イランでは、2月末にアメリカとイスラエルの軍事作戦で殺害された前最高指導者アリ・ハメネイ師の国葬行事が7月4日から10日にかけて行われ、翌日、現最高指導者モジタバ・ハメネイ師は殉教者の報復をすると誓った[1]。一方、報復対象であるアメリカのトランプ大統領は、7月4日にアメリカ建国250年の記念行事の実施後、ホルムズ海峡の安全航行をめぐりイランとの交戦を激化させ[2]、7月10日には「停戦は終了した」と述べた[3]。その後、同大統領は13日にホルムズ海峡の海上封鎖の再開を宣言し、合わせて通過する船舶に貨物の20%の通行料を課すと述べ[4]、翌日には通行料の発言を撤回した[5]。

 こうしたホルムズ海峡をめぐる目まぐるしい情勢変化により、4月7日の停戦合意から6月17日の了解覚書の署名へと、散発的な交戦はありながらも戦闘終結に向けて進んでいた両国の協議は振り出しに戻ったかにみえる。そこで、本稿では、戦争終結に向けた見通しを明らかにする上で、中心的問題のひとつであるホルムズ海峡問題について情報を整理する。その上で、問題解決の糸口として多国間協力枠組みに着目する。

イランとアメリカによるホルムズ海峡の「封鎖」

 イランによるホルムズ海峡の「封鎖」は、2025年6月のアメリカとイスラエルのイラン攻撃の際など、これまでにも話題となったが実現されていない。その理由としては、同海峡を「封鎖」すればイラン自身のエネルギー資源の輸出も停止することになり、大きな経済的損失となることや、湾岸地域のエネルギー資源の最大の輸入国である中国への配慮などが挙げられる。

 しかし、イランは今回の戦いを存亡の危機と位置づけ、ホルムズ海峡で従来とは別の航路を定め通航許可を取らせ、これにしたがわずに通航する船舶に対しては警告射撃を行うなど厳格な海峡管理をするという独自の戦術をとった[6]。これにより、イランが通航する船舶の選別、通行料金の徴収が可能になった。その結果、同海峡は事実上、封鎖状態となり、エネルギー価格や石油製品などの高騰、船舶保険料の上昇など世界経済に大きな影響を与えている。

 同海峡がこうした事態になることを、トランプ政権は攻撃実施初期まで軽視していたとされる[7]。しかし、イランによる海峡管理が実施されると、トランプ大統領は3月下旬から海峡の開放を強硬に迫り続け[8]、イランが応じなかったため、4月12日、パキスタンでの停戦交渉が失敗に終わった後にアメリカ自身がイランの港湾に出入りする船舶に対し海峡封鎖を実施すると宣言した[9]。イランもこれに対抗し、4月18日に「再封鎖」を発表し、ホルムズ海峡は事実上、二重封鎖状態となる[10]。

 この二重封鎖は、6月17日、アメリカとイランの間で了解覚書が署名され、アメリカが封鎖を中止したことで解消された。一方、覚書の項目5には、ペルシャ湾からオマーン海への航行についてイランが「60日間に限り無料で確保するため、最大限の努力をもって手配を行う」[11]と記載されており、イランはこれを受けるかたちで、先に述べた厳格管理を継続していた。トランプ大統領の7月12日のホルムズ海峡再封鎖宣言(実施は7月13日から)は、こうしたイランの管理を否定するものである。

 以上のように、今回の戦争が開始されて以降、ホルムズ海峡の「封鎖」を通し、同海峡における優越的地位を確定しようとするイランと、それを阻止しようとするアメリカのせめぎ合いが繰り広げられてきた。その背景には、歴史的に国連海洋法条約における領海の無害通航に関し、安全保障上の観点で事前許可などの通航要件を設けることは沿岸国の権利だとするイランと[12]、国際航行に使用される海峡の通航は国際慣行に裏付けされた権利であり、通航要件は違法だとするアメリカ[13]との意見対立がある。

ホルムズ海峡問題の解決の糸口

 イランのホルムズ海峡の厳格管理についてとりわけ問題視されているのは、通航する船舶からの料金の徴収である。ホルムズ海峡は最も狭い区間の幅が約21海里(約40㎞)である。国連海洋法条約によれば、国は最大12海里まで領有権を主張できる[14]ことから、沿岸国のオマーンとイランの領海の合計よりも狭いホルムズ海峡に公海は存在しないことになる。このため、海峡を通過する船舶はイランまたはオマーンの領海を通過することになる。そこで、両国は1974年の協定で中間線を定め、国際海事機関(IMO)が指定した通航分離方式(TSS)をとり[15]、海峡の入りはイラン領、出はオマーン領を航行させている。同海峡に関し、両国は国際海峡とは認めず領海であると主張しているが、海峡を通航する船舶については原則として無害通航権を認めている[16]。

