ロシアが2022年2月24日にウクライナへ軍事侵攻を開始したことは、世界に衝撃を与えた。地理的に離れた東南アジアも、その例外ではなかった。ただ、東南アジア地域には東ティモールを含め11カ国があり、各国の反応は様々であった。そうした違いが生じた理由は何か。本小論は、ウクライナ情勢への東南アジアの反応につき、特に地域各国とロシアの2国間関係の観点から考察する。

ASEANとしての反応――3回の共同声明

 東南アジア諸国連合(ASEAN)は、軍事侵攻の開始から約1か月半の間に、ウクライナ情勢に関して3回の(共同)外相声明を発表した。比較的早いペースで次々と声明が出されたことは、ウクライナ情勢に対するASEANの強い関心(と懸念)を示していた。

 最初の声明は、侵攻の開始から2日後の2月26日に発表された。声明はわずか2段落の非常に簡潔なもので、ウクライナ情勢の悪化を懸念し、すべての関係当事者に対し、最大限の自制と対立の平和的解決を求めた。また同声明は、主権、領土の一体性、平等な国家間関係といった原則を支持するようすべての当事者に要求した[1]。

 2回目の声明は、ウクライナにおける戦火の拡大を受け、3月3日に発表された。この声明は、1回目の基調を踏襲しつつ、人道危機の拡大を懸念し、関係当事者間の仲介の意思を表明した[2]。そして4月8日、ASEANは3回目の声明を発表した。同声明は人道危機に焦点を当て、ブチャをはじめとする民間人の殺害に強い懸念を示すと共に、民間人の被害に関する独立調査委員会の設置を求める国連事務総長への支持を表明した[3]。

 3回の声明はいずれも、ロシアを直接名指しで非難することはなく、ロシアやウクライナといった交戦主体の国名に言及することもなかった。3回の声明を通じ、すべての当事者に自制と平和的解決を求め、ロシアとウクライナいずれからも等しく距離をとるかのようなASEANの態度は変わらず、その点ロシアに対する強い配慮を感じさせる。ただ、ウクライナ各地における民間人への残虐行為が明らかになるにつれ、戦火の拡大と情勢の深刻化に対するASEANの懸念は強まっていった。

東南アジア各国の反応と対応――各国の声明、国連での投票行動

 ロシアのウクライナ侵攻に対して、東南アジア各国レベルでの反応は、3種類に大別された。第1に、明確にロシアを非難するものである。東南アジアの11カ国の中で、唯一シンガポールだけが「ロシア」と国名を明示し、「いかなる口実の下でも、主権国家のいわれなき侵略を強く非難する」外務省報道官のコメントを発表した[4]。さらに、シンガポールは3月初旬、軍装備関連製品の輸出や銀行取引を禁止する、対露経済制裁措置を発表した[5]。

 第2に、控えめな、及び腰ともいえる懸念表明である。そこでのキーワードは「自制」や「平和的解決」であり、これをロシアとウクライナ双方に呼び掛ける。また「ウクライナ情勢」に懸念を示しつつも、ロシアやウクライナといった交戦主体の国名に言及することはなく、ロシアに対する強い配慮がうかがえる。東南アジアの多くの国々の声明がこうした言い回しに終始したが、換言すれば、最も多くの国々の考えが、ASEANの外相声明に反映されたといえる。

 ただ、インドネシアは「ウクライナへの軍事攻撃は容認できない」、ブルネイも「いかなる国の主権、独立と領土の一体性のいかなる侵害も非難する」とやや踏み込んで言及するなど、明確な対露非難とロシアへの配慮の中間に位置する国もあった[6]。

 第3に、ロシアを積極的に支持するものである。ミャンマー軍事政権の報道官は「ロシアは自らの主権を維持するために行動している」と述べ、米国に対抗するロシアの役割を称賛した[7]。

 国連においても、東南アジア諸国の投票行動は分かれた。2022年3月2日、国連の特別緊急総会が開催され、ロシアのウクライナ侵攻に対する非難決議の評決が行われた。評決では、東南アジアの9カ国が賛成票を投じ、ラオスとベトナムは棄権した(ミャンマーについては、クーデター前の文民政権が引き続き代表を務めており、同大使は賛成票を投じた)。さらに、シンガポールに加えカンボジアと東ティモールは、決議の共同提案国にも名を連ねた[8]。多くの東南アジアの国々が、個別の声明ではロシアに配慮し、穏健な対応に終始したが、国連の集団的な場においては、力による国家主権や領土の一体性の侵害を容認しない姿勢を示すことができた。

