2021年2月26日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンに関する国際枠組みCOVAX(COVID-19 Vaccines Global Access)によってアフリカに届けられたワクチンの第一便がガーナに到着した[1]。その後、コートジボワール、スーダン、ルワンダへと届けられている。他方、アフリカで安全保障上のリスクを抱える国・地域では、COVID-19の感染拡大が社会の不安定化を増幅している。アフリカの安全保障は国際社会が継続的に関与してきた課題であり、主要国・組織が資源を投入してきた。COVID-19の感染拡大は諸国家・組織のアフリカ関与にいかなる影響を与えているだろうか[2]。国連、欧州、中国、米国そして日本を取り上げ、それぞれCOVID-19の感染拡大前後で比較してみたい。

@UNICEF/UN0425059/Yeslam スーダンはMENA(中東・北アフリカ)地域でCOVAX経由のワクチンが届いた最初の国となった。@UNICEF/UN0425059/Yeslam
スーダンはMENA(中東・北アフリカ)地域でCOVAX経由のワクチンが届いた最初の国となった。

国連:COVID-19が平和維持・平和構築に与えるインパクト

 国連の平和維持・平和構築は、COVID-19の感染拡大に伴い、活動内容の変更や加盟国からの資源確保を迫られている[3]。それは特に、アフリカに関し顕著である。

 2021年3月1日現在、国連はアフリカに13の国連平和維持活動(PKO)ミッションと9の特別政治ミッションを展開している。2020年4月から7月にかけて、要員の交代ローテーションを一時停止したものの、「制服組」の要員総数で比較しても、2020年1月が82,863名であったのに対し、2021年1月は81,932名であった。ミッション数が1つ減ったことも踏まえれば、COVID-19の感染拡大によって要員数が直ちに減少したとはいえない[4]。

 しかし、今後、PKO予算の減少や、COVID-19の感染拡大を忌避する加盟国からの要員提供の停止・遅延が懸念される。PKO要員にはCOVID-19感染者、死亡者も出ている。ミッション内および現地社会への感染拡大を予防するコストも大きい。さらに、コニングが指摘するように、国連のPKO予算(加盟国の通常分担金とは別枠)は、各国のGDPを基準としており、COVID-19の感染拡大による経済的打撃は、2年に1度策定されるPKO予算案に影響を及ぼす[5]。また、アフリカに展開するミッションの主要要員提供国は南アジア・アフリカの発展途上国である[6]。要員提供国は原則自前で要員の装備や訓練を実施しなければならず、各国が自国の要員にワクチンを提供し派遣地へ展開できるかは不透明である。

UN Photo/Harandane Dicko COVID-19の感染拡大を受け、マリのバマコではMINUSMAが現地当局と共同で除染作業を行った (2020)UN Photo/Harandane Dicko
COVID-19の感染拡大を受け、マリのバマコではMINUSMAが現地当局と共同で除染作業を行った (2020)

 このような状況下、PKOや国連の授権下にある地域機構のミッションは真価が問われている。COVID-19の感染拡大が過激派組織の勢力拡大の契機にもなっている西アフリカや東アフリカでは、各PKOミッションは通常任務に加え、ラジオ広報や受け入れ国のCOVID-19対策支援、衛生物資の運搬といった活動をも実施している[7]。3月12日、安保理が、中央アフリカ共和国に展開するミッション(MINUSCA)の約3700名の軍・警察要員追加、ソマリアに展開するアフリカ連合(AU)のミッション(AMISOM)への再授権、南スーダンに展開するミッション(UNMISS)の1年任期延長を決定したことは、COVID-19の感染拡大が引き続き予想される中、国連のアフリカへの継続的関与を裏打ちしたといえる。

EU・欧州諸国:アフリカとの関係強化と負担分担のジレンマ

 EUは、アフリカと地理的な近さや植民地時代以降の歴史的経緯などを背景として、アフリカとの経済関係を強化してきた。その過程で、EUはアフリカの安全保障への関与を必要なコストと考えている。

 EUは2000年6月のコトヌー協定締結以降、アフリカとの関係を強化してきた。2020年3月に「EUの対アフリカ包括戦略」が発表され、2021年中にはAU-EUハイレベルサミットの開催(2020年に予定されていたが延期)と、「アフリカ‐ヨーロッパ戦略的パートナーシップ」締結を目指している[8]。COVID-19に関しても、EUはCOVAX支援(22億ユーロ)に加え、2021年2月のG7(オンライン)で、AUのワクチン接種促進に1億ユーロの支援を表明した[9]。

