アフガニスタン安定化へ向けての最前線となった中央アジア

 8月31日、米軍はアフガニスタンからの撤退を完了した。これにより中ロが米国にとって代わり、プレゼンスを強化するのではないかとの観測や分析がメディアを中心に飛び交っている。

 同様のことは、アフガニスタンに隣接する中央アジア(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン)においても指摘されている。米軍撤退に先立ち、8月上旬にはロシア、ウズベキスタンおよびタジキスタンが3か国合同軍事演習を[1]、中旬にはタジキスタンが中国公安省との治安機関間での対テロ演習を実施した[2]。中央アジア研究者のアレクサンダー・クーレイはフォーリン・アフェアーズ誌への寄稿「A Post-American Central Asia」において、中央アジアに米軍基地が設置された2001年と比べ、中央アジアをめぐる大国間関係は様変わりした旨指摘している[3]。

 しかし一方で、中ロという域外の巨大アクターに関心が向けられ、中央アジア各国の動向についてはあまり注目されていないようである。例えばアフガン情勢が不安定化した当初、国境を越えて逃亡するアフガンの旧政権軍兵士や難民の受け入れについては、ウズベキスタンは消極的な姿勢を示した一方、タジキスタンは受け入れに前向きな姿勢を示すなど[4]、対応に相違がみられた。

図1

図1 出典:外務省

出典:外務省

 本稿では、この対応が異なるタジキスタンとウズベキスタンについて特に焦点を当て、アフガン情勢の不安定化を受けた中央アジア諸国の動向について比較を試みる。各国の動向や思惑、その相違について理解しておくことは、中ロならず日本を含む西側諸国にとっても重要であろう。それを踏まえたうえでの日本の関与のあり方についても提案する。

タジキスタン:タリバンへの警戒と、タジク系住民への関心

 タジキスタンについては、前述した合同軍事演習に加え、情勢悪化を受けた2万人の予備役動員[5]や、国境を越えて庇護を求めてきた旧政権軍兵士の受け入れ[6]など、特に動きが目立っている。

 これまでのタジキスタンのアフガン情勢に対する態度については、過激派の越境に対する高い警戒度合いと、タリバンに対する厳しい姿勢、という2点が特徴として指摘できる。これには、タジキスタンがアフガニスタンからの過激派や武装集団の浸透に脅かされてきた経緯が影響していると思われる。例えば2010年にはアフガン国境付近にて、軍の車列に対する待ち伏せ攻撃が発生し、23人の兵士が死亡する事件が発生した[7]。2015年には、内務省のテロ対策部門のグルムロド・ハリモフ警察大佐がISISに加入する事件が発生した。同大佐は過去に米国にて対テロ訓練を受けていたこともあり、西側でも驚きをもって報じられた[8]。そのほか、刑務所での暴動の発生など、タジキスタンが安全保障、過激派対策といった分野で抱く危機感は非常に高いといえる。

 タリバンは対タジキスタン国境の警備を、タジキスタン人からなる過激派組織であるジャマート・アンサルッラーに任せたという報道が流れている。この組織は1992年に勃発したタジキスタン内戦後、和平プロセスを不服としてアフガニスタンに逃れた急進的なグループであり[9]、内戦の「勝者」として権威主義体制をしくラフモン大統領にとっては、その存在が容れがたいといえる。

 また、タジキスタンは、自国に住むタジク人よりも多いとされるアフガニスタンのタジク系住民にも関心を示している[10]。タジキスタン政府はアフガニスタンにおいては包括的(inclusive)な政府が樹立されるべきであると主張しているが、そのほかの公式な言説を加味すると、アフガニスタンのタジク系住民が不利益を被る可能性について憂慮を示していると思われる。野党勢力からはアフガニスタンのタジク系住民が抑圧されているとしてタリバンを非難するとともに、タジク系であるマスード将軍を支持する声があがるなど[11]、同じくアフガニスタンに同民族の少数派が存在するウズベキスタンやトルクメニスタンと比較すると、アフガニスタンの民族的「同胞」に持つ関心は相対的に高いように見える。

ウズベキスタンとトルクメニスタン:したたかな外交、どうなる「南への回廊」

 ウズベキスタンとトルクメニスタンがアフガニスタンおよびタリバンに対してとる態度は、タジキスタンのそれとはやや異なる。タリバンとチャンネルを維持しつつ、南アジア方面への経済面での接続確保へ向けた機会を維持しようとしている。

