タリバーン政権による2度目のアフガニスタン支配が始まって2年になろうとしている。食糧難等人道危機が継続する中、国際社会の人道支援は、タリバーン政権による国内・国際NGOや国連機関における女性の勤務の禁止等により停滞している。このままでは、人道支援に依存する多くの人々を更なる危機に陥らせる可能性がある。

 国連安保理は、2023年4月27日、タリバーン政権による女性国連職員の出勤停止通告に対し、「国連史上前例がない」と非難し即時撤回を求める非難決議(安保理決議2681)を採択した[1]。これに対し、同政権は「国内社会の問題」として応じる気配はない[2]。

 このままでは、アフガニスタンに対する開発支援のみならず、人道支援までもが滞り、アフガン人の命の危機は深まる一方、タリバーン政権が特定の周辺国に依存することやテロ組織との関係性を深めていく可能性は排除できない。

 人道支援を継続し、食糧危機にあるアフガン人を支援するには、単にタリバーン政権を非難するだけであってはならない。上記安保理決議を取りまとめた石兼国連大使は「日本は現地でさまざまなプレーヤーと対話しコミュニケーションができる立場にあり、それをいかして状況の改善に尽力する」と述べたと報道されており[3]、今後もアフガニスタンの現状に基づいて人道状況改善を模索していくべきである。

 本稿では、タリバーン政権が国内的に根を張っている点に着目し、国際社会が壁に直面している人道状況改善の方策をいかに現状に即したものとしていくか検討する。

国民に受容されたタリバーン「支配」と前政権の腐敗問題

 タリバーン政権が国連安保理決議により非難されても平気でいられるのは、パシュトゥーン人を主勢力として国内的な支持を得ている確信があるからと考えられる。

 タリバーンは、1990年代の旧ムジャヒディンがつくりだした腐敗にまみれたアフガニスタンの世直し運動として始まった。当時、パシュトゥーン人を中心に地方の住民はこの世直し運動を支持し、タリバーンは1996年までにアフガニスタンを9割方支配するようになった。タリバーンは、9.11同時多発テロ攻撃後のアル・カーイダ支援により、アメリカに軍事的に支援された反タリバーン勢力の攻撃を受け、一旦退場した。

 しかし、国際社会が支援して生れた新しいアフガニスタンは、一方で地方を中心にアフガン国民に平和と繁栄どころか安定と安心さえももたらすことに失敗し、他方で腐敗が蔓延する政治を生み出した。

 2012年から2016年に、アフガニスタン大使をつとめた高橋博史大使は、ガニ政権が崩壊した理由を「腐敗」だとしている[4]。同元大使は、カブール大学留学・外務省/在外公館での勤務を経て、国連アフガニスタンミッション等で身近にアフガニスタンの政治に接してきた専門家である。9.11後のアフガニスタンの和平国連プロセスでは、国連アフガニスタンミッションの代表であったブラヒミ氏の政務顧問を務めた。同顧問辞職後も幅広く深いアフガン人脈を使ってアフガニスタン情勢を観察してきた。

 同元大使は、大使在任中に、大統領に就任したガニ氏に腐敗を止めるように、腐敗している人物の名前まで挙げて要請したが、ガニ氏は、自分が腐敗に関与しているので、何もしなかったと、語っている[5]。ガニ氏は、長い間外国にいたため、アフガニスタン国内に人脈がなく、知っていた旧ムジャヒディンを頼り、金を使って彼らを何とかしようとした。それは、前任のカルザイ元大統領も同じだった、とも述べている[6]。

 2010年ごろ、筆者も元外交官で政府の職を辞し、民間経済活動を始めたアフガン人から、外務省に出向くと複数の職員から「あなたは、次の外務次官ですよね」と言いながら賄賂を要求され、嫌になり、辞職したと聞かされたことがある。高橋元大使の解説によれば、すべてのポストがお金をばらまくことにより入手されており、政府の役人も兵士たちも更には地方の住民たちもそれを知っていた[7]。

 筆者は、タリバーンによる政権再奪取直後の2021年8月の論考で、ガニ政権の急速な崩壊の理由として、「住民の選択」及び「州知事の選択」を挙げ、住民と州知事たちが、ガニ政権を捨てタリバーンを選択したと述べたが、この選択の背景には、腐敗があったわけである[8]。

 1990年代のタリバーン支配は、治安の良さが特徴であった。タリバーン独自の解釈ではあるが、イスラームに則った「支配」が行われていた。そして今、同様の「支配」が生れている。「秩序ある支配」と呼んでも良いかもしれない。もちろん、国際的な人権基準からすれば、教育、就業等における女性の権利の侵害や少数派民族の宗教や文化の抑圧がなされている等、その「支配」には問題がある。しかし、この秩序ある「支配」をアフガニスタン国民がパシュトゥーン人を中心に支持ないし受容している。タリバーン「支配」は国内的に行きわたっているとも言える。

