年次教書演説で米国に対抗する新型兵器の開発が公表

 2018年3月1日、ロシアのプーチン大統領は恒例の議会向け年次教書演説を行った。同演説は通例、毎年の12月に実施されるが、2017年中には実施されず、3月までずれ込んだものである。3月18日のロシア大統領選に向けた所信表明の意味があったものと思われる。

 演説の前半は社会・経済問題に集中したが、外交安全保障をテーマとする後半では米国のミサイル防衛計画に対する激しい批判が繰り広げられ、これに対抗するものとして6種類の新型兵器の開発が公表された。その内訳は以下の通りである。

  • 大型ICBM「サルマート」
  • 極超音速滑空弾頭「アヴァンガルド」
  • 極超音速空対地ミサイル「キンジャール」
  • 原子力巡航ミサイル「ブレヴェストニク」(のちに国民投票で命名)
  • 原子力魚雷「ポセイドン」(同)
  • レーザー兵器「ペレスウェート」(同)

 教書演説においてこのような新兵器が公開されることは異例である。また、サルマート、アヴァンガルド、キンジャール、ポセイドンについては開発計画が以前から明らかになっていたが、ブレヴェストニクとペレスウェートは開発計画自体が初めて明らかにされたものであった。選挙に向けた国民の支持獲得を目的とすると同時に、トランプ米政権が2月に公表した核態勢見直し(NPR)への対抗措置という側面があったものと思われる。そこで以下では、これら6種類の新兵器のうち、ロシアの戦略核抑止に関係する4種類(サルマート、アヴァンガルド、ブレヴェストニク、ポセイドン)について、その意義について考えてみたい。

 以上4種類を大きく分類すると、近く実戦配備が見込まれるものと、政治的効果を狙って研究段階にあるものを公表したと考えられるものとに分かれる。

ミサイル

近く実戦配備が見込まれる兵器

 サルマート及びアヴァンガルドは前者に含まれ、いずれも2000年代からロシアが開発してきたことが知られている。サルマート(RS-28)は発射重量200トンの超大型ミサイルであり、老朽化したウクライナ製のRS-20Vヴォイェヴォーダ(NATO名SS-18サタン)重ICBM(サイロ配備型)の後継として、多数の核弾頭を搭載し、核抑止力の中核となることが見込まれている(このほかにロシアはサイロ配備型/道路移動型のヤルスICBMの配備を進めている)。

 また、プーチン大統領によればサルマートは「無制限の射程」を持つとされることから、米国への最短ルートである北極周りだけではなく、南極周りでミサイル警戒システムの手薄な米国南方を攻撃する任務も負うものとみられる(この場合は弾頭搭載数を減らし、射程を伸ばす)。ソ連時代に開発・配備されていた部分軌道爆撃システム(FOBS)を、米国のミサイル防衛(MD)への対抗措置として復活させるものと位置付けられよう。

 アヴァンガルドは大気圏の淵をマッハ20で飛行するグライダー弾頭である。この種の兵器は米国や中国も研究・開発を行っているが、ロシアの場合はやはりMD突破を念頭にサルマートその他のミサイルに搭載することを計画しているものと考えられる。米国は通常弾頭型、中国は核・通常弾頭双方を搭載することを念頭に置いているが、ロシアの場合は核弾頭を搭載し、あくまでも従来の核抑止の延長上に位置付けられる。サルマートと共に、アヴァンガルドはすでに試作機による実験が開始されており、2020年代には実戦配備に就くと考えられる。

クレムリン

政治的なブラフ(はったり)の可能性が高い兵器も

 一方、ブレヴェストニク及びポセイドンについては、実用化に相当の時間を要するか、政治的なブラフ(はったり)である可能性が高い。ブレヴェストニクについていえば原子力を動力とするミサイルというコンセプト自体が(原理的に可能であるとはいえ)技術的に相当困難である上、低速で長時間飛行するミサイル自体にいかなる軍事的有用性があるのか、俄かには判断し難い。プーチン大統領の演説では発射試験の映像とされるものが公表されており、なんらかの研究開発が行われていること自体は事実であると思われるが、核抑止力の体系においてどのような位置付けの兵器であるのかを見極めない限り、それがどこまで真剣なプロジェクトであるのかは疑問符が付こう。

 ポセイドンについては従来から「スタトゥス-6」という開発名称が知られていた。プーチン大統領によれば、原子力で海中を巡航し、敵の空母機動部隊や港湾に対して核弾頭で攻撃を行う一種のロボット兵器であるとされる。ロシアは小型原子力潜水艇を実用化しているため、実現に向けた技術的ハードルは比較的低いと思われる。敵艦隊に対する攻撃に用いるためであれば、広域洋上捜索をいかにして実現するのかという問題があるが、ロシアはレーダー衛星と電波傍受衛星による宇宙洋上捜索システムの開発を続けていることから、これと連動する可能性はある。また、敵国の港湾で核爆発を起こすことにより、米国の海軍力を先制的に破壊することも想定されていると思われる。ただし、このようなシステムが既存の核抑止力体系に比べてコスト的に見合うのかどうかは依然として検討されるべき問題であろう。

脚注

特になし