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論考シリーズ | No.205 | 2026.7.6
アメリカ現状モニター

米国のイラン攻撃の「失敗の本質」
―反パウエル・ドクトリン?―

渡部 恒雄

笹川平和財団上席フェロー

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2月に始まった今回の米国のイラン攻撃は、様々な過去の戦争の中でも「異形」の軍事作戦といえる。まず、第二次トランプ政権が国家安全保障戦略と国家防衛戦略などで示してきた抑制主義や西半球主義などから逸脱している1。また国際法および国内法の明らかな軽視は国内外で問題視されている2。本稿が着目するのは、現実主義(リアリズム)の観点からみた問題点である。過去の共和党政権においては、米国の国益に即して「ワインバーガー・ドクトリン」や「パウエル・ドクトリン」として軍事力行使のための検討基準が共有されてきたが、第二次トランプ政権のイラン攻撃はここから大きく逸脱しているからだ。

執筆時点では、トランプ政権は、イランとの終戦とホルムズ海峡開放のための協議のために60日間の停戦の覚書に合意をして協議を続けているが、停戦の条件の一つであるレバノンにおけるイスラエルと武装組織ヒズボラの停戦が難航するなど、不確定要素は大きく、恒久的な戦闘終結にいたるかどうかは予断を許さない。一方で合意された覚書で示されたイランへの譲歩の内容を見る限り、トランプ政権は11月3日の中間選挙を睨み、一般有権者が不満を持つ米国内のガソリン価格を下げるために、終戦を急いでいるように思われる3。

例えば覚書には、イランが国内で濃縮ウランを希釈することを認める内容が含まれているが、開戦後にトランプ大統領が発言していたイランの核兵器製造能力を完全に奪うという目標から大きく後退する譲歩だ4。これは武力行使において達成可能で明確な目標を求めている「パウエル・ドクトリン」の欠如を示唆している。本稿では、「パウエル・ドクトリン」の項目と照らし合わせて、トランプ政権の拙速な戦争準備とその背景を考察する。

パウエル・ドクトリンを全く無視した開戦

米国の軍の指導者は、ベトナム戦争の泥沼化という深刻な失敗の経験から、軍事力を行使する場合には事前に十分な検討が必要であると考え、いくつかのドクトリン(検討・行動基準)を提言してきた。レーガン政権のキャスパー・ワインバーガー国防長官はワインバーガー・ドクトリンを提唱した。そしてブッシュ(父)政権で統合参謀本部議長を務めたコリン・パウエル氏は、湾岸戦争に際して、ワインバーガー・ドクトリンを継承してパウエル・ドクトリンを提唱した。

具体的には以下が検討事項として挙げられている5。

①重要な国家安全保障上の利益が脅かされているか?
②達成可能な明確な目標はあるか?
③リスクとコストは十分かつ率直に分析されたのか?
④その他の非軍事的な政策手段はすべて使い尽くされたか?
⑤泥沼化を避けるための妥当な出口戦略はあるか?
⑥行動の結果は十分に検証されているのか?
⑦行動はアメリカ国民に支持されているのか?
⑧本当に幅広い国際的支持を得ているのか?


今回のイランへの攻撃後まもなく、米国の安全保障シンクタンク「米国新安全保障センター」(CNAS: Center for a New American Security)所長のリチャード・フォンテーンが、フォーリンアフェアーズ誌のウェブサイトへの寄稿で、これらを検討している。彼は今回のイラクへの軍事作戦の内容を「反パウエル・ドクトリン」と呼び、パウエル・ドクトリンから逸脱しているどころか、それに反していると分析した6。

フォンテーンは、今回の軍事攻撃がイランとの交渉の最中に、イラン側の不意を突く形で行われた点に着目する。米軍はイラン周辺に軍事力を集結させていたとはいえ、これはドクトリン②が求めている、「達成可能な明確な目標」を不明瞭なものにしている。それまでに、国内での議論もほとんどなく、米国の同盟国との議論もなく、議会からの合意の決議もなかったため、本来であれば、その過程で求められる軍事力行使の目的が政権から提示される機会がなかったからだ。しかも攻撃から二日目に入っても、トランプ政権は、明確な戦争終結の道筋を示すことができなかったとフォンテーンは指摘する。

フォンテーンは、第一期トランプ政権時のシリアのアサド政権へのミサイル攻撃や、イラクとシリアでのテロ組織「イスラム国」(ISIS)への軍事攻撃、イラン革命防衛隊のカッサム旅団のソレイマニ司令官の殺害、さらには昨年のイエメンのフーシ派への攻撃、イランの地下核施設への攻撃、北ナイジェリアの武装勢力への攻撃、今年のベネズエラのマドゥロ大統領拘束のための侵攻、そして今回のイランへの攻撃、これらすべてが、それまでの伝統的な米国の軍事力行使とは一線を画するものだ、と述べている。