 しかし、4月7日に行われた国連人権委員会へのロシアの参加資格停止に関する決議については、多くの東南アジア諸国は再度日和見的な態度をとった。賛成票を投じたのはフィリピン、東ティモールと文民政権のミャンマーのみであり、ラオスとベトナムは反対し、シンガポールやカンボジアを含む6カ国は棄権した。ロシアを名指しで非難し、経済制裁にも加わっているシンガポールは棄権の理由について、「ウクライナにおける人権と国際人道法の侵害に関する独立調査委員会の結果を待つべきであったため」と釈明した[9]。

東南アジア各国とロシアの関係――軍事面での重要性

 ロシアのウクライナ侵攻に関して、東南アジア諸国の反応と対応はなぜばらつきを見せ、一貫性を欠くのか。その理由は、彼らが重視する様々な国益が相互に矛盾するためである。まず東南アジアの国々は、大国の力による主権や領土の一体性の侵害にきわめて敏感であり、法の支配に基づく国際社会の秩序が維持されることを切望している。これは抽象的な理想論ではなく、植民地支配と冷戦期の大国間対立の歴史をかいくぐって独立を維持し、国家建設を進めてきた東南アジア諸国にとって、現実的かつ切実な問題である。

 しかし一方で、彼らにとってロシアの存在は無視できない重要性を帯びている。経済面ではそれほどでもないが、多くの国々にとって、ロシアは軍事面で重要である。ロシアは、東南アジアに対する最大の装備供給国であり、特にベトナム、マレーシア、インドネシアは、この20年間でスホーイ戦闘機をはじめとする大量の装備をロシアから調達してきた[10]。またロシアは近年、従来の「得意客」に加え、「新規顧客」の開拓を進めている。例えばフィリピンは、ドゥテルテ大統領のイニシアチブでロシアとの軍事協力を進展させており、現在ロシア製輸送ヘリコプターの調達手続きを進めている[11]。

 タイもロシアとの協力を進めており、両国間でヘリコプターや戦車の調達、装備の共同開発やメンテナンス施設の建設といった防衛産業に関する協力が議論されてきた[12]。2014年のクーデター以後、軍が政治の実権を握るタイにとって、ロシアとの協力は単に軍事的な意味にとどまらない。ロシア(や中国)との関係強化は、自らの権威主義的な体制に対する政治的な支持を取り付けるという意味を帯びている。

 軍事的、そして政治的な観点からもロシアとの関係を特に重視しているのが、ミャンマー、ラオス、ベトナムである。2021年2月のクーデターで文民政権にとって代わり、国際的な批判を浴びているミャンマーの軍事政権にとって、ロシアからの政治的な支援は非常に重要である。また、軍事政権に反対する自国民の弾圧や少数民族武装組織との戦闘に用いられる兵器は、ロシアから供給され続けている[13]。

 ラオスは、1975年の人民革命党政権の成立以後、冷戦期のソ連、そしてポスト冷戦期のロシアとの友好関係を一貫して維持してきた。近年、政治・経済・安全保障とすべての面でラオスに対する中国の影響力が著しく拡大しているが、特に政治と安全保障の面では、ベトナムとの関係も依然として重要である。ラオスは、南シナ海問題によって緊張関係をはらむ中越関係を背景に、対中関係と対越関係のバランスに苦慮している。そのため、対外関係を多角化し、パートナー間の相互牽制によって自らの戦略的な自律性を高めるため、ロシアの関与を必要としている。ロシア側も、東南アジアへの影響力拡大の足掛かりとしてラオスとの関係強化を重視しており、戦車や戦闘機といった装備の提供等、得意分野である軍事協力を進めている[14]。