 タリバーン「支配」に対して、イスラーム国ホラサーン州(ISK)によるテロ事件が起こっているが、同支配を覆すようなISKの住民への浸透は起こっていない。住民からすれば治安が安定し、自分たちの生活を支える経済活動を活発に行うことができれば良いのである。日本を含む国際社会は、タリバーン政権は存続するということを前提にアフガニスタンの諸課題に対応すべきである。

人権問題に関する対話の継続

 日本を含む国際社会は、タリバーンが独特なイスラーム解釈に則ったものではあるものの「秩序ある支配」を行い、それをアフガン国民が支持ないし受容していることを事実として認め、その事実に沿った対応を行うべきである。

 女性の権利や少数派民族の抑圧に対しては、タリバーン政権との対話を通じて改善を促していく必要がある。その方法として、本年3月と4月に国連安保理で日本とアラブ首長国連邦(UAE)とが共同で決議案採択を成し遂げたように[9]、日本がUAE等のイスラーム諸国と連携・協力していくことが適当と考えられる。UAEのヌサイベ国連大使は、4月に採択された非難決議にイスラム圏の国も参加していることに言及した上で、「アフガニスタンの女性が社会から抹殺されるのを世界が黙ってみているわけがない」と述べた[10]。

 日本が9.11同時多発テロ攻撃後のアフガニスタン支援を始めたばかりの頃、あるカンダハールの有力者は女性の教育に反対していたが、日本側が「奥さんや娘さんが病気になった時男性の医師に診てもらうのですか?」と尋ね、「女性の医師が必要でしょう。その為には女性の教育は必要ですね。」と説得したところ、その有力者は国際社会が進める「女性の教育」を支持するようになるとともに、日本のアフガニスタン南部地域支援に積極的に協力してくれた。

 このような説得は、ヌサイベ国連大使の発言にあるように、連携するイスラーム諸国の力を借りれば、もっと効果的であろう。タリバーン政権とコミュニケーションをとることができる日本は、積極的に人権問題に関する説得を行っていくべきである。

おわりに

 本稿では、アフガニスタン政治に与えた腐敗の影響の大きさを確認するとともに、国際的な人権基準からは非難されるべきとは言え、タリバーン政権の「秩序ある支配」は、アフガニスタン国民に受容されており、国際社会は、タリバーン政権が存続することを前提にアフガニスタンに対する人道支援を行うべきということを論述した。タリバーンとの人権対話を日本やUAE等イスラーム諸国が進めていくことにより、国際的な人道支援を積極的に行っていく環境が醸成されるものと考えられる。

 そのような環境が醸成されることにより、昨年12月及び本年3月の筆者論考[11]でも述べたように、日本の民間人道支援を強化し、アフガニスタンの食料増産に寄与することが可能な状況が生れるだろう。

 日本のペシャワール会は、同会活動を活発化している。ナンガルハル州を流れるカブール川の南側の地域のバラコット用水路を23年中に完成させるべく事業を進めている[12]。また、昨年12月には、12年ぶりにペシャワール会会長等中村医師以外の日本人による現地訪問もなされている。

 タリバン政権との継続的な対話を続け、人道状況の改善に向けた方策をより現実的なものとするためにも、日本政府やJICAは、ペシャワール会の活動を可能な範囲で支えるとともに、他の民間支援団体も調査団を送るなど、支援を広げていくことを検討することを期待する。

(2023/6/22)

脚注

  1. 1 UN Doc., S/RES/2681 (2023), April 27, 2023.
  2. 2 「安保理 タリバン非難決議を採択 国連の女性職員出勤停止通告で」NHK、2023年4月29日。
  3. 3 同上。
  4. 4 髙橋博史・田北真樹子「カブール撤退 日本の教訓 ユーラシア大陸のヘソ アフガニスタンを知る」『正論』第602号、2021年11月、144頁。
  5. 5 同上、144頁。
  6. 6 同上、145頁。
  7. 7 同上、146頁。
  8. 8 宮原信孝「タリバーンの手に落ちたアフガニスタンの行方―日本と国際社会がすべきこと」国際情報ネットワーク分析IINA、2021年8月19日。
  9. 9 日本とUAEは共同で、安保理でアフガニスタンに関する議論を主導する「ペンホルダー」を担当している。「国連アフガニスタン支援ミッションに関する国連安保理決議第2678号の採択について(外務大臣談話)」外務省、2023年3月17日。
  10. 10 遠藤寛生「女性への抑圧撤回求む 国連安保理、タリバンを非難する決議採択」『朝日新聞』2023年、4月28日。
  11. 11 宮原信孝「人道的観点からの在アフガニスタン日本大使館業務実施の報道~日本外交強化につながることを期待する~」国際情報ネットワーク分析IINA、2022年12月27日及び「石油の安定的な確保のための中東外交:人道支援と経済協力を包括的に捉える」国際情報ネットワーク分析IINA、2023年3月20日。
  12. 12 人口16万3千人、総後面積2400haの地域の灌漑の為、約4.3kmの用水路を建設する。この地域はこれまでペシャワール会も対応できず、干ばつ等で疲弊していた。