 8月27日、ウズベキスタンのミルジヨエフ大統領は、ウズベキスタン政府が2年前からタリバンとコンタクトを維持してきたと公言した[12]。実際、2018年にタリバンの代表がウズベキスタンを訪問している[13]。また、今年4月には外相がカタールにおいてタリバン代表と会談し、アフガンの和平プロセスについて協議したほか、タリバン側から、「アフガニスタンは中央アジアと南アジアを結ぶ信頼と協力の架け橋となれる」としつつ、ウズベキスタンのエネルギーおよびロジスティック分野での支援への謝意が伝達されている[14]。この会談が後述する7月の国際会議に先立って実施されたことは留意されるべきであろう。

 ウズベキスタンがタリバンとの交渉を維持してきた背景としては、南アジア方面との接続に強い関心を抱いてきたことがあると思われる。ウズベキスタンは世界に二つしかない二重内陸国(国境を接する国もまた内陸国である国。もう一つはリヒテンシュタイン)である。ミルジヨエフ現大統領は外国からの投資誘致に力を入れており、ウズベキスタンが抱えるロジスティックの問題の克服は重要な課題である。7月にウズベキスタンで開催された南アジアとのコネクティビティに関する国際会議でも輸送網が重視された[15]。また、これに先立つ5月には、パキスタンのカラチ市を出発したトラックがアフガニスタンを通過しウズベキスタンの首都タシケントまで走行する試みが行われ、出発から5日後に到着している[16]。

 過激派の伸長に対する懸念についてはどうか。ウズベキスタンにとっての過激主義の脅威として、ウズベキスタン・イスラム運動(IMU)があった。カリモフ初代大統領に対する暗殺未遂事件や爆弾テロ事件を起こしたとされ、1999年にはキルギスとの国境地帯で日本人鉱山技師と通訳を誘拐する事件を起こしている(その後人質は解放)。しかしその後、ISへの合流や指導者の死亡によりそのプレゼンスおよび活動が大きく減退しており、近年では目立った活動を見せていない[17]。

 先述したように、ウズベキスタンは難民受け入れに消極的である。6月下旬には庇護を求めてきた旧政権軍兵士を国境で追い返したほか[18]、国境地帯に設置したキャンプに避難民を受け入れたものの、その後送還するなど不安定要素を国内へ入れることへの強い警戒心がうかがえる[19]。ただその一方、ウズベキスタンは、欧米諸国を含めた各国の自国民退避便のトランジットを数多く受け入れている[20]。国際線が就航する空港が複数あることから[21]、このインフラをフルに活用する格好となった。

 一方、トルクメニスタンに関するアフガン情勢との関連情報は、報道を含めきわめて限定的にしか公開されていない[22]。ここでは紙幅の関係もあり、TAPI(トルクメニスタン・アフガニスタン・パキスタン・インド)パイプライン敷設構想をめぐる動きについて概観するにとどめておく。

 TAPI構想は、旧ソ連ではロシアに次ぐ天然ガスの埋蔵量であるトルクメニスタンを、アフガニスタンを経由して南アジアとのパイプラインで結ぶ計画である(図2参照)。90年代に構想が持ち上がり、ガス輸出先を中国に依存するトルクメニスタンにとっては輸出先の多角化が見込まれる事業であった[23]。

図2

図2:2017年、カザフスタン共和国アスタナ市(現ヌルスルタン市)で開催された万博のトルクメニスタンパビリオンでの展示。青いパイプラインが現在稼働中で、赤いパイプラインがTAPI構想のもの(2017年7月5日、アスタナ市にて筆者撮影)

2017年、カザフスタン共和国アスタナ市(現ヌルスルタン市)で開催された万博のトルクメニスタンパビリオンでの展示。
青いパイプラインが現在稼働中で、赤いパイプラインがTAPI構想のもの(2017年7月5日、アスタナ市にて筆者撮影)

 タリバンはカブール陥落に先立つ今年2月に代表団をトルクメニスタンに派遣し、TAPI事業について安全が確保される旨トルクメニスタン側に説明を行っている[24]。また、タリバンがトルクメニスタン・アフガニスタン国境を制圧した3日後には、トルクメニスタンの外交官はタリバンの代表者と接触しており、TAPIおよびロジスティック面での協力について交渉と確認を行った模様である[25]。

