スーダンでは、2023年4月にスーダン国軍(SAF)と準軍事組織(RSF)との間で軍事衝突が発生した。以降、15ヶ月が経過するが、収束の目処は立たず、過去40年間で最も深刻といわれる人道危機が発生している。しかしながら、国際社会のスーダンに対する関心は低く、深刻な人道危機が放置された状態が続いている。現在、スーダンで何が起こっているのか、また解決の道はあるのか。スーダンにおける軍事衝突と人道状況の現状と紛争解決の阻害要因に触れるとともに、今後の対応策について検討する。

軍事衝突から現在までのプロセス

 2023年4月のSAFとRSFの軍事衝突は、政府の軍事組織に属する両者の統合問題をきっかけに発生した。SAFとRSFでは、兵員や武器の量および質の点でSAFが圧倒的優位に立つと考えられたため、戦闘は数週間、長くても2~3ヶ月以内にSAF優位で終結するとみられていた。しかし、予想に反し、RSFの戦闘力が高く、SAF最高司令官のブルハン氏は、2023年8月、首都ハルツームから紅海沿岸のポートスーダンに拠点を移した。また2023年12月には、ハルツーム南部のゲジラ州ワッド・メダニにRSFが侵攻した。2024年2月頃より、SAFが形勢を盛り返し、ハルツ-ムでもSAFの支配地域が拡大した。一方、RSFは2024年4月より、SAFの軍事拠点があるスーダン西部、北ダルフール州のエル・ファシャールで集中攻撃を行うとともに[1] 、6月下旬より、スーダン南部のセンナール州[2]および西コルドファン州[3]でも戦闘を展開している(図1参照)。

図1:スーダンにおける戦闘地域と人道状況

出典:Sudan Humanitarian Update”, OCHA, June 24, 2024.

 これまでの戦闘によって、国連によると15万人が亡くなったと推定されるが[4]、人道危機はなおも続いている。2024年7月23日現在、約1070万人が国内避難民(うち2024年4月の軍事衝突以降の国内避難民は790万人)となり、約227万人が国外に避難している(図2参照)。避難者数は世界最大である。また、国民の半数以上に上る約2560万人が、食料安全保障の状態を示す指標である総合的食料安全保障レベル分類(Integrated Food Security Phase Classification: IPC)において5段階のうちの「フェーズ3(急性食料不安レベル)」以上の状態に陥っている(図3参照)。オランダ国際関係研究所クリンゲンダールは、2024年9月までに最悪の場合、約250万人が餓死すると試算している[5]。これは、80年代に発生したエチオピアの飢餓以来、最も深刻な人道危機である[6]。しかしながら、西側諸国のメディアを見る限り、人々の関心は、ガザやウクライナ、各国の国政選挙等に向けられ、スーダンは放置された状態が続いている。

図2:スーダン国内避難民の状況(2024年7月23日現在)

出典:“DTM Sudan Mobility Update (04)” IOM, July 23, 2024.

図3:スーダンの食糧危機

出典:“Sudan Acute Food Insecurity Snapshot April 2024-February 2025,” IPC, June 27, 2024.

軍事衝突の継続要因

 2023年4月の軍事衝突以来、周辺国や国際社会の主要国等が解決に向けた取り組みを行ってこなかったわけではない。これまで米国をはじめ、様々な国が仲介努力を続けてきた。しかしながら、この努力を上回る要因が、軍事対立の継続要因となっている。

 スーダン国内を見れば、SAFトップのブルハン氏とRSFトップのヘメティ氏の深い確執が主要因である。2023年4月15日の軍事衝突は、同日未明、ブルハン氏の公邸をRSFが急襲することで始まった。少なくともブルハン氏の護衛兵35名が殺害され、ブルハン氏もかろうじて助かったに過ぎない[7]。この記憶は、ブルハン氏にRSFヘの強い憎悪を生むきっかけになったと考えられる。一方、ヘメティ氏は、この襲撃をはじめ、数多くの殺害や虐待行為により、自らがSAFや市民から許されない立場に立っていることを認識していると思われる。つまり、2023年4月の衝突は、越えてはならない一線を越えたのである。

