何が問われるのか
日本政府は長年、核兵器を「持たず」「作らず」「持ち込ませず」という非核三原則を維持してきた。もともとは、1967年12月に当時の佐藤栄作首相が国会で表明したもので、1971年11月に国会決議にもなった。これは「国是」と呼ばれることも多く、政府自身も国会答弁や白書などでもそのように呼んできたが、最近では「政策上の方針」や「基本的方針」という説明に収斂している。個々の用例での意図はともあれ、将来的な変更の可能性へのヘッジのようにも聞こえる。
三原則の内容に関して、1967年や1971年当時は、日本が核不拡散条約(NPT)を批准する以前だったため、「持たず」と「作らず」も内外への発信として重要だった。しかし、日本がNPTに参加し続ける限り、「持たず」と「作らず」は自明である。国内には、NPTを離脱して独自の核兵器を保有するべきとの声もあるが、現在のところ主流にはなっていない。そのため、非核三原則に関して現実的に争点になるのは、当面3つ目の「持ち込ませず」の扱いになる。
関連して、このところ頻繁に言及されるのが、いわゆる岡田答弁だ。2010年3月17日の国会答弁で当時の岡田克也外相(民主党)は、「緊急事態」が発生し、核の「一時的寄港」を認めないと日本の安全が守れないような事態になれば、「そのときの政権が政権の命運をかけて決断」すると述べた[1]。この方針は、その後の自由民主党政権も引き継いでいる。そのため、三原則はすでに「2.5原則」になっているとも指摘される。
この岡田答弁が存在するために三原則を変更する必要がないという指摘も聞かれる[2]。しかし、これは厳密な議論ではない。岡田答弁を踏まえてもなお、解決を要する現実的問題が残されているからである。そこで本稿は、非核三原則のうち、「持ち込み」に関する論点をあらためて整理することで、今後の議論の基礎を提供したい。岡田答弁がカバーするものとしないものを正しく理解し、いかなる課題のために何が必要なのかを明らかにすることが目的である。
以下、議論の中心になるのは、核兵器の「一時寄港」と「持ち込み」、そして「平時」と「有事」の違いである。これらを横軸と縦軸に整理すれば、下の図のように、①「平時の一時寄港」、②「平時の持ち込み」、③「有事の一時寄港」、④「有事の持ち込み」という4つのカテゴリーが出現する。このうち、岡田答弁が対象とするのは、グレーで網掛けした「有事の一時寄港」のみである。論点を順番にみていこう。

核兵器「持ち込み」問題で問われる4つの形態
| 一時寄港(領海通過を含む) | 持ち込み(地上配備) | |
|---|---|---|
| 平時 | ① 「平時の一時寄港」 米国のSLCM-N配備時に日本国内で問題に(ただし米国はNCND政策により、核兵器搭載の有無は明言せず/米国にとっては持ち込みではないが、日本は一時寄港も持ち込みとの解釈) | ② 「平時の持ち込み」 米国との協定が不可欠で貯蔵庫などの認証が必要/「事前協議」の対象だがそれのみでは不十分(その上で実際の配備についてはNCND政策が適用) |
| 有事 | ③ 「有事の一時寄港」 岡田答弁で受け入れ可能性がすでに示唆(非核三原則の例外?) | ④「有事の持ち込み」 平時からの持ち込み(協定・貯蔵庫)がなければ事実上不可能 |
「一時寄港」と「持ち込み」
非核三原則に関連して、いわゆる「持ち込み」の問題を考える際にまず必要となるのは、「一時寄港(ビジット/トランジット)」と「持ち込み(イントロダクション)」の切り分けだ。これを怠ると、かみあった議論が成立しなくなる。
米国は冷戦期から、潜水艦でも水上艦艇でも、核兵器を搭載した艦艇の一時寄港と、地上への貯蔵を意味する「持ち込み」を区別してきた。航空機に関しても同様である。なお、領海通過よりは「一時寄港」が問題になることが多いこと、およびこの2つの間の相違よりは、「持ち込み」との相違が本質的な問題であるため、ここでは通過と寄港の分類はせずに、一時寄港を軸に議論する[3]。
米国の定義では、艦艇に搭載したままの状態であれば、寄港しても「持ち込み」には該当しない。航空機に関しては、核兵器を搭載したままにしておくことが艦艇よりも難しく、そのための条件も厳格だが、それでも機体から下ろして地上で貯蔵しない限り、同様に、米国の定義上は「持ち込み」にならない。米国のいう「持ち込み」は、端的には地上への配備のことである。
今日の米国は、日本に日常的に寄港する空母を含む水上艦艇や攻撃型原子力潜水艦に搭載する核兵器を保有していない。そのため、核兵器の寄港に関する「実際上の問題は発生しない」と日本政府は説明してきた[4]。しかし米国は現在、海洋発射型核巡航ミサイル(SLCM-N)を開発中で、2030年代前半から半ば頃までには攻撃型原潜などに搭載を開始することを目指している[5]。日本も定期的に寄港するバージニア級攻撃原潜も有力な搭載候補である。これにいかに対処するかが問われるのである。平時の一時寄港に関する問題だ。
日本の国内問題としての一時寄港
