はじめに

 2024年12月末、中国人民解放軍海軍(People's Liberation Army Navy:PLAN)の新型の076型強襲揚陸艦「四川」が進水した[1]。同艦は従来の075型強襲揚陸艦よりも大幅に大型化されており、米海軍の最新型強襲揚陸艦に匹敵する強大な戦力となる。そして、最新空母「福建」[2]と同様の電磁カタパルトを備えた発艦装置を装備していることから無人航空機を含む小型空母として使用される可能性についての報道もある[3]。

 本稿では、この新型強襲揚陸艦「四川」を分析し、強襲揚陸艦を指揮艦として特殊部隊、航空・水上・水中無人機を搭乗・搭載させ、特殊部隊が無人機とともに作戦を遂行するための指揮母艦としての「統合無人特殊戦母艦」を目指していることについて分析する。

076型強襲揚陸艦「四川」の概要

 進水した「四川」は、これまで強襲揚陸艦を建造してきた中国船舶工業集団公司(CSSC)の子会社として上海市に立地する滬東中華造船(集団)有限公司で建造されている。「四川」は、同造船が新たに建設した上海市長興島造船基地で建造された初めての強襲揚陸艦でもある。衛星画像や進水式での画像をもとに同艦を分析すると、その大きさや形状、航空機揚降エレベータ(2基)、車両搭載用デッキ(1基)を備えている。米海軍の最新の強襲揚陸艦と類似している点もあり、米海軍と同じように、舟艇での揚陸よりも航空機を使用した揚陸を重視したものとなっている。一方で航空機使用を重視したことで「四川」は、航空機格納庫スペースの拡大化、さらにホバークラフト型揚陸艇(LCAC:Landing Craft Air Cushion)や汎用揚陸艇(LCU:Landing Craft Utility)搭載ウェルドックを設置していることから、揚陸車両スペースを大幅に制限しているものと見積もられる[4]。

 「四川」は、米海軍の最新強襲揚陸艦(ブーゲンヴィル級)よりも排水量が少ないことから、水陸両用作戦において自己完結編成とされる連隊規模の1艦での搭乗・搭載は厳しいこと、一方で中国人民解放軍特殊部隊の連隊規模は1,000~2,000人とされていることから強襲揚陸艦のもう一つの作戦とされている特殊部隊での活動を見積もることに軍事的合理性がある。

 また「四川」は、その大きな特徴として世界のどの強襲揚陸艦にもない電磁カタパルト(CATOBARシステム)を搭載している[5]。米国をはじめ英、日、スペインなどは、垂直離着陸機を使用しているため、電磁カタパルトは必要ないが、CATOBERを設置することにも大きなメリットがある。それは、第一に、垂直離着陸機の発着艦時に使用する航空機燃料の消費を大幅に節減でき、航空機の航続距離を延伸させることが可能となる。第二に、垂直離着陸機は、重量制限が伴い、満載した武器や満載燃料搭載状態で発艦ができない場合があるが、電磁カタパルトを使用することにより、垂直離着陸機よりも重量のある航空機を離陸させることが可能となることから離陸する航空機の搭載重量を増量させることが可能となる[6]。つまり、より多くの弾薬・ミサイル、燃料等を搭載し、かつ、より遠距離への進出が可能となるという利点がある。

 そして「四川」については、米国防省と戦略国際問題研究所(CSIS)が、巨大なドローン・プラットフォームとして使用される可能性を指摘している[7]。CSISは、さらに建設中の「四川」を捉えた人工衛星画像をもとに、無人システムに限定して言えば、076型の航空団は非常に強力なものとなるだろう。中国はステルス戦闘無人機GJ11や偵察型無人機WZ7、無人戦闘航空機(UCAV)彩虹など、高度な無人機を多数擁していると述べている[8]。そして、尾翼のないデルタ翼(J36)の画像と動画が、「四川」の進水に合わせるように、2024年12月26日に中国のソーシャルメディアに突然掲載され、同時に2機の第6世代戦闘機が紹介されている[9]。こうしたことから新たな戦闘機や無人機も「四川」に搭載されるとの見積もりもある[10]。

