ対応と戦時経済のマネジメントに従事した[5]。また、ベロウーソフは第1副首相の任期中から無人システムに関わる政策を主導しており、無人システムの需要の整理、生産、規制、人材育成、将来的な知的蓄積から成る国家プロジェクト「無人航空システム」を統括していた[6]。

 2024年5月の国防相就任は、軍事費が対GDP比6.3%まで増大する中、軍事費の支出管理と合理化が求められ、国防分野全般では精巧な経済的管理が不可欠であったことが背景として挙げられる[7]。ベロウーソフの国防相就任とともに、ショイグー前国防相が安保会議書記に配置転換となり、国防省高官が相次いで更迭、粛清されることとなった。その政治的動機は明らかになっていないものの、ウクライナ戦争におけるロシア軍のパフォーマンスの悪さが、大統領と軍の関係、軍と準軍事組織の関係に及ぼした影響は見逃せない[8]。

 職業軍人としての経歴を持たない文民、テクノクラートの国防大臣就任は、従来であれば軍の歴史的な規範から逸脱するものであったが、ウクライナ戦争を受けて、この前提条件は覆された。ショイグー側近を含む軍高官の一掃も相まって、ベロウーソフは早晩改革に着手し、大統領は国防省・ロシア軍に対する統制を強めた[9]。

 例えば、元連邦税務庁次長で国防次官を14年間務めたタチヤーナ・チェフツォーワの所掌事項は、元財務第1次官で新たに国防第1次官に就任したレオニード・ゴルニンが引き継いだ。ゴルニンは、ノヴォシビルスク州出身の53歳で、民間企業における勤務を経て、財務省予算・出納官庁アカデミーを修了し、1997年から1999年まで財務省ノヴォシビルスク州監督・監査局に勤務した後、2011年にはノヴォシビルスク州第1副知事に就任した地方政治エリートである。2012年に財務次官としてモスクワに進出し、2018年からは財務第1次官として、国防・法保護機関、国防調達関連の予算を扱った経験を有する[10]。ベロウーソフ体制を管理面で支える国防省の筆頭次官は、ロシアの国家統治において枢要な地位を占める中央地方関係に精通した地方政治畑で、実力派の「抜擢された」財務官僚が務める。

 またショイグーの側近であるユーリ・サドヴェーンコ次官 兼 官房長の所掌事項は、オレグ・サヴェリエフが引き継いだ。サヴェリエフは政治経験豊富で、クリミア担当相、会計検査院検査官(国防、国家安全保障、法保護活動担当)などを務めたが、就任から約2年が経過した2026年5月に国防次官 兼 官房長を解任されている。

 サヴェリエフの代わりに警察出身のヴィターリ・シュリカが国防次官 兼 官房長に就任した。シュリカはクラスノダール辺区出身の56歳で、1990年代から2000年代にかけて海軍特殊通信部隊に務めたが、2009年に内務省に移り、中央情報分析センター情報技術保全部長に任命された。2012年には経済安全保障・汚職対策局«П»部(産業・ハイテク・戦略分野における経済犯罪担当)次長に、同年10月には機動捜査情報局長に、そして2017年12月には内務次官に任命された。次官としての所掌事項は国家調達、技術装備、省のDX化であった。2020年11月には、犯罪捜査へのAI技術の導入を含む大規模な内務省DXプロジェクトを打ち出した[11]。DXによる合理化と管理・統制の強化に長けた警察官僚である。

実戦経験を重視した2026年8月人事

 ショイグー国防相の在任期間中ではあるが、2024年3月に兵站担当の国防次官に就任したアンドレイ・ブリガは、2025年11月に安保会議副書記に配置転換となるなど、軍高官の入れ替わりは激しい。そうした中、2026年8月5日、クレムリンで開催された国防省最高幹部会合に続き、プーチン大統領とベロウーソフ国防大臣は軍高官人事に着手し、国防次官にヴァレーリ・ソロドチューク[12]、無人システム軍司令官にデニス・リャーミンが任命された[13]。

 ソロドチュークは、アストラハン出身の55歳、リャザン空挺指揮学校の出身者で、2012年から第7親衛山岳空挺強襲師団長、その後、東部軍管区第5諸兵科連合軍副司令官、同参謀長、レニングラード軍管区参謀長、中央軍管区第1副司令官などを務め、2025年2月から中央軍管区司令官に任命されていた。今般の人事では国防次官として兵站を統括する。

 無人システム軍司令官のリャーミンは、ベラルーシのミンスク州出身の47歳で、チェリャビンスク高等戦車指揮学校の出身者で、2009年から中央軍管区第28独立自動車化狙撃旅団参謀長、2011年から西部軍管区第20諸兵科連合軍第6独立戦車旅団参謀長 兼 副旅団長、2013年から西部軍管区第1戦車軍第2自動車化狙撃師団参謀長 兼 副司令官などを務め、直近では中央軍管区参謀長 兼 「中央」部隊集団参謀長を務めていた[14]。リャーミンの人事については、無人機に関する技術的専門性のみならず、戦場のニーズをよく知る者を抜擢したという指摘がある[15]。

