スーダンでは、2023年4月15日、スーダン国軍(Sudan Armed Forces: SAF)と準軍事組織(Rapid Support Force: RSF)[1]間で武力衝突が発生した。3ヶ月を過ぎた今でも両者の交戦は収束していない。首都ハルツームが壊滅的な被害を受けるとともに、戦闘地域が広がり、全国で300万人以上が国内外に避難している[2]。スーダンでは1956年の独立以来、何度も武力衝突が行われたが、首都で大規模な戦闘が行われたのは今回が初である[3]。現在の武力衝突を早急に止めない限り、スーダンが取り返しのつかない事態となり、また周辺地域の政治情勢が不安定化することになる。
本稿では、武力衝突に発展した原因、その展開、国際社会の対応について言及しつつ、スーダンの現状とその影響について分析する。
なぜ武力衝突は起こったのか?
今回の武力衝突は、4月15日の朝、突如始まった。しかし、スーダン国内の政治文脈で見れば、起こるべくして起こった衝突であった。
スーダンでは2019年4月、民主革命により30年間続いたバシール政権が崩壊し、暫定民主政権が形成された。この暫定民主政権下で最高の意思決定機関であった主権評議会の議長ポストが、軍部から民主派グループに交代時期が迫った2021年10月、軍部によるクーデターが発生し、以降、軍部による実効支配が続いた。これに伴い、西側諸国の新たな支援が止まり、経済は混乱し、人々の生活は疲弊した[4]。
その後、1年を経過した2022年12月、軍部と民主派間で改めて暫定民主政権を作る機運が生まれ、暫定民主政権再樹立のための「枠組合意」が形成された。その後、「最終合意」実現に向け、「権力解体委員会の復活」、「ジュバ和平合意の履行」、「スーダン東部問題の解決」、「移行期正義」の諸課題が順次解消され、最後に「治安部門改革」を残すのみとなった。具体的には国軍とRSFの統合、特にその時期をめぐっての合意である。国軍は両者の統合を「2年以内に行う」と発表したが、RSFは「10年は必要」とし、両者間の緊張が高まった。
直接のトリガーとなったのは4月12日の事件だった。同日、RSFがスーダン北部のメロウィ空軍基地に対空砲等を搭載した武装車両100台を急派したのである。RSFは、この理由を「エジプト空軍が、RSFを襲撃するため同基地に戦闘機を送るとの情報を得た」からと説明している。この情報の真偽は定かでないが、この事件では、国軍とRSFがメロウィ市内でにらみ合いの状態となり、緊張状態が急激に高まった。メロウィへのRSFの派兵は、国軍がRSFの車列を分断したことで、沈静化するかに見られた。しかし、その3日後の4月15日の朝、突如ハルツームで戦闘が開始された。RSFはハルツーム国際空港を占拠しただけでなく、国軍最高司令官ブルハン氏の私邸も急襲している。その結果、ハルツーム国際空港を、自国の空軍機が爆撃するという事態に発展した。
現在、スーダンでは何が起こっているのか?
当初、この戦闘は数日で収束すると思われた。空軍機や戦車等の装備を持つ国軍と、ピックアップトラックに銃器を搭載した車両を基本ユニットとするRSFでは、軍事力に圧倒的な差異があるためである。しかしながら、両者の戦闘は3ヶ月を経た今でも収束する兆しが見えない。むしろRSFは、ハルツームの主要拠点や一般家屋をゲリラ的に襲撃し、拠点化するだけでなく、避難のため住民不在となった家屋にRSF兵士を住まわせ始めている[5]。ロシアの他にも中東諸国が、背後でRSFを軍事支援していることがRSFが戦闘を継続できる要因と考えられている[6]。
また当初、国軍とRSFの戦闘は、ハルツームとスーダン西部のダルフール(Darfur)で行われていたが、徐々に戦闘地域が拡大し、スーダン西部だけでなく、ガダーレフ(Gedaref)やカッサラ(Kassala)など南東部地域でも行われている[7]。またスーダン南西部のコルドファン(Kordofan)および南部の青ナイル(Blue Nile)では、別の武装グループSPLM-N Al-Hilu派[8]が国軍と交戦を始めている。国としての治安維持機能が維持できなくなっている。
このような中、国連やNGOは人道支援を行っているが、スーダン政府は6月に、停戦に向けて仲介していた国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)のペルセス国連事務総長特別代表を、「スーダンの武力衝突を悪化させている」として「ペルソナ・ノン・グラータ(persona non grata)」に指定し[9]、ペルセス氏はスーダンに入国できない状態となった。これにより国連のスーダンの停戦に向けた影響力は低下せざるを得ない状況に追い込まれている。また、人道援助物資は、国連機等により、港湾都市ポート・スーダンに空輸され、その後、陸路で輸送されたり、またチャド等からの陸路輸送が検討されているが、人道援助関係者が襲撃、略奪の被害に遭い、十分な支援ができていない。ハルツームのスーダン政府関係者も多くがハルツームから避難しており、公共サービスの実施体制が機能しない状態となっている。
国際社会の対応は?