 EUはCOVID-19の感染拡大前も現在も、アフリカの安全保障において極めて重要な存在である。その理由として2点を挙げたい。まず、EUはコンゴ民主共和国の事例をはじめ、国連の平和活動と連携しつつアフリカへのミッション派遣を行ってきた。EUが派遣する「共通安全保障・防衛政策(CSDP)ミッション」は、マリ、中央アフリカ共和国、ソマリア、リベリアなどで国連ミッションの支援を行っている。アデン湾の海賊対処にも継続して参加してきた。第二に、EUは2004年の人間の安全保障に関する報告書[10]以降、アフリカからの人の移動が欧州の安全保障に死活的課題であると認識し対策を講じてきた。2010年代以降の難民増加はリビア紛争をはじめとするアフリカの情勢変化が大きな要因の一つだが、EUは1990年代以降の趨勢を踏まえ対策を講じていた。

 これらについて、EUの国連代表部次席代表は2021年2月15日、国連総会の下部組織であるPKO特別委員会で、COVID-19が感染拡大前からの危機を悪化させていること、アフリカの安全保障におけるEU-UN-AUパートナーシップの重要性などを指摘した[11]。COVID-19の感染拡大とアフリカの安全保障とを関連付け、3つの組織のパートナーシップ強化を訴えたことは、EUがアフリカとの関係強化を志向していること、しかし、方法として、多様な国家・組織との連携を想定していることがみて取れる。

 なお、日本とEUとの間には、人間の安全保障、開発援助や人道支援と安全保障の連関を重視する包括的なアプローチ、アフリカとの関係強化の施策など、対アフリカ政策において共通点が少なくないことにも注目しておきたい。

 欧州諸国に目を転じれば、アフリカの安全保障へ継続的・積極的に関与しているのはフランスである。ただし、マクロン大統領は2月16日、G5サヘル合同軍参加国(マリ、モーリタニア、ブルキナファソ、ニジェール、チャド)との会談において仏軍の撤退を示唆した。同じく西アフリカに展開中の欧州諸国による多国籍軍(Takuba Multinational Task Force)に参加するチェコ、スウェーデン、エストニアも撤退の気配をみせている[12]。さらに、英国がCOVID-19の感染拡大後、開発援助を削減したことは懸念材料となりうる[13]。このように、EU・欧州諸国にとっては、歴史的・経済・社会・文化的つながりの強さも相まって、アフリカは関係強化と負担分担(バーデンシェアリング)とのバランスの間で揺れ動いている。

UN Photo/Harandane Dicko MINUSMAが展開するマリで殉職した国連、EU職員のために献花するラクロワ国連事務次長とホレヴィル駐マリEU大使(2019)UN Photo/Harandane Dicko
MINUSMAが展開するマリで殉職した国連、EU職員のために献花するラクロワ国連事務次長とホレヴィル駐マリEU大使(2019)

中国と米国:マルチラテラリズムの実現者は誰か

 アフリカの安全保障への関与について、米中両国は対照的である。

 中国は2008年に設置された国連AU合同ダルフールミッション(UNAMID)から国連PKOへの要員提供を本格化させた。現在、中国は国連予算、PKO予算それぞれの分担率で米国に次ぐ2位である[14]。また、要員提供において第9位(2,465名)であり、他の安保理常任理事国と比較しても突出している[15]。さらに、中国は国連をはじめとする国際機関で予算や幹部職員を増加させることを通じてマルチラテラリズム(多国間主義)の牽引者であることを示そうとしている。

 アフリカの安全保障は、国際社会がその重要性・緊急性を認めつつも、要員派遣や予算拡大については国内世論の支持確保に苦戦しがちである。そのような中、中国は1000人単位の国連ミッションへの要員提供やAUなどアフリカの地域機構への資金援助などを通じ、アフリカの安全保障に積極的に関与している。アフリカにおいて感染症が安全保障化している現状を踏まえれば[16]、中国が東南アジア諸国からアフリカまで広域を対象とした「ワクチン外交」を展開し存在感を増しているという指摘は注目に値する[17]。