 ベトナムは、ロシアの装備輸出先として世界第5位、東南アジアで第1位という、ロシア兵器ビジネスの「得意客」であり、ベトナム人民軍のロシア製装備への依存度はきわめて高い。過剰な対露依存を問題視し、ベトナムは調達先の多角化を試みてはいるが、現に配備されているロシア製装備との相互運用性、ロシア製装備の「使い勝手の良さ」やロシアへの親近感(人民軍幹部はロシアで教育訓練を受けた者が多い)、さらにはベトナムにとって適正な調達価格などの理由により、ロシアへの依存は容易に解消できるものではない[15]。

 ベトナムがロシアとの関係を重視することには、歴史的な経緯もある。冷戦後期の1980年代、ベトナムによるカンボジア侵攻と中越戦争を契機として、ベトナムは国際社会で孤立したが、その際ソ連はソ越友好協力条約に基づき、ベトナムを経済的・軍事的に支援し続けた。ベトナムはこうしたソ連時代の支援に対し、いまだに「恩義」を感じている[16]。ベトナム国民の対露イメージも概して良い。そのためベトナムは、ロシアと包括的戦略パートナーシップ関係を結んでおり、対露関係はベトナムの対外関係にとって最も重要な2国間関係の1つに位置付けられている。

 以上、ウクライナ侵攻を深く懸念しつつも、東南アジアの多くの国々が、対露関係に鑑み、声明や国連での投票行動においてロシアへの強い配慮を示している。そうした中、軍事的にも経済的にも自らにとってロシアの重要性が相対的に低いシンガポールには、今度は「ASEAN内でのバランス」に配慮する必要が生じている。対露批判一辺倒はASEAN内でのバランスを欠く恐れがあり、シンガポールはそうした点を考慮し、国連人権委員会で棄権を選択したと考えられる。

 (本稿の見解は筆者個人のものであり、筆者の所属機関の公式見解ではない)

(2022/05/20)

脚注

  1. 1 ASEAN, “ASEAN Foreign Ministers’ Statement on the Situation in Ukraine,” February 26, 2022.
  2. 2 ASEAN, “ASEAN Foreign Ministers Calling for Ceasefire in Ukraine,” March 3, 2022.
  3. 3 ASEAN, “ASEAN Foreign Ministers’ Statement on the Reported Killing of Civilians in Ukraine,” April 8, 2022.
  4. 4 Ministry of Foreign Affairs, Singapore, “MFA Spokesperson’s Comments on the Situation in Ukraine,” February 24, 2022.
  5. 5 Ministry of Foreign Affairs, Singapore, “Sanctions and Restrictions against Russia in Response to its Invasion of Ukraine,” March 5, 2022.
  6. 6 Ministry of Foreign Affairs of the Republic of Indonesia, “Indonesian Government Statement regarding the Military Attack in Ukraine,” February 25, 2022, Ministry of Foreign Affairs, Brunei Darussalam, “Brunei Darussalam’s Statement on the Situation in Ukraine,” February 26, 2022.
  7. 7Myanmar Regime Backs Russia’s Invasion of Ukraine,Irrawaddy, February 25, 2022.
  8. 8 Shannon Tiezzi, “How Did Asian Countries Vote on the UN’s Ukraine Resolution?The Diplomat, March 3, 2022.
  9. 9Singapore abstains from vote to suspend Russia from UN human rights body, urges support for inquiry on violations in Ukraine,Channel News Asia, April 8, 2022.
  10. 10Why Southeast Asia continues to buy Russian weapons,DW, April 5, 2022.
  11. 11 Joshua Espeña, “How the Russia-Ukraine War Will Impact Philippines-Russia Relations,The Diplomat, March 25, 2022.
  12. 12 Prashanth Parameswaran, “What’s Next for Russia-Thailand Military Ties?The Diplomat, January 20, 2017.
  13. 13 Sebastian Strangio, “Myanmar Junta Chief Arrives in Russia for Security Conference,The Diplomat, June 21, 2021.
  14. 14 Dimitri Simes, “Russia quietly expands military ties with Laos,Nikkei Asia, December 14, 2021.
  15. 15 Le Hong Hiep, “Will Vietnam Be Able to Wean Itself Off Russian Arms?Fulcrum, April 4, 2022.
  16. 16 Hai Hong Nguyen, “Russia’s Invasion of Ukraine: The Diplomatic Dilemma Facing Vietnam,The Diplomat, March 4, 2022.