アフリカは1990年代以降、国連PKOの主要な展開地域だった。アフリカ地域全体が安定化に向かっているとはいえない状況にもかかわらず、過去10年間で大幅に減少した。2014年1月には9件あったミッションが、2025年3月では5件に減少している[1]。図1にあるように、予算は約640億ドルから275億ドルへ、要員数も約88,000名から約35,000名へ減少した(2024年3月時点)。なぜこのような変化が生じたのだろうか。そして、アフリカの平和活動は今後どうなるのか。

 本稿では、国連PKO減少の背景とその結果生じた現状を分析したうえで、国連とアフリカ連合(AU)の平和活動におけるパートナーシップを展望する。

図1:アフリカの国連PKOの予算・要員数・ミッション数推移(2013-2024)

図1:アフリカの国連PKOの予算・要員数・ミッション数推移(2013-2024)
出典:“Peacekeeping in Africa: from UN to regional Peace Support Operations,” IISS, March 18, 2024.

「3つの衝撃」:アフリカにおける国連PKO減少の背景

 アフリカにおける国連PKO減少は、「3つの衝撃」、すなわち、非伝統的かつ越境的脅威の拡大、アフリカ域内の政治変動、国際関係の激変が要因となっている。

 まず、暴力的過激派の活動や国際犯罪などの非伝統的脅威が越境しており紛争への対応を複雑化させている。このような事態に対処する原則と資源を国連PKOは有していない。たとえば、紛争地での人道危機や治安悪化の原因に暴力的過激派の活動が挙げられるが、こうした暴力的過激派の鎮圧は多くの国連PKOではマンデートの対象外となっている。国連憲章7章下で行われる文民保護や安定化(stabilization)は非常にコストが高い一方、成果を可視化しにくい。また、国連加盟国にとっては要員が攻撃にさらされる可能性が高く、要員提供のハードルも高い。さらに、東アフリカ沿岸・紅海・西アフリカ沿岸における海上での麻薬・武器・人身取引などは武装勢力アクターの資金源を断つ意味でも対策が不可欠である。にもかかわらず、PKOではこうした国際犯罪に対するマンデートをほとんど盛り込めていない。

 アフリカ域内の政治変動も国際社会との軋轢を大きくし、国連PKOを取り巻く環境を悪化させている。2020年から2023年にかけクーデターを経験した国は6か国に上る[2]。憲法改正などにより指導者の任期を延長する動きも散見される。このような国内の政治変動に加え、複数の国家が交錯するダイナミズムも予断を許さない。エチオピアは2020年11月に勃発したティグライ紛争で政情不安が続く中、2024年1月にソマリア北西部のソマリランドと覚書(MoU)を交わした。エチオピアは海へのアクセスを、ソマリランドは国家承認獲得を目論んだかたちである。ソマリア連邦共和国政府の反発は大きく、トルコの仲介もあって事態の収束をみたが、UAE、サウジアラビアなどの湾岸諸国をも巻き込む騒動となった。内戦下のスーダンでも国軍側を支援するサウジアラビアおよびトルコと、即応支援部隊(RSF)側を支援するUAEという構図がみえる[3]。

 さらに、ロシア・ウクライナ戦争、イスラエル・パレスチナ情勢、イエメン情勢など国際関係の激変がアフリカに与える影響も甚大である。主要国での政権交代や右派政党の躍進、自国第一の政策はアフリカの国連PKOに資源を割く政治的コストを一層高くしている。

写真1:マリに展開したMINUSMA

写真1:マリに展開したMINUSMA
出典:“21-12-15-SRSG Visit in Aguelhok-20,” UN Photo, December 15, 2021. MINUSMA は2023年末に撤収を完了した。