この状況を打開するため、5月半ば以降、米国はサウジアラビアとともに停戦交渉を試み、何度か国軍とRSF間の停戦合意を取り付けたが[10]、停戦合意期間中も完全停戦は履行されず、実効力のないものとなった。アフリカ連合[11]や東部アフリカの準地域機構である政府間開発機構(IGAD)[12]も停戦交渉を行っているが、スーダン国軍がこれらの介入を拒み、具体的な進展は見られていない。
このような折、エジプトが積極外交に舵を切った。7月4日に、長く緊張関係にあったトルコとの関係を改善し[13]、13日には、スーダン周辺国を集めたスーダンの停戦にかかる会議を招集した[14]。一方、サウジアラビアとアラブ首長国連合(UAE)は、スーダンの政治情勢に深く関わっているが、相互にアフリカにおける勢力拡大を狙って競合しており[15]。これら中東諸国の影響力が、スーダンの政治情勢を複雑にしている。
なぜ、この武力衝突が危険なのか?
スーダンではこれまで何度も武力衝突が行われてきたが、今回の衝突は、従来とは比較にならない影響が発生すると予想される。
一点目は、首都機能に与えるダメージである。首都の主要施設、インフラが銃撃戦や空爆により損壊したことに加え、ハルツーム州だけで約200万人が避難している[16]。これはハルツーム州の人口約500万人の4割に相当する。空き家になった家屋で住み始めたRSF兵士は、仮に武力衝突が終わっても、排除することは容易ではない。ハルツームには、スーダンの富裕層や知識人が集まっていたが、国外に逃れたこれらのグループは停戦後、スーダンに戻ってこないかもしれない。空き家になった家に住み始めたRSF兵士は、多くがダルフールや周辺諸国から集められた者であるが、彼らの滞在が長引けば、将来、彼らはハルツーム住民の主要構成員になる可能性がある。これは、選挙が行われた場合、一定数の票田を構成することを意味する。RSFの前身は、ダルフールで住民虐殺を行ったジャンジャウィードという武装グループであるが、ジャンジャウィードが、ダルフールで村を焼き、住民を追い払い、自らの構成員を住まわせてきた手法と同様の手法が首都で始められている。
二点目として、今回の武力衝突が周辺地域に及ぼす影響があげられる。既に70万人が周辺諸国に避難しているが、エジプトに25万人、チャドに24万人、南スーダンに17万人が流出している[17]。エジプトは、かつて植民地支配をしていたスーダンに対し、寛容な政策を取ってきたが、国内の経済が悪化する中、スーダン人の入国規制を厳格化している。チャドは、大規模なスーダン人の流入が民族構成に変化を起こし、不安定化するリスクに晒されている。さらに、これまでもスーダンの他、中央アフリカ共和国などに進出してきたワグネルが、スーダン情勢の流動化を契機として、これらの地域への影響力を強める可能性がある[18]。エリトリアは、ロシアとの関係強化を進めており、「アフリカの角」地域全体の情勢が流動化する懸念材料となっている[19]。
三点目として、民主化の後退[20]と暴力による支配の域内での拡散があげられる。スーダンの民主化運動は、これまで様々な弾圧下にあっても続いてきた。しかし、4月15日の武力衝突以降、民主派グループの存在感がなくなり、世界の関心は、国軍とRSFの停戦にフォーカスされてきた。4月の軍事衝突前まで、大方の一般国民の意見はSNS等で流れる情報を見る限り、「民主派支持、軍部不支持」であったが、4月以降、世論は「RSF不支持、国軍支持」と変わってきたように思われる。現在の武力衝突がRSF優位で終結した場合、果たして国際社会が支援できる国が誕生するのか予断を許さないが、国軍優位で終結した場合であっても、これまで行われてきた民主化プロセスが継続できるのか不明である。また現在の武力衝突の過程で存在感を高めているのが、イスラミストと言われる旧バシール政権時代の主要グループである。イスラミストは、2019年の民主革命以降、解党させられ政治の舞台に出ることが禁じられてきたが、国軍とRSFの戦闘が長期化するに伴い、このイスラミストが武力衝突の今後に影響力を及ぼす存在となってきた[21]。イスラミストの台頭は、民主化プロセス推進の大きな障害となることが予想される。
