(写真提供:内閣広報室)

 近年、太平洋島嶼地域[1]を取り巻く情勢は、中国の影響力拡大、太平洋島嶼国(以下、島嶼国)の自立の動き、旧宗主国である米豪英仏NZ(ニュージーランド)の関与再強化により急速に変化している。このような地域情勢変化の中、本年5月18~19日に福島県いわき市で開催された第8回太平洋・島サミット(The Eighth Pacific Islands Leaders Meeting, PALM8)は、日本と島嶼国のパートナーシップ関係を再確認し、更なる進化を国内外に示す重要な機会であった。

 筆者は過去15年、日本と島嶼国の関係構築に従事し、島嶼国と日本で地域情勢変化の渦中の中で、現地のニュアンスを実感できる環境に身を置いてきた。今後、複数回の寄稿で、PALM8の成果と意義、地域秩序の変化、地域機関、島嶼国の自立努力と経済、中国の影響力拡大、地域安全保障等に関する情報等を伝えたいと考えている。第1回目となる本稿では、5月のPALM8の成果と意義について考える。

日本と太平洋島嶼国のバイとマルチの関係性

 島嶼国は、日本にとって、国連などの国際場裏の票田であり、豊かな漁業資源と南シナ海・マラッカ海峡の代替となる中東・湾岸諸国へのシーレーンの管理者としても重要である。日本は島嶼各国とそれぞれの独立直後から外交関係を結び、1972年から継続するサモアへの青年海外協力隊派遣に代表される長年に渡る人的交流の蓄積による「顔の見える」バイの(二国間)関係を築き上げてきた。

 一方、地域の全般的な政策調整では、日本の太平洋地域とのつながりは、太平洋諸島フォーラム(PIF)とのマルチの関係が中心にある。PIFは1971年に豪、NZ、島嶼国5カ国により、南太平洋フォーラム (South Pacific Forum; SPF) として創設され、2000年10月に現在の名称に改称された[2]。現在18カ国・地域が加盟する地域政策機関であり[3]、主権、法の支配、自由と民主主義、伝統文化の尊重、包摂性、国連重視を基盤に、地域の安定、核問題、越境犯罪、資源管理、海洋環境、気候変動、自然災害、生物多様性の保全、貿易投資・観光の促進、持続可能な開発などの地域や国際社会の課題に対する地域協力を推進している。

 そのPIFと日本の関係は、1981年の放射性廃棄物海洋投棄案に対するPIF(当時はSPF)の日本への抗議から始まった。その後、日本は対話を続け、1996年にPIFと合同で東京にPIF加盟国・地域間の貿易投資・観光促進を目的とする太平洋諸島センターを開設し、1997年には第1回太平洋・島サミット(当時は日・南太平洋フォーラム首脳会議)を開催するなど、信頼関係を醸成してきた。同サミットは、以後3年毎に開催され、PALM8で21年目を迎えた。

PALMプロセスに対する太平洋島嶼国の関心低下

PALMプロセスに対する太平洋島嶼国の関心低下

 このように日本にとっても重要な意味を持つPALMであるが、2016年半ばぐらいから、複数の現地政府関係者から「PALMは儀式的で実質的な議論が期待できない」などの不満の声が筆者の耳に届くようになった。2017年に入りPALM8のテーマが海洋に絞られるとの情報が伝わると、現地の関心がさらに薄れていった。彼らの関心は、海洋環境問題や漁業資源管理だけではなく、広範な持続可能な開発課題、とりわけ気候変動への適応といった島嶼国の人々が直面している危機への対応、貿易投資・観光促進や人材開発による持続的な経済成長の実現にあったからだ。

 多少、手前味噌となるが、この危機的状況を解消するため、筆者の所属する笹川平和財団は2017年4月に「新時代の日本・太平洋島嶼国対話」事業を立ち上げ、トラック2外交を活用した日本と島嶼国の対話促進を図った。同事業の下、我々は「ラウンドテーブル」(2017年6月)、「日本に外交使節を持たない国々の外交当局との現地対話」(2017年7月から12月)、「国際シンポジウム」(2018年1月)を実施し、成果を「PALM8成功に向けた提言」としてまとめ、各島嶼国政府、PIF事務局、日本の外務省に提出した。[4]

