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論考シリーズ | No.214 | 2026.9.26
アメリカ現状モニター

民主党は「愛国心」を取り戻せるか
―退役軍人と2026年中間選挙―

山岸 敬和
南山大学国際教養学部教授

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アメリカにおける退役軍人の存在感は大きい1。国勢調査によると約1600万人おり、これは成人の約6%を占めることになる2。軍役の間支えた配偶者や家族を含むとすると、さらに大きな集団になる。日本では軍そのものには関心が向いても、退役した市民が一つの重要な有権者集団であることはあまり知られていないだろう。

これまで退役軍人は共和党を支持する傾向が強かった。退役軍人は、建国の理念、国家への奉仕、軍への敬意、愛国心といったことを重視し、加えて、レーガン以降の共和党が掲げてきた「強いアメリカ」と親和性を持ってきたからである。

しかし、2026年11月の中間選挙を前に、この関係性に変化が生まれている可能性がある。民主党からは退役軍人が相次いで出馬している。これはトランプ政権によるイラン戦争が新たな文脈を生み出しているからなのだろうか。「愛国心(patriotism)」という言語を、民主党は再び自らの政治的資源として使えるのだろうか。本稿はこの点を考えてみたい。

退役軍人と共和党との結びつき

2024年大統領選挙でも、退役軍人による共和党支持の傾向は明確に表れていた。ピュー・リサーチ・センターによる投票日直前の世論調査によれば、退役軍人の61%がドナルド・トランプを支持したのに対し、カマラ・ハリスへの支持は37%にとどまった。この傾向は、近年、一貫してみられる3。

退役軍人と共和党の結びつきは、有権者レベルだけにみられるものではない。現在の第119議会では、軍務経験を持つ議員は共和党では約26%を占めたのに対し、民主党では約11%にとどまる。議員構成でも、退役軍人が共和党により多く集まっていることがわかる4。

しかし、こうした現在の姿を歴史的に当然のものと考えるべきではない。スティーヴン・フォイとサルヴァトーレ・レスティフォが指摘するように、退役軍人は歴史的に常に共和党支持だったわけではない。退役軍人と共和党との現在の結びつきを考えるためには、退役軍人がアメリカ社会の中でどのような存在として位置付けられてきたのかを見る必要がある5。

筆者は、以前から退役軍人と「アメリカニズム」との関係に関心を持ってきた。第二次世界大戦後の退役軍人医療をめぐる政治過程を扱った拙稿では、当時、そして現在でも最大の退役軍人団体のAmerican Legionが、退役軍人を単に軍役に従事した人々ではなく、国土とともに「アメリカニズム」を守った人々として位置付けていたことを指摘した6。同団体はその憲章で、合衆国憲法を擁護するとともに、「100パーセントのアメリカニズム」を育み、「正義、自由、民主主義」の原則を後世に伝えることを掲げていた。すなわち、退役軍人は国土のみならずアメリカを支える理念を守るための戦士であったという記憶があるのである。

もっとも、こうしたアメリカニズムというアイディアは、もともと共和党が独占する政治言語であったわけではない。上記拙稿でも論じたように、アメリカニズムという理念は、異なる集団によって、それぞれ異なる政治的目的のために用いられうるものであった。

現在につながる傾向が強まった一つの転換点は、レーガン政権期であった。レーガンは軍人や退役軍人を、祖国への愛、自由、そして「強いアメリカ」と結びつけて語った。それ以降、共和党は「軍への敬意」「国家への奉仕」「愛国心」を自らの政治言語に積極的に取り込み、退役軍人との結びつきを強めてきた。こうした積み重ねが、退役軍人の間で共和党支持の傾向が強まった背景の一つにあると考えられる。

「愛国心」を取り戻そうとする民主党

このような歴史的文脈の中で、民主党からも焦りの声が聞かれるようになった。2018年の『TIME』誌で、エリッサ・スロットキンが民主党は「愛国主義の党」になるべきだと主張した7。スロットキンは、当時ミシガン州から連邦下院選挙に民主党候補として出馬しており、その後当選を果たした。そして彼女自身、CIA分析官としてイラクに3回派遣された経験を持ち、ジョージ・W・ブッシュ政権では国家安全保障会議(NSC)に勤務した。その後もオバマ政権に残り、国防総省では国防次官補代行を務めるなど、国家安全保障政策に長らく関わってきた人物である。

スロットキンが問題にしたのは、レーガン以降、「共和党は軍の党であり、愛国心の党であり、アメリカ的価値の党である」という認識が定着してきたことであった。民主党も共和党から学び、愛国心という政治言語に積極的に関与すべきだという。ただし、彼女のいう「愛国心」は、国旗や国家への敬意だけではない。多様性、報道の自由、表現の自由も「アメリカの中核的価値」であり、国歌斉唱時に膝をついて抗議するような権利でさえ、軍人が守ってきた自由の一つだと語った。スロットキンは、愛国心やアメリカ的価値を共和党だけのものにしてはならないと主張したのである。