 他方、米国のアフリカの安全保障関与については、オバマ政権、トランプ政権時代も限定的であり、COVID-19の感染拡大による顕著な影響はない大きな変化はみられない。ただし、バイデン新政権はマルチラテラリズムの復帰を強調しており、パリ協定復帰や北大西洋条約機構(NATO)との連携強化を打ち出している。2021年2月のG7で、バイデン大統領は今後2年間でCOVAXへ40億ドルを提供すると発表した[18]。これは、2000年代にブッシュ(父)政権がグローバル・ヘルス、特にHIV/AIDS対策として倫理的・戦略的目的からアフリカを支援したことに通じるとの指摘もある[19]。また、バイデン新政権は国連大使にトーマス=グリーンフィールド元国務次官補を任命した[20]。彼女はアフリカ系女性であり、オバマ政権時代の2013年から2017年にアフリカ担当の国務次官補を務めた。リベリア大使時代にエボラ出血熱の感染拡大対策に従事した経験もある。米国の国連政策において、アフリカのCOVID-19対策と安全保障とを今後どのように関連付けていくか注視したい。

日本:アフリカにおける「人間の安全保障」と「自由で開かれたインド太平洋」

 このような国際状況の中、日本はアフリカの安全保障について、「人間の安全保障」と「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想とを関連付けつつ関与することが肝要である[21]。FOIPは2016年8月に安倍首相(当時)が第6回アフリカ開発会議(TICAD6)で発表した。3月13日に日・米・豪・印4カ国の首脳が連名でワシントンポスト紙に発表した論説でも、COVID-19対策をFOIP追求の柱に据えている[22]。

 日本がアフリカの安全保障に関与する上で言及されてきた概念である「人間の安全保障」は、アフリカにおける平和構築や人道支援、開発援助とCOVID-19対策との連関を論じる上で不可欠である[23]。実際、日本政府は、COVAX支援に264億円他を表明しているのに加え、サブサハラ・アフリカ地域におけるCOVID-19対策及び人道・治安対策支援(246億円)を打ち出している[24]。

 他方、FOIPは今後、欧州をはじめ連携相手となる国家・組織が増加し、連携内容も多岐に及ぶことが想定されるものの、アフリカ大陸、特に東部沿岸以外の地域がFOIPの射程に入っているのかが分かりにくい。さらにいえば、各政策・概念は単体で機能することが難しく、むしろ組み合わせたり関連付けたりすることで重層的な効果を生む。そこで、次回は本稿で論じた各国・組織による関与を踏まえ、アフリカの安全保障とFOIPに焦点を当てる。

(2021/3/30)

