1.台湾有事での機雷戦が日本に与える影響

 前編で、台湾有事における機雷戦シナリオについて、中国軍は台湾本島西側の台湾海峡の南北入口付近に機雷を敷設して、台湾及び台湾を支援する各国艦艇の侵入を阻止する機雷原を設定するとともに、台湾本島の西側及び北側に台湾軍艦艇の撃破を企図した機雷原を設定する機雷敷設戦を実施するとの推察を提示した。また、その一方、台湾軍は、台湾海峡を挟んで西側の金門島などの島々の付近及び台湾本島の西側及び北側の沿岸海域に防御機雷原を設定する機雷敷設戦の可能性が考えられる、とした。

 このシナリオに基づき、前編で述べた機雷戦史概観及び機雷戦の特徴を考慮した上で、台湾有事での機雷戦が日本に及ぼす主要な影響を分析すると、次の2つが考えられる。

(1) 浮流機雷[1]による脅威と航行制限

 その第一は、仮に日本が台湾有事に関与しなくとも、中国及び台湾が敷設した係維機雷が潮流により、あるいは荒天により錘(アンカー)と機雷缶(機雷の本体)を結ぶワイヤーが切れて機雷缶が浮流し、日本近海に流れてくることで、日本近海を航行する船舶への触雷、または漂着し人員被害が出ること、さらには、海上交通が麻痺あるいは遮断されることが予測される。

 日本近海に機雷が浮流してきた歴史は過去にもある。それは、第二次大戦末期、日本が東シナ海、南シナ海、台湾海峡、対馬海峡などに防御用として敷設した係維機雷が浮流し、日本の太平洋側沿岸及び日本海側沿岸に漂着した歴史、そして、朝鮮戦争において、北朝鮮が、上陸阻止用に敷設した旧ソ連製の係維機雷が日本の日本海側沿岸に漂着したものである。『航路啓開史』によると、1945年10月から1952年6月までの日本海浮流漂着機雷発見処分統計(日本製、旧ソ連製は不明)として、発見機雷数は1,281個で処分機雷数は481個とされている[2]。そして活性化されている機雷とは知らずに触れ、多くの人が亡くなっている。

 特に北朝鮮が敷設した旧ソ連製機雷の浮流は、朝鮮戦争勃発前の1949年3月頃以降、大陸からの北西風及び対馬海流に乗り、多くの浮流機雷が日本の日本海側沿岸に漂着、爆発し、付近の民家の消失、人員を殺傷し多大なる損害を与えている。具体的な事例として、1949年3月30日午後5時頃、新潟県名立町の小泊集落の海岸に漂着した浮流機雷(対馬海峡に防御用として敷設した日本製、または朝鮮半島に北朝鮮が敷設した旧ソ連製かは不明。ただし日本海軍の機雷はハーグ第8条約第1条第2項に従い係維していた索(ワイヤー)が切れた場合、発火しない方式を採用していた。)を沖に押し出そうとしていた巡査1名、見物していた小中学生62名が機雷の発火により爆死、家屋30戸が全半焼した事実がある[3]。また、浮流機雷は、船舶の運航に大きな影響も与えている。例えば、先の北朝鮮敷設の旧ソ連製機雷の浮流は、1950年、朝鮮戦争勃発後の冬から、冬型の気圧配置の北西風に乗り、島根県沿岸部から能登半島、津軽海峡および北海道西側沿岸部を経て宗谷海峡に至るまで、漂流、漂着が急増した[4]。このことから、1952年2月には、新潟港に出入港する船舶は全くなくなり、また、津軽海峡では、当時本州と北海道を結ぶ青函連絡船の運航を停止する事態に及んでいる[5]。朝鮮戦争中の当時も浮流機雷が漂着した地元では大きな事態として政府に強い対処要望を提出し、1951年、海上保安庁(当時)は浮流機雷対策委員会を設置し対処した[6]。

