2021年9月4日、空母クイーン・エリザベス率いる打撃群(CSG21)が日英史上初めて横須賀に入港した。インド太平洋における安全保障分野の多国間連携強化の取り組みもこの数か月顕著であり、「一帯一路」を掲げる中国のインド太平洋進出や国際法に基づかない現状変更へのけん制といえる。

 海賊対処をはじめとする海の安全保障の確保へ向けた対策や、米国のアフガニスタン撤退による国際安全保障の激変に伴って暴力的過激主義対策がますます重要になる中、各国は「自由で開かれ」、かつ「安全な」インド太平洋を志向している。確かに、中国は一帯一路の「海のルート」で沿岸諸国への影響力拡大を図っている。しかし、「安全な」インド太平洋の追求においては、中国をも巻き込んだ国際連携もまた必要となろう。

 このような中、海賊問題や暴力的過激主義を抱えるアフリカは極めて重要な主体かつ「場」である[1]。日本にとって、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)[2]に基づきアフリカ関与を促進することは、安全保障における多国間連携で不可欠である。他方、アフリカは東岸がインド洋に面する一方、各国・組織がインド太平洋戦略・構想において射程やパートナーとしてどこまで想定しているか明らかでない[3]。

 そこで2回シリーズの今回は、主要国のインド太平洋戦略・構想におけるアフリカの位置づけを分析する。そして今回の議論を踏まえ、次回では、アフリカからみた自由で開かれた「安全な」インド太平洋を整理したうえで、日本がとるべき政策と連携すべきパートナーを考察する。

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各国・組織の「安全な」インド太平洋戦略におけるアフリカ

 2010年代後半から各国・組織がインド太平洋戦略・構想を打ち出してきた。いずれも、中国の経済的台頭とそれをテコにした政治・軍事的勢力拡大、国際法に基づかない現状変更への懸念や対抗を表明しつつ、経済・人権・科学技術・気候変動など多岐にわたるグローバル・イシューへの多国間協力を謳っている。特に、世界貿易の約9割が海を介している現状下、ほぼもれなく取り上げられているのが海の安全保障と暴力的過激主義対策である。インド洋に面するアフリカ東岸諸国は、アデン湾の海賊や、アルカイーダ・IS系の暴力的過激主義組織が台頭する中、この2つの課題に直面してきた[4]。各国は、自由で開かれた「安全な」インド太平洋実現の難題を抱えるアフリカをいかに位置づけてきたか、整理する[5]。

米国-重点地域として他国と連携しつつ支援

 2019年に国務省が公表した基本方針では、アフリカ東岸は直接的射程というよりは、インド太平洋諸国と協力しながら支援する対象、と位置付けられている[6]。注目すべきは、海賊問題への国際的対処への参加や、アフリカのPKO要員支援を強調していることだ。米国がクアッド構成国であるインドと共同で訓練を提供していることや、米国の援助機関USAIDがインドと協力してアフリカへの開発支援を行っている点が記述されている。

 国防総省は、よりビビットに、中国が投資などを用いた戦略的拡張を中東からアフリカ、ラテンアメリカ、果ては欧州にまで行っていることに「深刻な懸念」を表明している。そのような中、2019年のインド太平洋に関する戦略報告書では、海賊対処への参加、アフリカのPKO要員支援をモンゴルと協力し実施していること、「グローバル平和活動イニシアティブ」(Global Peace Operations Initiative:GPOI)の枠組みを使ってアジア諸国とともにアフリカのPKO要員の訓練や能力構築支援を行っていることを挙げている[7]。2018年7月には、トランプ政権は太平洋軍(United States Pacific Command)をインド太平洋軍(United States Indo‑Pacific Command)と改名した。ただし、アフリカはエジプトを除いてアフリカ軍(US Africa Command)が担当している。

 このような外交・安全保障政策が示唆する米国のスタンスは、インド太平洋に関する戦略においてアフリカは直接的射程やパートナーではないものの、海の安全保障と暴力的過激主義対策の重点地域であり、他国との連携に基づき個別に対策を図るというものである。

