はじめに
2025年11月に、高市首相が衆議院予算委員会で台湾有事について踏み込んだ国会答弁を行った。それ以降、中国から日本への反発が、レアアースの禁輸をはじめとしたさまざまな分野に及んでいる。これは軍事においても同様であり、日本周辺での中国の軍事活動および中国とロシアによる軍事連携活動が一段と盛んになっている[1]。それは単に参加隻数・機数の増加や活動域の拡大にとどまらず、日本周辺を軍事力で取り囲み、軍事的優位の確立や領域に関する戦略目的を達成しようとする意図を伴う活動であると分析している。
本論では、2025年11月以降の日本周辺における中国、ロシアおよび北朝鮮の軍事的行動を中心に分析する。こうした分析を通じて、中国が国会答弁への反発にとどまらず、ロシアや北朝鮮と連携して、軍事的・戦略的に「新たな常態化」を図っているのではないかと論じる。

活発化する中国とロシアの軍事活動
2025年12月6日~12日に、中国海軍の空母「遼寧」が沖縄本島・宮古島間を通峡し太平洋へ進出し、南西諸島近傍を航行した後、北大東島、南大東島、沖大東島を周遊しながら艦載戦闘機および艦載ヘリの発着艦を行った[2]。12月6日には、沖縄本島南東の公海上空で、空母「遼寧」から発艦したJ-15戦闘機が、対領空侵犯措置を実施していた航空自衛隊のF-15戦闘機に対して、レーダー照射を断続的に行った[3]。近年の戦闘機搭載ミサイルは、AIが搭載されるなど、より精密な誘導となっている。こうしたレーダー照射は一歩間違えば武力衝突にエスカレートする可能性のある極めて危険な行為である。
図1:日本を取り囲む中ロ軍用機の活動状況(2025年度)
空母「遼寧」の行動中の12月9日、中国爆撃機2機とロシア爆撃機2機が東シナ海から四国沖の太平洋にかけて、そのままのコースで飛行すれば東京上空まで600kmとなるところで引き返す長距離の共同飛行を実施した[4](図1参照)。全く同様のコースでの共同飛行を2026年6月27日にも中国爆撃機2機とロシア爆撃機2機が行っている[5](図2参照)。この共同飛行コースは、冷戦期の旧ソ連時代から頻繁に確認された北東から東京に近づく長距離飛行「東京急行」と同様であり[6]、南西から近づくものであるが威嚇飛行「東京急行」に類似している。もっとも、この南西から東京を目指す飛行コースは、2017年8月24日に中国爆撃機6機によりすでに実施されている[7]。ただし、この時よりも今回の方が日本にとってより脅威である。その理由は、今回は中国とロシアの共同飛行であり、さらに核兵器も搭載可能な能力の高いミサイル開発が当時よりも進んでいるからである[8]。こうしたことから、筆者は威嚇飛行のみならず有事を想定した実際的な模擬攻撃訓練であったと考えている。
図2:日本を取り囲む中ロ軍用機の活動状況(2026年度1/四半期)
また2026年7月には、中国海軍艦3隻とロシア海軍艦1隻が、東シナ海から太平洋、宗谷海峡を通峡した後に日本海に至る日本周回合同行動を行った[9](図3参照)。この間、沖ノ鳥島付近の日本の排他的経済水域(EEZ)内で射撃訓練を行った。日本のEEZ内での外国艦艇による射撃訓練の公表は、確認できる範囲で初であると報じられている[10]。沖ノ鳥島のEEZ内での射撃訓練は、以前から中国が主張している沖ノ鳥島を「島」ではなく「岩」とすることを強調するものとなっている。そしてこの周回活動の間、東北沖から宗谷海峡付近において、別に行動したロシアの情報収集機やフリゲート艦が同時期に同じ海空域で活動している[11]。こうした中で、8月13日には、プーチン大統領が1945年の旧ソ連による北方領土占領後、最高指導者として初の択捉島の視察を行った[12]。
