2022年11月8~13日、カンボジアの首都プノンペンでASEAN首脳会議、日ASEANをはじめとするASEAN+1の首脳会議、ASEAN+3(日中韓)、そして東アジア首脳会議(EAS)など一連のASEAN関連首脳会合が開催された。米中対立、台湾海峡の緊張、ロシアのウクライナ侵攻など関係各国、特にASEAN対話国が対立の火種を抱える中、EASでは対立する各国が一堂に会したという点で、今回の会議は注目された。

 本短評は、ASEANの視点から、特にASEAN首脳会議に着目しつつ、一連の会議の成果と展望を総括する。取り扱うトピックは、ミャンマー、米印との関係、議長国カンボジア、そして東ティモールである。ASEAN域内外の様々な国に言及することは、いみじくもASEANが現在、域内外の様々な課題に直面しながらも、地域共同体として力強い発展を遂げていることを示している。

ミャンマー問題に進展なし

 混迷の度合いを深めるミャンマー情勢に対し、ASEANも手を尽くしてはいるものの、今回の首脳会議でも目立った進展はなかった。ASEAN首脳会議の直前、同会議への助言内容を検討する特別外相会議が開催された。ASEAN各国外相は、事態の深刻さに関して認識を共有し、「5つのコンセンサス」の重要性と妥当性を再確認したものの、ミャンマー軍事政権に対する具体的かつ強力な措置については合意に至らなかった[1]。インドネシア、マレーシア、シンガポールの3カ国は、ASEAN加盟国の資格の停止も辞さないより強い態度を示すよう主張しているものの、他の国々は消極的な模様である。ここには、ミャンマーに経済権益を有し、かつ民主化に関心の薄い国々と、民主主義の規範を重視する国々との断絶がある[2]。ただ、2021年秋以降、軍事政権の代表はASEAN首脳会議に招かれていない。

 ASEAN首脳会議の議長声明は、ミャンマー問題について「『5つのコンセンサス』の適時かつ完全な実施についてほとんど進展がなく、かつ軍事政権のコミットメントの欠如に深く失望した」とかなり踏み込んで表現したものの、新たな措置に関する言及はなかった[3]。しかし、議長声明と同時に「『5つのコンセンサス』の実施に関するASEAN首脳たちの再検討と決定」という文書も発表され、そこではASEANは今後も「5つのコンセンサス」の実施を助けうる新たなアプローチを探ることを決定し、外相会議に対し、状況の進展をモニターし、首脳会議へ報告するよう指示したことが明らかになった[4]。

 ミャンマーの軍事政権側は、上記特別外相会議の後、ASEANが「5つのコンセンサス」に何らかの実施期限を課すなど軍事政権に圧力をかけることは、両者の関係に悪影響を及ぼすとしてASEANを牽制した[5]。ただ軍事政権側も、11月中旬には6,000人近くを対象に恩赦を実施し、反体制派や外国人ジャーナリストを釈放するなど、ASEANや欧米に秋波を送っているともとれる態度を示した[6]。しかし、両者の溝は深く、解決の糸口はつかめていない。ASEANは、首脳会議、外相会議に加え、同月下旬に行われた拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)にも軍事政権の代表を招かず、牽制を強めたが、ASEAN側の手詰まり感も否めない[7]。

アメリカとインドとの関係が最高レベルに

 オーストラリアと中国に続き、ASEANはアメリカとインドとの関係を「包括的戦略パートナーシップ」という最高レベルに引き上げた。対米関係については、2022年5月にワシントンで開催された米ASEAN特別首脳会議で、中国を意識するアメリカ側の強い働きかけもあり、両者の関係を最高レベルに引き上げるよう検討することで合意していた。今回、わずか半年後に引き上げの合意に至った背景には、ASEAN側にも大国間競争の間で対外関係のバランスを取ろうとする意識が作用したと考えられる。

 インドとの関係強化も、同様に大国間競争の文脈で理解することができる。ASEANは、米中のみならずインドを含む域外主要国との包括的な関係強化を追求しており、今回インドがASEANの対話国になってから30年の節目に、2者間の関係を最高レベルに引き上げるに至った。ASEANとの関係強化では中国に後れを取っているインドであるが、今後エネルギー、感染症、気候変動といったグローバルな課題、そして海洋安全保障や災害対策といった非伝統的な安全保障課題における協力強化が、インド側では有望視されている[8]。

カンボジアの議長国ぶりは?

 今回、2012年以来10年ぶりにカンボジアが議長国を務めた。10年前、2012年7月の外相会議で当時の議長国カンボジアは、南シナ海問題で中国に対して強い態度を示すことを主張したフィリピンらと対立し、議論は紛糾、ASEANは史上初めて共同声明を出すことに失敗した。今般カンボジアは、前回の失敗を挽回すべく、議長国としてミャンマー問題の解決に力を注いだ。カンボジアは特使として副首相兼外相を派遣したほか、フンセン首相自らもミャンマーを訪問し、軍事政権の説得にあたった。軍事政権側のかたくなな態度もあり、同問題ではかばかしい進展はなかったものの、議長国としての責務を果たそうとするカンボジアの姿勢は、ASEAN内で高く評価された[9]。