アフリカ自身による要員提供:国連PKO減少への対応

 現在アフリカに展開する国連PKOはまさにこれら「3つの衝撃」を反映している。まず、ミッション数をみると、アフリカには2013年4月の国連マリ多面的統合安定化ミッション(MINUSMA)以降、国連PKOが設置されていない。2025年3月現在の展開国・地域は5か所、すなわち、中央アフリカ共和国(MINUSCA)、コンゴ民主共和国(MONUSCO)、南スーダン(UNMISS)、スーダン・南スーダン国境地帯(UNISFA)、西サハラ(MINURSO)である。しかも、これらが継続するかも不透明である。なぜなら、昨今、国連に対してPKOの派遣同意を撤回する国が出てきているからである。MINUSMAが2023年末をもって活動を終了したのはマリ政府による同意撤回によるものであった。現行のMONUSCOについてもコンゴ民主共和国政府が早期撤退を求めている[4]。

 このような現状に対し、アフリカ諸国は国連PKOに自ら要員を提供することで「3つの衝撃」に対応している。アフリカの国連PKOはかねてよりアジア・アフリカ諸国に支えられてきたが、2024年10月末時点で軍事・警察要員を1,000名以上派遣する大口要員提供国15か国のうち、アフリカが9か国、アジアが6か国となっている(図2)。

図2:国連PKO主な要員提供国(2024年10月31日時点)

図2:国連PKO主な要員提供国(2024年10月31日時点)
出典:“Ranking of contributions by country (as of October 30 2024) ,” United Nations Peacekeeping, Accessed March 3, 2025.

 アフリカ諸国の提供状況をみてみると、南アフリカ共和国によるMONUSCO派遣、エチオピアによるUMISS派遣のように特定ミッションに提供する国もあれば、タンザニアのようにアフリカだけでなく国連レバノン暫定駐留軍(UNIFIL)へもまとまった提供を行う国など様々である。なお、1000名を超える大口要員提供国ではないものの、興味深いのはウガンダで、625名をUNSOM(AUソマリアミッションを支援する国連特別政治ミッション)へ提供している。ウガンダは2007年以降、AUソマリアミッション(AMISOM、ATMIS)で主要提供国だった歴史があり、国連の枠組みを使って側面支援したいという意図がうかがえる。ランキングでは上位に入るアフリカ諸国も、実際には域内の大規模ミッションにほぼ専念している[5]。

 アフリカ域外から要員を提供しているのがネパール、バングラデシュ、インドで、いずれの国においてもアフリカが派遣先上位を占めている[6]。アフリカのPKOは、現地での主要言語・宗教に関わらず、アジア・アフリカ諸国で要員をまかなっているのが現状である。中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、南スーダンのように広大な領域で文民保護や安定化といった危険なマンデートを負う大規模ミッションにおいては、これらの傾向が特に顕著である(図3)。

図3:アフリカの大規模国連PKOへ要員を提供する主な国(2024年10月30日時点)

図3:アフリカの大規模国連PKOへ要員を提供する主な国(2024年10月30日時点)
出典:“Ranking of contributions by country (as of October 30 2024),” United Nations Peacekeeping, Accessed March 3, 2025.

国連主導からAU平和支援活動とのパートナーシップへ

 今後、国連PKOが量的に再び拡大することはあまり想定できない。国連加盟国としては、アフリカにおいてPKOを抑制的に維持しつつ、地域主導の安全保障にますます委ねていくことが予想される。具体的には、AUの平和支援活動(peace support operations)が国連とのパートナーシップによりアフリカの安全保障を担うこととなろう。

 実際にこうした動きに向けた準備も進みつつある。2023年12月、国連と地域機関の協力に関する安保理決議2719が採択された[7]。これは、平和活動における国連とAUのパートナーシップをさらに促進する重要な変化であった。AU平和支援活動の総予算のうち最大75%を国連PKO予算から支出する道を開いたからである。実際、2024年12月27日という年の瀬に国連安保理がAUに対してATMISからAUSSOMへの移行を許可した[8]。

