2026年に任期2度目(1期5年、2期が慣例)を完了するアントニオ・グテーレス事務総長の後任選挙が始まっている。過去の事務総長の体制それぞれに特徴があるが、グテーレス時代は国連の衰えが顕著となった10年だった。次の事務総長も厳しい情勢を引き継ぐことになる。では、そうした時代には、どのような事務総長が望ましいのだろうか。本稿では事務総長選出の仕組みと現段階での候補者を紹介したうえで、次の事務総長に求められる役割を論じる。

事務総長はどのように選ばれるのか

 国連憲章での事務総長選出に関する記載(97条)は比較的簡潔で、安全保障理事会(以下、安保理)の推薦を受けて総会が任命するとのみ規定されている。不文律で、安保理の常任理事国5か国以外の国から、出身地域をローテーションする形で事務総長が選出されてきた。主な経歴としてはやはり外務大臣や大使の経験者が多い(表1参照)。

表1:これまでの国連事務総長の氏名・出身国・任期・経歴

氏名
(カタカナ)
英語表記 出身国 任期 主な経歴
1 トリグブ・リー Trygve Lie ノルウェー 1946年〜1952年 ノルウェー外務大臣
2 ダグ・ハマーショルド Dag Hammarskjöld スウェーデン 1953年〜1961年(在任中に飛行機事故で死去) スウェーデン外務省事務次官(財務担当)
3 ウ・タント U Thant ビルマ(現ミャンマー) 1961年(代行)/1962年正式就任〜1971年 ビルマの国連常駐代表(大使)
4 クルト・ワルトハイム Kurt Waldheim オーストリア 1972年〜1981年 オーストリア外務大臣、国連常駐代表
5 ハビエル・ペレス・デクエヤル Javier Pérez de Cuéllar ペルー 1982年〜1991年 ペルー外交官(ソ連大使等を歴任)
6 ブトロス・ブトロス=ガリ Boutros Boutros-Ghali エジプト 1992年〜1996年 エジプト副首相兼外務担当国務大臣
7 コフィー・アナン Kofi Annan ガーナ 1997年〜2006年 国連事務次長(平和維持活動担当)
8 潘基文(パン・ギムン) Ban Ki-moon 大韓民国 2007年〜2016年 韓国外交通商部長官(外相)
9 アントニオ・グテーレス António Guterres ポルトガル 2017年〜(現職) ポルトガル首相、国連難民高等弁務官

出典:筆者作成

 安保理が選出した1名が総会で任命されるため、常任理事国が拒否権を発動するような候補者は選出も再選もされない[1]。初代のリー事務総長は、朝鮮戦争を機に米ソ対立が深まる中で両陣営から批判を受け2期目を終えずに辞任し、冷戦の終焉を機に「平和への課題」を発表して国連平和維持活動(PKO)の強化を図ったエジプト出身のガリ事務総長は、ソマリアでのPKOの失敗などから米国との軋轢が深まり、2期目への出馬を断念させられた。

 カリスマ性よりも安保理に反対されないことが最大の要件となる事務総長だが、それでも在任中には国際協力の進展に多大な役割を担ってきた。2代目のハマーショルド事務総長は、冷戦の始まりで憲章に定められた国連軍の構想が破綻する中、打開策としてPKOを創出し中東やアフリカの紛争に対処した。ハマーショルドがコンゴの停戦調整に向かう途中で殉職すると、代行として事務総長職を引き継いだウ・タントは先駆的に環境問題に対する啓蒙をはじめ、国連大学などの研究機関の創立にも寄与している。冷戦終了後、1期で退いたガリ事務総長の後任はアフリカ出身者でという前提で選出されたアナン事務総長は、PKOの強化やミレニアム開発目標(2000-2015)の設定を成し遂げた。続く潘基文事務総長のもとで持続可能な開発目標(2016-2030)が定められ、また温室効果ガスの削減を目指すパリ協定も締結された。

 安保理中心の事務総長選出に楔が打ち込まれたのはグテーレス事務総長の選出の際である。コスタリカ、エストニア、クロアチア、ナミビアや市民団体などが中心となって、事務総長選出プロセスを透明化する総会決議文の採択を実現させ、投票プロセスそのものは変わらないものの、候補者の意見表明や質疑応答のための非公式の公聴会や対話集会が設けられた[2]。この改革によって、2016年の候補者数は、潘基文事務総長選出の際の7名に比べて13名にほぼ倍増した。このため、安保理内、特に非常任理事国の間で票が割れ、5回の非公式予備投票を経て最終的にどの政府にも「嫌われていない」グテーレス氏が総会に推薦された[3]。

