6月26〜28日のG7首脳会合に引き続いて行われた29日からの北大西洋条約機構(NATO)首脳会合に、今回、初めて日本の総理大臣が参加したことは、日本のウクライナへの連帯を象徴するものとして、日本国内でも大きな注目を集めることになった。しかし、最大の注目点は、ロシアによる軍事侵攻への同盟としての対応だけでなく、12年ぶりに改訂された「NATO戦略概念(Strategic Concept)」の進化であった[1]。NATOの戦略概念は、今後10年間の同盟の優先事項、主要な任務、アプローチを定めるものである。多国間の集団安全保障機構としてのNATOは、時代の大きな変化の中で、戦略概念の改訂を通じて、将来のNATOの存在意義を明らかにする努力を続けてきた。

 今回採択された戦略概念において注目されるべきは、①同盟の基盤となる抑止力と防衛力の更なる強化の必要性、②明確な脅威としてのロシアに加え、不安定性を強める中東、アフリカ、野心的な中国への警戒感、③グローバルな課題へのパートナー国や機関との関係強化の重要性などが、全加盟国による合意として示されていることである。ここでは、上記の三点から導かれる、今後のNATOの方向性と日本のあるべき対応について考えてみたい。

抑止力と防衛力の更なる強化

 今回の首脳会合では、NATO東部における防衛能力の強化に焦点が当てられた。これまで、お互いを敵視しないとする「NATO・ロシア基本議定書(Founding Act)」に基づき、東部地域には戦闘部隊が常駐していなかったが、2014年のクリミア併合と2022年のウクライナ侵攻を経て、NATOはバルト3国、ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、スロベキア、ブルガリアに計8個のバトルグループ(兵力計9641名)を新たに設けることにしている[2]。また、今回、バイデン米大統領は、スペインのロタ海軍基地に常駐する米海軍駆逐艦を現状の4隻から6隻に増やすことに加えて、ポーランドに新たに第5軍団本部を設置することを明らかにし、米国としても、NATO東部の軍事能力の強化を約束することになった[3]。

 また、2004年以来、脅威の多様化や事態推移の速さに対処すべく、NATOは、陸、空、海、特殊作戦部隊(SOF)の多国籍要素で構成された即応部隊(NRF)を整備し、教育訓練、演習、災害支援などの幅広い分野で活用してきた[4]。今回、抑止力と防衛力をより高めるために、このNRFは、事態発生後に10日で展開される10万人規模の即応部隊と、10日から30日以内で戦力化される20万人程度の準即応部隊の体制に置き換えられることが決定された[5]。これは、2023年までに即応部隊が30万人規模に増強されるだけでなく、NATOとして、作戦連合軍司令部による集団防衛計画や指揮・統制面における主導性が一層強められることを意味する。この結果、各国独自の指揮統制権が相対的に低下される一方、脅威の多様性の増大やその変化のスピードに対して、NATOとして、これまで以上に柔軟かつ的確に対処することが期待されることになった。それは、軍事同盟としての作戦行動の適時性を向上させ抑止力と防衛力の実効性を高めることに結びつく。

中国に対する懸念

 今回の首脳会合において、ロシアは、最も重大で直接的な脅威とされる一方、中国は、NATOにとって敵ではないが、「同盟体制全体に影響を及ぼす挑戦(systemic challenges)」と位置づけられることになった。NATOは、何事も加盟国の全会一致によるコンセンサスを得た上で、初めて一歩前に進むことができる政治同盟でもあり、中国に対する各加盟国の外交スタンスの微妙な違いが、今回の中国に関する表現ぶりに影響を与えた可能性は否めない。中国は、ロシアのように、NATOに直接的な軍事的影響を与え、欧州での戦争を引き起こすことは想定されていないが、自由、平等、人権の尊重という西側の価値観と相容れず、ロシアと共に、法の支配による既存の国際秩序を変更しようという野心を隠そうとはしていない。事実、中国共産党は、NATOを冷戦の遺物と呼び[6]、偽情報などにより、西側の価値観を否定し、権威主義的な国家体制の影響力を高めようとしており、NATOは強い警戒感を保つことを迫られている[7]。