それはドクトリン④の政治、外交、経済などの「その他の非軍事的な政策手段はすべて使い尽くされたか?」という原則にも反している。実際、どの武力行使も過去の米国の政権のように、軍事力行使の前に相手に対して最後通告を突きつけて政策目標を達成しようとはしておらず、自らの手の内を見せずに相手の意表を最大に突いて目標を達成しようとしている、とフォンテーンは指摘する。

ドクトリン⑦の国民の支持を得るという点でも、トランプ大統領は自らの戦争の意図を明確にするどころか、相手の意表を突くために柔軟性を最優先して、自国民や議会に事前の説明をしたりはしていない。フォンテーンによれば、事前説明の欠如は、今回のイラン攻撃だけではなく、一期目も含むトランプ政権すべての軍事攻撃に当てはまる。

トランプ政権は、過去のどの米国の武力行使と比較しても、国民や議会の理解を得るための努力を行っていない。その結果、開戦当初の国民の支持率は、過去のどの戦争よりも低い。ニューヨークタイムズは、過去の支持率と比較しているが、過去最も支持が高かったケースは、日本の真珠湾攻撃を受けた後の1941年の米国の対日開戦で97%の支持があり、トランプ氏も批判してきた2003年のイラク戦争でも76%の支持があったが、今回のイラン戦争への支持は、過去最低の41%だった7。

これらの点は、そもそも、トランプ氏が不動産業におけるディール重視のビジネススタイルを、国家間の外交や戦争に持ち込んでいること自体が、パウエル・ドクトリンの実行を不可能にしているという根本的な問題に行き着く。トランプ氏個人のディールの手段として、軍事力を使っている以上、軍事力行使は非軍事的手段をすべて使い果たした後に行うべきというドクトリン④を遂行することは、原理的に不可能だからだ。

ドクトリン⑧の国際的支持についても、特に米国の主要同盟国の欧州主要国がイラン攻撃に反対しており、NATOの結束を崩す結果となった。米国とイスラエルのイランへの軍事攻撃の後、英仏独の首脳は共同声明を出し、イランの報復攻撃を非難する一方で、「われわれは交渉の再開を求める」と米・イスラエルに自制を促した8。カナダと豪州は、米国を支持するとの立場を表明し、日本は軍事行動への言及を避けたが、幅広い国際的支持を得るどころではなかった。

相手との駆け引きによるディールにおいて、軍事力行使をカードに使っているため、同盟国と事前に軍事力行使の了承を得るというような時間的余裕はなく、そもそも、相手に自らの手の内を晒すことになるような調整は、トランプ流ディール外交には馴染まなかった。

軍事攻撃がもたらす影響の検討の欠如が最も深刻

筆者が、今回のイランとの開戦が、米国の国益により深刻な影響をもたらしていると考えているのは、ドクトリン③のコストとリスクの分析の必要性とドクトリン⑥の行動の結果の十分な検証の欠如、という点だ。

現時点で振り返ると、トランプ政権は、イランによるホルムズ海峡の封鎖の可能性とリスクについて、十分に検討せずにイランへの攻撃を行ったと思われる。その結果、イランはホルムズ海峡の事実上の封鎖を行い、世界全体への原油の供給を約20%削減させることになった9。それは、イランに対して、世界経済と米国内のガソリン価格を人質にとるホルムズ海峡封鎖という強い交渉カードを与えることになり、交渉における米国の立場をかつてないほど弱めることになった。また、コスト面では、イランとの戦闘の最初の2カ月だけで720億ドル(約12兆円)が投じられたという試算が、米シンクタンクによってなされているが、これは日本の防衛予算の1年分を使い、なお3兆円が足りない状況だと指摘されている10。

このような深刻な結果を、トランプ政権が、軍事力行使の前に十分に検討していなかったことについては、多くの報道がなされている。3月13日付のウォールストリートジャーナル紙の「トランプはイランがホルムズ海峡を封鎖するリスクを知っていたが、戦争を進めた(Trump Knew the Risk of Iran Blocking the Strait of Hormuz. He Still Went to War)」は、タイトル通り、トランプ氏と政権幹部の開戦決定の問題に焦点をあてている。この記事は、トランプ政権による議会向けの機密ブリーフィングに参加した民主党のクリス・マーフィー上院議員の「彼らは開戦前に計画を持っておらず、一週間経過しても計画がないという事実は、とても衝撃的だ」という批判的発言を引用し、ホルムズ海峡の封鎖による経済混乱こそが、トランプ政権に開戦前の十分な計画と検討がなかったことを反映していると指摘する11。

