キャンベラ、ラッセルの国防省前にそびえ立つ豪米記念碑。
第2次大戦での米軍兵士の犠牲に感謝を示すため、1954年に建立された(石原雄介氏撮影)

 豪州の安全保障を、米国との同盟関係抜きに語ることはできない。豪州には直接的な脅威こそ存在しないものの、日本の面積の約20倍にもなる広大な国土を、6万人足らずの軍隊で守り抜くことはそもそも物理的に不可能である。その結果、戦前は英国、そして戦後は米国という「偉大で強力な友人」(ロバート・メンジーズ元首相)に、自国の安全保障を依存してきた。

米国との同盟関係は、有事における「保険」として機能するのみならず、平時から米軍が保有する最先端の軍事技術や情報へのアクセスを可能にする。米国は豪州への最大の投資国であり、最近まで中国に次ぐ第2の貿易パートナーでもあった(現在は日本に次いで第3位)。豪州はまた文化的ルーツや価値観を米国と共有しており、米国主導のリベラルな国際秩序に最も大きな恩恵を受けてきた国の一つである。

さらに言えば、豪州がこれまで中国の影響力に呑み込まれることなく、同国との外交及び経済的な関係を強化し続けることができたのも、米国という強大な後ろ盾が存在したからであろう。近年急速に強まっている日本との安全保障関係も、両国の米国との緊密な同盟関係を前提にしている。米豪同盟は、豪の安保政策や対外関係の根幹を形成してきたのである。

トランプ政権の誕生と米豪同盟

 それだけに、2016年11月の米大統領選におけるドナルド・トランプ候補の勝利は、豪州社会や政策エリートに衝撃を与えた。伝統的に、米豪同盟は戦後の豪州社会において超党派的かつ高いレベルでの支持を得てきた。ところが大統領選前に行われたある世論調査では、トランプ候補が勝利した場合には、豪州が米国と「距離を置くべき」であるという回答が半数近く(45%)を占めた[1]。また大統領選後に行われた世論調査では、58%の回答者がトランプ大統領の誕生により米豪関係が「悪化する」(うち23%は「非常に悪化する」)と回答した[2]。同じ時期に日本で行われたある調査で、49%の回答者がトランプ大統領の誕生後も日米関係が「変わらないと思う」と答えたのと、対照的な結果であった(もっとも日本でもその後の展開を受け、各種世論調査等では悲観的な意見の割合が増加している)[3]。

 2017年1月にマルコム・ターンブル首相とトランプ大統領との間で初めて行われた電話会談(オバマ政権時代に交わされた難民をめぐる両国の取極めをめぐり、トランプ大統領が激昂したとされる)は、豪州の対米不信をさらに深めたと言える。その後明らかとなった電話会談の内容によれば、トランプ大統領はプーチン露大統領との会話が「最も楽しかった」のに対し、ターンブル首相との会談がその日のうちの「最悪」なものであったと発言していた。日頃より中国寄りの発言を繰り返していた豪州の外相経験者は、トランプ大統領のターンブル首相への侮辱が結果的には豪州の米国離れを促すという意味で、「健全なこと」であったと皮肉を込めて称賛している[4]。

 それゆえ、トランプ政権下の米国との関係を見直し、場合によっては中国への接近を含む、より自立的な対外政策を求める声が豪州において強まったのは、ある意味で自然なことであった。そうした主張は必ずしもリベラル派や反米主義者のみならず、親米現実主義者とみなされる識者の間からも聞かれるようになる[5]。これに対し保守派や政策決定者の一部からは、米国の地域戦略における豪州の地政学的重要性や軍同士の強固なつながり、そして豪州の安全保障にとっての米国の代替不可能性等により、トランプ政権下においても米豪同盟の重要性に変わりはないとの反論がされた。また豪州が地域・グローバルな安全保障分野でより大きな責任を担うことで、トランプ政権下における米豪同盟をいっそう強固なものとすることが可能となると主張する者もいた[6]。

アメリカ・オーストラリア

同盟関係の修復

 その後の展開は、おおむね保守派が主張するような状況に近づきつつあるようである。米豪関係修復の手始めとして、ターンブル首相は2017年5月、ニューヨークで珊瑚海海戦75周年を祝う式典に出席し、トランプと初の直接会談を行った。会談でトランプ大統領は1月の電話会談に関する報道が「誇張」であるとし、良好な関係を演出している。さらに朝鮮半島情勢が緊迫するなか、ターンブル首相は朝鮮半島有事において米が攻撃を受けた場合、ANZUS条約を発動して豪が米を支援することを明言した。