この民主化の後退と武力支配は、スーダンに留まらず、周辺諸国や、広くアフリカ大陸で、民主主義の伸張に影響を及ぼすことが予想される[22]。国際社会が民主主義を擁護し、推進するモメンタムを作ることができるのか、あるいは武力による統治に対し、何ら有効な手立てを講じることができないのか。政治体制が不安定なアフリカの国々の治安組織や武装グループなど、スーダン情勢の今後の展開をしたたかに見、クーデターを企て、武力による支配の機会を狙っている者は少なくないと考えるべきである。
今、我々は何をすべきか?
軍事衝突から3ヶ月が経過し、国際社会のスーダン情勢に関する関心は、低下してきたように感じられる。しかし、これまで見てきたように、スーダンにおける今回の軍事衝突は、スーダンが正統性を有する国として国際社会の認証を得ることができるどうか、また一つの国としての一体性を維持することができるかの岐路に立つ事象であり、スーダンの歴史を塗り替える転換点といえる出来事である。またスーダン一国に限らず、「アフリカの角」地域や、アフリカ、中東諸国の政治体制に大きな影響を及ぼすものと考えるべきである。そしてそれは、必然的に日本を含めた各国の安全保障や外交にも作用することになる。
この影響を最小限に抑えるためには、まず、私たちはスーダン情勢に対する国際社会の関心を高め、この問題の平和的解決に向けた行動を、諸外国が一体となって実施する環境を作る必要がある[23]。さらに、武力衝突を終結した上で、軍部による支配から脱却し、民主化に向けたプロセスを再開するようモメンタムを作ることが必要である。
4月の軍事衝突以前と比べると、民主化プロセスは大きく後退した状態にある。しかし、スーダンの軍事衝突を止め、民主化プロセスを促進することは、スーダン、そしてアフリカ諸国の人々と、民主主義の価値を信じ、その推進を目指す我々が信頼関係を維持していくために不可欠である。
本稿で示された見解は筆者個人のものであり、筆者の所属組織の公式見解ではない。
(2023/08/08)
*こちらの論考は英語版でもお読みいただけます。
What will the military clash in Sudan bring about? – Intervention by the international community is required
脚注
- 1 スーダン国軍(SAF)は、スーダン政府の正規軍であり、訓練を受けた兵士の他、空軍機や戦車等の基本装備を擁している。一方、RSFは、民兵組織ジャンジャウィードを前身とする組織である。ジャンジャウィードは、2003年にスーダン西部のダルフール地方で発生したダルフール紛争で、バシール大統領(当時)の側につき、現地で住民虐殺などを行ったローカルの武装グループである。ジャンジャウィードは、ダルフール紛争での功績がバシール大統領に評価され。2013年にRapid Support Force(RSF)の名称を付与され、政府の治安組織の一翼を担う集団として首都ハルツームに拠点を構えることとなった。バシール大統領は、国軍に対抗する別の武装グループを首都に置くことにより、国軍の暴走を抑えるカウンターバランサーとして利用することを狙っていたと考えられる。
- 2 “DTM Sudan Situation Report 13,” International Organization for Migration (IOM), July 18, 2023.