 また、軍事衝突以来、存在感を高めているイスラミストが、停戦、和解の阻害要因となっている[8]。イスラミストは、2019年のバシール政権崩壊まで強い影響力を持っていたグループであり、当時はNational Congress Party(NCP)が政治母体となっていた。NCPは2019年4月以降誕生した民主化移行政権下で、解散させられ、政治の舞台に立つことを禁じられていたが、2023年の軍事衝突以来、劣勢に立たされたブルハン氏がイスラミストのグループに協力を求め、結果としてイスラミストが政治の舞台に返り咲く道を開くこととなった。このイスラミストが、ブルハン氏に対し、RSFとの和解、停戦に応じないよう求めており、ブルハン氏自ら、イスラミストの主張を拒否できない状況に追い込まれる事態となっている。

 スーダンの軍事衝突が収束できないのは、国内要因だけではない。諸外国のスーダンへの関与が、軍事衝突解消の阻害要因となっている。スーダンは、アラブとブラックアフリカの結節点に位置し、海上貿易の要衝である紅海に面した国である。また金の他、農産物や家畜を周辺諸国に輸出する豊かな土壌も有している。スーダンは、このように地政学的にも重要なポジションに位置するが故に、これまで様々な国がスーダン国内の様々な勢力と関係構築を図ってきた。諸外国による資金的、軍事的支援がSAFとRSF双方に提供された結果[9]、15ヶ月に上る戦闘が続く今でも、武器、弾薬が尽きることなく戦闘が繰り返されているのである。

懸念される新たなリスク

 軍事衝突が継続する中で、新たな懸念材料が発生している。ここでは3点挙げたい。

 第一に、イスラミストの台頭が諸外国に及ぼす影響である。先述のとおり、軍事衝突の発生以降、イスラミストの影響力が拡大している。ス-ダンのイスラミストはムスリム同胞団と関係が深く、イスラミストの影響力拡大は、ムスリム同胞団の再活性化を意味する。ムスリム同胞団に対しては、従来、エジプト、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)等の国々は抑圧的な立場を取り、トルコ、カタール、イランは寛容な立場を取ってきた。UAEは、RSFを軍事的に支援していると言われているが、これは、RSFが保有する金の利権のためだけではなく、SAFの勢力下で拡大するイスラミストヘの警戒感も要因と考えられる[10]。イスラミストの台頭は、その他の周辺諸国のスーダンへの関与にも様々な変化を及ぼす可能性がある。特にエジプトは、SAFの強力な後ろ盾であるとともに、ムスリム同胞団の勢力拡張には強い警戒感を持っている。加えて、51万人に上るスーダンからの避難民の流入の他[11]、パレスチナからの避難民の流入がエジプト国内の不安定化要因となっており、エジプトがどのようなスタンスでスーダンの軍事衝突に介入するのかは注目すべきポイントである。

 第二に、イスラミストの影響力拡大に付随して、ISなど様々なイスラム過激派グループのスーダンへの流入が確認されている[12]。今後、スーダンがジハーディスト・ハブとなる可能性が懸念される。

 第三に、最近の動きとして、ロシアおよびイランの積極的な関与が確認されている。ロシアは、これまで金の取引を通じてRSFと関係が深かったが、SAFがポートスーダンに拠点を移したことおよび戦況の変化を踏まえ、紅海での拠点確保を目的にSAFヘのアプローチを強化している[13]。イランは、SAFの協力要請に応じ、SAFに武器支援を行っているほか、外交関係の強化も急速に進めている[14]。ロシアおよびイランのスーダン内政への積極的関与は、今後の停戦、和平、復興プロセスをさらに複雑にする可能性がある。

人道危機解決に向けた道

 15ヶ月を経て、スーダンの軍事衝突はより複雑になり、解決の見通しが後退した感がある。それでもなお、過去40年間で、最も深刻な人道危機に直面するスーダンの状況を改善するため、国際社会が一丸となって支援すべきである。