 以上の「四川」の特徴をまとめると、無人機(航空、水上、水中)を従えた特殊部隊の母艦となる可能性がある。

表:強襲揚陸艦比較表

出典:『世界の艦船』海人社などを参考に筆者作成

「統合無人特殊戦母艦」の建造理由と想定される戦術

 中国人民解放軍が台湾侵攻等において、中国から台湾へ本格的に侵攻する場合には、大量の兵力と物資を台湾海峡経由で輸送する必要があり、多数の強襲揚陸艦をはじめとする輸送艦艇や輸送航空機が必要である。そのため2006年から大型の071型ドック型揚陸艦の建造を開始し、8隻をすでに就役させ、現在2隻を建造中である。また2017年から全通甲板の075型強襲揚陸艦の建造を開始し、当初の計画数8隻を急速に就役させるとの見積りに反し(3番艦まで毎年建造)、2年の空白期間を含めて4番艦をやっと2023年12月に進水させている。このように台湾有事に必要とされている揚陸艦建造は、戦闘艦に比べてその建造期間や建造コストも低いにも関わらず、建造ペースは低い。その理由として、台湾有事における人民解放軍の台湾本島への大量輸送を有事に人民解放軍の統制下におく軍民融合の民間船舶で実施することとしている可能性が高いことがある[11]。そうした中での「四川」の建造は、大量作戦輸送ではなく特殊部隊の運用を想定したものであることの軍事的合理性をさらに高めている。

 中国人民解放軍特殊部隊は、直接行動、特殊偵察、対テロという3つの主要任務が課せられている。その作戦目標は、重要地域を攻撃し、敵の作戦システムと能力を低下させ、敵の作戦活動を遅延または混乱させることにより、通常戦力との対抗のための場を準備することである。また通常戦におけるその任務は、後方部隊の陣形と活動を混乱させること、重要目標を破壊または確保すること、斬首作戦、火力支援の目標を定めることなどが含まれる[12]。人員規模は、人員2〜3万人の経験豊富な将校と下士官で構成されている。そのうちの連隊は、1,000〜2,000名で構成されていることから、「四川」での態勢は1個連隊が適当である。海峡対岸侵攻に関連する特殊部隊は、海上任務特殊部隊と空挺特殊部隊となる[13]。そして中国人民解放軍が、無人水上機・水中機・航空機を有し、発展、向上させていることから[14]、両部隊とも無人水上機、無人水中機、そして無人航空機と共に行動することが見積もられる。まさに「四川」を特殊部隊の旗艦(司令部)として使用することで、自己完結した特殊作戦が遂行できる点から、上陸作戦を遂行する強襲揚陸艦よりも「統合無人特殊母艦」に最適なのである。

 こうした特殊作戦遂行の軍事的合理性を高めていると見積もられるものとして、2024年に中国人民解放軍が実施した台湾包囲演習「連合利剣2024A」(2024年5月実施)および「連合利剣2024B」(2024年10月実施)において、その演習目的の一つが「中国が「台湾独立派」とみなす頼清徳政権と、台湾との関係強化を進める米国を強くけん制すること」[15]、また人民解放軍が攻撃用ヘリコプターと輸送用ヘリコプターを動員した「長距離での戦力投射」や「超低空侵入」の演習を実施していることが挙げられる[16]。さらに人民解放軍が中国・内モンゴル自治区2か所に台北市街地や台湾総督府に酷似した「模擬市街地」と「模擬総督府」訓練場を建造し、演習を実施している[17]。

 以上のことから具体的な作戦シミュレーションとして、例えば衛星画像やヒューミント情報等分析による情報収集を終えた洋上に位置する「四川」から複数のステルス性無人航空機(UAV)を発艦させ、より具体的な偵察・監視活動を行うと同時に、海上任務特殊部隊を乗せた大型長距離(半水没)水上・水中無人機を発進させ海岸からの隠密上陸を試みる。主要防空兵力、防空レーダーシステムへのミサイル攻撃や空母からの爆撃機による空爆と並行して「四川」から無人攻撃機と空挺特殊部隊が搭乗した航空機多数を発艦させ、特殊部隊侵入拠点に対して、長距離集中戦力投射、超低空侵入を行い、先に隠密上陸し潜伏している海上任務特殊部隊とともに首脳の斬首作戦や司令部機能破壊などを行うというシナリオである。この特殊作戦は、離島や遠隔にある部隊の司令部機能をマヒさせる作戦などにおいても有効であると考えられる。

おわりに

 中国人民解放軍海軍所属の艦艇数は、既に米海軍の艦艇数を上回っている[18]。さらにサイバー攻撃や無人機の取得など、戦力を強化している。今回分析を行った「統合無人特殊戦母艦」としての使用が見積もられる「四川」も今後大きな戦力となる可能性を秘めている。