 今ではこのような状況を知る人は、関係者及び地元の人以外は少ないが、同様に台湾有事の機雷敷設戦においても日本に影響を及ぼす浮流機雷が発生する可能性が高い。機雷が浮流し、日本近海のシーレーン及び港湾に漂流すれば、船舶交通に大きな制限を受けるだけでなく、人命にかかわる重大な被害を及ぼすこととなる。その場合日本は、「重要影響事態」あるいは「存立危機事態」の要件[7]を満たし、同事態を認定して対応することが必要となるであろう[8]。

 さて、台湾海峡及び台湾本島北側沿岸に敷設された機雷が、本当に日本近海及び沿岸に達するのかとの疑問がある。

 台湾海峡暖流の流れ及びその付近の風向による漂流物の移動に関する測定は、多くの機関及び大学などで実施されている[9]。また、通常、浮流の機雷缶は、海面に頭を出している状態であることから、潮流及び風の両方の影響を受ける。これらを考慮して分析すると、季節変化、季節風の影響はあるものの、一般的には次の結論を導き出すことができる。すなわち、台湾海峡を北上する台湾海峡暖流の主流は、中国大陸寄りの海峡西側を通過し、東シナ海に至り、黄海への流れ及び黒潮本流に合流、その後鹿児島吐噶喇(トカラ)列島付近を通過し、日本の太平洋沿岸に沿って太平洋に至る流れと、対馬海流として日本海から津軽海峡を通過して太平洋に至る流れ、となる。一方、台湾本島の西側及び北側の流れは、台湾海峡暖流本流に乗り切れず、東シナ海の東経123度30分付近の海山付近を漂う、若しくは南に反流するとされている[10]。したがって、台湾海峡西側中国大陸寄りに敷設された機雷缶が浮流する場合、黄海に至るものも存在するが、多くは黒潮及び対馬海流の流れに乗り、日本及び日本近海のあらゆるところに機雷缶が浮流、漂着し、日本に大きな影響を及ぼすこととなる。一方、台湾海峡東側の台湾本島の西側及び北側に敷設された機雷缶が浮流する場合、東シナ海の海山付近、すなわち尖閣諸島付近で漂うこととなる。この場合においても、尖閣諸島防衛に多大なる影響を与えることとなる。この機雷缶を避けるために、海上保安庁及び海上自衛隊の艦艇が尖閣諸島を中心とする東シナ海での警戒活動を制限した場合、尖閣諸島を中国が占拠することなども想定され、日本にとって情勢は厳しいものとなる。

(2) 米国からの機雷排除要請

 第二の影響は、米国から日本への対機雷戦部隊の派出要請である。

 米海軍の対機雷戦艦艇の状況は、2000年代から対機雷戦技術開発計画により、沿岸海域戦闘艦(LCS:Littoral Combat Ship)を使用した対機雷戦ミッション・パッケージ構想を推進してきたが、未だに期待した戦力化まで至っていない[11]。さらには、1994年までに建造され、今ではレガシーとなっているものの、未だ対機雷戦の主力艦である「アベンジャー型掃海艦」を既に除籍となっているものも含め2023年までに14隻全艦除籍する計画がある[12]。これに対し日本の対機雷戦部隊は、高度な対機雷戦機能を有する掃海艦艇の隻数は減少させているものの、機雷戦能力を有する新型護衛艦FFM「もがみ」型を量産する計画である。

 このように、日米の対機雷戦艦艇能力を比較すると日本の能力がはるかに高いと言える。これに加えて、戦後の機雷除去に関しGHQの指令により掃海艇を朝鮮戦争へ参加させた歴史、さらには湾岸戦争停戦後の1991年に米国からペルシャ湾への掃海部隊派遣要請があったこと[13]、および派遣された日本の掃海部隊が示した高い能力からすると、米国から日本に対し、台湾付近の機雷排除要請が、首脳間、日米安全保障条約第4条に基づく協議[14]及び日米外交安保2+2などを通じてなされる可能性が高い。このような場合に日本としてどのように対応するのかなど、平時から検討しておく必要があるものと考える。