 まずは、停戦と人道支援の実施により、飢餓を最小限に食い止めることが必要である。停戦については、先述の通り、SAFおよびRSF双方がなかなか停戦に応じない要因を持っているとともに、彼らを取り巻く国内外のステイクホルダーが停戦を難しくさせている。現在の軍事衝突のメインアクターであるSAF、RSFの軍事行動を抑制させるために、現在遵守されていない武器の禁輸措置を徹底させるべくモニタリングを強化し、またスーダンに影響力のあるエジプト、サウジアラビアとUAEが、SAFとRSF双方を停戦のテーブルに着かせるよう働きかけるべきである。日本を含めた西側諸国は、これらスーダン周辺国が積極的に停戦に向けて動くよう、スーダン周辺国ヘの働きかけを強化することが重要である。

 人道援助の実施に関しては、国連やNGO等による人道支援は、移動が許可されなかったり、略奪や攻撃等の被害に遭ったりしており、妨害を受けている[15]。タフツ大学のアレックス・デ・ワール氏は、飢餓が交戦相手を不利にするための「戦闘の道具」として利用されていると指摘する[16]。また、人道支援は、国連人道支援アピールのわずか31.5%しか満たされていない[17]。

 80年代のエチオピア飢餓では、ミュージシャンのボブ・ゲルドフ氏が組織したライブエイドで広く飢餓救援キャンペーンが行われ、ソビエトのゴルバチョフ大統領(当時)が、米国による食糧支援をサポートするようエチオピア政府に働きかけた[18]。これがエチオピアの飢餓救済に向けた国際支援を可能とした。現在のスーダンに対しては、国際社会の関心が低く、エチオピア飢餓発生時の米ソのように、国際社会が一丸となって飢餓救済支援を行う国際的な機運が存在しない。人道支援アクセスを可能にするようSAF、RSF双方に働きかけるとともに、人道支援をさらに増やすよう、国際社会の関心を喚起する必要がある。現在のスーダンに対し、主要なステイクホルダーは、エジプト、サウジアラビアとUAEである。人道危機解決を目指す主要各国や国連は、域内で重要な役割を果たすサウジアラビア、UEA等の湾岸諸国を巻き込み、停戦と人道援助の実施に向けた国際枠組みを作る必要がある。

 続いて、停戦後、本格的な援助を再開し、スーダンの復興支援を行うことが必要である。これまでの戦闘で、主要インフラは破壊され、水、保健、教育などの公共サービスも壊滅的ダメージを受けている。この復旧、復興のためには、本格的な国際社会からの支援が必要であるが、民主化プロセスの再開なくして国際社会からの本格的な支援は期待できない。2019年のバシール政権崩壊から2021年10月の政変まで、民主化プロセスが進み、30年間、国際社会から隔絶状態にあったスーダンに多くの支援が集まる状態が生まれた。当時スーダンが抱える600億ドルという膨大な累積債務に対しても、解消の道筋が検討されていた[19]。民主化プロセスが再び軌道に乗らない限り、このような本格的な支援は期待できないであろう。

 現在、スーダンの民主化は大きく後退した。SAFとRSFの戦闘に乗じて、ダルフールの元武装勢力がスーダン東部に介入し、また部族等を基盤にしたローカルの武装勢力が各地で誕生している[20]。一方、民主派の政治連合組織であるFFCメンバーの多くは海外に避難し、ハムドック元首相等、一部のメンバーはTaqaddumという連合組織を擁立したが、十分な結集力を持つに至っていない[21]。一般市民レベルでは抵抗委員会が民主化運動の核となってきたが、戦闘下で一部は避難民となり、また残る者もSAFやRSFにより拘束、抑圧を受け、弱体化している[22]。民主化の芽が根絶やしになりかねない状態にある。

 2021年10月の政変も、2023年4月の軍事衝突も、軍やRSFなど、主要な軍事部門が存続の危機に立たされたタイミングで発生した。2021年の政変は、民主化移行プロセス下で、国家の最高意思決定機関である主権評議会の長が国軍から民主派に移行する直前に発生した。2023年の軍事衝突は、SAFとRSFの一元化の議論が進む中で発生した。つまり、軍や武装勢力など、武力を保持するグループが、自らの組織の弱体化の危機を前に抵抗を行ったのが、2021年10月の政変であり、2023年4月の軍事衝突だったのである。オープン・ソサエティ財団のジョシュア・クレイズ氏は、「紛争状態は武装勢力にとって利潤を生むシステムであり、武力による支配構造が紛争を生む原因である。この解決には、金やダイヤモンドなどの資源の国際流通システムを見直す必要がある」[23]と説く。