また、2026年7月6日、中国海軍が原子力潜水艦から太平洋の公海上に向けて、潜水艦発射弾道ミサイル1発を発射した。南シナ海から発射したことから、日本の領土、領海やEEZの上空通過は確認されていないが、中国が通告した落下海域の1つは、日本の潮岬南方のEEZと一部重なるところもあった[13]。発射された大陸間弾道ミサイルは、新型の「巨浪3」(JL3)とみられている。このミサイルの射程は1万キロを越え米国本土に届く以上、米国にとっても新たな脅威となっている[14]。
図3:中国海軍艦とロシア海軍艦による日本周回合同行動(2026年7月)
北朝鮮を含めた連携の強化
北朝鮮も軍事行動を活発化させている。8月には、弾道ミサイルを複数発射している[15]。これはすでに昨年の弾道ミサイル等発射数を上回るものとなっている。
これらの3カ国の日本に対する特異な軍事活動は、各国の戦略に基づき実施されているが、その連携も深めていると見積もっている。例えば、2026年1月9日付の中国共産党機関紙『人民日報』において「新型軍国主義」という言葉が本格的に使われ始めている[16]。さらに2026年8月13日には、中国の呉江浩駐日大使とロシアのノズドレフ駐日大使の共同声明を発表し、日本に対する強硬姿勢で中ロが軍事面での共同歩調を示している[17]。習近平国家主席が約7年ぶりに北朝鮮を訪問する中[18]、朝鮮労働党の重要政策を決める中央委員会拡大総会が開催され、金正恩総書記が「日本が公然と戦争国家へ変貌している」と名指しで批判している[19]。党の重要会議である総会の場で、金正恩総書記自らが「戦争国家」という言葉を使って日本を直接名指しして批判したのは今回が初めてとの分析もあり[20]、以前とは異なりステージが一段上がっていると分析できる。
増大する軍事的包囲網
2025年11月以降、中国とロシアは上述した軍事活動を通じて、安全保障上の成果を手にしている。中国にとって、首相の国会答弁に対する威圧となり、さらに日本の領土である沖ノ鳥島の「島」否定への主張となっている。ロシアにとっては、北方四島の領土化を確かなものにしようとするものになっている。さらに言えば、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を米国などの攻撃から守り、確実な核抑止力を維持するため、オホーツク海を他国の侵入を許さない「海上の要塞化」の強化を目指していると考えられる。ウクライナとの戦争が4年半を越え、国力が低下しているからこそ、オホーツク海における軍事的優位性の向上を狙っているものと考えられる。北朝鮮にとっては、さらなる核・ミサイル開発に加え、通常戦力の更新、海軍作戦能力の強化につながるものとなっている。中国・ロシア・北朝鮮の軍事活動は、平時やグレーゾーン事態における力による一方的な現状変更の強化や、変化後の現状が当然のこととなることを目指した「新たな常態化」への第一歩となっている。
また、ひとたび有事が発生すれば、中国とロシアが連携した爆撃機によるいわゆる「東京急行」類似飛行は、同盟国である米軍の来援阻止にとどまらない。自衛隊が能力を高めている「反撃能力」は、武力攻撃を受けた際に相手の固定されたミサイル発射拠点等を破壊することを主に想定している。これに対し爆撃機は発射拠点そのものが移動するため、反撃能力では捉えにくい。中国とロシアの共同飛行は、この移動する発射拠点からの攻撃という選択肢を加えたものとなっているのではないか。さらにロシアによるオホーツク海の「要塞化」の強化は弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を米国などの攻撃から守り、核抑止力を確実にするのみならず、日本に対する戦術核の脅威を高めるものとなっている。
おわりに
本論では、高市首相の国会答弁後の日本に対する中国とロシアの軍事戦略と北朝鮮との連携、そしてそれを受けた軍事活動について分析を行った。3カ国ともにその活動が活発化していること、そして、その軍事活動の活発化により得られる成果、さらには見積もられる目的などを導き出した。