 イランは、今回のアメリカとの戦闘下の5月12日、国連海洋法条約による12海里内の主権権限の行使についてオマーンと協議を行っている[17]。こうしたイランとオマーンの協議に関し、トランプ大統領は5月27日、オマーンが「イランとともにホルムズ海峡を掌握しようとすれば、同国を攻撃する」と述べ、強い警戒心を示した[18]。こうしたアメリカの反対にもかかわらず、イランは覚書にしたがってオマーンと協議を続けており[19]、領海内の主権行使のひとつとしてサービス料を徴収することが検討されている。料金については、イランは義務化を、オマーンは任意の支払いを主張している[20]。

 このオマーンの考え方は、海峡を国際公共財ととらえ、航行の安全性の向上、海洋環境の保護、緊急対応能力の強化などを担う沿岸諸国の負担を、関係国が自主的な事業協力や基金への寄付などで分かち合う多国間協力が行われている「マラッカ・シンガポール海峡協力メカニズム」[21]を参考にしているとの報道もある[22]。オマーンは、その実現に向けて、6月26日にはバドル外相がサウジアラビア、エジプトの外相と電話会談し[23]、28日にはハイサム国王がフランスを公式訪問しマクロン大統領とホルムズ海峡の航行について意見交換を行うなど[24]外交努力を行っている。また、29日にはオマーンとイランとのホルムズ海峡委員会の初会合も開かれている[25]。こうした外交努力の上に築かれる関係国が受け入れ可能な協力の枠組みこそ、イランとアメリカとの海峡をめぐる意見対立に巻き込まれることなく問題を解決する糸口になるのではないだろうか[26]。

戦争終結を導くための多国間協力枠組みの構築

 トランプ大統領は、イランに対する戦闘が7月7日に再開されたと7月10日付けで議会に正式に通知した。これにより、議会の承認なしで軍事力の行使ができる60日の期限がリセットされ[27]、トランプ政権はホルムズ海峡をイランに支配させないとして[28]攻撃を強化している。一方、イランはバーレーン、クウェート、ヨルダンのアメリカ軍基地などへの報復攻撃を行っている[29]。

 こうした攻撃の応酬が続くなか、緊張緩和に向けた2つの動きがみられている。ひとつは、仲介役を務めているカタールなどが10日間の一時休戦を提案したことである[30]。そして、もうひとつは、7月14日にオマーンのバドル外相がル・モンド紙に「新たな湾岸安全保障政策の要請」を寄稿し[31]、湾岸周辺国であるGCC諸国(6カ国)とイラン、イラクによる地域安全保障協力が必要だとして、この8カ国の協議を求めたことである。これは、ホルムズ海峡問題に関する多国間協力の取り組みをより包括的、長期的な安全保障に結びつけようとするものといえる。ただし、この要請の実現には、域内の対立や第三国による妨害などの難題が存在する。

 しかし、かつて国際社会は、中東地域の和平に関する多国間協力枠組みを構築した歴史がある。1991年の湾岸戦争後、マドリード和平会議が開かれ、中東和平当事者間の信頼醸成と地域協力の推進をはかることで、パレスチナ暫定自治原則宣言の署名(1993年9月)、イスラエル・ヨルダン平和条約の締結(1994年10月)を導き出した。この和平会議では、当事者間の二国間交渉と、それを補完する5つの多国間協議(軍備管理、経済開発、水資源、環境、難民)という2トラックシステムが採用された。

 こうした歴史を踏まえれば、アメリカ・イスラエルとイラン間の戦闘が繰り返されないためには、カタールやパキスタンなどの仲介国の粘り強い停戦に向けた取り組みと合わせて、ホルムズ海峡問題、湾岸の安全保障をはじめとする多国間協議の場の設置が有効だと考える。このような多国間協力枠組みを構築することで得られる「平和の果実」を戦争当事国が享受できると見通せることで、戦争終結に向けた歩みは着実なものになっていくだろう。

(2026/07/29)