 上述したように、スーダンは、紅海に面し、アラブとブラックアフリカの結節点にあることなど、地政学的に重要な位置にあることが、諸外国の関心を惹きつける要因であり、これがこれまでスーダンが紛争に晒されてきた原因である。また、2011年の南スーダンのスーダンからの独立前までは石油が、南スーダン独立以降は金が、諸外国の関心を惹きつけるもう一つの要因として存在した。このような資源に対する透明性の高い監視システムが、紛争を抑制するために必要である。

 スーダンの軍事衝突を終結させ、民主化プロセスを再び軌道に乗せることは容易なことではない。しかし、現在の深刻な人道危機を国際社会は放置してはならない。またスーダンをジハーディストの拠点にしてはならない。スーダンに対する国際社会の関心を高め、スーダンに関わる関係各国を巻き込み、民主化プロセス再開に向けたコンセンサスビルディングを行うことが求められている。

※本稿は、2024年7月28日時点の情報に基づき作成された。本稿で示された見解は筆者個人のものであり、筆者の所属組織の公式見解ではない。

(2024/08/05)

*こちらの論考は英語版でもお読みいただけます。
Sudan’s most serious humanitarian crisis in 40 years: Is there a way to a ceasefire and resumed aid?

脚注

  1. 1 Ilhan Dahir, “As famine spreads across Sudan, protecting civilians must be a priority,” United States Institute of Peace (USIP), July 18, 2024.
  2. 2 Sudan War Monitor, “Battle begins for eastern Sudanese city,” July 12, 2024.
  3. 3 Sudan War Monitor, “West Kordofan violence forces thousands to South Sudan,” July 23, 2024.
  4. 4 Ilhan Dahir, op.cit.
  5. 5 Clingendael, “From hunger to death,” May 2024, p.4.
  6. 6 Rebecca Paveley, “World’s worst famine in 40years: why is Sudan ignored, Archibishop Welby asks,” Church Times, June 17, 2024.
  7. 7 Alden Young, “How Sudan’s wars of succession shape the current conflict,” Foreign Policy Research Institute, July 3, 2024, p.13.
  8. 8 “Sudan army chief under pressure from Islamist backers: analysts,” France 24, May 29, 2023.
  9. 9 Amnesty International, “New weapon fuelling the Sudan conflict,” July 25, 2024.
  10. 10 Aidan Lewis, “Sudan’s conflict: Who is backing the rival commanders?” Reuters, April 12, 2024.
  11. 11 IOM, “DTM Sudan Mobility Update (04),” July 23, 2024.
  12. 12 Herbert Maack, “One year on, civil war risks reviving Jihadist in Sudan,” Terrorism Monitor, The Jamestown Foundation, July 9, 2024.
  13. 13 Andrew McGregor, “Rusia switches sides in Sudan war,” The Jamestown Foundation, Eurasia Daily Monitor, July 8, 2024.
  14. 14 “Why Sudan’s army is pivoting toward Iran,” The New Arab, February 12, 2024; Sudan Tribune, “Al-Burhan accepts credentials of new Iran ambassador to Sudan,” July 21, 2024.
  15. 15 Daclan Walsh, “As starvation spreads in Sudan, military blocks aid trucks at border,” The New York Times, July 26, 2024.
  16. 16 Alex de Waal, “Sudan’s manmade famine,” Foreign Affairs, June 17, 2024.
  17. 17 UN OCHA, “Sudan Humanitarian Response Plan 2024,” observed July 28, 2024.
  18. 18 Alex de Waal, op.cit.
  19. 19 坂根宏治「騒擾から1年を経たスーダン:求められる民主化プロセスの再開と開発への取り組み」国際情報ネットワーク分析IINA、2022年12月8日。
  20. 20 YCON Sudan, “Special Report: The implications of war and multiple armies in Eastern Sudan,” July 2, 2024, p.19.
  21. 21 Dame Rosalind Marsden, “A strong civilian coalition is vital to avert Sudan’s disintegration,” Chatham House, June 21, 2024.
  22. 22 YCON Sudan,op.cit., pp.49-50.
  23. 23 Joshua Craze, “Rule by militia,” Boston Review, June 26, 2024.