 また、中国やロシアによるサイバー攻撃、宇宙空間における不法行為、更には、偽情報などによる認知領域への攻撃は、物理的な国境を超えて、時間的制約にかかわらず実行される。NATOとしては、これらの非対称な攻撃を北大西洋条約第5条(集団的自衛権)、第3条(加盟国レジリエンス義務)に抵触するものと受け止め、同盟として、これらの自由なアクセスや利用を確保する責任があることを明らかにしている[8]。

 そして、今後、加盟国内で、このような対中認識が引き続き維持されるのであれば、対話と抑止を基本とする「二重路線(Dual Track)[9]」の対象とされるロシアの例を参考に、NATOが、中国に対しても同様のアプローチを検討する可能性が考えられる。それは、行動指針文書としての「NATO2030」が示唆するように[10]、将来、中国との建設的な対話の枠組みとして「NATO・中国理事会(NCC)」(仮称)が準備される一方で、NATO内に中国の軍事的動向を監視し、防御するための専門的な諮問機関を設立する動きが現実のものとなるかもしれない。

グローバルな課題(気候変動)への取り組み

 今回、NATOは、気候変動の影響への取り組みに関しても、積極的に名乗りを上げている。すなわち、NATO事務総長レポート「気候変動と安全保障上の影響評価(Climate Change and Security Impact Assessment)」を受け入れ、2030年までに温室効果ガスを45%削減し、2050年までに実質ゼロを目指すという具体的な目標を決定した[11]。その結果、NATOは、気候変動を安全保障上の問題であると公式に認め、気候変動の影響に対して軍隊として適合し、温室効果ガス排出主体として、その削減を行うことを約束したことになる。かねてより、軍事的な作戦や行動には継続性と安定性が最も重視され、化石燃料以外の再生可能エネルギーについては、その汎用性や取得安定性の点から受け入れが難しいと考えられてきた。

 今回のロシアによるウクライナ侵攻に際して善戦するウクライナ軍は、従来の戦車や装甲車などの装備体系に加えて、ドローンや民間アセットを積極的に取り入れ、重厚長大なロシア軍に対して非対称な戦いを続けている[12]。それらの戦闘事例の中で、両軍における化石燃料を含む補給機能の脆弱性に対して集中的な攻撃が行われた教訓から[13]、化石燃料への依存度を低くするという軍隊のエネルギー転換が、戦場における課題の一つとして共有されることになった。今回、首脳会談の席上で、NATO加盟30カ国が気候変動への対応に合意したことで、装備品の消費エネルギーの効率化、脱炭素化に対する不可逆的な取り組みの必要性が確認されたことによって、軍事面における気候変動への影響への取り組みに弾みがつくことが期待される所以である。

 その一方で、昨今、ウクライナ情勢を契機にロシアによるエネルギーを巡る駆け引きを通じて、世界的に、石油や天然ガスの価格高騰や新たな供給先を巡る混乱が生じ、脱炭素社会をテーマとする、気候変動への長期的な関心が低下しつつあるように懸念される。その中で、深刻化する気候変動への対応に時間的猶予が許されない状況を認識し[14]、早急な温暖化対策への対応を喫緊の課題として捉えたNATOの行動は、責任あるものとして評価されるべきであろう。

おわりに:NATOの期待にどう応えるのか

 今回の岸田総理のNATO訪問は、ウクライナへの連帯を深め、欧州の安全保障への関与をハイレベルで示したことにより、加盟30カ国から一様に歓迎されたことは間違いない。

