イランとロシアの協力関係がウクライナ戦争のなかで深まっており、欧米を中心に国際社会はその関係の深化に懸念を表明している。両国関係の象徴のひとつは、イラン製ドローンのロシアへの提供である。ロシアはこのドローンでウクライナの発電所などのインフラを攻撃し、大きな被害を与えている。

 イラン情勢をめぐっては、この他にも、イランと国連安全保障理事会にドイツを加えた「G5+1」との核合意の「包括的共同行動計画」(JCPOA)への復帰協議の行き詰まりによる核開発の進展、通貨リヤルの大幅下落と物価の高騰による市民生活の困窮、ヒジャブの着用への抗議を契機とする継続的反体制デモへの弾圧など懸念材料が少なくない。以下では、こうした状況下にあるイランのライシ政権について、最近のロシア政策に焦点を当てて検討する。そのことを通し、現在の保守強硬派政権の行方について考察する。

イラン・ロシアの軍事分野での協力強化

 イランは、2001年3月に、ロシアと20年に及ぶ「二国間関係の協力原則に関する基本協定」を締結しており、現在、両国は、これをもとに協力関係を深化させている。また、2022年7月19日、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻後2度目となる外遊でテヘランを訪れている。訪問目的は、シリア問題に関する協議の枠組みである「アスタナ和平プロセス首脳会議」に参加するためであるが、その際、同大統領とイランのハーメネイ最高指導者、ライシ大統領と協議を行っている。これに先駆け二国間では、7月9日に両国中央銀行間でアメリカドルやユーロを使用せず自国通貨で決済することに同意しており[1]、同月13日にはロシアからイランへの貨物列車の運行[2]、14日にはロシアの国営原子力公社ロスアトムとイラン核エネルギー機関との協力拡大での合意がなされている[3]。

 この時のハーメネイ・プーチン会談では、ハーメネイ師がウクライナ問題に関し注目される発言をしている。同師は、戦争を望まないとした上で、NATOは危険な同盟であり「ウクライナで道をふさがなければ、しばらくしてクリミア半島を口実に、新たな戦争が起きる」と述べた。これを受けてプーチン大統領は、ウクライナでの対立の原因は欧米諸国の挑発だと述べ、NATOの拡大の動きについて改めて説明している。また、ハーメネイ師は、二国間関係について長期的な協力が両国の利益であり、「すぐに最大限のレベルまで向上させるべき」とした[4]。この首脳会談は、両国が包括的協力を急速に進展させる契機になったとはいえ、国際社会では両国間の軍事協力への批判の声が高まっている。

 例えば、8月9日には、イランの衛星「ハイヤーム」を搭載したロシアのロケットが打ち上げられている[5]。これにより、ロシアが軍事利用できる衛星が増えたことになる。同月29日には、ロシアがイラン製ドローンを調達し、貨物機で空輸したとの報道が流れ[6]、10月22日にはホワイトハウスのカービー戦略広報担当調整官が、ロシアはイランに地対地ミサイルの供与を求めているとして懸念を表明している[7]。ロシアにとってイランは、ウクライナとの戦いにおいて欠かせない存在になりつつあるといえる。

ロシアへの武器供与をめぐるイランと欧米諸国の対立

 7月11日と16日、イラン製ドローンのロシアへの提供について、アメリカの国家安全保障問題担当大統領補佐官のサリバン氏が言及したことで[8]、国際社会がこの問題を認識するようになった。しかし、サリバン大統領補佐官による発表時点では、イランのドローン提供同問題とウクライナの戦局への影響について、あまり大きく取り上げられることはなかった。それというのも、この発表が、バイデン大統領が中東を訪問していた時期と重なっていたからである。湾岸アラブ産油国への増産の働きかけや対イラン「中東防空同盟」構想を携え、訪問の成果を期待していたバイデン政権としては、国内外の注目が分散されるのを避けたかったのではないかと考えられる。

 ロシアのイラン製ドローンによるウクライナへの攻撃は、9月後半からオデーサ、ミコライウ、ハルキウなどの州で活発化した。ウクライナ国防相は、9月12日、ハルキウでイラン製ドローン「シャヘド136」を撃墜したと発表した[9]。さらに、イランによるロシアへの武器供与について、10月19日にロイター通信が、10月6日にモスクワで行われた両国間の協議で、イラン製ミサイルのロシアへの供給が合意されたと報じ[10]、国際社会の関心が高まった。

 10月19日、国連安保理が公開で開かれ、イランの行動が安保理決議2231号に違反しているかについて協議されたが、結論は出なかった。このためEUは、10月20日に加盟国の大使級会合を開き、ロシア軍へのドローンの供与に関与した個人、団体に制裁をかけることで合意した。さらに、翌21日には、イギリス、フランス、ドイツが書簡で国連による調査を要請した。

 こうした欧米の対応に、イランのアブドラヒアン外相は11月5日、欧米が主張するミサイルの提供については完全に間違っており、ドローンについては、ロシアとウクライナとの紛争の数か月前に提供されたものだと主張した。さらに、ウクライナに対し、ロシアがイラン製ドローンを使用している証拠を示すよう求め、ウクライナの合意を得たとも述べた。そのうえで、戦争を止め、当事国を交渉の場に戻らせることがイランの立場だとした[11]。

