昨今の国際安全保障において複雑かつ困難な課題の一つが、アフリカ情勢である。2020年8月にマリでクーデターが発生した際、国連のグテーレス事務総長、アフリカ連合委員会(AUC)のマハマト委員長、マクロン仏大統領が相次いで批判した[1]。また、かつて「破綻国家」と呼ばれ、「アル・シャバーブ」(al-shabaab)が東アフリカの脅威となっているソマリアには米国の特殊部隊が関与を続けており、トランプ政権では軍の増派すらされている[2]。

 このようなアフリカに展開する国連平和維持活動(PKO)をとりまく複雑かつ困難な課題もまた、国際安全保障における中心課題の一つである。にもかかわらず、「国連の話は退屈」というリアリストの先入観と「国連研究者」のやや閉じた姿勢が相まってか、先行研究も報道も決して多くない。

 世界各国は、アフリカの安全を誰が、どのように、いつ保障するのかという、政治的意思と資源の配分を、PKOという限られたアセットによって行おうとしている。例えば、9月22日から、国連総会で史上初のビデオリンクを介したハイレベル一般討論が行われるが[3]、PKOは、2010年代以降、世界の首脳・閣僚級の会合が開かれてきた重要テーマである。2014年、2015年にはオバマ政権が国連や日本との共催で会合を開き、トランプ政権下でも2017年にはPKO改革に関する安保理ハイレベル公開討論、2018年にはPKOの行動指針に関する閣僚級ハイレベルイベントが開催されてきた。

 本稿では、特に国連と地域機構の関係に着目して問題の本質を考えたい。

アフリカの安全保障と国連の現在地

 国連は、2020年9月現在、南スーダン・スーダン国境(アビエイ)、マリ、ダルフール、中央アフリカ共和国、コンゴなど7つのPKOミッションを展開している[4]。

UN Department of Peace Operations website, “UN Peacekeeping Fact Sheet,” March31, 2020

 近年の紛争では、ますます一般市民が標的になっており、これがPKOの「弁慶の泣き所」となっている。多くのPKOでは、武器の使用について、自衛のみならず、「文民保護」(Protection of Civilian:PoC)の名のもとに安保理決議で許可されている。しかし、文民保護は任務の内容が多岐にわたる。要員、装備、設備面で多くの資源を必要とすることからも、限定的にならざるを得ない。むしろ、紛争当事者からみればPKOは自分たちのターゲットを保護しようとするやっかいな存在である。結果として、グテーレス事務総長による関連分野の国連改革が行われていても[5]、PKO要員自体が攻撃の対象となるなど、現場での運用には課題が山積している[6]。また、ソマリアを中心とする東アフリカやマリ、ナイジェリアを含む西アフリカを覆う過激主義が、紛争の解決や国家再建を難しくしている[7]。さらに、COVID-19の感染拡大はアフリカにおける「感染症の安全保障化」を促進しており[8]、PKOの展開にも大きな影を落としている。

アフリカの主体性の表れか、バーデンシェアリングか?

 このような状況下、PKOに関する国連文書で近年盛んに用いられるキーワードがある。「地域機構とのパートナーシップ」だ。国連が、アフリカ連合(AU)や、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)をはじめとするアフリカ域内の地域機構と協力しながら安全保障に取り組む構図である。

エチオピアのアディスアベバにあるAU本部(2018年3月、筆者撮影)

 冷戦終結以降、地域機構および地域的枠組み主導の部隊が、PKOの前に、あるいはPKOと並行して展開する事例が多くみられる。アフリカで1990年以降に展開したPKOのうち、特に国連憲章第7章下におかれたミッションに関しては約75%がそれにあたる[9]。パートナーシップの類型も、まず地域機構の部隊が展開しPKOが展開するもの(シエラレオネなど)、地域機構の部隊要員の多くがPKOに衣替えするもの(ブルンジ)、地域機構と国連とが合同でミッションを派遣するもの(ダルフール)、PKOと同時期に地域諸国で構成する部隊が限定的任務を負って展開するもの(コンゴ民主共和国、マリ)など多様である。

 このような潮流の理由として2点が挙げられる。第1に、「アフリカの問題はアフリカ自身の手で解決したい」というアフリカ諸国の意思である。旧宗主国による植民地支配から独立を達成したアフリカ諸国が1963年に設立したアフリカ統一機構(OAU:2001年にAUへ改組)は、1993年に紛争解決メカニズムを立ち上げ、冷戦期の内政不干渉原則から積極的介入主義へと舵を切った。AU憲章至っては、4条(h)で、アフリカ域内で重大な状況(戦争犯罪、ジェノサイド、人道に対する犯罪)が生じた場合、加盟国がAU総会の決定に従い介入する権利を盛り込んでいる。実際には一度も援用されていないものの、このようなAUの方針転換はアフリカの安全保障をリージョナルレベルで追求することを企図している証左の一つであろう。しかし、十分な資源とノウハウを有しない多くのアフリカ諸国にとっては、国連というグローバルな機構と制度との関係構築によってそれらを得るしかないのだ。実際、アフリカ域内の地域機構の取り組みを支援すべく、国連はもちろんのこと、EUやNATOといった域外の機構も積極的な関与を行っている。

UN Photo/Harandane Dicko 式典に臨むエジプトからの要員。マリでは、PKO(MINUSMA)の文民保護促進が課題である。 “Egyptian peacekeepers serving with the United Nations Multidimensional Integrated Stabilization Mission in Mali (MINUSMA) take part in an official ceremony to launch a new MINUSMA Force Centre in Mopti, in order to better protect civilians.”