2018年にスロットキンが訴えた「愛国心を共和党だけのものにしない」という主張は、現在では民主党のより広い選挙戦略になりつつある。そして、実際に今回の中間選挙では彼女のように、軍や国家安全保障分野での経験をもつ候補者が民主党から出馬している。もっとも、退役軍人候補全体をみれば、共和党候補が48%、民主党候補が39%であり、依然として共和党の方が多い。しかし、民主党から出馬する退役軍人も増えており、特に女性候補では民主党が目立っている8。

『ワシントン・ポスト』紙によれば、民主党は退役軍人候補の擁立と退役軍人票をこれまで以上に重視している9。しかしその狙いは退役軍人だけではない。民主党に距離を感じてきた保守的な有権者や地方の有権者に対しても、「国家への奉仕」という共通の価値を通じて接点を作ろうとしているのである。

8月24日の『POLITICO』で、ニュージャージー州知事のミッキー・シェリルは、退役軍人に対して民主党がどのようにアピールすべきかについて、自らの考えを述べた10。彼女自身も海軍での軍務経験をもつ。そこで示されているのは、スロットキンの議論とは異なった見方で、民主党の立場から「愛国心」の試みを翻訳し直そうとする試みだと言える。

シェリルが強調するのは、軍務とは何よりも「公共への奉仕」だということである。国家のために働くことと、政治家として労働者や中間層のために働くこととは、彼女にとって「公共のために働く」という点でつながっている。つまり愛国心を、他者や社会のために働くという行為として捉え直しているのである。民主党がこのような言葉で自らの政治を語ることで、共和党から「愛国心をめぐる物語を取り戻す」ことができるとシェリルは考える。シェリルによれば、その意味で退役軍人候補は単に「軍歴のある候補」なのではない。国家への奉仕と労働者や中間層への奉仕を結びつけ、民主党の立場から愛国心を語り直すことのできる政治的な担い手である。

イラン戦争は転換期になるのか

以上のような民主党内での動きが続く中で、退役軍人票をめぐる政治環境そのものを変える可能性がある出来事が起きた。イラン戦争である。

数週間で終わるとされて始まった戦争は長期化し、米軍の負担も次第に大きくなっている。軍人の死傷者が出ているだけでなく、中東への派遣が長期化し、軍人やその家族への負担が積み重なっている。最近では、イラン戦争に参加してきた空母エイブラハム・リンカーンでの洋上生活が記録的な長さになり、乗組員の疲弊やメンタル・ヘルス上の問題が報じられた。これを受けて、軍上層部もメンタル・ヘルスへの対応を重要な課題として認めるに至っている11。

こうした状況が続けば、イラン戦争は、軍や退役軍人からの強い支持をトランプ政権が当然視できなくなる一つの契機となる可能性がある。

しかも問題は、戦争の長期化だけではない。ヘグセス国防長官の下で、国防総省と軍組織との関係そのものにも亀裂が見え始めている。

ヘグセス国防長官の下では、軍高官の解任、早期退役、辞任が相次いでいる12。2025年2月にはC・Q・ブラウン統合参謀本部議長が任期途中で解任された。ヘグセスは就任前から、DEI政策などとの関係でブラウンを批判していた。さらに最近では、陸軍長官のダン・ドリスコルが辞任した。辞任の理由は公式には明らかにされていないが、ヘグセスと緊張関係が続いていたことは広く報じられている13。

軍人にとって、自らの専門性や職業規範が政治指導者から尊重されることは重要な意味を持つ。軍民関係研究の古典と位置付けられるモリス・ジャノウィッツの『The Professional Soldier』(1960年)以来、軍人は独自の専門知識と職業規範をもつ専門職として捉えられてきた。文民統制の下にありながら、軍人のプロフェッショナリズムは維持されることが重要となる。では、ヘグセスの姿勢は、こうした軍人のプロフェッショナリズムを十分に尊重するものと言えるだろうか。

ヘグセスとしては、こうした人事は「より強い軍」を作るための改革ということであろう。しかし、軍事力を強化することと、軍人の専門性や職業規範に敬意を払うことは、必ずしも同じとは限らないだろう。ここには、「愛国心とは何か」という問題が再び浮かび上がる。軍の統制を強め、軍事力を行使し、「強いアメリカ」を示すことが愛国心なのか。それとも、軍人を専門職として尊重し、その生活や尊厳を守り、退役した後まで国家が責任を果たすことも愛国心なのか。

イラン戦争が長期化し、軍内部の亀裂がさらに目立つようになれば、レーガン以来、共和党が築いてきた「軍」「強いアメリカ」「愛国心」の結びつきにも変化を生じさせる可能性が高まる。その意味で、今回の戦争は、アメリカ政治における愛国心のあり方を考える一つの転換点になるのかもしれない。

おわりに―愛国心を誰が代表するのか

前回の論考では、テキサス州の上院議員選挙に出馬しているジェームズ・タラリコが、共和党が優位に使ってきたキリスト教的価値を、民主党側から別の意味で語り直そうとする動きを見た。今回取り上げた退役軍人をめぐる動きにも、似たような構造がある。タラリコが問いかけているのが「キリスト教的価値を誰が代表するのか」だとすれば、退役軍人候補が問いかけるのは「愛国心を誰が代表するのか」である。どちらも、共和党が政治的に優位に使ってきた価値を否定するのではなく、その意味を民主党的に翻訳し直す試みと見ることができるだろう。