 ソロドチューク次官とリャーミン無人システム軍司令官は、豊富な実戦経験に裏打ちされた戦訓を背景に、中央で指揮を執ることとなる。

おわりに

 本稿では、ごく一部の高官人事に焦点を当てたが、そこからもベロウーソフ体制における財務・警察官僚と部隊運用に精通した軍人の混合配置が浮かび上がり、さらに細かく観察すれば異なるバックグラウンドを持つ高官の間における競合も協調も見出すことができよう。とりわけウクライナ戦争下においては、新たな兵科として無人システム軍が設置されるなど、ドローンを通じたイノヴェーションが生起しており、戦闘の形態が激しく変化している。ロシアの巨大な軍需産業を含め様々なアクターの利害が交錯し、エリート間の権力闘争の主要な舞台となっている国防省において、ベロウーソフ大臣が今後どのような組織マネジメントの手腕を見せるのか注目すべきである。

(2026/10/19)

脚注

  1. 1 Президент России, 05 августа 2026г., «Встреча с руководством Министерства обороны: Во встрече приняли участие Министр обороны, начальник Генерального штаба, командующие и начальники штабов группировок войск «Центр» и «Восток»»(ロシア大統領、2026年8月5日付「国防省指導部との会合:国防大臣、参謀総長、「中央」・「東部」部隊集団司令官・参謀長らが参加).
  2. 2 Президент России, 05 августа 2026г., «Подписан Указ о назначении на должность военнослужащих Вооружённых Сил»(ロシア大統領、2026年8月5日付「ロシア軍の軍職への任命についての大統領令に署名」).
  3. 3 Российская газета(Rossiiskaya gazeta), от 23 сентября 2026г.(2026年9月23日付), «Новый род войск: Беспилотники становятся не вспомогательным средством, а основой боевой мощи армии»(新たな兵科:戦闘力の補助手段から中心軸となる無人機).
  4. 4 Лента.ру(Lenta.ru), «Белоусов, Андрей Министр экономического развития РФ»(ロシア連邦経済発展大臣アンドレイ・ベロウーソフ).
  5. 5 РБК(RBK), «Белоусов Андрей Рэмович»(アンドレイ・レーモヴィチ・ベロウーソフ).
  6. 6 Российская газета(Rossiiskaya gazeta), от 06 августа 2023г.(2023年8月6日付), «Белоусов заявил, что Россия готова к внедрению отрасли беспилотных авиасистем»(無人航空システム導入に向けた準備整う、ベロウーソフ国防相).
  7. 7 Взгляд(Vzglyad), от 03 января 2025г.(2025年1月3日付), «Как Белоусов меняет российскую военную машину»(ロシア軍事機構、ベロウーソフいかに変えるか).
  8. 8 この点について詳しくは次の文献を参照。岡田美保「ロシアの政軍関係における準軍隊と民間軍事会社」『国際安全保障』第54巻第2号、2026年9月、42-44頁。
  9. 9 Kirill Shamiev, Dynamics of Russian Civil-Military Relations During the War with Ukraine: Legal Reforms, Elite Dynamics, and Societal Perceptions, CNA, DOP-2025-U-042031-Final, August 2025.
  10. 10 Коммерсантъ(Kommersant), от 17 июня 2024г.(2024年6月17日付), «Чем известен первый замминистра обороны Леонид Горнин»(レオニード・ゴルニン国防第1次官とは).
  11. 11 РБК(RBK), «Виталий Шулика»(ヴィターリ・シュリカ).
  12. 12 Парламентская газета(Parlamentskaya gazeta), от 05 августа 2026г.(2026年8月5日付), «Путин подписал указ о кадровых перестановках в руководстве Минобороны»(国防省幹部人事、プーチン大統領署名).
  13. 13 Российская газета(Rossiiskaya gazeta), от 21 августа 2026г.(2026年8月21日付), «Генерал Лямин приступил к исполнению обязанностей главы войск беспилотных систем»(リャーミン将軍、無人システム軍司令官に).
  14. 14 Коммерсантъ(Kommersant), от 05 августа 2026г.(2026年8月5日付), «Биографии новых командующих в Вооруженных силах РФ»(新たな司令官の顔ぶれ).
  15. 15 Газета. Ру(Gazeta.Ru), от 05 августа 2026г.(2026年8月5日付), «Военный эксперт оценил назначение Лямина на должность главы беспилотных войск»(リャーミンの無人システム司令官への任命、軍事専門家に聞く).