 一方日本政府も、外務省による各在外公館を通じた各国政府およびPIF事務局との数次にわたる協議に加え、堀井巌外務大臣政務官による共同議長国サモアでのトゥイラエパ首相との会談(本年4月30日)やフィジーでのテイラーPIF事務局長との会談(同5月1日)など、PALM8成功に向けて直前までさまざまなレベルで努力を続けた。[5]

自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIPS)

 PALM8において、日本は「自由で開かれたインド太平洋戦略」(Freedom and Open Indo-Pacific Strategy, FOIPS)を(1)法の支配と航行の自由の普及および定着、(2)連結性の強化を通じた経済的繁栄の追求、(3)海上安全および防災分野における協力などの平和と安定に対するコミットメントの3本柱からなる」と説明した。[6]しかし二国間ベースでは、米国自由連合国のミクロネシア3国(パラオ共和国、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国)、経済力が強いパプアニューギニアとフィジーが同戦略への協力や連携を表明したものの、他の9か国は議論を継続するということで態度を保留している。[7]島嶼国代表団の一部には、同戦略が中国の一帯一路構想に対する「踏み絵」との疑念があったと考えられる。

 一方、日本と島嶼国は「ルールに基づく秩序を通じた安定の維持(主権尊重、法の支配、国際法に従った紛争の平和的解決)」、「永続的な繁栄の追求(開かれた市場および貿易投資の促進、自立的かつ持続可能な経済発展、強化された連結性と高められた社会強靭性)」などのビジョンによるPALMプロセスを通じたパートナーシップ形成を確認し[8]、島嶼国側は地域における日本のこれまでの外交的プレゼンスを高く評価した[9]。

 2006年のPALM4において、日本は島嶼国に日本の国連安保理常任理事国入りへ一致した支持を求めたが、中国の影響が強いトンガが同意せず実現しなかった。ところが今回のPALM8では、初めて島嶼国が一致してこれを支持した[10]。

 このように、一見、島嶼国側はFOIPSへの一致した支持を見せていないようにみえるが、同戦略は彼らが長年尊重してきた価値観と何ら矛盾するものではなく、島嶼国側は日本の外交的プレゼンス拡大を歓迎している。したがって、日本は今後も謙虚に島嶼国との対話と協力を続け、その中で自国の戦略への理解・協力を求めていくべきであろう。

民間経済を含む多様な関係強化

 近年、中国は巧みに地域への影響力を強めており、先進国のルールとは異なる、非OECD国による民間経済を含む経済協力を基盤とした代替的地域秩序を構築しようとしている。例えば、中国は台湾承認国のパラオにおいて、2013年ごろから現地GDPの7割を占める観光部門への民間を通じて投資や観光客を増やし、2015年にはパラオに11.4%の経済成長をもたらした。[11]これにより現地国会議員などに親中派が増え、ビザの優遇で観光客数を増大させる中国のADS(Approved Destination Status、観光目的指定国)獲得や中国からの投資拡大のための投資協定締結を求める動きが起こった。それは、台湾と断交し中国と国交を結ぼうとする国内議論に繋がっている。このような中国の影響力が拡大する中、ともすれば、日本の影響力の低下も懸念されている。

 一方で、今回の日本と島嶼国のPALM8首脳宣言は具体的で実りあるものだった。貿易投資・観光についてもこれまで以上に踏み込んだ協力が述べられ、特に島嶼国以外では中国だけが加盟する地域機関である「南太平洋観光機構」(South Pacific Tourism Organisation, SPTO)への日本のコミットメントが歓迎された。[12]これにより、日本もアジアからの観光客市場の選択肢の一つであることを島嶼国に意識づけする効果が期待できる。また日本のSPTOへのコミットメントは、中国人観光客急増がもたらした環境問題や社会問題に目をつぶり経済効果のみを称賛する同機構の姿勢に対して、客観性を持たせる動きとなり得る。

 日本はまた、太平洋島嶼地域内のサブリージョナルな取り組みとの緊密な連携や、南太平洋大学の日本語コース設置に繋がる支援を表明し、島嶼国側は日本の地方自治体がスポーツや教育分野の人的交流や中小企業間の商業取引活性化を行うなどの取り組みを歓迎するなど、人的関係や経済関係の今後の深化を期待させる。[13]