2024年以降、「民主党にはトランプ共和党に取って代わる新しい政治構想や支持連合を作る能力がない」という議論は根強い。確かに、現時点で民主党に一つの明確な新しい方向性ができているわけではないし、スーパースター的な人物がいるわけでもない。しかし、一つの大きな変化が見えないことと、変化が起きていないことは同じではない。

多元主義的なアメリカ社会では、政治的な変化もまた多元的に起こる。一つの大きな動きが突然現れるのではなく、宗教、退役軍人、労働者、地域社会など、それぞれ異なる場所から変化が始まると捉えるべきである。重要なのは、それらを誰が、どのタイミングでつなぎ、新しい政治的な連合としてまとめることができるかである。2026年中間選挙は、その可能性を見極める一つの機会になるだろう。

(了)

  1. 本稿でいう「退役軍人(veteran)」とは、米軍で現役の軍務に就き、不名誉除隊ではない形で除隊・離隊した者を指す。(本文に戻る)
  2. U.S. Census Bureau, “B21001: Sex by Age by Veteran Status for the Civilian Population 18 Years and Over,” 2023 American Community Survey, ACS 1-Year Estimates Detailed Tables, <https://data.census.gov/table/ACSDT1Y2023.B21001?q=Veterans&y=2023>, accessed on September 11, 2026.(本文に戻る)
  3. Joseph Copeland, “Military Veterans Remain a Republican Group, Backing Trump over Harris by Wide Margin,” Pew Research Center, September 30, 2024, <https://www.pewresearch.org/short-reads/2024/09/30/military-veterans-remain-a-republican-group-backing-trump-over-harris-by-wide-margin/>, accessed on September 11, 2026.(本文に戻る)
  4. Leo Shane III, “Breaking Down the Number of Veterans in the 119th Congress,” Military Times, January 2, 2025, <https://www.militarytimes.com/news/pentagon-congress/2025/01/02/breaking-down-the-number-of-veterans-in-the-119th-congress/>, accessed on September 12, 2026.(本文に戻る)
  5. Steven L. Foy and Salvatore J. Restifo, “Reliably Republican? Shifts in U.S. Veterans’ Political Party Affiliation from 1974 to 2016,” Sociological Spectrum, Vol. 38, Issue 3 (2018), pp. 174–193.(本文に戻る)
  6. Takakazu Yamagishi, “Veterans and Americanism: The American Legion and VA Health Care after World War II,” Nanzan Review of American Studies, Vol. 31 (2009), pp. 161–172.(本文に戻る)
  7. Charlotte Alter, “Elissa Slotkin Wants the Democrats to Be the Party of Patriotism,” TIME, November 6, 2018, <https://time.com/5444525/elissa-slotkin-michigan-democrats/>, accessed on September 11, 2026.(本文に戻る)
  8. With Honor Action, “With Honor Action Tracks Record 752 Veterans Running for Congress in 2026, Including Historic Surge in Women Veterans,” June 9, 2026, <https://withhonor.org/news/veterans-running-for-congress-in-2026/>, accessed on September 11, 2026.(本文に戻る)
  9. Naftali Bendavid, “Democrats Step Up Efforts to Woo Military Veterans Ahead of Midterms,” The Washington Post, July 5, 2025, <https://www.washingtonpost.com/politics/2025/07/05/democrats-veterans-midterms-house>, accessed on September 11, 2026.(本文に戻る)
  10. Ali Bianco, “Why Mikie Sherrill thinks vets can build back power for Democrats,” Politico, August 24, 2026, <https://www.politico.com/news/2026/08/23/mikie-sherrill-veterans-democrats-majority-01046847>, accessed on September 25, 2026.(本文に戻る)
  11. Sammy Westfall, “U.S. Commander Calls Mental Health Priority after He Visits USS Lincoln,” The Washington Post, August 16, 2026, <https://www.washingtonpost.com/world/2026/08/16/us-commander-calls-mental-health-priority-after-he-visits-uss-lincoln/>, accessed on September 12, 2026.(本文に戻る)
  12. 『ワシントン・ポスト』はそのリストをまとめている。Victoria Craw, “After Army Secretary’s Resignation, Tallying the Departures of Military Leaders,” The Washington Post, September 1, 2026, <https://www.washingtonpost.com/national-security/2026/09/01/top-military-officials-who-have-departed-under-hegseth>, accessed on September 12, 2026.(本文に戻る)
  13. Ben Finley and Aamer Madhani, “Army Secretary Dan Driscoll Is Stepping Down after 18 Months on the Job, White House Says,” The Washington Post, August 31, 2026, <https://www.washingtonpost.com/politics/2026/08/31/driscoll-departure-army-secretary-hegseth/678929a4-a58a-11f1-9e38-f705d048bd5a_story.html>, accessed on September 12, 2026.(本文に戻る)

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