SLCM-Nを搭載した米原潜を日本に寄港させる場合でも、米国の定義が変わらない限り米国にとってそれは「持ち込み」に該当せず、日米安全保障条約にもとづく事前協議を要請することもない。加えて米国は、国外に展開・配備する核兵器については、その有無や場所などについて「否定も肯定もしない(NCND)」政策を維持している。そのため、SLCM-Nの配備後も、どの艦艇に搭載されているかを明らかにすることは考えにくい。
そうした状況では、米原潜の日本寄港のたびに、核兵器の「持ち込み」疑惑――ただし、米国の定義では「持ち込み」に該当しない一時寄港――が沸き起こることになるだろう。この種の一時寄港こそが、日本国内の文脈での「持ち込み」問題の最も論争的な争点だったからである。なお、日本側でいくら有事の「持ち込み」や一時寄港を議論したところで、有事においても米国のNCND政策は基本的に継続するため、核兵器の「持ち込み」ないし一時寄港が正式に発表されることはないと考えられる。
2010年3月に公表されたいわゆる密約に関する有識者委員会報告書は、事例の一つとして、一時寄港などが「持ち込み」に含まれるか否かについての日米間の認識の齟齬を検証した。日本政府は、米国のいう「持ち込み」が一時寄港を含まないことを、当初はともあれ、のちには認識することになったものの、そのことを伏せ、国内向けには「米国から事前協議の要請がない以上、核兵器が持ち込まれていない」という説明を続けたのである。報告書は、日米間の齟齬を知りながら、日本の歴代政権が「嘘をふくむ不正直な説明に終始」したことを批判し、「広義の密約」が存在したと認定した[6]。
日本政府は、密約はもはや有効ではないとの立場だが、そのうえで同報告書後も、一時寄港と領海通過も「持ち込み」とみなす方針を維持している[7]。しかし、米海軍にSLCM-Nが配備されたのちに、冷戦時代のような説明を日本政府が繰り返すわけにはいかない。
この点に関して、米国との関係と同盟の抑止力を維持するために「持ち込み」を認めるべきだとの声があるが、正確さを欠いた議論である。これは本質的に日本の国内問題だ。というのも、一時寄港は「持ち込み」に該当しないという自らの定義を米国が変更しない限り、SLCM-N搭載の原潜の一時寄港は「持ち込み」ではなく、日本が非核三原則を維持するか否かは関係がないからである。加えて今日の米国は、日本への核兵器の「持ち込み」(つまり地上配備)を求めているわけでもない。政治的にはともあれ、技術的観点では、核兵器を搭載した艦艇の日本への一時寄港が禁止されているという解釈を米国は今日でもしていない可能性が高い。
日本が、自らの政治的立場として一時寄港すら認めないという立場をとることは可能だが、それには米国との関係悪化や抑止力の低下などのコストが伴う。この点を踏まえ、一時寄港を認めるとすれば、実質的には非核三原則の大きな転換を意味するが、厳密には、一時寄港を「持ち込み」に含めないという新たな解釈をするのが現実的方策であり、米国のいう地上貯蔵という意味での「持ち込み」容認に踏み切る必要はない[8]。とはいえ、これだと内容的には冷戦期の密約とほぼ同じになってしまうため、これを認める政治的ハードルが極めて高いことは否定できない。
秘密裏の「持ち込み」は不可能
米国が一時寄港と「持ち込み」を厳密に分けるのは、外国への核兵器「持ち込み」のハードルが高いからである。これは、受け入れ国の世論との関係で機微だということ以上に、第一義的には、緊急事態の際の対応を含めて、核兵器(弾頭)の安全管理に関する米国政府の規則が極めて厳しいためである。
戦術核兵器を配備――つまり米国の定義による「持ち込み」を――しているとされるドイツやイタリア、オランダなどのNATO(北大西洋条約機構)加盟国との間で米国は、核兵器の貯蔵に関する二国間合意を秘密協定として締結している。協定の全文は公式にはアクセスできず、また、米国のNCND政策にもとづき、核兵器の所在の有無や数量も公表されない[9]。そのため、核兵器が配備されている「とされる」という表現になる。
核兵器を貯蔵する各基地には、核弾頭を防護するための専門部隊が配置され、貯蔵庫は定期的な認証を受ける必要がある。なお、核弾頭防護を含む二国間協定は、米国の側ではエネルギー省の管轄になる。いずれにしても、こうした協定やそれに基づく措置がない以上、米国は「持ち込み」をすることができない。国内法に抵触してしまうからである。
米国が秘密裏に「持ち込み」をすることへの疑念が表明されることもあるが、歴史上、米国がそのようなことをした事例はないとみられる。ちなみに日本に返還されるまでの沖縄は米国が管理していたため、米国内と同等の扱いで核兵器が配備されていた。1950年代から60年代にかけては、日本本土への核兵器の配備の議論が米国内にあったが、日本との協定締結が現実的ではないとして断念された経緯がある。

鍵は「有事」よりも「平時」
最後に、平時と有事の違いはどうだろうか。日本の場合は、重要影響事態や存立危機事態など、国内法にもとづく事態認定という法的な区分が注目される。岡田答弁が想定するのは、核兵器の一時寄港をしなければ日本の安全が守れないような事態であり、深刻度は極めて高いはずだ。