2.台湾有事における日本の備え

 日本では、「台湾有事は日本有事」との、2021年12月1日の安倍晋三元首相の講演での発言[15]がインパクトを与えている。しかしながら、台湾有事を機雷戦の観点から分析すると、これまで述べてきたように、政治的観点ではなくとも、軍事的合理性の観点から、現実のものとなる可能性が高い。それでは、日本はこの問題にいかに備えなければならないのかを最後に考えてみたい。

(1) 「備え」による被害防止と対処

 台湾有事で機雷が敷設されたとの情報を得た場合、直ちに政府もしくは国家安全保障局(NSS)に「船舶安全情報室(仮)」及び「浮流機雷対策室(仮)」を設置し、オールジャパンで取り組むための態勢づくりが必要となる。この場合、情報収集及び警戒情報発信体制と浮流機雷処分体制が必要である。情報収集及び警戒情報発信体制については、国交省、農林水産省、防衛省、海上保安庁、警察、自衛隊のほか、民間の商船、漁船などを含むあらゆる関係機関、関係者から通報を得る必要があるとともに、危険情報を得た海域付近に近づかないよう機雷警報の発信が必要となる。処分体制は、海上自衛隊をはじめ、陸上自衛隊、海上保安庁、警察などの陸上爆発物およびテロ対策としての爆発物処理部隊をも動員して、海上自衛隊が保有する機雷処理のノウハウを共有、教授して、対処する必要がある。つまり、大量の機雷が漂流、漂着する場合、海上自衛隊の爆発物処理部隊のみでは、対応しきれないことが予想され、これについてもオールジャパンで行う態勢が必要である。また、このような事態を想定して、平時に浮流機雷の被害防止と対処について準備しておく必要がある。

(2) 集団的自衛権発動に係る準備と対応

 これまでの分析から、台湾有事に際して、米軍から少なくとも対機雷戦に関しては、機雷排除要請がなされることが予測される。その理由は、①台湾有事は、日米安全保障条約第4条に基づく協議対象であること、②朝鮮戦争に際し、GHQから日本政府に対し掃海艇の派出命令が出された経緯があること、および米国からペルシャ湾への掃海部隊派遣要請があったこと、③現在においても、米海軍沿岸海域戦闘艦(LCS)の対機雷戦能力は、当初計画されたとおりの戦力化がなされていないこと、および2023年までに、アベンジャー型掃海艦が全艦除籍となること、そして、④日本の対機雷戦能力は、戦後の航路啓開業務、湾岸戦争後の機雷処理の実績を含め、世界的に高いレベルにあることからである。これに、浮流機雷が日本近海に漂流することを想定すれば、「存立危機事態」の要件を満たす可能性がある。その場合には、集団的自衛権が発動され、日本の対機雷戦部隊による台湾海峡及びその周辺海域に敷設された機雷排除が実行されることも想定される。まさに2015年に国会で議論された機雷による「ホルムズ海峡危機」がそのまま「台湾海峡危機」として現実のものとなる。こうした事態にいかに対応するかについて、検討しておく必要がある。

おわりに

 機雷戦は、これまで見てきた機雷戦史概観からわかるように、ほとんどの戦争、紛争などで使用されている。その理由は、機雷戦が弱者の作戦と言われているように、その特徴である費用対効果、心理的効果が大きいからである。また、浮流機雷が発生した機雷戦史からもわかるように、機雷は敷設後、敷設者の管理を離れてしまう特徴も有している。管理を離れた場合に国際法を遵守するとともに、自滅装置を装備させるような科学技術と意思を有する国による敷設ではない場合、意図しない被害または船舶交通の混乱が予想される。さらに、こうしたことを考慮すると、日本として積極的に台湾有事の抑止に向けた最大限の取り組みがなされなければ、日本の意思とは関係なく「台湾有事」が現実に「日本有事」となってしまう。同時に、それを想定した準備及び日本としての対応を検討しておくことも極めて重要である。

