タリバーンによる政権奪取後1年が経った。現在までに明確になったこととして、1)タリバーン政権がテロ組織との関係を断ち切っていないこと、2)女子教育や女性の権利等の人権問題の改善が見られないこと、3)日本を含む国際社会よりの支援が得られず財政難に陥っていること、4)長年の干ばつ等による食糧難は本年冬に向けて飢餓の危機を引き起こす可能性が高いこと、5)イスラーム国ホラサーン州(IS-K)がアフガニスタン国内で引き続きテロを起こしていること――が挙げられる。

 本稿では、このような状況下でのタリバーン政権の安定度及び日本を含む国際社会の対応を検討していきたい。

タリバーン政権の安定度:パシュトゥーン人を中心とした民衆からの支持について

 タリバーン政権安定度の基礎は、同国最大民族であるパシュトゥーン人地方住民及びコミュニティの支持である。その支持を揺るがすものがあるとすれば、ケシ栽培の違法化、住民サービスの劣化及びIS-Kのテロ攻撃が挙げられる。

 本年4月3日タリバーン政権は、ケシ栽培を違法化し、違反者にはシャリアの下処罰するとした。しかし、タリバーンは、内戦を戦っている間は、麻薬税と密輸支援により戦況を有利にしていた[1]。ケシ栽培や麻薬密売で財を成していたアフガン人からすれば、自らの生活にも関わってくるので、そう簡単にやめることはできない模様である[2]。タリバーン政権がケシ栽培禁止を強行することで、内戦中味方だった南部地域(カンダハール州、ヘルマンド州、ニムロズ州)の農民や有力者が同政権から離れていく可能性も考察する必要がある。

ケシの花の写真

 この可能性については、ケシ栽培違法化が本当に厳格に守られていくのか、という点に注目する必要がある。現在タリバーン政権の大臣・副大臣クラスは生粋のタリバーンで占められており、局長レベルは前政権から引きつづき務める者もいるが、テクノクラートとしては十分な能力を持っているとは言えない[3]。個々の政策実施指示がクリアでなく、また変更も多い[4]。この結果、地方と中央で対応に差も出ている[5]。これらから考えるとケシ違法化がパシュトゥーン人のタリバーン政権支持低下に直結するとは現時点では言いにくい。

 前段で述べたように、タリバーン政権の行政能力及び行政を支える徴税能力は相当低下したとの評価がある[6]。食糧、保健、子ども対応等人道支援に関わることは国際機関が担い実施しており、本来国が行うべきサービスであるが、国の機関に十分な能力がなく国が行わずとも目立たない。住民からすれば、サービスを受けられれば良く、この分野でタリバーン政権が住民の信頼を失うというところまでは行っていない。

 IS-Kのテロについては、タリバーン政権は抑えきれてはいない。首都カブールや都市部でモスク等礼拝所を狙ったテロ事件が発生している[7]。しかし、これらは、都市部かつシーア派やシーク教徒などの少数派に対するものになっている。タリバーンの支持基盤である地方のパシュトゥーン人・同コミュニティに被害を与えているわけではない。その意味でIS-Kのテロ攻撃がタリバーン政権への地方パシュトゥーン人・コミュニティからの支持に影響を与えているとは言えないと考えられる。

国際社会の対応は如何にあるべきか:既存の援助枠組みへの「上乗せ」の提案

 タリバーン政権は、2020年にアフガン和平に関してタリバーンとアメリカ政府との間で結ばれたドーハ合意に違反しテロ組織との関係を維持し、国際社会が尽力してきた女子教育他女性の権利も認めていない。これらについて改善が見られないのであれば同政権に対する直接的支援を行うことについては否定的、というところでは、国際社会は一致している模様である 。しかし、西側諸国を中心とする国際社会の対応は分かれているという[9]。

アフガニスタンの女性

 日本を始めとするいくつかの国々は、人道支援だけでは、いつまで経ってもアフガニスタン国民の経済的苦境や食糧難は改善されないので、シニア或いはミドルマネッジメント以下のテクノクラートへの技術協力を行えないものかと内々考察している 。具体的には人道支援に少し上乗せした支援、例えば草の根無償支援で行うような人道支援の為の小規模インフラ案件などが考えられる。例えるなら、住民が生きていく上では水の確保が重要で、その為には井戸を掘ることが必要となった場合に、単に水と食料を配布するのではなく、さらに上乗せした人道支援──というものになる。

 これに対し、アメリカを始めとする諸国は、ドーハ合意への違反を理由に、政治的、倫理的、感情的にタリバーン政権を拒否しており、そのような上乗せも同政権に対する直接的支援にあたり、許されない、としている。

 国際社会のワンボイスは望ましい。しかし、タリバーン政権奪取後1年経ってのアフガニスタン国民の暮らしの危機的状況に鑑みれば、原則を維持し、人道支援を行うだけでは、この危機的状況は改善できないと考えられる。人道支援に上乗せした支援が、タリバーン政権のテロ組織との更なる関係強化に繋がるとも思えない。アメリカによるアイマン・ザワーヘリの殺害で、タリバーン政権はアメリカや同国ドローンに領空を貸したとするパキスタンを非難する声明を発出したが、タリバーンからもアル・カーイダからも報復攻撃はなく、ザワーヘリの影響力はほぼなかったのではないか。

 政府による支援が難しいようであれば、やはりここは前回の論考で述べたペシャワール会のような民間支援団体を通じた支援を行えばよい。これからの一年は、人道支援に少し上乗せした支援を行う年にしていくべきだ。

支援のイメージ写真

(2022/10/12)

脚注

  1. 1 “Green Energy Complicates the Taliban’s New Battle Against Opium ,” The New York Times, May 29,2022, updated May 31,2022.
  2. 2 同上
  3. 3 2022年9月14日外務省担当者よりのブリーフィング。
  4. 4 同上
  5. 5 同上
  6. 6 同上
  7. 7 「アフガン首都で爆発、21人死亡 モスクでの礼拝中」『日本経済新聞』2022年8月18日。
  8. 8 上記外務省担当者よりのブリーフィング。
  9. 9 同上
  10. 10 同上