平時と有事を明確に分けることは現実には困難ともいえるが、(米国定義の)「持ち込み」について考えれば、平時の段階で協定締結や貯蔵庫の認証などの準備をしておかなければ、有事に受け入れることは事実上不可能である。有事になってから協定を締結することも、貯蔵庫を建設して認証を受けることも考えにくいからである。「持ち込み」をするのであれば、平時からおこなう必要がある。前述のNATOの核共有も平時から継続している点が重要だ。
これは、手続きや準備のみに関する考慮ではない。「持ち込み」のみならず、一時寄港に関しても、有事になってからの行動ではエスカレーションを招きかねないという重大な問題がある。核兵器に関するエスカレーションには慎重な対応が求められることはいうまでもない。そうしたなかで、有事の一時寄港にはリスクが大きい。また、一時寄港をしようとして、敵対国からの警告やエスカレーションの懸念などから取りやめになれば、そのダメージも無視できない。
「持ち込み」や一時寄港に関しては、岡田答弁を含め「有事の際には」という議論が多いが、それは結論の先延ばしである。この問題は平時から準備をするとともに、実践を積み重ねる必要がある。
2026年末までに改定予定とされる高市政権下での新たな国家安全保障戦略に向けて、非核三原則の扱いが正面から扱われるか否かはまだ不透明である。それでも、この議論自体は、SLCM-Nの開発・配備を見据えていずれ避けられない。
しかも、高市早苗首相は、首相就任前の2024年に刊行した書籍で、「持ち込ませず」は、米国の拡大抑止の提供を受けるにあたって「邪魔になる」可能性があると述べ、非核三原則の「堅持」を謳い続けることへの疑問を提起している[10]。米国の行動の自由を制約することが、抑止の効果を減じてしまう懸念である。問題意識はもっともである。
ただし、非核三原則を含む核問題は、世間での関心が高いがゆえに、かみあった落ち着いた議論がしにくいのも現実だ。まずは一時寄港と「持ち込み」の整理をはじめとする基礎を共有することが不可欠である。
(2026/07/23)
脚注
- 1 2010年3月17日衆議院外務委員会での岡田外務大臣発言。
- 2 たとえば、2026年4月28日のBSフジ「プライムニュース」に出演した岸田文雄元総理の発言を参照。
- 3 日本の観点で、一時寄港を認めつつ領海通過を拒否することはありえず、また国内的には領海通過よりも一時寄港がより論争を呼ぶことが確実なためである。加えて、米国は寄港と通過を必ずしも厳密には分類していない。それは第1に、寄港も米国にとってはグローバルな展開の一環であり、寄港と通過は一連のプロセスのなかに位置付けられるためである。第2に、「持ち込み」には、本文でも触れるように受け入れ国との協定などの確立した手続きが必要であるのに対して、寄港と通過はそうした手続きを要しないために、米国として区別する必要がない。なお、日本の場合は核「兵器」ではなく、原子力「動力」による艦艇の寄港にあたって、原子力安全性の観点で極めて厳格な手続きが存在し、米国は原子力空母および原子力潜水艦に関して毎回所定の手続きに従っている。原子力動力艦の寄港問題については、例えば、拙稿「日本が直面する新たな「核」問題――原子力艦寄港と核兵器「持ち込み」」『新潮QUE』2024年12月2日。
- 4 たとえば衆議院外務委員会 2010年3月10日における岡田外務大臣発言を参照。
- 5 開発の現状の概要は、たとえばAnya Fink, “Nuclear-Armed Sea-Launched Cruise Missile (SLCM-N),” In Focus, Congressional Research Service, September 19, 2025を参照。
- 6 「いわゆる「密約」問題に関する有識者委員会報告書」外務省、2010年3月9日、38-39、46、105頁。
- 7 注4の岡田外務大臣答弁の時点ですでに示されていた。
- 8 米国の定義やNCND政策の変更をはたらきかけるというオプションも、論理的には存在する。しかし実現可能性は低いだろう。また、そうした働きかけをおこなうことが日本の国益に資するか否かについても別途検討が必要になる。
- 9 とはいえ、米戦術核の欧州配備の状況はかなりの程度判明している。代表的なものとして、Hans Kristensen et al., “United States nuclear weapons, 2026,” Bulletin of the Atomic Scientists, Vol. 82, No. 2, 2026; Hans Kristensen et al., “Nuclear weapons sharing, 2023,” Bulletin of the Atomic Scientists, Vol. 79, No. 6 ,2023.などを参照。
- 10 高市早苗編『国力研究――日本列島を、より豊かに。』産経新聞出版、2024年、18頁参照。