脚注

  1. 1 “Leader vows to avenge martyr Ayatollah Khamenei’s blood,” Islamic Republic News Agency, July 11, 2026.
  2. 2 国連の国際海事機関(IMO)が6月23日に北と南の暫定航路を提示した後、ホルムズ海峡のオマーン領海の航路を航行中の商船が攻撃されたことをきっかけに、アメリカがイランを空爆し、イランはGCC諸国の米軍関連施設を攻撃するという交戦がみられた。Jonathan Saul, “Evacuation plan through Hormuz for stranded ships in Gulf underway, UN agency says,” Reuters, June 24, 2026; “US strikes Iran in response to drone strike on commercial ship,” Al Jazeera, June 26, 2026; 7月に入り、同様のパターン交戦においてアメリカの対イラン攻撃が激化しており、8日と9日の攻撃では約90カ所、12日には約140カ所のイランの標的に空爆が行われ、その後も攻撃を継続している。Vicky Wong, Matt Spivey and Tabby Wilson, “US and Iran trade attacks as Khamenei is buried,” BBC, July 10, 2026; Tabby Wilson and Robert Greenall, “US insists Strait of Hormuz is open as it exchanges strikes with Iran,” BBC, July 13, 2026.
  3. 3 “Trump hints at further Iran negotiations after exchange of fire over Hormuz,” Al Jazeera, July 10, 2026.
  4. 4 Shannon K. Kingston, “Trump's Strait of Hormuz blockade erases the last concession to Iran in preliminary deal,” ABC News, July 14, 2026.
  5. 5 Jaroslav Lukiv, “Trump scraps threat of 20% fee on Hormuz cargo as US resumes blockade of Iran ports,” BBC, July 15, 2026.
  6. 6 “Iran warns UAE of 'crushing and regretful' response if attacks are launched from its soil,” Press TV, May 5, 2026. なお、戦争開始間もなくの3月5日、陸軍のヘイダリ准将が国際的なプロトコールにしたがって船舶を移動させており、これに違反した船は沈没すると述べている。“Military commander: Iran has not closed Strait of Hormuz,” Islamic Republic News Agency, Mar 5, 2026.
  7. 7 Alayna Treene, Zachary Cohen, Natasha Bertrand, Jim Sciutto, and Kevin Liptak, “US furiously seeks to avert potential monthslong closure of Strait of Hormuz,” CNN, March 21, 2026.
  8. 8 トランプ大統領は、最後通告のかたちで、海峡を開放しなければイランの発電所を標的にするなどと脅かし続けた。Robert Greenall and Toby Mann, “Trump issues expletive-laden threat to Iran over Hormuz Strait blockage,” BBC, April 6, 2026.
  9. 9 “‘Blown to hell’: Trump orders Hormuz blockade after US-Iran peace talks end,” Al Jazeera, April 12, 2026.
  10. 10 アメリカが仲介したイスラエルとレバノンの10日間の停戦合意後、イランは4月17日にホルムズ海峡の開放を発表したが、翌日、再封鎖を宣言した。“Iran closes Strait of Hormuz again over US blockade of its ports,” Al Jazeera, April 18, 2026.
  11. 11 Alayna Treene, Kevin Liptak and Mostafa Salem, “US releases official agreement with Iran. Read the 14-point text,” CNN, June 18, 2026.
  12. 12 中谷和弘「ホルムズ海峡と国際法」『東京大学法科大学院ローレビュー』vol.7、2012年、182-183頁。
  13. 13 同上、184頁。
  14. 14 同上、177-190頁。
  15. 15 同上、178頁。
  16. 16 同上、179頁。
  17. 17 “Iran, Oman hold talks on Hormuz Strait, discuss sovereign rights over strategic waterway,” Press TV, May 13, 2026.
  18. 18 Aaron Blake, “Trump’s ‘blow ‘em up’ threat to Oman means he’s now attacked or threatened 1 out of every 13 countries,” CNN, May 28, 2026.
  19. 19 Alayna Treene, Kevin Liptak and Mostafa Salem, “US releases official agreement with Iran. Read the 14-point text,” CNN, June 18, 2026.
  20. 20 “Iran, Oman to jointly charge fees along Strait of Hormuz: Report,” Middle East Eye, June 30, 2026.
  21. 21 J. Ashley Roach, “Malacca, Straits of,” Oxford Public International Law, 2013.
  22. 22 Fiona MacDonald and Samy Adghirni, “European nations now believe some Hormuz fees are inevitable,” Japan Times, July 4, 2026.
  23. 23 “Minister in phone call with Saudi counterpart,” Foreign Ministry of Oman, June 26, 2026; “Minister in phone call with Egyptian counterpart,” Foreign Ministry of Oman, June 26, 2026.
  24. 24 “Joint Omani French declaration at the conclusion of the official visit of His Majesty Sultan Haitham bin Tarik, Sultan of Oman to France,” La Maison Élysée, June 2026.
  25. 25 “Oman-Iran Committee on Strait of Hormuz holds first meeting,” Foreign Ministry of Oman, June 29, 2026
  26. 26 ヨーロッパや湾岸アラブの一部の国は料金の支払いは受け入れ可能との考えを持ちはじめていると報じられている。Fiona MacDonald and Samy Adghirni, “European nations now believe some Hormuz fees are inevitable,” Japan Times, July 4, 2026.
  27. 27 Benoit Faucon, Rebecca Feng and Jared Malsin, “Trump Says He Is Reimposing U.S. Blockade on Iran Shipping,” Wall Street Journal, July 14, 2026.
  28. 28 “US ‘open’ to negotiations with Iran but Tehran not ‘serious’, Rubio says,” Al Jazeera, July 22, 2026.
  29. 29 “US expands attacks deeper into Iran as Tehran retaliates against Jordan, Bahrain and Kuwait,” Arab News, July 16, 2026.
  30. 30 “Iran confirms receiving mediators’ proposals aimed at de-escalating tensions,” Islamic Republic News Agency, July 20, 2026.
  31. 31 “Minister calls for new Gulf security policy,” Foreign Ministry of Oman, July 14, 2026.