 第2に、国連側からすれば、アフリカの安全保障を追求する上で国連に十分な政治的意思と資源が集まらないがゆえの、地域機構とのバーデンシェアリングという側面がある。国連のPKO予算・要員数は冷戦終結直後の1990年と比較して大幅に拡大した。その理由は、PKOが紛争後の国家建設に関する様々な任務と、PoCのような「強靭な」(robust)任務を負うようになったからである。これらのPKOの変化は、アフリカの紛争に対峙すべく、国連事務局と加盟国双方の消極的ながらも合意に基づいて展開した。

 安全保障理事会の常任理事国(P5)、特に英米仏のP3にとって、アフリカの安全保障は、旧宗主国と植民地の関係性や冷戦時代の援助などの歴史的背景がありながらも傍観できた時代は終わり、9.11以降のテロリズムや過激主義、移民の流入といった自国の安全保障に直結する課題となった。しかし、厳しい国内世論や財政状況にかんがみ、物的・人的資源を直接的にアフリカへ投じることは容易ではない。P5の中国は2007年以降、PKO要員・予算面での貢献を拡大させている。これは、中国が自国の対アフリカ制作推進と組み合わせつつ、なかなか集まらないアフリカPKOに必要な資源を積極的に提供し関与することで、国際機関における自国のプレゼンス拡大を図った動きともいえる。

 以上の2つの要因が複雑に絡み合って、アフリカの安全保障をめぐる国連と地域機構のアンビバレントな関係が展開している。大国が国連憲章に基づき安保理決議を通して平和活動を実施するための正統性(legitimacy)と権限(authority)を与え、アフリカ諸国が地域機構あるいは地域的枠組みを通して実働するというデマケーション(役割分担)のパターンが定型化したのである。

 PKOをめぐる国連と地域機構との関係は古くて新しい論点である。1990年代以降、歴代事務総長や彼らが設置した諮問委員会はもちろん、国連事務局内でも分析されてきた。特に、1990年代前半にPKO局長、政治局長を務めた国連事務次長マラック・グールディングによるレポート(1997)は、PKOによる武力行使、平和維持と人道分野の連関、そして地域機構との関係に踏み込んでいる[10]。ソマリアやマリにみられるようなテロリズムと紛争との連関といった今日的課題を考える上では、1990年代以降の系譜を踏まえつつ、グローバル、リージョナル双方のレベルにおける動向を注視する必要がある。次回は、ソマリアを事例として、アフリカの安全保障をめぐる国連と地域機構との関係をさらに論じていく。

(2020/9/18)

脚注

  1. 1 「マリでクーデターか、大統領が拘束後に辞任 政府と議会も解散」『BBC News Japan』、2020年8月19日
  2. 2 篠田英朗「米国はアフリカで何をやっているのか?」『Foresight』2018年6月21日
  3. 3 “COVID-19: World leaders to stay at home, in first ‘virtual’ UN General Assembly,” UN News, July 23, 2020.
  4. 4 なお、COVID-19の感染拡大の影響で、国連はPKO要員の追加派遣を2020年6月まで停止した。そのため、本来は7月の最新データが公表されるところ、3月のままになっている。”UN Peacekeeping Fact Sheet,” March 31, 2020.
  5. 5 「複雑化する紛争と平和活動-国連の機構改革と課題を語る(伊東孝一氏:国連オペレーション支援局上席企画官)」SPF Now, No.65、2019年8月5日
  6. 62017年にグテーレス事務総長が元国連PKOの司令官ドス・サントス・クルーズを座長に任命し公表した「クルーズ・レポート」は、PKO要員の安全確保が困難な状況が要因提供国と国連との関係に影響を及ぼしている点について指摘している。Lieutenant General (Retired) Carlos Alberto dos Santos Cruz, ”Improving Security of United Nations Peacekeepers: We need to change the way we are doing business,“ December19, 2017.
  7. 7 ソマリアに関しては、2007年2月21日の安保理決議1744では、AU主導のAMISOM設置を授権した際、それを引き継ぐPKOの展開を模索することが想定されたものの、現在に至るまで実現には至っていない。“The situation in Somalia,” UN Security Council Resolution 1744, February 21, 2007.
  8. 8 拙稿「アフリカにおける新型コロナウイルス―感染症の安全保障化」『国際情報ネットワーク分析 IINA』2020年6月4日を参照
  9. 9 1990年以降にアフリカ大陸で活動を開始した25のPKOのうち、国連憲章第7章が適用されたミッションは18である。このうち13のミッションで地域機構または地域的枠組みに基づく部隊が展開した。拙稿「巻末資料PKO一覧(1948-2017年)」『国際平和協力入門』ミネルヴァ書房、2018年、241‐245ページを参照。
  10. 10 グールディング・レポートについては、拙稿「ソマリア紛争における国連の紛争対応の『教訓」『軍事史学』第42巻3・4号、2007年3月、338-356ページを参照。