- 3 Nesrin Malik, “‘All that we had is gone’: my lament for war-torn Khartoum,” The Guardian, July 18, 2023.
- 4 坂根宏治、「騒擾から1年を経たスーダン:求められる民主化プロセスの再開と開発への取り組み」、国際情報ネットワーク分析IINA、2022年12月8日。
- 5 “Sudanese City becomes Center of ‘New Phase’ of War”, New York Times, July 11, 2023.
- 6 RSFが保有する金等の鉱物資源の権益確保、地政学的に重要な紅海での軍事拠点の確保などが諸外国の関与の要因と考えられる。Nima Elbagir et al, “Exclusive: Evidence emerges of Russia’s Wagner arming militia leader battling Sudan Military,” CNN, April 21, 2023; “UAE behind RSF’s attempted coup in Sudan, leaked recording says,” Middle East Monitor, April 20, 2023.; Adam Lucente, “From UAE to Sudan: US targets Middle East entities for Wagner ties,” Al-Monitor, June 28, 2023.
- 7 “Regional Sudan Response Situation Update,” International Organization for Migration (IOM), July 18, 2023.
- 8 SPLM-N Al-Hilu派は、南コルドファンを拠点にする武装グループ。ジュバ和平合意に参加していない武装グループの一つ。これまで表立った闘争は行っていなかったが、2023年4月以降、活動を活発化させており、最近では国軍と武力衝突する事案が頻発している。“Rebel mobilisation in southern Sudan raises fears of conflict spreading,” Reuters, June 9, 2023.
- 9 “Sudan declares UN envoy Volker Perthes ‘persona non grata’,” Aljazeera, June 9, 2023.
- 10 Celine Alkhaldi,“Saudi Arabia and US announce a 24-hour ceasefire in Sudan,” CNN, June 9, 2023.
- 11 “Does Sudan need AU boots on ground?” PSC Report, Institute for Security Studies (ISS), June 7, 2023.
- 12 “Roundup: IGAD’s quartet committee fails to bring Sudanese warring parties to negotiating table,” China.org,cn, July 11, 2023.
- 13 Ezgi Akin, “Turkey, Egypt fully restore diplomatic ties after decade-long freeze,” AL-Monitor, July 4, 2023.
- 14 Edward Yeranian, “Egypt holds conference with Sudan’s neighbors on new cease-fire,” Voice of America, July 13, 2023.; “Sisi struggles to drum up interest in Sudan summit,” Africa Intelligence, July 12, 2023.
- 15 Talal Mohammad, “How Sudan become a Saudi-UAE proxy war,” Foreign Policy, July 12, 2023.
- 16 “DTM Sudan Situation Report 13.”
- 17 ibid.
- 18 “Hundreds of Wagner fighters arrive in Central Africa: Russian security group,” Alarabia News, July 16, 2023; Alia Brahimi, “Mercenary bloodline: The war in Sudan,” Atlantic Council, July 7, 2023.
- 19 Joshua Meservey, “Eritrea’s growing ties with China and Russia highlight America’s inadequate approach in East Africa,” Hudson Institute, July 17, 2023.
- 20 Rahmane Idrissa, “Sudan’s repressed democracy,” The New York Review, July 18, 2023.
- 21 Khalid Abdelaziz, “Exclusive: Islamists wield hidden hand in Sudan conflict, military sources say,” Reuter, June 28, 2023; Robert Bociaga, “How the Muslim Brotherhood could use Sudan’s protracted crisis to plot a comeback,” Arab News, June 16, 2023.
- 22 “Sudan’s descent into violence pose new threat to the Sahel region,” Financial Times, July 17, 2023.
- 23 “Time to try again to end Sudan’s War,” International Crisis Group, July 21, 2023.