脚注

  1. 1 “Ghana receives first historic shipment of COVID-19 vaccinations from international COVAX facility,” UN News, February 24, 2021.
  2. 2 本稿では、アフリカの安全保障に関する域外からの関与を論じる。そのため、アフリカ諸国およびアフリカ連合(AU)や準地域機構については取り上げない。ただし、AUでは2021年2月に年次諸会合が開催され、AU委員会委員長の続投と新副委員長の選出、AU委員会政治局・安全保障局の各局長が新たに選出された。このような動向がアフリカのリージョナルな取り組みをどのように変えていくか注視する必要がある。
  3. 3 2021年1月25日、ディカルロ国連事務次長(政治・平和構築局長)は安保理に対し、パンデミックの影響は平和と安全保障に深刻な影響を及ぼしていると報告し、感染拡大を食い止めるための「グローバルな停戦」を呼びかけた。 “New COVID-19 strains ‘poised to unleash’ more severe infections – Security Council hears,” UN News, January 25, 2021.
  4. 4 UN Department of Peace Operations, “Monthly Summary of Military and Police Contribution to United Nations Operations”, UN Department of Peace Operations, “Summary of Military and Police Personnel by Mission and Posts: Police, UN Military Experts on Mission, Staff Officers and Troop, 31/01/2021.”
  5. 5 Cedric de Coning, “The future of UN peace operations: Principled adaptation through phases of contraction, moderation, and renewal, Contemporary Security Policy”, Contemporary Security Policy, March 5, 2021, pp.3-5; Cedric de Coning, “The impact of COVID-19 on peace operations in Africa,” ACCORD.
  6. 6 2021年1月時点で、バングラデシュ(6,711名)、ルワンダ(6,378名)、エチオピア(6,297名)、ネパール(5,711名)、インド(5,429名)、パキスタン(4,761名)の順。UN Department of Peace Operations, “Ranking of contributions by country(as of 31 January 2021).”
  7. 7 マリでは2020年6月に国連が現地に展開するミッションMINUSMAを通じて同国保健省に600万ドル規模の支援を表明したほか(“RESPONSE TO COVID-19 IN MALI: UNITED NATIONS PROVIDES SUPPORT AMOUNTING TO OVER US$6 MILLION,” MINUSMA, April 6, 2020.)、ダルフールに2020年12月まで展開していたUNAMIDはCOVID-19の感染対策の一環として国内避難民への衛生物資の配布を実施していた(“UNAMID DISTRIBUTES HYGIENE MATERIALS TO IDPS IN GOLO AS PART OF ITS FIGHT AGAINST COVID-19,” UNAMID, July 16, 2020.)。
  8. 8 Denica Yotova, “After Cotonou: How Europe can forge new relations with Africa in 2021,” The European Council on Foreign Relations (ECFR), February 25, 2021.
  9. 9 “G7: EU to support COVID-19 vaccination strategies and capacity in Africa,” Press release, European Commission, February 19, 2021.
  10. 10 Study Group on Europe’s Security Capabilities, A Human Security Doctrine for Europe- The Barcelona Report of Study Group on Europe’s Security Capabilities, 2004. 座長はメアリー・カルド―博士。
  11. 11 “EU Statement – United Nations General Assembly: General Debate of the C34 negotiations,” February 15 2021.
  12. 12 “Macron sketches Sahel drawdown plan but no 'immediate' cut,” Africa News, February 16, 2021.
  13. 13 “Leak reveals UK Foreign Office discussing aid cuts of more than 50%,” The Guardian, March 6, 2021.
  14. 14 なお、日本はいずれも3位。各国の分担率は、国連通常予算が各22、12、8.6%、PKO予算が各27、15、8.6%。外務省「日本の分担金・拠出金」2021年2月3日。
  15. 15 フランスは693名で34位、英国は529名で36位、ロシアは61名で71位、米国は30名で81位。なお、日本は4名で109位。データは以下を参照:UN Department of Peace Operations, “Summary of Troops Contributing Countries by Ranking: Police, UN Military Experts on Mission, Staff Officers and Troops,” January 31, 2021.
  16. 16 拙稿「アフリカにおける新型コロナウイルス―感染症の安全保障化」『国際情報ネットワーク分析 IINA』2020年6月4日。
  17. 17 毎日新聞「『ワクチン外交』で存在感増す中国 途上国中心に浸透 無償提供も」2021年1月17日。
  18. 18 “Fact Sheet: President Biden to Take Action on Global Health through Support of COVAX and Calling for Health Security Financing,” The White House, February 18, 2021.
  19. 19 “Biden Takes First Tentative Steps to Address Global Vaccine Shortage,” New York Times, March12, 2021.
  20. 20 “Senate confirms Linda Thomas-Greenfield to be U.N. ambassador and Tom Vilsack to be agriculture secretary,” New York Times, February 23, 2021. 記事によれば、共和党は、トマス=グリーンフィールド大使が、2019年に中国を称賛する講演を「孔子学院」で行ったことを引き合いに、中国寄りであったと批判している。他方、大使はバイデン政権のアメリカ外交はマルチラテラリズム復活を追求しており、批判が的外れであると抗弁している。この一件からも、米国内における対中関係と国連、アフリカの関連性を読み取ることができよう。
  21. 21 Mika Inoue-Hanzawa, “Japan as a security purveyor in Western Africa: conceptual and geographical challenges,” La Fondation pour la recherche stratégique (FRS) , March3, 2021.
  22. 22 Joe Biden, Narendra Modi, Scott Morrison and Yoshihide Suga, “Opinion: Our four nations are committed to a free, open, secure and prosperous Indo-Pacific region,” Washington Post, March 14, 2021, 例えば中国の「ワクチン外交」が東南アジアからアフリカにかけて広域を対象にしている中、現在は主に東南アジア諸国を対象とするFOIPのCOVID-19対策もアフリカへ拡大することが求められる。
  23. 23 東大作「研究レポート コロナ禍を人間の安全保障で~世界的解決に向けた日本の役割~」日本国際問題研究所、2020年10月28日。
  24. 24 外務省国際協力局「日本の新型コロナウイルス感染症対策(途上国支援:概要)」2021年2月。