8月15日、タリバーン軍がカブール各所を占拠し、アフガニスタンはその手に落ちた。アシュラフ・ガニ大統領は家族と最側近とともに国外に脱出し、日本を含む国際社会が祝福し成立した政府は崩壊した。今後、国際社会は、タリバーンが支配するアフガニスタンとどう向き合っていくかを考えていかねばならない。

 タリバーンが支配するアフガニスタンがどのようなものになるかを述べることは、現時点では、憶測に類するものにならざるを得ないが、現時点で手に入る報道等から、推測すると次のようになる。

なぜこのように早くガニ政権は崩壊したのか?

 考えられる要因は2つある。第1に、6月17日付の拙著論考「アメリカ軍撤退後のアフガニスタン」[1]でも述べた、「住民の選択」である。高橋博史元在アフガニスタン大使は、本年3月の時点で、「政府がコントロールしている地域は町や道路といった点と線のみで、多くの地域が反政府勢力の支配下にある。」と述べるとともに、国連食糧農業機関(FAO)顧問として接触したヘラート近郊の部族長とのやり取りの中で、部族長や住民の間に既にタリバーンが浸透していたことを報告している[2]。4月のアメリカ軍完全撤退発表以降のアフガニスタンの姿は、各地方住民の選択を背景にタリバーンが、点と線を守る政府軍に攻勢をかけたというものであったと推測できる。

 第2に、各州の知事が、米軍の軍事的支援の減少とタリバーンの攻勢を前にして、中央政府ではなく、タリバーンを選択した可能性があること。ナイーム・タリバーン広報担当は「タリバーンは誰のことも切り捨てていない。各州の知事らが今もその立場を保っていることがその証だ。」と述べている[3]が、政府が点と線しかコントロールできていないことは、各州知事は承知のことのはずで、タリバーンからの誘いがあれば、それに乗るのは、自然の成り行きと考えられる。

 カタールにおいて、アブドラ国家和解高等評議会議長は、権力の移行につきタリバーンと協議していた[4]。また、ガニ大統領は、15日により多くの人数の代表団を率いて同議長に合流することになっていた[5]。であれば、名目は新しい政府づくりであっても、この交渉はタリバーンに権力を引き渡す為のもので、タリバーンのカブール占拠のお膳立てはできていたと考えられる。他方、今月になってタリバーンが各州都を次々に支配下に置き、カンダハール、ヘラート、マザリシャリフ、ジャララバードという東西南北の主要州都も陥落させ首都カブールに迫るタリバーン軍の勢いを前にして、ガニ大統領は、家族と側近と自らの命を守るために、国外に脱出したと見るのが適当なのではないだろうか。

20年前のアフガニスタンに戻るのか?

 タリバーンのカブール侵攻とともに、母国から脱出しようとするアフガン人が空港に殺到し、空港は混沌とした状態であるとの報道[6]がなされている。また、カブール在住の共同通信通信員によると[7]、「空港に向かう幹線道路は車で埋め尽くされ、動かないまま。雑貨店ではタリバーンを象徴するターバンを巻いた男性を目撃した。タリバーンを受け入れる意思を示す「白旗」を掲げる建物も。・・・美容室の従業員はタリバーンの懲罰を恐れてか、女性が写ったポスターを急いで剝がしていた。」20年前の極端なイスラーム主義の過酷な支配が再現されることをカブール市民が恐れている様子が描かれている。

 これに対し、ナイーム・タリバーン広報担当者は、「タリバーンは孤立することを望んでいない。国際社会との関係を望む」「カブールの各大使館や外交使節団に対する脅威は存在しない」「シャリーア(イスラーム法)の範囲で女性と少数派の権利、表現の自由を尊重する」と述べており[8]、国際社会を意識しているのが見て取れる。

 20年前、国土の90%を掌握していたにもかかわらず、タリバーン政権を承認していたのは、パキスタン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦のみで、タリバーン政権は国際的に孤立した立場にあった。また、テロ組織アル・カーイダを自国内に受け入れていたことから、国連制裁も受けていた。女性の権利と社会進出を認めず、2001年3月にはバーミヤンの大仏を爆破し、国際的非難も浴びていた。

 タリバーン政権崩壊後、日本を含む国際社会は、20年間、二度とアフガニスタンをテロの温床にしない、その為に同国の和平・復興・治安安定を進めるとして、資金的・技術的・人的支援を同国に注いできた。その成果も、拙著論考で取り上げる中村哲医師が率いたペシャワール会の緑の大地計画だけでなく、道路や空港等インフラ、医療向上などにも生まれている。更に、女性の教育と社会進出も進んでいる。