 ロシアへの武器供与問題によって、イランと欧米との対立はさらに深まっている。こうしたライシ政権の強気の対外政策は、イラン国内に光と影を投げかけている。

イラン国内の分裂の兆し

 政治的には、7月のハーメネイ・プーチン会談後、ロシアとの戦略的連携を深める政策を支持する勢力と、同国への過度の依存を回避すべきとの立場をとる勢力との間で議論が戦わされている。前者は、経済制裁下での経済基盤の強化(「抵抗経済」)を目指し、ロシア、中国が加盟している上海協力機構(SCO)への加盟やBRICSへの加盟申請を行った[12]。さらに、近隣諸国との経済連携強化のため、ロシアとの天然ガスのスワップ協定の締結、南北鉄道網の整備も進めている。その主要人物たちは、ハーメネイ最高指導者、ライシ大統領、ベラヤティ最高指導者外交顧問、ガリバフ国会議長をはじめ、革命防衛隊、イスラム系の救済財団関係者などの保守強硬派である。ただし、ロシアとの関係強化は、合意間近とみられていたJCPOAへの復帰協議の行き詰まりという暗い影もイランに落としている。それにヒジャブ着用強要への抗議デモでの人権問題に関するEUやアメリカによる新たな経済制裁も加わり、イランの通貨リラは大幅に下落し、物価の高騰も続いている[13]。

 後者は、ロウハニ前大統領、ザリフ前外相、シャムハニ国家安全保障会議書記など穏健派、保守派の人々である[14]。彼らには、ロシアに対する不信感があると考えられる。その理由としては、近年の出来事でいえば、①シリアに駐留しているロシア軍がイスラエルに配慮した対応をとったこと、②イランと対立しているサウジアラビア、アラブ首長国連邦とエネルギー分野で関係を強めていること、③イラン核合意および核合意復帰協議で妨害工作をしたこと[15]などが挙げられる。

 イランは、ハーメネイ体制が続く限り、ロシアとの包括的関係を深化させていくと考えられる。また、「ハーメネイ後」の体制も、仮にライシ大統領が後継者となれば大きな方向転換はないだろう。ただし、今後、ライシ政権がロシアとの関係強化の成果を国民が実感できず、現在の抗議活動が長期化すれば、政権に対する批判は強まっていくだろう。ロシアとの関係強化は、イラン国内に大きな分裂を生む要因のひとつになりつつあるように見える。

(2022/11/24)

脚注

  1. 1 “Iran, Russia to implement banking agreements: CBI governor,” Islamic Republic News Agency, July 9, 2022.
  2. 2 “India-Russia railway activated through Sarakhs, Khorasan Razavi,” Islamic Republic News Agency, July 13, 2022.
  3. 3 「イランとロシアが、平和的核利用の協力強化で合意」、Pars Today、2022年7月14日。
  4. 4 “Supreme Leader: Americans should be forced to leave Syria,” Islamic Republic News Agency, July 19, 2022.
  5. 5 “Iran Space Agency confirms proper functioning of Khayyam Satellite systems,” Islamic Republic News Agency, August 9, 2022.
  6. 6 Ellen Nakashima and Joby Warrick, “Iran sends first shipment of drones to Russia for use in Ukraine,” Washington Post, August 29, 2022.
  7. 7 “On-the-Record Press Gaggle by NSC Coordinator for Strategic Communications John Kirby,” White House, October 20, 2022.
  8. 8 Ghaida Ghantous, “Russian officials visited Iran to view drones, says U.S. official,” Reuters, July 16, 2022.
  9. 9 発表された画像では、ドローンの側面にロシア語が書かれているが、翼端の形状がシャヘド136と一致しているとされる。“Ukraine shoots down Iranian-made drone used by Russia- defence ministry,” Reuters, September 14, 2022.
  10. 10 Michael Georgy, “Iran agrees to ship missiles, more drones to Russia,” Reuters, October 19, 2022. なお、イランの通常兵器の売買は、国連決議2231号にもとづき2020年10月で制限が解除されているが、ミサイル関連技術については2023年10月まで制限されている。
  11. 11 “Drone delivery dates back to months before Ukraine war: Iran FM,” Islamic Republic News Agency, November 5, 2022.
  12. 12 ライシ大統領は、9月15日、4度目となるプーチン大統領との首脳会談をもった。会談は、ウズベキスタンのサマルカンドでの上海協力機構(SCO)首脳会議を縫って行われ、翌日、プーチン大統領が同首脳会議での演説において、イランの加盟はSCOにとって有益であり、速やかなイランの正式加盟プロセスを支持すると述べている。“Putin backs Iran’s accession to SCO,” Islamic Republic News Agency, September 16, 2022.
  13. 13 11月5日には1米ドル35万リヤルを突破した。 Maziar Motamedi, “Iran’s embattled currency plunges to historic lows amid protests,” Aljazeera, November 5, 2022.
  14. 14 Faezeh Foroutan, “Suspicious bind: Iran’s relationship with Russia,” European Council on Foreign Relations, September 2, 2022.
  15. 15 ibid.