2021年3月のオースティン国防長官・シン防衛大臣会談においても、インド太平洋におけるインド軍と米中央軍・アフリカ軍との連携が確認されている。U.S. Indo-Pacific Command HP Photo By: Lisa Ferdinando, DOD2021年3月のオースティン国防長官・シン防衛大臣会談においても、インド太平洋におけるインド軍と米中央軍・アフリカ軍との連携が確認されている。
U.S. Indo-Pacific Command HP Photo By: Lisa Ferdinando, DOD

英国-旧植民地国との連携はデフォルト

 英国にとって、インド太平洋はジョンソン政権がブレグジット後に志向する「Global Britain」追求の場であり、領域国は重要なパートナーとされる。その中に含まれるのがアフリカ旧植民地の国々(ケニア、南アフリカ共和国、タンザニア、ナイジェリア等)である。

 英国政府は2021年3月21日に『競争時代のグローバル・ブリテン-安全保障、防衛、開発及び外交政策統合見直し』(Global Britain in a competitive age: The Integrated Review of Security, Defence, Development and Foreign Policy)を公表した[8]。対外戦略において安全保障・防衛・開発・外交を連関させていく方針を打ち出している。ジョンソン首相は2030年までに英国がインド太平洋に深く関与していくこと、特に東アフリカへの積極的関与を想定していることを示した[9]。インド太平洋を英国にとって経済、安全保障、開かれた社会の追求において死活的に重要(critical)な地域と位置づけ、実際、前述したCSG21が2021年5月から地中海から中東、インド洋から太平洋へ航行していることは、英国の「グローバル・ブリテン」の一環と指摘されている[10]。

フランス-インド太平洋戦略の「先駆者」でアフリカ重視[11]

 インド太平洋戦略を欧州で最も早く打ち出したのがフランスである。2018年5月2日にマクロン大統領がオーストラリアのガーデンアイランド海軍基地におけるスピーチで発表した。フランスはアフリカ東岸、特にマヨットと太平洋地域に海外県を有しており、世界第二位の海洋大国を自負している[12]。フランスにとってのインド太平洋とは、南アフリカまでを含むアフリカ大陸東岸全域である。アフリカを戦略のパートナーまでとみなしてはいないものの、インド洋委員会(The Indian Ocean Commission: IOC)や環インド洋連合(Indian Ocean Rim Association : IORA)といった東南アジア諸国とアフリカ東岸諸国、オーストラリアを包摂する組織を通した連携を図ってきた[13]。

 フランスは旧宗主国としてアフリカの安全保障に深く関与してきた。近年海賊が多発する西アフリカに対して暴力的過激主義対策のため派兵を実施しており、東アフリカのジブチに基地をもちアデン湾の海賊対処にも参加しているフランスは、二正面でアフリカの自由で開かれた「安全な」海の確保に対峙している。

NATOはEU NAVFOR Somalia(ソマリア欧州連合海軍部隊)の「アタランタ作戦」と協働し、2016年にかけてソマリア沖で海賊対処「オーシャンシールド作戦」を実施してきたNATOはEU NAVFOR Somalia(ソマリア欧州連合海軍部隊)の「アタランタ作戦」と協働し、2016年にかけてソマリア沖で海賊対処「オーシャンシールド作戦」を実施してきた

EU-アフリカは射程でもありパートナー

 インド太平洋戦略においてアフリカとの協力に基づく安全保障の追求を明示しているのがEUだ。2018年9月に打ち出した広域戦略である「連結性戦略」はアフリカや中東を含んでおり、日本のFOIPとの親和性もある[14]。