この記事によれば、通常の米国政府では、武力行使の前には、外交官、インテリジェンス・オフィサーと閣僚が、数週間から数か月の時間をかけて、武力行使の効果や影響を十分に検討するが、トランプ政権では、トランプ氏が情勢に対して迅速に対応できるように、また情報漏洩を防ぐ目的もあり、ヴァンス副大統領、ルビオ国務長官、ヘグセス国防長官などの極めて少数のグループが、イラン攻撃の検討に参加したと指摘している。トランプ氏の開戦の意志が強くなる中で、その忠誠心を常に試されている参加メンバーが、ホルムズ海峡封鎖の影響を真剣に検討する雰囲気ではなかったことが想像できる。

同記事は、ケイン統合参謀本部議長は、トランプ氏へのブリーフィングで、イランへの軍事攻撃により、イランがホルムズ海峡を封鎖するリスクがあると伝えていたという発言を取り上げている。しかし、状況を知る関係者によれば、トランプ氏はリスクを承知していたが、イランがホルムズ海峡を封鎖しようとしても、その前にイラン側が米軍に屈服するだろうと、話していたようだ。

トランプ氏がそのような自信を持っていた背景には、軍とケイン統合参謀本部議長への強い信頼があり、特に昨年6月の「12日間戦争」でのイランの核施設の攻撃や、今年1月のベネズエラのマドゥロ大統領の拘束作戦の成功により、その信頼が強くなったと指摘されている。

同記事は、開戦前のトランプ政権の少数のグループによる開戦検討の中で、十分な出口戦略が検討されていなかったとも指摘する。政権外のトランプ氏の助言者たちは、戦争を終結させる出口を準備しておくように伝えていたが、側近の証言によれば、トランプはすぐに戦争を終結させる計画は持っておらず、むしろ、イラン軍とヒズボラなどのイランの代理勢力への攻撃継続を強く進めていた。これは、出口戦略を求めるドクトリン⑤に大きく反している。

さらにイランにホルムズ海峡封鎖という強いカードを持たせたことで、出口戦略を難しくしている。少なくともトランプ大統領は、イランとの合意を急ぐために、イランの核能力やミサイル能力維持に対して、強い姿勢を取ることができない状況にある。かたやイラン側は、米国が大規模な地上軍を送って、イランを軍事占領できるような支援がない以上、停戦後も、自国の安全や利益が脅かされると感じれば、すぐにホルムズ海峡での機雷の敷設を示唆するだけで、強い交渉力を持つことになる。これは、「行動の結果の検証」というドクトリン⑥の欠如により引き起こされた深刻な結果といえる。

トランプ政権の「反パウエル・ドクトリン」により引き起こされた米国の外交的な立場の弱さについては、米国民も十分理解しているようだ。6月17日の米国とイランの和平に向けた覚書(MOU)に署名した直後のロイター・イプソスの世論調査では、軍事攻撃開始前と比べて米国がイランに対しより強い立場にあると考える回答者は全体の23%であった。共和党支持者の間でも約50%で、35%が米国の立場が以前より弱くなったと回答している。イランへの軍事攻撃が費用に見合っていると考えるとの回答は24%で、半数は「見合わない」と回答している。また63%が、MOUがイランとの恒久的な平和をもたらす可能性は低いと回答し、共和党支持者の約50%、民主党支持者の約80%が、和平の実現可能性は「低い」と答えている12。

おわりに

イラン戦争の事前の計画と検討、そして政治判断について、パウエル・ドクトリンを介在に検討してわかったことは、フォンテーンが指摘する「反パウエル・ドクトリン」は、トランプ大統領の個人の成果を重視するディール志向の外交スタイルと、分かちがたく結びついているという事実である。

最後に、ドクトリン①の重要な国家安全保障上の利益が脅かされているか、という点を検討してみる。イランの核兵器開発までにかかる日数は一週間程度と見積もられている。しかし、これまでイランはウラン濃縮を外交カードとして使用するが、あえて核兵器を製造するまでには至らない「寸止め」戦術をとってきた13。よしんば核兵器を持ったとしても、イランは米国からは距離があり抑止は十分可能だ。

つまり、2月28日にトランプ政権がイスラエルとともにイランへの軍事攻撃を行った時点で、米国の安全保障上の利益が喫緊に脅かされる状況とはいえなかった。しかし、そもそもイランへの軍事攻撃を政治的な目的達成の最終手段ではなく、イランとの交渉におけるディールの一手として考えているトランプ氏にとっては、ドクトリン①は検討事項ですらなかったはずだ。