仏領2地域の参加

 筆者はこれまでの現地対話の経験から、PALMは日本と島嶼国の排他的枠組であるべきだと考えていた。しかし、本年1月に笹川平和財団で開催されたシンポジウム「第8回太平洋・島サミット成功に向けた提言」などでの対話を通じ、国際社会で自信を得た島嶼国は、もはや豪、NZを過度に意識していないことを理解した。また日本は各国と良好な二国間関係を有するため、PALMは日本以外の他の域外関係国と連携して地域の経済発展を支援する開かれた枠組みにすべきだとも考えるようになった。

 実際、日本の外務省は有識者会合の意見には反するが、昨年にPIFの正式メンバーに昇格したニューカレドニアと仏領ポリネシアをPALM8に招待するという英断を下した。これにより「PALM諸国」[14]に日本と価値観を共有する仏、EUの旗が加わり、日本のリーダーシップの下で、PALMが欧州にも開かれることとなったことは重要だ。

PALM8

今回のPALM8の意義と成果

 PALMの歴史を振り返ると、PALM1、2、3(1997~2003)は日本と島嶼国首脳が顔を合わせることに意味があった時期であった。PALM4、5、6、7(2006~2015)はドナーと被援助国の立場を象徴する日本の援助パッケージが注目された。

 今回のPALM8では、15カ国・地域の首脳とトンガの副首相、豪、NZの閣僚が参加し、日本と島嶼国が法の支配、自由と民主主義など共通の価値観を有することや対話の重要性が確認され、広範な地域課題に加え、北朝鮮問題など国際的な問題に対する実質的議論が行われた。これは国際社会において日本と島嶼国が対等なパートナーシップ関係となり、その関係が成熟しつつあることを示している。

 このようにPALM8は日本と島嶼国の関係が新しい段階に進む基盤ができつつあることを示した。この基盤をさらに強固にするため、今後も、官民の協力による合意事項の履行ときめ細かな対話の継続が求められるだろう。

(2018/08/01)

脚注

  1. 1 14か国8地域からなる。
  2. 2 米国自由連合国として独立を獲得したことで、ミクロネシア連邦およびマーシャル諸島共和国が1987年5月に、パラオ共和国が1995年9月に、それぞれSPFへの加盟を認められた。これによりSPF対象地域が南太平洋から北半球に拡大したこと、また新ミレニアムに合わせ、PIFに改称された。
  3. 3 オーストラリア,ニュージーランド,パプアニューギニア,フィジー,サモア,ソロモン諸島,バヌアツ,トンガ,ナウル,キリバス,ツバル,ミクロネシア連邦,マーシャル諸島,パラオ,クック諸島,ニウエ,の16か国と仏領ポリネシア及びニューカレドニアの2地域。外務省ウェブサイト「太平洋諸島フォーラム(PIF)」
  4. 4 日本政府の取組を支援するため笹川平和財団は2017年4月に「新時代の日本・太平洋島嶼国対話」事業を立ち上げ、トラック2外交を活用した日本と島嶼国の対話促進を図った。同事業の下、我々はラウンドテーブル(2017年6月)、日本に外交使節を持たない国々の外交当局との現地対話(同年7月から12月)、国際シンポジウム(本年1月)を実施し、成果を「PALM8成功に向けた提言」として各島嶼国政府、PIF事務局、外務省に提出した。
  5. 5 https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/ocn/page3_002457.html
  6. 6 第8回太平洋・島サミット(PALM8)首脳宣言 第10項。
  7. 7 外務省「第8回太平洋・島サミット」ウェブサイトにおける「二国間会談」、「安倍総理大臣」の各記録を参照。
    例えば「日・パラオ首脳会談」概要の第3項では、安倍首相の「自由で開かれたインド太平洋戦略」の下の連携・協力への要請に対し、レメンゲサウ大統領は、全ての国は法の支配を重視すべきである旨述べ,双方は,同戦略の下で連携していくことで一致したと発言している。
  8. 8 PALM8首脳宣言 第5項
  9. 9 同上 第8項
  10. 10 同上 第45項
  11. 11 https://www.adb.org/countries/palau/economy
  12. 12 PALM8首脳宣言、第31項の中の以下の一節を参照。「太平洋諸島フォーラム島嶼国の首脳は,日本・太平洋島嶼国観光大臣会合を開催するための日本の取組を歓迎するとともに,南太平洋観光組織との間のものも含め,観光セクターに裨益する具体的かつ実際的な活動に関する協力に対する日本のコミットメントを歓迎した。」
  13. 13 同上 第9項、第34項、第38項
  14. 14 第8回太平洋・島サミット(PALM8)首脳会合における安倍晋三首相の冒頭発言