 再登場したタリバーン政権は、20年前の国際的孤立や住民本位に行われたこれまでの支援、更には女性の権利に対する社会的進展などを無視するわけには行かないのではないか。実際、カブール獲得後のタリバーン側の声明では、上記に挙げたナイーム広報担当者のみならず、サラーハッディーン・タリバーン安全保障局局長も、「タリバーンは、アフガニスタン各層が参加する政府を望んでいる」「誰にも権力を独占することはできない。」と述べ、20年前のタリバーン政権とは違う政府が生まれるかのようなことを示唆している[9]。

 また、カルザイ元アフガニスタン大統領は、アブドラ国家和解高等評議会議長及びヒズべ・イスラミ党指導者のヘクマティヤルとともに権力の平和的移行のための調整委員会を設立した旨15日夕刻に発表している。ヘクマティヤルは、タリバーンとともに反政府勢力として過去20年間戦ってきており、もしタリバーンとの橋渡しの役割を果たせれば、調整委員会が20年前と違うタリバーン政権と政策づくりに一定の影響を与えられるとも考えられる。

日本を含む国際社会の役割

 以上を踏まえて、日本を含む国際社会の役割を考えると、以下を行うべきではないかと思われる。

 第1に、国際社会として一致した対応を行うこと。新しい政権が成立し、政策の方向性が明確になり、報復的対応は末端職員を含めて旧政府関係者に対して行わない、女性の権利等の保証を行う、などが明らかになって初めて政府承認がなされるべきであろう。この為に国連が前面にでる必要がある。ロシアや中国は、大使館を維持し、タリバーン政権と協力する用意はある旨表明している[10]が、G7諸国は立場を一致させ、国連をバックアップする態勢が生まれることが望ましい。

 第2に、タリバーンとアル・カーイダ(AQ)との関係も注視していくべきだ。アメリカは、タリバーンがテロ組織との関係を断つことを条件にしており、タリバーンがAQとの関係を表明することは考えにくい。しかし、報道によれば[11]、バグラム空軍基地に収監されていた5000人から7000人の収容者を開放したが、その中にはAQ工作員が多数含まれているとのことである。国際社会は、常にタリバーンとAQとの関係に目を光らせて、何かあればタリバーンに提起していくべきであろう。

 第3に、国際社会の支援は、住民本位のものであるべきだ。前回の論考で述べた住民本位の村落開発は、その典型例となるであろう。政府承認とは別の次元でタリバーン政権を村落開発の相談相手として国際的に認知し、村落開発に関するワーキング・グループを地域住民代表者、タリバーン、国際社会で構成し、そこで村落をどういうコミュニティにしていくかを考えるようにしていくのだ。その中で、女子教育のあり方等も議論できる。

 最後に、都市住民の生活についても、住民本位であるべきだ。イスラームは日常生活も規定するものである。従って、イスラーム法をアフガニスタン社会に適用するということはあってしかるべきであるが、同様にイスラーム法を適用する諸国のやり方を見習うべきである。農村と違って都市住民には、過去20年間で女性の人権の考え方や女性教育などが浸透している。これらを踏まえた住民本位の政策を行わなければ、住民の国外脱出は継続し、都市自体の活気も失われていくだろう。国際社会の支援は、人道支援から復旧・復興・開発に至るまで、このことを念頭に置き、タリバーン政権と実施につき協議していくべきであろう。

(2021/08/19)

*この論考は英語でもお読みいただけます。
Dealing with Taliban-Led Afghanistan: Choices for Japan and the World

脚注

  1. 1 アメリカ軍撤退後のアフガニスタン-日本は住民本位の村落開発支援を! | 記事一覧 | 国際情報ネットワークIINA 笹川平和財団 (spf.org)
  2. 2 高橋博史「アフガニスタンにおける大いなる実験」『ARDEC((一財)日本水土総合研究所海外情報誌)』第64号(2021年3月)pp.42-45.
  3. 3 アル・ジャジーラ・ミッドナイトニュースの日本語要約エリコ・モニタリング・レポート (erico.jp) 2021年8月16日 (No.21130)
  4. 4 “Taliban Enter Kabul as Afghan Government Collapses and President Ghani Flees,”The New York Times, August 15 (updated August 16), 2021.
  5. 5 同上
  6. 6 “Evacuation from Kabul falters as chaos at airport reigns,”The New York Times,August 15, 2021.
  7. 7 「アフガン首都緊迫と混沌」『日本経済新聞(夕刊)』2021年8月16日。
  8. 8 脚注2参照
  9. 9 脚注2参照
  10. 10 「米介入20年『力の支配』限界」『日本経済新聞』 2021年8月17日。
  11. 11 「テロとの戦い 振り出し」『日本経済新聞朝刊』2021年8月17日。