今回のイラン攻撃におけるパウエル・ドクトリンによる検討の欠如は、歴史的にみれば、ワシントンのアウトサイダーのトランプ氏が、過去の米国政府の戦争遂行において得られた多くの知見を軽視、無視したことで引き起こされたた「愚行の世界史」14の一つとして記録されるのかもしれない。

(了)

  1. 拙稿「トランプ2.0政権の外交・安全保障政策に戦略はあるのか?」SSDP 安全保障・外交政策研究会、2026年2月28日、<https://ssdpaki.la.coocan.jp/proposals/217.html>(2026年7月2日参照)。(本文に戻る)
  2. 「米上院、対イラン戦争停止の決議案を初可決 両院そろってトランプ政権を批判」『BBC』2026年6月24日、<https://www.bbc.com/japanese/articles/c802gd4nxvdo> (2026年7月2日参照)。(本文に戻る)
  3. 「トランプ氏、ホルムズ開放最優先=中間選挙迫り、ガソリン高騰に屈す―イランは『封鎖カード』手中に〔潮流底流〕」『時事通信ニュース』2026年6月15日、<https://sp.m.jiji.com/article/show/3799292> (2026年7月2日参照)。(本文に戻る)
  4. 飛田臨太郎「米イラン覚書、両大統領が署名 米高官が全文明かす ウラン国内希釈で同意」『日本経済新聞』2026年6月18日、<https://www.nikkei.com/article/DGKKZO96991540Y6A610C2MM0000/>(2026年7月2日参照)。(本文に戻る)
  5. Christopher Preble, “The Powell Doctrine’s wisdom must live on,” Atlantic Council, October 18, 2011, <https://www.atlanticcouncil.org/blogs/new-atlanticist/the-powell-doctrines-wisdom-must-live-on/>, accessed on July 2, 2026; Colin L. Powell, “U.S. Forces: Challenges Ahead,” Foreign Affairs, Winter 1992/93 (published on December 1, 1992), <https://www.foreignaffairs.com/articles/1992-12-01/us-forces-challenges-ahead>, accessed on July 2, 2026. (本文に戻る)
  6. Richard Fountain, “Trump’s Way of War: Iran, Venezuela, and the End of the Powell Doctrine,” Foreign Affairs, March 2, 2026, <https://www.foreignaffairs.com/united-states/trumps-way-war-iran-venezuela?check_logged_in=1>, accessed on July 2, 2026.(本文に戻る)
  7. Lily Boyce and Ruth Igielnik, “Unlike Past U.S. Conflicts, Iran Attack Is Opposed by Most Americans,” The New York Times, March 10, 2026, <https://www.nytimes.com/2026/03/10/us/politics/polls-wars-us-support.html?searchResultPosition=2>, accessed on July 2, 2026.(本文に戻る)
  8. 「米同盟国、自制要求と支持に分断 対イラン軍事作戦―日本は論評回避」、『時事ドットコム、2026年3月2日、<https://www.jiji.com/jc/article?k=2026030100660&g=int>(2026年7月2日参照)。(本文に戻る)
  9. 高橋雅英「中東:イラン情勢の緊迫化を受け、ホルムズ海峡が通航不可」(中東かわら版 No.127)、中東調査会、2026年3月2日、<https://www.meij.or.jp/kawara/2025_127.html>(2026年7月2日参照)。(本文に戻る)
  10. 「衝突の代償(上)米戦費12兆円、効果乏しく 2カ月で「日本」の予算超す」『日本経済新聞』2026年6月29日、<https://www.nikkei.com/article/DGKKZO97217320Z20C26A6MM8000/>(2026年7月2日参照)。(本文に戻る)
  11. Alexander Ward, Lara Seligman, Alex Leary & Vera Bergengruen, “Trump Knew the Risk of Iran Blocking the Strait of Hormuz. He Still Went to War,” The Wall Street Journal, March 13, 2026, <https://www.wsj.com/politics/national-security/iran-oil-hormuz-blockade-trump-f96bdd53>, accessed on July 2, 2026.(本文に戻る)
  12. 「トランプ氏支持率低下、イラン攻撃「代償に見合う」は24%=ロイター/イプソス調査」『ロイター』2026年6月23日、<https://jp.reuters.com/world/security/NXHZJIKOBZNZDFYJQZ3DXAWKEI-2026-06-23/> (2026年7月2日参照)。(本文に戻る)
  13. 「核爆弾製造まで『1週間』 イランの核開発『寸止め』戦略とは」『朝日新聞』2024年6月24日、<https://digital.asahi.com/articles/ASS6S4HT5S6SUHBI04WM.html>(2026年7月2日参照)。(本文に戻る)
  14. バーバラ・W・タックマン(大社淑子訳)『愚行の世界史(上)(下)』(中公文庫、2009年)。(本文に戻る)

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