 こうした中国人民解放軍の動向を踏まえて、自衛隊でも早急な対応が求められる。「国家防衛戦略」(2022年12月)において、新しい戦い方に対応するために必要な機能・能力の一つとして、無人アセット防衛能力を挙げ、かつ水陸両用戦機能をほぼ取得した自衛隊ではあるが、未だ強襲揚陸艦を取得していない。整備が検討されているとされる将来型強襲揚陸艦について、改めて水陸両用戦のみならず、陸自特殊作戦群、海自特別警備隊、そして無人機母艦などの使用を検討することは、中国の「統合無人特殊戦母艦」に対抗する絶好のチャンスであるとも言え、今後の強襲揚陸艦建造に注視したい。

(2025/02/07)

*こちらの論考は英語版でもお読みいただけます。
China’s New Amphibious Assault Ship Launched — Analysis of the Type 076 Amphibious Assault Ship Sichuan and Possible Tactics

脚注

  1. 1 建造中の艦艇が水上に浮かべられる船体状態となり、陸上ドックから海上へ移動し浮かべる状態へ移行することを「進水」と言う。水上においてさらにぎ装を重ね、艦艇として完成した状態になることを「就役」という。また就役後も乗員がその艦艇を使いこなせる状態とならなければ運用はできない。運用できる状態を「戦力化」された艦艇という。
  2. 2 空母「福建」は、2022年6月に進水し、2024年5月に初の試験航海を実施した中国人民解放軍海軍(PLAN)の3番艦(国産としては2番艦)の空母である。電磁カタパルトを初搭載している。2025年にも就役するとされている。
  3. 3 「新型強襲揚陸艦が進水 無人機運用、「小型空母に相当」―中国」『時事通信』2024年12月27日。
  4. 4 Matthew P. Funaiole, Brian Hart, Aidan Powers-Riggs, and Joseph S. Bermudez Jr., "China's Massive Next Generation Amphibious Assault Ship Takes Shape," CSIS, August 1, 2024 ; "China Reveals Intel on its Type 076 Carrier 'Sichuan' After Launch," Eurasia Naval Insight.
  5. 5 Matthew P. Funaiole, et.al., "China's Massive Next Generation Amphibious Assault Ship Takes Shape."
  6. 6 STOVL機が、垂直離着陸可能な場合においても、短距離の滑走路離着陸を使用する目的として、燃料の節約や少しでも多くの弾薬を搭載することがある。
  7. 7 U.S. Department of Defense, "Military and Security Developments involving the People's Republic of China 2024," Annual Report to Congress, December 18, 2024, p48 ; Matthew P. Funaiole, et.al., "China's Massive Next Generation Amphibious Assault Ship Takes Shape."
  8. 8 Matthew P. Funaiole, et.al., "China's Massive Next Generation Amphibious Assault Ship Takes Shape."
  9. 9 Gerry Doyle, "Images show novel Chinese military aircraft designs, experts say," Reuters, December 27, 2024.
  10. 10 「【分析】最新ステレス機に"ドローン母船"空に海に軍備増強する中国【日曜安全保障】」FNNプライムオンライン(YouTube)、2025年1月6日。
  11. 11 武居智久「中国軍の台湾侵攻能力を進化させる民間輸送力:米年次報告書の評価を中心に」笹川平和財団 日米台安全保障研究、2023年7月11日 ; U.S.Department of Defense, "Military and Security Developments involving the People's Republic of China 2024, Joint Logistic Support Force," Annual Report to Congress, December 18, 2024, pp.72-73.
  12. 12 U.S. Department of Defense, "Military and Security Developments involving the People's Republic of China 2024, Joint Logistic Support Force," pp.79-83.
  13. 13 Ibid.
  14. 14 例えば、Liu Xuanzun and Yang Sheng in Zhuhai, "PLA Air Force's mysterious new armed reconnaissance drone makes debut at Airshow China," Global Times, November 15, 2024など。
  15. 15 飯田将史「台湾を囲む中国による軍事演習―その特徴、狙いと今後の展望」NIDSコメンタリー、第325号、2024年5月28日。
  16. 16 Ryan Chan,"Video Shows China's Army Practicing Invasion Tactics," Newsweek, January 24, 2025.
  17. 17 「[衛星でみる安保]「台湾短期制圧」への布石...読売新聞画像分析」『読売新聞』、2024年7月18日。
  18. 18 「米、中国海軍の拡大に危機感 艦艇保有数に大差」『日本経済新聞』、2024年8月21日。