こうした「新しい常態化」に対して、日本はどのように対処するのか準備しておく必要がある。2026年末に予定されている安保三文書の改定に向けて、長射程ミサイルを搭載する次世代の潜水艦に向けた原子力などを念頭とする「次世代の動力」の研究・技術開発や太平洋側の第二列島線の防衛体制(警戒監視の空白地帯)を強化するため、小笠原諸島(父島や硫黄島など)への車載式移動型警戒管制レーダーの配備、さらにはサイバーや認知戦の備えなどが議論されている。こうした分野の強化とともに陸海空兵力のさらなる充実や「新たな戦い方」への備え、スウォーム攻撃に備えた大量無人アセットによる多層的沿岸防衛体制(SHIELD)の構築、近距離対空システム(CRADS)の開発・配備などにより、本格的に首都東京を含む日本本土の防衛体制の再構築について次期国家防衛戦略に示されることを期待する。
(2026/09/16)
脚注
- 1 「中国情勢(東シナ海・太平洋・日本海)」防衛省、2026年6月、2頁。
- 2 「中国海軍艦艇の動向について」統合幕僚監部、2025年12月12日。
- 3 「中国軍機による自衛隊機へのレーダー照射について」防衛省、2025年12月7日。
- 4 「中国軍機及びロシア軍機の動向について」統合幕僚監部、2025年12月9日。
- 5 「中国軍機及びロシア軍機の動向について」統合幕僚監部、2026年6月27日。
- 6 「日本列島全土を「模擬攻撃」中露爆撃機の挑発飛行」『産経新聞』2018年3月17日。
- 7 「中国機の東シナ海及び太平洋における飛行について」統合幕僚監部、2017年8月24日。
- 8 中国の戦略爆撃機が胴体下部に核搭載が可能なJL-1空中発射弾道ミサイルと推定される武器を装着して飛行していることが報じられている。「核搭載可能な弾道ミサイルを装着して飛行する中国戦略爆撃機H-6N」『中央日報』2026年8月7日。; CJ-20長距離対地巡航ミサイルなどの存在も知られている。“Changjian-20,” Missile Defense Advocacy Alliance(MDAA), accessed August 30, 2026.
- 9 「中国及びロシア海軍艦艇の動向について」統合幕僚監部、2026年7月29日。
- 10 「中国ミサイル駆逐艦が日本のEEZ内で機関銃の射撃訓練、主張の「既成事実化」狙いか…沖ノ鳥島沖」『読売新聞』2026年7月21日。
- 11 以下をもとに分析した。「中国及びロシア海軍艦艇の動向について」統合幕僚監部、2026年7月29日; 「ロシア海軍艦艇の動向について」統合幕僚監部、2026年7月29日; 「ロシア軍機の動向について」統合幕僚監部、2026年7月24日。
- 12 「ロシアのプーチン大統領、北方領土初訪問 対日けん制、「実効支配」強調」『時事通信』2026年8月13日。
- 13 「(社説)中国のミサイル 緊張を高めていいのか」『朝日新聞』2026年7月8日。
- 14 「(社説)中国のミサイル 緊張を高めていいのか」『朝日新聞』2026年7月8日。
- 15 「防衛大臣記者会見」防衛省、2026年8月12日。
- 16 「中国が主張する「新型軍国主義」とは 専門家が指摘する日本の対処法」『朝日新聞』2026年5月7日。
- 17 「対日強硬姿勢で中国とロシアが共同歩調 米大使は日本支持を表明」『時事通信』2026年8月14日。
- 18 「習国家主席が7年ぶりに北朝鮮を訪問、連携強化にむけた4つの意見を発表」ビジネス短信、JETRO、2026年6月10日。
- 19 「正恩氏、日本を「戦争国家」核戦力拡大・強化の方針示す」『朝日新聞』2026年6月24日。
- 20 「北朝鮮はなぜ今年、対日批判を強めたか(前編)-「黙殺」から名指しへ、引き金は高市政権の防衛政策」セキュリジェンス、2026年7月11日。