 2021年4月16日、EU議会は「インド太平洋における協力戦略」を発表し、地理的範囲を「アフリカ東岸から太平洋諸国まで」と定義した[15]。パートナーとしても、ASEANに次いでアフリカ諸国を指摘し、2020年6月の『アフリカとの包括的戦略へ向けて』(Towards a Comprehensive Strategy with Africa)をはじめ、2020年から2021年にかけて採択してきた各文書を挙げる形で西インド洋を重視する姿勢を示している。分野として注目すべきは、ソマリア欧州連合海軍部隊(EUNAVFOR)による「アタランタ作戦」が行われてきたソマリア沖の海賊対処に言及し、同地でのアジアのパートナー諸国とのさらなる協力を歓迎したことである。6月16日に、アデン湾でインド海軍とEUNAVFORが共同訓練を実施するなど[16]、東アフリカ沿岸の安全保障に関する欧州とアジアとの協力が促進されている。

 EUをけん引するドイツも、多国間主義(マルチラテラリズム)に基づくグローバル課題への対応を追求する中で、海の安全保障や海賊対処といった分野に関与する姿勢を打ち出している。インド太平洋に関する『インド太平洋外交指針』(Policy Guideline for the Indo Pacific ,2020)でも、ドイツが2008年からソマリア沖の海賊対処「アタランタ作戦」参加していることを挙げ、インド洋の貿易ルートの安全確保に貢献していることを強調している。ソマリア沖の海賊対処は、日本のほか、NATOや米国も参加する多国間の取り組みであり、まさに「安全な」インド太平洋追求の具体例である。

インド―アフリカ東岸と歴史的・経済的紐帯が強いクアッド構成国

 そして、自由で開かれた「安全な」インド太平洋の追求で鍵になるのがインドである。インド洋沿岸国であり、クアッド[17]の一員でもあるインドは、2016年に外務省内にインド太平洋部を設置し[18]、モルディブ、モーリシャスなどアフリカ東岸の島しょ国との関係を重視してきた。インドは国連PKOの主要な要員提供国でもある。国連PKOの約7割がアフリカに展開する中、要員提供の継続や米国とのアフリカPKO支援は、アフリカ東岸島しょ国との連携強化と合わせてインドのアフリカ安全保障重視がうかがえる。

 その背景にあるのはインドとアフリカ東岸との歴史的紐帯である。インドは古代からアフリカ東岸との交易を行ってきた。イギリス帝国植民地のネットワークに組み込まれ、インド系移民が現在のケニア、タンザニア、南アフリカ共和国へ流入し、経済活動に従事した。第二次世界大戦後は非同盟諸国として関係を深めた。現在でも、モーリシャスはインド企業の対アフリカ投資の9割を占めるほか、エチオピアなどの拠点で生産した衣料品等をアフリカ経由で輸出することにより、米国やEUで関税を大幅に回避することができるなど、インドにとってアフリカ東岸は不可欠なパートナーとされる[19]。経済活動を円滑に進める上でも、インド洋、特にアフリカ東岸の海の安全保障はインドにとっても重要課題である。

 以上のように、国際環境が激変する中、主要国は自由で開かれた「安全な」インド太平洋追求、特に海の安全保障や暴力的過激主義対策においてアフリカを直接的・間接的射程やパートナーとしている。しかし同時に、その度合いにはグラデーションがある。それでは、アフリカ側の認識はいかなるもので、日本は誰と何をすべきだろうか。本稿でみた各国の動向を踏まえ、後編で論じる。

(2021/9/13)