日本ができること:国境管理支援の実績の活用

 以上から、①タリバンへの脅威感について中央アジア各国の間での相違、②南アジア方面へのロジスティック開通に支障が生じることへの懸念、という2点を指摘できる。②については、今後展望が見通せないことから、日本が関与・貢献できる側面は限られる[26]。一方、①については、タリバンへの脅威感に相違はあるものの、アフガニスタン国境の防衛を強化したいというセキュリティ上のニーズは強く共有しており、ここに、日本が支援できることがあるのではないか。

 実は日本はすでに国際機関連携無償案件を通じて、地域レベルでの国境管理に関する支援を行っている。2014年の第5回「中央アジアプラス日本」外相会合の共同声明にも言及がある[27]、一連の国連薬物犯罪事務所(UNODC)連携案件がそれである。国境警備隊や税関当局、内務省などの関連政府機関をカウンターパートとし、関連機関合同の国境検査所を設置するほか、首都に国境管理を一元管理する指令所を設置するなどしている。

 アフガニスタンからの麻薬流出については、ロシアも西側も懸念を示している。中央アジアの山岳地帯を経由して、ロシアや欧州へと麻薬が流通するルートが存在するとされ、国際機関および現地当局は監視を強めている[28](図3参照)。

図3

図3:主な麻薬流通ルート。山岳地帯を通過し、数年たつと少しずつルートは変わる。右下写真はUNODC連携案件の枠内で実施された、キルギス・カザフスタン国境での麻薬取締訓練の様子。(地図はグーグルマップより筆者作成)

主な麻薬流通ルート。山岳地帯を通過し、数年たつと少しずつルートは変わる[29]。
右下写真はUNODC連携案件の枠内で実施された、キルギス・カザフスタン国境での麻薬取締訓練の様子[30]。
(地図はグーグルマップより筆者作成)

 日本政府は2013年度からキルギスおよび近隣諸国を対象国とし、UNODCと連携し国境管理支援に関する無償案件を実施してきた。2020年からはウズベキスタンに対象国を移し、タシケントのUNODC中央アジア地域事務所をカウンターパートとして、支援対象を地域全体に拡大している。しかし日本の国際機関連携無償案件はおおむね予算規模が数億円程度である。その一方で、国境警備にあたる中央アジア現地政府の国家機関には、ドナーの案件ベースの援助を頼りにようやく機能しているようなところもある。対象国を拡大し、中央アジア全体の国境警備の能力向上を日本が支援することは、非常にタイムリーな支援となりうる。

 日本政府は、中央アジアプラス日本対話枠組みにおいて、アフガニスタンの外相をゲスト参加させるなどして[31]、アフガニスタンの参画を促そうと動いたことがある[32]。ただし、現状ではタリバンを中心とする新政権の行方が見えず、その取り扱いが難しい以上、アフガニスタンの参画促進は停滞せざるを得ないだろう。今後も現地の情勢を慎重に注視しながら、現地のニーズを的確に把握して、中央アジアへの支援を拡大し、これまでの蓄積も活用して、アフタニスタンにも機敏な支援を実施できるような準備を進めておくべきであろう。

(2021/09/10)

*この論考は英語でもお読みいただけます。
Central Asia after the Fall of Kabul and Strategies for Japan’s Engagement