 グテーレス事務総長は就任早々、平和と安全・開発・行政の分野での組織改革を図ったが、それにどれだけの意味と成果があったのかは定かではない[4]。第二次トランプ政権が対外援助を停止し、またガザ復興のために新しい多国間機構の設立を提唱する中、国連は人命救助どころか存続するだけが精一杯の状態に陥っている[5]。しかし国連の求心力低下はその前から始まっていた。アフリカではマリからスーダンにかけて国連の現地ミッションが撤退させられ、パレスチナで継続してきた難民支援が非難中傷の的となり、アフガニスタンの平和構築はタリバン政権の復活で挫折した。

次期事務総長が直面する国連の姿

 このような状況で誰が次期事務総長となるのだろうか。今回は中南米の候補者が有力とされており、2026年7月末現在で7名の候補者がいる(表2参照)。同月23日に国連総会議場で公開討論が実施され、30日には安保理による第1回目の非公式予備投票が行われた。安保理の予備投票では、まず常任・非常任理事国が同じ用紙で各候補者に「Encourage(賛成)」「Discourage(不賛成)」「No opinion(意見無し)」を投じストローポール(非公式投票)を何度か経たのち、常任理事国は赤、そして非常任理事国は白の投票用紙で、予備投票の最終段階に入る。第1回目ではコスタリカの元副大統領であるグリンスパン氏が最も支持票を集め(賛成10、不賛成1、意見無し4)、続いてガイアナのロドリゲス=バーケット氏(賛成9、不賛成2、意見無し4)、アルゼンチンのグロッシ氏(賛成7、不賛成2、意見無し6)という結果だった[6]。グリンスパン氏の両親はユダヤ系ポーランド人でナチス統治下にコスタリカに逃れており、選出された場合にはユダヤ系としても女性としても初の事務総長となる。

表2:2026年事務総長候補者の氏名・出身国・指名国・主な経歴(2026年7月31日現在)

候補者
(日本語表記)
英語表記 出身国 指名国 指名日 主な経歴
ラファエル・グロッシ Rafael Grossi アルゼンチン アルゼンチン 2025年11月 国際原子力機関(IAEA)事務局長
ミシェル・バチェレ Michelle Bachelet チリ チリ・ブラジル・メキシコ(同3月にチリは支持撤回) 2026年2月 元チリ大統領(2期)
レベカ・グリンスパン Rebeca Grynspan コスタリカ コスタリカ 2026年3月 元コスタリカ副大統領、現国連貿易開発会議(UNCTAD)事務局長(候補活動のため休職)
マリア・フェルナンダ・エスピノサ María Fernanda Espinosa エクアドル アンティグア・バーブーダ 2026年5月 元国連総会議長(2018〜19年)、元エクアドル外相・国防相
キャロリン・ロドリゲス=バーケット Carolyn Rodrigues-Birkett ガイアナ ガイアナ 2026年6月 現ガイアナ国連常駐代表(大使)
マッキー・サル Macky Sall セネガル ブルンジ 2026年3月 元セネガル大統領
オララ・オトゥヌ Olara Otunnu ウガンダ ウガンダ 2026年7月 前国連事務総長特別代表(子どもと紛争担当)

出典:筆者作成

 誰が事務総長として選ばれたとしても、財政的・政治的に厳しい状況にある国連を率いることになるのは間違いない。グテーレス事務総長は2025年に国連憲章制定から80年を迎える局面で、「UN80イニシアチブ」と名付けた改革案を発表した。86にものぼるアクションプランには、国連予算の20%削減、事務局の人員35,000名のうち6,900名のカット、平和と安全・人道支援・開発支援・環境・人権などに関わる部署・機関の統合、UNDP(国連開発計画)・UNICEF(国連児童基金)・UNFPA(国連人口基金)のナイロビ移転、上級職ポストの削減なども盛り込まれている[7]。2026年5月に提出された中間報告では、これまで以下を含む進捗が挙げられている[8]。