脚注

  1. 1 篠田英朗『パートナーシップ国際平和活動-変動する国際社会と紛争解決』勁草書房、2021年、225⁻227ページ。
  2. 2 安倍総理大臣(当時)が2016年8月にケニアで開催されたTICAD 6の開会演説で公表。当初は戦略とされていたが、現在は構想という位置づけである。FOIPの形成過程について詳しくは、山本雄太郎「自由で開かれたインド太平洋誕生秘話」『NHK政治マガジン』、2021年6月30日。
  3. 3 拙稿「コロナ禍でのアフリカの安全保障―国連、欧州、中国、米国、日本の関与」『国際情報ネットワーク分析 IINA』2021年3月30日
  4. 4 西アフリカでも、沿岸で海賊問題が深刻化しており、ボコハラムなどの暴力的過激主義が台頭して久しい。これらについては次回取り上げる。
  5. 5 本稿では直接的に論じないが、地理的にインド太平洋戦略・構想の主戦場かつ主役といえるASEANは、海の安全保障や海賊対処の重要性を認識しつつも、国家間のパワーゲームに巻き込まれることへの警戒感をにじませている。そのような中、現時点ではASEANがアフリカをパートナーとみなし積極的に連携する動きはみられない。ASEANのインド太平洋に関する方針については、大庭三枝「第6章 『インド太平洋』の多様性:ASEANからの視点」日本国際問題研究所「インド太平洋地域の海洋安全保障と『法の支配』の実体化に向けて」2019年3月、庄司智孝「ASEANが考える『インド太平洋』―アメリカ戦略文書への回答」『国際情報ネットワーク分析IINA』、2019年7月12日などを参照。
  6. 6 United States Department of State, “A free and open Indo-Pacific: Advancing a shared vision,” November 4, 2019.
  7. 7 United States Department of Defense, “Indo-Pacific Strategy Report: Preparedness, Partnerships and Promoting a Networked Region,” June 1, 2019.
  8. 8 報告書については、一政祐行「『競争時代のグローバル・ブリテン』報告書と核軍備管理・軍縮不拡散の展望」NIDSコメンタリー第 167 号 2021 年 5 月 27 日。
  9. 9 HM Government, “Global Britain in a competitive age: The Integrated Review of Security, Defense, Development and Foreign Policy,” Presented to Parliament by the Prime Minister by Command of Her Majesty, CP 403, March 2021.
  10. 10 “The pitfalls of modern battleship diplomacy: UK, France and Germany should beware of sending mixed messages to China,” Financial Times, June 1, 2021.なお、2020年11月に「インド太平洋ガイドライン」を公表しているオランダの海軍フリゲート艦「エファーツェン」もCSG21を構成しており、9月5日に横須賀に入港している(乗りものニュース「オランダ海軍『エファーツェン』が横須賀へ来航 空母「クイーン・エリザベス」のお供」、2021年9月6日。
  11. 11 Ministry for Europe and Foreign Affairs, “France’s Indo‑Pacific Strategy,” 2018.
  12. 12 フランスのインド太平洋戦略に関しては、合六強「『インド太平洋パワー』としてのフランス〜日本は地域安定化のためにさらなる連携強化を」RIPS’ Eye、2021年1月21日、宮下雄一郎「〔研究レポート〕海洋国家としてのフランス:「インド太平洋パワー」が抱える問題」日本国際問題研究所、2021年3月23日
  13. 13 Ministry for Europe and Foreign Affairs, “France’s Partnerships in the Indo-Pacific,” April 2021.
  14. 14 鶴岡路人「欧州のインド太平洋戦略-大国間競争時代のEU」『外交』Vol.60、2020年3・4月号、126⁻131ページ。
  15. 15 Council of the European Union, “EU STRATEGY FOR COOPERATION IN THE INDO-PACIFIC,” April 16, 2021, para.6.
  16. 16 “First Indian Navy, EU naval force exercise on in Gulf of Aden,” The Hindu, June 18, 2021.
  17. 17 オーストラリアもクアッドを構成する一方、インド太平洋に関する戦略・構想は実はあまり明確ではない。2017年に公表されたForeign Policy White Paperにおいて、インド太平洋をめぐるパワーシフトを危惧するとともに、海の安全保障における多国間連携の重要性を指摘した。ただし、パートナーは米国、日本・インド・インドネシア・韓国等である。その後の公的文書や演説でも基本的にはASEAN(諸国)が想定されており、アフリカに関し特段の言及はない。
  18. 18 Darshana M. Barruah, “India in the Indo-Pacific: New Delhi’s Theater of Opportunity,” Carnegie Endowment for International Peace, June 30, 2020.
  19. 19 股野信哉「アフリカで通称制度を活用するインド企業―Make in Africaの参考事例-」三井物産戦略研究所、2020年3月。