(2022/01/07)

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*こちらの論考は英語でもお読みいただけます。
Mine Warfare in a Taiwan Contingency — Scenarios for Naval Mine Use and Its Impact on Japan

脚注

  1. 1 海中及び水面を流れる機雷には、「浮流機雷」と「浮遊機雷」がある。「浮流機雷」とは、係維機雷の機雷缶(機雷の本体)が錘(海底のアンカー)に繋がれているワイヤーなどから外れて、あるいは切れて漂うものを言う。国際法では、機雷缶が係維を離れた場合、直ちに無害となるようにしなければならないとされている、「自動触発海底水雷の敷設に関する条約」(ハーグ第8条約)第1条第2項。一方、「浮遊機雷」とは、意図的に海中、海面に漂わせて無差別な攻撃を企図する機雷を言う。「浮遊機雷」に関しては、敷設者の管理を離れてから長くても1時間以内に無害化される構造を持つ機雷以外の敷設は禁止されている、「ヘーグ第8条約」第1条第1項。
  2. 2 掃海OB等の集い世話人会編『航路啓開史』改訂版、2012年、88頁(最終閲覧日:2021年11月26日)。本史は、太平洋戦争終戦時から昭和 35 年 3 月 31 日までの日本における航路啓開の歴史を記したものであり、防衛庁海上幕僚監部防衛部において編纂され昭和 36 年 2 月 1 日に発刊された原本を書写し、再編集したものである。
  3. 3 同上、87頁。
  4. 4 同上、88頁。1951年3月には、67個の浮流機雷を発見、このうち23個を処分している。したがって、実際の浮流機雷は、さらに多いことが推定できる。
  5. 5 同上、87頁。
  6. 6 同上。
  7. 7 「存立危機事態」の際、自衛隊に武力行使を認める前提となるのが「武力行使の新3要件」である。これは、①我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある、②これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない、③必要最小限度の実力行使にとどまる、と定義されている。国家安全保障会議決定 閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」 2014年7月1日。
    また、2015年、当時安倍首相は、「ホルムズ海峡危機」の可能性について、「現実的に想定しているわけではない」と答弁した。読売新聞政治部編著『安全保障関連法―変わる安保体制―』信山社、2015年、45‐49頁。
  8. 8 各事態の詳細については、中村進「台湾危機と日米の対応(後編) ― 日本はどう準備・対応すべきか? ―」笹川平和財団『国際情報発信 IINA』2021年5月28日を参照。
  9. 9 例えば、環境省『平成19年度 漂流・漂着ゴミに係る国際的削減方策調査業務報告書』、2008年3月、124-134頁、九州大学応用力学研究所「台湾海峡通過流量のモニタリング-漂流ブイによる台湾暖流の観測-」2005、2006年など。
  10. 10 九州大学応用力学研究所「台湾海峡通過流量のモニタリング-漂流ブイによる台湾暖流の観測-」2005、2006年。
  11. 11 河上康博「米海軍における対機雷戦能力開発の現状と問題点」戦略研究学会『戦略研究28』2021年3月、81―104頁。
  12. 12 Mark F. Cancian,“U.S.Military Forces in FY 2020 Navy,”CSIS, October 2019.
  13. 13 「90年湾岸危機、米大統領「自衛隊派遣を」外交文書公開」『日本経済新聞』2021年12月22日。
  14. 14 同条は、(1)日米安保条約の実施に関して必要ある場合、日米双方が随時協議し、また(2)日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の要請により協議する旨を定めている。
  15. 15 「「台湾有事は日本有事」安倍元首相が台湾のシンポでオンライン講演」『朝日新聞DIGITAL』 2021年12月1日18時00分。(最終閲覧日:2021年12月24日)