  • 事務局の職員定数を21%削減
  • スペイン・バレンシアに、事務局全体のデジタルサービス提供を支援するハブを開設
  • ニューヨーク、ジュネーブのようなコスト高の地域から事務局の220ポストを移転。国連システム全体ではさらに約1,900ポストを移転
  • 人道支援全体のサプライチェーンの一元化を5つの緊急事態(アフガニスタン、ハイチ、パレスチナ、ソマリア、スーダン)で実施

 このように事務局のスリム化が進む一方で、国連諸機関の統合については調整が難航している。UNDPと国連プロジェクト・サービス機関(UNOPS)の統合は内部からの激しい反対にあい、またUNFPAとUN Womenの統合に対しては市民団体だけではなくブラジル、カナダ、ベルギーからも懸念の声が上がっている[9]。

次期事務総長に求められる資質

 80年の間に肥大した組織を改革する必要性は明らかである。世界の状況も1945年からは様変わりした。しかし、国連への信頼の失墜は、事務局の非効率性のみに起因するわけではない。大国に翻弄される国家間組織の在り方そのものに矛盾がある。現在の国連の資金難は、国連通常予算の22%を負担する米国だけでなく、第2拠出金国として20%を負担する中国からも未納・遅延が続いていることに由来する。そしてウクライナでもガザでもイランでも、安保理の常任理事国が戦争に関与しているため、国連が独自に平和を模索する道は絶たれている。その安保理の機能不全を是正するような改革も、結局常任理事国の賛同なしには進まず今日に至っている。

 2024年9月の国連総会の際に開催された「未来サミット」で、加盟国は、持続可能な開発・国際平和・科学技術・多国間協力を軸としたグローバル・ガバナンスを提唱する「未来のための協定(Pact for the Future)」を採択した。ここで再確認された国連の役割を、大幅に縮小された組織体制で、一体どのように果たしていくのかについての明確なビジョンはまだない。組織の縮小がこのまま進んだ場合、国連が実施できる活動の範囲は狭まる一方だろう。よって国連の役割は、直接的支援よりも合意・規範の形成が主眼になっていくのではないかと思われる。国連に残っているのは招集力である。多様な利害関係を持つ国を一堂に集め、共通の課題解決や協調へ導く主宰者の役目である。その代表となる事務総長は、これまで往々にして、大国への忖度が目立つと批判されてきた[10]。それが国連への不信感につながってきたことは否定できない。よって、次の事務総長に最も必要な資質とは、相手が大国であろうと、国益のみを追求する単独行為、ひいては安保理決議なしに他国に軍事行動を取るなど、国連憲章に反するような行為は真摯かつ公然と批判する気概なのではないだろうか。

(2026/08/17)

脚注

  1. 1 “Appointing the UN Secretary-General,” Security Council Report, October 26, 2015.
  2. 2 “The UN Secretary-General Selection and Appointment Process: Emerging from the Shadows,” Security Council Report, April 4, 2017.
  3. 3 長田こずえ「国連事務総長の選択と役割―ジェンダーとインクルーシブの観点からの将来的課題―」『名古屋学院大学論集』 第56巻第2号、2019年、35-48頁。
  4. 4 Marc Jacquand, “UN Reform and Mission Planning: Too Great Expectations?” International Peace Institute, November 4, 2020.
  5. 5 Maia Davies and Imogen Foulkes, “UN Risks ‘Imminent Financial Collapse’, Secretary General Warns,” BBC News, January 30, 2026; Daniel Forti, “Trump Proposes a Bypass to the UN Security Council,” International Crisis Group, January 19, 2026.
  6. 6 David Brunnstrom, Michelle Nichols and Emma Farge, “Informal Poll Shows Costa Rica’s Grynspan Ahead in Race to Be next UN Chief,” Reuters, July 30, 2026.
  7. 7 Mariel Ferragamo and Diana Roy, “The UN80 Initiative: What to Know About the United Nations’ Reform Plan,” Council on Foreign Relations, September 15, 2025.
  8. 8 “UN80 Initiative: Progress Report—Report of the Secretary-General,” United Nations, May 2026.
  9. 9 Shannon Kowalski and Jessica Stern, “Merging UNFPA and UN Women Would Undermine Gender Equality Globally,” Devex, March 12, 2026; Colum Lynch, “Exclusive: Turf Battle Stalls UN Merger Mania,” Devex, June 26, 2026.
  10. 10 Roth, Kenneth, “Why the U.N. Chief’s Silence on Human Rights Is Deeply Troubling,” The Washington Post, April 24, 2019.