8月11日、英国のフィナンシャルタイムズ紙は、サウジアラビア(以下「サウジ」)が日英伊3カ国による次期戦闘機共同開発協力(Global Combat Air Programme:GCAP)への参画を望んでおり、イギリス及びイタリアは前向きだが、日本はプロジェクトが複雑化すること、遅れが生じることなどから懸念していることが報じられた[1]。同紙によれば、7月に岸田総理がサウジを訪問した際、サウジ側からこの希望は伝達されていたとのことである。

 日本の石油確保の鍵は、サウジなどのアラブ産油国の脱石油のくにづくりに日本がどれだけ協力貢献できるかであり[2]、7月に行われた官民挙げての岸田総理サウジ訪問を筆者は大きな一歩と評価していた。しかし、サウジの国家存続にとっての最優先事項である安全保障の問題の一つである最新戦闘機の導入に係る問題で、日本にGCAP参画希望が伝えられた以上、単にサウジ参画反対だけでは、収まらないのではないかとも思われる。

 以下、本論考ではサウジのGCAP参画希望を巡る諸課題を整理し、この問題を収める糸口の検討を試みたい。

岸田総理のサウジ訪問

 まず、GCAP参画希望がサウジ側から伝えられたとされる岸田総理のサウジ訪問について確認しておきたい。岸田総理は、7月16~18日、サウジ、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールの3か国を訪問し、各国で首脳会談を行うとともに、ラウンドテーブル、フォーラム、レセプションと名称は異なるが、同行の経済ミッションと各国投資経済関係の官民関係者との間での協議に参加して、日・各国間の投資経済関係拡大へ向けての日本の姿勢を強調した[3]。

 日・サウジ首脳会談では、外相級戦略対話の設置で合意したことが強調された他、サウジ提案の「クリーンエネルギー協力のための日サウジライトハウス・イニシアティブ」への日本の協力、日GCC間FTA交渉再開、地球環境分野で再エネ・省エネを通じたサウジの取組みを後押しする「JBIC及びNDMC間の協力」、教育・文化・科学技術・スポーツ等の分野におけるJETRO及びサウジ・エンターテインメント・アカデミー間の協力覚書締結などが確認された[4]。

 これらは、日・サウジ間で政治・経済・文化において幅広く協力関係を築いていく前向きなシグナルであり、これを成果としていくために、今後、具体的な協力案件をつくって行く必要がある。その点、岸田総理が日本企業の投資を推進することによるサウジの産業多角化への日本の貢献を強調したことは、日サウジ双方を励ますものとなった。

 3月に発表した拙著論考[5]で筆者は、中東地域のビジネス進出戦略を政治主導で、外務省、JICA、JETRO等関係諸機関並びに経済界等を集めて策定し、それを中東諸国に伝えるとともに、官民双方が実施していくことを提言した。官民間での戦略が話し合われたかどうかは定かではないが、日サウジ首脳会談の結果報告を読む限り、筆者は、総合的に官民がサウジへのアプローチを試みていると評価している。

サウジのGCAP参画要望を巡る課題

 サウジのGCAP参画要望の背景について、フィナンシャルタイムズ紙[6]は、イギリスから購入するユーロファイタータイフーンの第2回供与について、同機共同開発国のドイツが、ジャマル・カショギ殺害後の2018年からサウジに対する武器供与禁止措置を実施した影響で、遅れていることを指摘している。また、サウジは、世界でも有数の武器購入国で、多くはアメリカ製だが、同時に自国の軍事産業発展のため多額の資金を使っている。

 サウジとしては、GCAPに参画することによって、アメリカからの輸入以外でかつドイツ等サウジへの武器供与禁止措置をとる国を外す形で、新型戦闘機を手に入れることができると考えていると推測される。また、サウジとイギリスは、本年初頭に空中戦闘能力について将来の協力を探索する実現可能性調査を始めることを約束したことも同記事で報じている。イギリスは、同調査とGCAPは別物とは述べているが、サウジは、イギリスの対サウジ融和姿勢を自国にとって都合よく解釈する可能性はある。イギリスがサウジのGCAP参画を歓迎する理由としては、サウジが何百億ドルにもなる開発費に資金的貢献を行い得ることが挙げられるが、同時にイギリス国防省高官は、サウジがイギリスの戦略的パートナーで、戦闘機開発計画において同国をキーパートナーと見ているとも報じている。

 イギリスとしては、サウジのGCAP参画が実現しなくても、日本が反対したからと言い逃れすればいいだけなので、問題はない。反対した代償として日本の資金的貢献が増加する可能性もある。しかし、新型戦闘機を得るとともに自国の軍事産業を発展させたいサウジからすれば、日本は、ドイツと同様、軍事分野では忌避すべき国に位置づけることになるであろう。

日本のとるべき姿勢

 武器輸出に厳しい制限をかけている日本にとって、GCAPはG7の仲間であるイギリスとイタリアを相手にした例外的な協力である。そのため、GCAPへのサウジ参画を認めることができないという日本の姿勢は、これまでの武器輸出に対する規制から見ても明白であろう。しかし、対サウジ関係を考える上では、総合的な観点から本問題に取り組む必要がある。

 今回の日サウジ首脳会談で岸田総理が「インド太平洋を含む国際の平和と安全に関する諸課題の対応において、引き続きサウジアラビアと緊密に協力していきたい」[7]と述べたように、今後のサウジとの外相級戦略対話では、サウジの安全保障も含め議論すべきである。議論の中で、日本にできることは限られていたとしても、安全保障やそれに伴う軍事分野での協力の可能性を議論すべきである。

 イラン・イラク戦争末期の1987年、ペルシャ湾に浮かぶ機雷の除去のため、日本は、アメリカから掃海艇の派遣を要請された。しかし、戦争目的で敷設された機雷を公海や非戦闘国領海であるからと言って除去することは、敷設国からすれば、作戦の妨害であり、戦争に参加することになるとして要請を断った。ただし、代替措置として、GPSのなかった当時必須であった機雷のない安全に航行できる航路を明らかにする安全航行装置を湾岸協力機構(GCC)各国に提供した。実際の同装置の供与・設置は同戦争終結後であったが、1991年に起こった湾岸戦争後の機雷除去では大いに役立った。

 このような例をそのままサウジの安全保障問題に活用することはできないが、サウジとの対話の中で同国の安全保障について協力できることは見つけられると思われる。日本の外交関係者の努力を期待したい。

(2023/09/13)

*こちらの論考は英語版でもお読みいただけます。
Saudi Arabia’s Push to Join the Cooperation in the Joint Development of Next-Generation Fighter Aircraft by Japan, the UK, and Italy: How Should Japan Respond?