9月末、アフガニスタンにおいて日本の大使館業務が限定的ではあるが再開されたとの報道がある[1]。報道によれば、「日本は(タリバーン)暫定政権を承認してはいないものの、大使館再開で人道支援を強化する方針」[2]だという。

 筆者は、2つの観点から大使館業務再開に賛同する。第1は文字通り人道支援強化の観点である。干ばつや洪水で飢餓に直面するアフガニスタンでは、自らの力で食糧増産を行っていく必要がある。第2にタリバーン暫定政権からの情報収集強化である。人権問題等について対立する点はあっても、対テロ安全保障という観点からは、アフガニスタンという地政学上重要な国を支配する当事者からの情報は極めて重要である。

 これら2点を軸に、以下、在アフガニスタン日本大使館業務再開の意味を考察する。

人道支援強化:推進が期待される「上乗せした支援」

 本年10月12日発表の筆者論考[3]で述べたように、対アフガニスタン支援では「人道支援に上乗せした支援」が重要であるが、大使館業務が実務的な分野だけでも再開することにより、実施者と暫定政府との連絡が強化され、それを通じてより確実に人道支援を進めていくことができる。まさに人道支援の強化である。

 本年9月6日発表の筆者論考[4]では、ペシャワール会が進めるPMS方式[5]の灌漑強化による食糧増産モデルを全国に広めていくことを提言した。ペシャワール会報No.153(10月5日発行)の村上優ペシャワール会会長の報告によると、新しいPMS方式灌漑事業の候補地を、他州を含め絞りつつあるとのことである。これは、国際協力機構(JICA)及び国連食糧農業機関(FAO)との共同事業で、本年9月には内定していて、来春にはゴーサインがでるとも述べている(上記No.153の会長報告引用)。

 また、中村哲医師殺害3周年を記念した西日本新聞特集記事(12月4日付朝刊3面)では、「タリバーン政権も中村さんの功績を称賛。ナンガルハル州のかんがい事業責任者アブドル・サタール氏(49)は、州内でPMS方式を採用した5つの用水路建設を計画中だと説明した。財源に目途が立ち次第、着手するという。」と述べられており、PMS方式が暫定政権にも認知され、広がりつつあることが分かる。

 更に同No.153の藤田千代子PMS支援室長の報告では、ナンガルハル州の南部で暫定政権樹立前の戦闘と2015年から続く干ばつで家屋田畑が破壊されたコット郡に用水路を建設する計画を発表している。この冬から建設を開始し来冬中には建設を完了させ、120~450haの灌漑地を産み出し、11,400人が裨益するようになる計画とのことである。

 大使館の業務再開はまさに「人道支援に上乗せした支援」を行おうとする絶好の時期に実施されたといえる。ペシャワール会はJICAやFAOと独自のルートで実施協力を進めていくものとは思われるが、そこに両機関とも密接な連絡関係を持ちかつ暫定政権とも話ができる大使館が実務的に連絡等で支援していけば、この上乗せ支援は確実に進めていくことができるであろう。また、ナンガルハル州内の用水路建設計画についても現地ペシャワール会と大使館が情報交換等密接な連絡関係をもつことで、日本からの支援金のより円滑な銀行引取り等が進むことになるであろう。

暫定政権からの情報収集強化:タリバーンとのコンタクトの重要性

 大使館業務が限定的にでも再開され、大使と次席が交代で駐在すれば、タリバーン暫定政権要人と直接対話する機会を増やすことができる。報道では[6]、岡田大使はハッカニ暫定政権内相と会い、大使館の安全問題や支援について協議した模様である。暫定政権の大臣クラスとの協議が日常的に増えれば、たとえ内容が互いの立場の意見表明だけに終わったとしても、広範な論点をあげて、それぞれを詳細に議論することができる。筆者の経験では、そこに突破口を見出すこともあり得る。

 現在、暫定政権は、女性の行動制限を強めている。新聞報道[7]によれば、暫定政権は、2021年9月に女性問題省を勧善懲悪省に代え、女性出演のドラマ放映禁止(21年11月)、女性の長距離移動に男性近親者の同伴命令(21年12月)、女子中等教育再開延期(22年3月)、女性のみの飛行機搭乗禁止(22年3月)、女性は公共の場で目の部分以外の顔を覆うよう命令(22年5月)、公園やジムへの女性の立ち入りを禁止(22年11月)、等を実施してきた。

 欧米日等の西側諸国と国連は、この間一貫して女性の人権の尊重をタリバーン暫定政権に求めてきたが、上記の女性の行動制限強化はこの要請が一顧だにされていないことを示している。アフガンスタンの外から女性の権利尊重に関して暫定政権をどんなに強い言葉で非難しても効果はなかったのである。

 だとすれば、タリバーン暫定政権の主張をもっと細かいところまで聞いて、それぞれに反駁し、議論を継続するとともに、具体的にタリバーン女性の地位向上に繋がる対策を医療や教育等分野[8]の人道支援という形で応えつつ、暫定政権の方策を少しずつ変えていく方がよりましな対応ではないか。実務的に暫定政権と話をしていれば、たとえ書記官レベルでもそういう突破口が見つかることもあり得る。

 情報収集強化の観点からは、大使館業務再開により、対テロ安全保障情報収集が強化される点が重要である。日常的に暫定政権と意見交換をしていけば、情報量は増加するし、その分析から、他のテロ組織と暫定政権との距離感等も掴むことができる。そしてその情報は、日本と同じくローキーで仕事をしているEUを除けば暫定政権と直接の接触のないアメリカ等同盟国・協力国にとって非常に貴重なものになる。

 日本は、イラン・イスラム革命後イランとの関係を直ぐに正常化させ幅広い分野で両国関係を強化した。その結果イランと対立し国交もないアメリカにとって日本からのイラン情報は極めて貴重だったとのことである[9]。イランについて日本ができたことを今度はアフガニスタンで行うのである。

 日本が、今回の大使館再開を通じて更に強力な外交を進めていくことを期待している。

(2022/12/27)

脚注

  1. 1 「カブールの日本大使館再開」『神戸新聞』2022年10月21日。
  2. 2 「タリバン、在アフガン日本大使館の業務再開を歓迎」『日本経済新聞』2022年10月24日。
  3. 3 宮原信孝「アフガニスタンの現状と今後を考える~タリバーンによる政権奪取後1年経って~」国際情報ネットワークIINA、2022年10月21日。
  4. 4 宮原信孝「NGOを通じた村落開発支援でアフガニスタンの飢餓・食糧不足解決を!」国際情報ネットワークIINA、2022年9月5日。
  5. 5 現地の能力で維持管理もできる技術を使い、表流水を取水し、用水路等建設により灌漑を行う方式。
  6. 6 上記2参照
  7. 7 「アフガニスタン、女性の権利制限一段と 公園の利用禁止」『日本経済新聞』2022年12月5日。
  8. 8 例えば、出産・産前産後の母体と乳幼児のケアや女子中等教育を行う上での実務的課題への対応等が挙げられる。
  9. 9 2002年筆者が外務省中東第2課長を務めていた際、元外務省幹部から、イラン関係強化について直接お話を伺った際のお言葉。