 また米ASEAN関係についても、2022年5月に特別首脳会議出席のためフンセン首相が訪米し、同年11月には米ASEAN首脳会議と東アジア首脳会議に出席するためバイデン大統領がカンボジアを訪問するなど、安定的な関係構築に成功した。カンボジアとアメリカの2国間関係では、フンセン首相の強権的な統治スタイルをめぐって両者間は時に緊張するが、今回は、民主主義と権威主義の対立軸に陥ることなく関係を進展させた。アメリカ側も、インド太平洋戦略におけるASEANの重要性に鑑み、各国の国内政治状況をアジェンダとしないよう配慮する姿勢を示した。

 対中関係については、カンボジアは2012年と異なり、過度に中国寄りの姿勢を見せることなく、バランス感覚を示した。ただ、南シナ海問題でははかばかしい進展はなかった。そもそも、米中対立を背景に緊張の高まる南シナ海情勢について、ASEAN議長国として差配できる余地は少なく、せいぜい行動規範(COC)の協議にイニシアチブをとることができる程度である。しかし、これとて関係各国間の意見の隔たりが大きく、実質的な進展を望める状況ではなかった。また2012年と異なり、中国は首脳会合の時期までに南シナ海で目立ったトラブルを起こすことなく、結果カンボジアは意に添わぬ形でこの問題に関与することを免れた。南シナ海で一見騒ぎが少ないように見えた理由としては、米中対立における中国の対ASEAN重視の姿勢があり、中国は表立って対立を招くような行動を控えたことが考えられる。

東ティモールの加盟が内定

 ASEANの構造には、20年ぶりに大きな変化があった。東ティモールの新規加盟が内定したことである[10]。2002年にインドネシアから独立した東ティモールは、比較的早くからASEAN加盟の意向を示しており、2011年には正式に加盟を申請していた。しかし、独立から間もない同国がASEAN議長国となった場合、年間1,000近くになる関連会議を切り盛りすることは難しい等、ASEAN内で異論が根強く、加盟手続きはなかなか進まなかった。今回、独立から20年がたち、国家建設が進む東ティモールが正式加盟の運びとなったことにより、再度ASEANが東南アジア全域をカバーする見込みとなった。

 ASEANは、1967年の設立から現在まで、域外大国が地域に及ぼす影響力をどのようにコントロールするかに心血を注いできた。そこで重要となるのが、地域的な包括性である。すべての地域諸国がASEANに加盟し、その規範と価値観を共有し、そして場合によっては集団的な外交力を行使することは、各国と域外大国の2国間関係を効果的に補完し、彼らの戦略的利益を維持増進することにつながると考えられてきた。東ティモールの加盟によってASEANが再び地域的な包括性を実現することは、東南アジアの安定に寄与するであろう。

 (本短評における見解は筆者個人のものであり、筆者の所属組織の公式見解ではない)

(2022/12/27)

*こちらの論考は英語版でもお読みいただけます。
ASEAN Summit Outcomes and Future Outlook: Issues in Regional and External Relations

脚注

  1. 1 ASEAN, “Statement of the Chair of the Special ASEAN Foreign Ministers’ Meeting,” October 27, 2022.
    「5つのコンセンサス」とは、2021年4月のASEAN特別首脳会議においてASEAN各国と軍事政権が合意した、①暴力の即時停止とすべての関係者の最大限の抑制、②人々の利益となる平和的な解決を目指し、すべての関係者間の建設的な対話の開始、③ASEAN議長国特使が、ASEAN事務総長の補佐を受け、対話プロセスを仲介、④ASEANはASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)を通じて人道支援を実施、⑤特使と代表団は、すべての関係者と面会するためミャンマーを訪問、の5項目を指す。拙稿「ミャンマー危機とASEAN――仲介外交の展望」国際情報ネットワーク分析IINA、2021年7月21日。
  2. 2 中西嘉宏『ミャンマー現代史』岩波新書、2022年、237頁。
  3. 3 ASEAN, “Chairman’s Statement of the 40th and 41st ASEAN Summits,” November 11, 2022, p. 32.
  4. 4 ASEAN, “ASEAN Leaders’ Review and Decision on the Implementation of the Five-Point Consensus,” November 11, 2022.
  5. 5 Stanley Widianto, Ananda Teresia and Wa Lone, “Myanmar warns any ASEAN pressures would create ‘negative implications’,” Reuters, October 28, 2022.
  6. 6 Sebastian Strangio, “Myanmar Junta Releases High-Profile Foreign Prisoners in Mass Amnesty,” The Diplomat, November 17, 2022.
  7. 7 Tan Hui Yee, “Myanmar junta snubbed at Asean defence chifs’ meet,” Straits Times, November 23, 2022.
  8. 8 Niranjan Marjani, “India, ASEAN Elevating Ties to a Comprehensive Strategic Partnership,” The Diplomat, November 11, 2022.
    Rathindra Kuruwita, “India and ASEAN Upgrade Their Partnership,” The Diplomat, November 25, 2022.
  9. 9 ASEAN, “Chairman’s Statement of the 40th and 41st ASEAN Summits,” p. 32.
  10. 10 ASEAN, “ASEAN Leaders’ Statement on the Application of Timor-Leste for ASEAN Membership,” November 11, 2022.