 AU側でも平和支援活動を行うための体制の準備が進んでいる。2025年2月に開催された第38回AU総会(首脳会議)で、今後4年間のAU委員会新体制が構築された[9]。AU委員会は事務局としてAUを対外的に代表し、政策・法案の立案と執行を担う重要機関である。活発な選挙戦の結果、ジブチのユスフ外務・国際協力大臣がケニアのオディンガ元首相とマダガスカルのランドリアマンドゥラト元外務大臣を抑え当選した[10]。いずれの候補者も平和・安全保障を重要課題としたが、なかでもユスフ氏はAU改革や国際社会におけるアフリカのプレゼンス拡大とセットで論じ、環境問題を強調したオディンガ氏と対照的であった[11]。AU平和支援活動を管轄する政治・安全保障局長についてはナイジェリア出身のアデオエ委員が再選された。2期目の彼がAU支援活動で今後どのようなかじ取りをするのか、AUがリージョナルな平和支援活動を推進する中で、国連とのパートナーシップをどのように構築するかが注目される。

写真2:ソマリアに展開しているAUSSOM

写真2:ソマリアに展開しているAUSSOM
出典:“AUSSOM, SNA Military Commanders Strategize on Joint Operations,” AUSSOM, February 8, 2025.
ソマリア連邦共和国軍とAUSSOMがモガディシュでアルシャバーブ対策の連携強化と共同作戦戦略を協議した。

 2025年は第7回PKO閣僚会合の年である。2024年11月に国連平和活動局の独立チームが分析結果を公表するなど[12]、5月の開催に向けて国連でも平和活動の再検討が進んでいる。安保理内の厳しい対立や慢性的な資源不足という現実に照らし、国連PKO主導から国連と地域機構の実質的なパートナーシップ強化を検討していくことが予想される。

(2025/03/19)

脚注

  1. 1 コンゴ民主共和国に展開中のミッション(MONUSCO)は早期撤退が想定されているものの、現地の状況に鑑み、2024年20月20日に移行期として1年間の任期延長がきまった。UN Doc. S/RES/2765, December 20, 2024. 一部要員は撤退を終えている。本文中で引用したIISSのグラフでは、2024年12月時点のアフリカミッションが4件となっているのは、2024年3月時点でMONUCSOの撤退が決定していたことを反映したためである。
  2. 2 マリ(2020年と2021年)、ギニア、スーダン(2021年)、ブルキナファソ(2022年に2回)、ニジェール、ガボン(2023年)。詳しくは、井上実佳「急展開するアフリカの国際平和活動―その背景を読み解く」国際情報ネットワーク分析IINA、2024年2月16日。
  3. 3 詳しくは、遠藤貢「『アフリカの角』不安定化の構図」『外交』Vol.85、2024年6月、116-121頁。
  4. 4 詳しくは、中谷純江「マリPKO撤退後のアフリカの平和と安全保障はどうなるのか」国際情報ネットワーク分析IINA、2023年11月7日。
  5. 5 国連ウェブサイトでは要員提供のカテゴリーとして特別政治ミッション(SPM)なども含むが、本稿で挙げる数値は原則としてPKOミッションのみを対象としている。
  6. 6 ネパールはUNMISSが1,966名、MINUSCAが1,242名、MONUSCOが1,155名。バングラデシュはMONUSCOが1,966名、UNMISSが1,647名、MINUSCAが1,423名。インドはUNMISSが2,409名、MONUSCOが1,274名、UNIFILが875名となっている。“Troop and Police Contributors,” United Nations Peacekeeping, Accessed March 17, 2025.
  7. 7 UN Doc. S/RES/2719, December 21, 2023.
  8. 8 UN Doc. S/RES/2767, December 27, 2024. 安保理決議2719の適用をめぐって米国が強烈な反対をしていたために移行が遅れた。
  9. 9 「AUCについて」外務省アフリカ連合日本政府代表部、2025年3月3日アクセス。
  10. 10 AUは選挙や政策分担等で東・西・南・北・中部5つの準地域(サブリージョン)間で分担、ローテーションを採用することが多く、今回は東アフリカからの選出であった。
  11. 11 各候補のヴィジョンは “African Union Commission Elections 2025 Candidates’ Curriculum vitae and Vision Statement,” African Union, Accessed March 3, 2025.
  12. 12 “The Future of Peacekeeping, New Models, and Related Capabilities,” United Nations, October 2024.