 しかし、日本、韓国、豪州、ニュージランドを初めてグローバルなパートナーとして招待したNATOにとって、脅威と価値観を共有する安全保障プラットフォームとしての課題は、地域の枠を超えて影響力を強める中国だけではない。そこでは、サイバー・宇宙空間、認知領域における安全保障上の公共財の安全確保、そして、気候変動の影響に対する協調的行動、更には、将来の装備体系に大きな影響を与える、人工知能(AI)、量子コンピューターなどの新興・破壊的技術の実装化など、パートナー国に対して、幅広い協力の可能性が数多く示されている。今後、他のパートナー国と共に、日本にも、NATOとの協力拡大のためのロードマップが準備されると見られるが[15]、日本政府はどのような対応を行うのであろうか。2022年3月27日、岸田首相は、防衛大学校の卒業式スピーチにおいて、安全保障関連の三文書(国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画)を年末に改定することを明確に示したが[16]、日本としては、新たな安全保障戦略の方向性を踏まえつつ、積極的かつ主導的に、NATOとの協力メカニズムを活性化するべきである。インド太平洋地域には、NATOのような集団安全保障機構は存在しないが、価値観を共有し、地域の枠を超えたパートナー国の関与を導くことによって、米国を中心とする二国間同盟のネットワークをより強化し得ると考えるからである。

 その一方で、NATOは、防衛的な組織であり、コンセンサスに基づく地域機構であるため、将来的にも、NATO側から、欧州域外に位置する日本に対して、より積極的なアプローチをかけてくることはないであろう[17]。ここでは、日本からNATOへの働きかけを強め、インド太平洋地域におけるNATOの更なる関心や関与を引き出し、主体的に日・NATO関係を強化してゆくという能動的な姿勢が求められている。そのためには、日本の戦略的なメッセージのグローバルな発信が不可欠であり、改訂された三文書は、日本の安全保障面でのコミュニケーションの道具として、重要な役割を果たすことが期待されるところである。

(2022/07/20)

脚注

  1. 1 NATO, ” STRATEGIC CONCEPT – NATO,” June 29.
  2. 2 NATO, ”Factsheet: NATO’s Forward Presence,” June, 2022.
  3. 3 The White House, “Remarks by President Biden and NATO Secretary General Jens Stoltenberg | Madrid, Spain,” JUNE 29, 2022.
  4. 4 NATO, “NATO Response Force,” June 23, 2022.
  5. 5 NATO, “New NATO force model,” June 29, 2022.
  6. 6 Rita Cheng, “China steps up anti-NATO rhetoric ahead of Madrid summit, citing 'Cold War' ethos,” Radio Free Asia, June 24, 2022.
  7. 7 NATO, “Speech by NATO Secretary General Jens Stoltenberg at the event: NATO's outlook towards 2030 and beyond,” November 30, 2021.
  8. 8 NATO, “News: NATO will defend itself Article by NATO Secretary General Jens Stoltenberg published in Prospect’s new cyber resilience supplement,” August 29, 2019.
  9. 9 NATO,” Remarks by NATO Secretary General Jens Stoltenberg on launching #NATO2030 - Strengthening the Alliance in an increasingly competitive world,” June 08, 2020.
  10. 10 NATO, NATO 2030: United for a New Era, November 25, 2020.
  11. 11 NATO, “News: NATO releases its Climate Change and Security Impact Assessment,” June 28, 2022.
  12. 12 Andy Kessler, “Ukraine’s Asymmetric War,” WSJ, March 27, 2022.
  13. 13 AlexGatopoulos, “Russia-Ukraine war: How Moscow’s tactics are evolving in Ukraine,” Aljazeera, March 15, 2022.
  14. 14 IPCC, “Climate change widespread, rapid, and intensifying – IPCC,” August 09, 2021.
  15. 15 Noriyuki Suzuki, “Japan PM seeks major upgrade of NATO partnership after Russia's war,” Kyodo News, June 30, 2022.
  16. 16 Cabinet Public Affairs Office, “Address by Prime Minister KISHIDA Fumio at the Graduation Ceremony of the National Defense Academy,” March 27, 2022.
  17. 17 NATO事務総長は、フィンランドとスウェーデンの加盟問題に関して、「(両国に)干渉したりアドバイスを与えたりすることなく、彼らの意思決定プロセスを尊重する」と述べ、NATOとして、非加盟国に対して中立的な立場を遵守することを明言している。NATO, “Joint press conference by NATO Secretary General Jens Stoltenberg (remote from Brussels) and the Minister of Foreign Affairs of Germany, Annalena Baerbock following the informal meetings of NATO Ministers of Foreign Affairs,” May 15, 2022.