脚注

  1. 1 「ロシア 中央アジアの国と軍事演習 この地域での影響力強化へ」『NHK』2021年8月6日。
  2. 2 羽田野主「中国、タジキスタンと反テロ演習 過激派の流入を警戒」『日本経済新聞』2021年8月19日。
  3. 3 Alexander Cooley, “A Post-American Central Asia - How the Region Is Adapting to the U.S. Defeat in Afghanistan-,” Foreign Affairs, 23 August 2021.
  4. 4 「アフガン近隣3か国の反応は―難民受け入れを表明する国、身構える国…」(有料記事)『クーリエ・ジャポン』2021年8月17日。
    「10万人受け入れ可能 アフガン難民-タジク」『JIJI.com』2021年7月24日
  5. 5 “Дастури Раҳмон барои интиқоли 20 ҳазор низомии эҳтиётӣ ба марз бо Афғонистон,” Sputnik, July 5, 2021.
  6. 6 “Afghanistan: Soldiers flee to Tajikistan after Taliban clashes,” BBC, July 5, 2021.
  7. 7 “Islamist blamed for attack in Tajikistan that killed 23 soldiers,” The Gurdian, September 20, 2010.
  8. 8 Dugald McConnell and Brian Todd, “ISIS fighter was trained by State Department,” CNN, May 30, 2015.
  9. 9 “Exclusive: Taliban Puts Tajik Militants Partially In Charge of Afghanistan’s Northern Border,” Radio Free Europe, July 27, 2021.
    ジャマート・アンサルッラーについては、公安調査庁HPを参照。
    公安調査庁「ジャマート・アンサルッラー Jamaat Ansarullah」
  10. 10 やや古いデータだが、2003年時点でタジキスタンのタジク人が445万人であったのに対し、アフガニスタンのタジク人は717万人。世界のタジク人の半分以上がアフガニスタンに居住している。(小松久男他編『中央ユーラシアを知る事典』平凡社、2005年、318頁)
  11. 11 “Демократы Таджикистана назвали действия «Талибан» геноцидом таджиков в Афганистане,” AsiaPlus, August 20, 2021.
  12. 12 “«Мы прогнозировали, что эти события произойдут». Президент — о ситуации в Афганистане,” газета.uz, August 27, 2021.
  13. 13 “Taliban holds talks in Uzbekistan,” Eurasianet, August 13, 2018.
  14. 14 “Глава МИД Узбекистана встретился с главой офиса «Талибан» в Катаре,” газета.uz, April 12, 2021.
  15. 15 「中央アジア・南アジア地域統合へ国際会議 アフガン和平訴え」『日本経済新聞』2021年7月17日。
  16. 16 “Из Пакистана выполнен первый рейс в рамках Конвенции МДП (TIR) ,” газета.uz, May 6, 2021.
  17. 17 公安調査庁「ウズベキスタン・イスラム運動(Islamic Movement of Uzbekistan O’zbekiston Islomi Harakati)」
  18. 18 Министерства иностранных дел Республики Узбекистан, “Заявление Министерства иностранных дел Республики Узбекистан,” 24 June 2021.
  19. 19 “Uzbekistan Sends Afghan Refugees Back Home, States Taliban Won’t Persecute for Fleeing,” Newsweek, August 20, 2021.
  20. 20 以下の記事の時点で、ドイツ、ロシア、米国、スイスなど約2000人の外国人がウズベキスタン領域を経由して脱出している。
    “Через Узбекистан из Афганистана эвакуировано почти 2000 иностранных граждан,” газета.uz, August 20, 2021.
  21. 21 地方空港に就航する国際線の多くはロシア便であり、主に出稼ぎ労働者が利用していると思われる。
  22. 22 過去に武装集団の攻撃により国境警備隊員が殺害される事件が発生したほか、タリバンとの戦闘で自国領内に逃げ込んできた政権側兵士をタリバンに引き渡したこともある。
    “More Turkmen Troops Killed Along Afghan Border,” Eurasianet, May 28, 2014.
    ;
    “Turkmenistan: Don’t love thy neighbor,” Eurasianet, March 19, 2019.
  23. 23 なお、計画当初は米国企業も参画していた。
    Murat Sadykov, “Turkmenistan Drows Attention to Gas-Expansion Plans,” Eurasianet, March 28, 2013.
    ;
    “Taliban vows to guarantee safety of trans-Afghanistan gas pipeline,” Eurasianet, February 6, 2021.
  24. 24 “Turkmenistan: As Taliban arrives at the gates, diplomats and army scramble,” Eurasianet, July 13, 2021.
  25. 25 “Turkmenistan: Taliban of brothers,” Eurasianet, August 24, 2021.
  26. 26 中央アジアの南アジア方面のロジスティックやエネルギー輸送プロジェクト構想,は、他にも複数存在するが、いずれも資金調達の面で見通しが立っていない。なお、過去に日本政府は、ペルシャ湾からトルクメニスタンへと至る物流の拠点となるポテンシャルを有する、イランのチャーバハール港へのODA実施を検討していた(その後インドが出資)。
    「政府、イランで港湾計画 インドと組み支援」『日本経済新聞』2016年5月8日。
  27. 27 外務省、「「中央アジア+日本」対話・第5回外相会合共同声明」2014年7月16日。
  28. 28 現地政府関係者および援助関係者から聞き取り。
  29. 29 現地政府関係者および援助関係者からの聞き取り。
  30. 30 写真出典他:外務省「ODAメールマガジン第412号」2019年12月27日。
  31. 31 外務省「河野外務大臣の「中央アジア+日本」対話・第7回外相会合出席(結果)」2019年5月18日。
  32. 32 個別のテーマに関する議論であるが、以下においてもアフガニスタンの参画の必要性が指摘されていた。外務省「「中央アジア+日本」対話・第6回専門家会合クリーンエネルギー開発と中央アジアの新たな可能性の実施(結果)」2021年3月24日。