 11月のトランプ大統領のアジア歴訪の際には、フィリピンで約3年ぶりとなる日米豪首脳会談も開催され、三カ国が北朝鮮をはじめとした地域の問題に対して緊密に協力していくことも確認されている。同じころ発表された豪州の14年ぶりとなる『外交政策白書』では、トランプ政権下においても、豪州が引き続き米国との同盟協力を深化・拡大し、米国の地域における経済及び安全保障上の関与を奨励していくという方針が確認されている。

 2018年2月におけるターンブル首相の訪米は、以上の流れの中で実現したものである。大方の予想通り、ターンブル首相はトランプ大統領との共同会見で、同盟関係がかつてなく強固なものであることを強調し、従来の協力に加えて豪州、米国そしてインド太平洋地域における「質の高いインフラ」支援等においても米豪が協力していくことを明らかにした。ターンブル首相はまた、トランプ大統領を豪州に招待したほか、将来的な米の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)復帰にも含みをもたせている[7]。これに対しトランプ大統領は、駐豪大使としては異例の大物となるハリー・ハリス元太平洋軍司令官を近日中に任命する方針を再確認したほか、米豪の「100年間の友情」を強調し、その証に米海軍が建造中の沿岸戦闘船(LCS)の一隻を、「キャンベラ」と命名することを明らかにした[8]。

 米豪関係再構築の要因として、日本でも大きく報道されていた中国による豪州への内政干渉や諜報活動、それに豪州社会における中国の影響力の増大に対する反発の強まりも指摘できるかもしれない[9]。今後も地域における中国の存在感がいっそう強まるなかで、豪州の対中警戒は強まりこそすれ、弱まることはないだろう。結局のところ、有識者があれこれ議論するほどには、現実の豪州の安全保障政策にそれほど多くの選択肢は存在しないのかもしれない。ホワイトハウスに誰がいようとも、今後も米は豪州にとって最重要のパートナーであり続けるであろうし、それ以外に豪州の安全を確保する方法は、今のところ存在しないのである。

アルミパイプ

米豪同盟は盤石なのか?

 だからといって、米豪同盟がこれまで通り盤石であると考えるのも、早計である。そもそも選挙戦からトランプ大統領が主張してきた同盟国への「ただ乗り」批判は、米国の共和党系の一部に以前より存在した対豪認識でもある。今後、南シナ海や北朝鮮問題等をめぐって豪側のより大きな安全保障上の負担分担(burden-sharing)をトランプ政権が迫る可能性は、決して排除できない。実際、2月の首脳会談の際の共同会見では、トランプ大統領から南シナ海における米軍の「航行の自由作戦」に豪州が参加することへの期待が表明された[10]。

 またトランプ大統領は3月に署名した鉄鋼とアルミの輸入に対する追加関税の対象国から豪州を除外することをツイートした(それ自体は2017年のG20の際に合意していたと言われる)が、それはあくまでも「公平で相互的な軍事と貿易の関係」(トランプのツイート)を前提としたものである。トランプ政権下において経済と安全保障をリンクさせる姿勢は顕著であり、今後も両者をリンクさせることで、豪州側に何らかの譲歩や負担の分担を迫る可能性も考えられる。

 そもそもこうした反市場主義的な経済政策に加え、移民の排斥、多国間での交渉や地球温暖化といった国境を越えた問題の軽視といったトランプ政権の政策は、しばしば「ミドルパワー外交」とも称される豪州の国際主義的な外交政策とことごとく衝突するものである。そうした豪州独自の外交理念と、現実の同盟政策との折り合いをどのようにつけていくかという問題は、トランプ政権が続く限りにおいて、今後も豪州につきまとうことになる。トランプ政権下において、同盟関係をめぐる豪州の舵取りは、かつてなく困難な局面を迎えていると言えよう。

(本稿の見解は筆者個人のものであり、所属組織の公式見解ではない)

脚注

  1. 1Alex Oliver, “2016 Lowy Institute Polling: Donald Trump Polarises Australians,” Lowy Institute for International Policy, April 2016.
  2. 2Matt Wade, “Ipsos Poll Shows What Australians Feel about President Donald Trump,” Sydney Morning Herald, November 11, 2016.
  3. 3『朝日新聞』(2016 年 11 月 22 日)
  4. 4 “Donald Trump's dismissal of Malcolm Turnbull is 'damn healthy' for Australia”, Australian Financial Review, February 3, 2017.
  5. 5例えば、Paul Dibb, “Dangerous platitudes about Trump”, The Strategist, November 17, 2016, https://www.aspistrategist.org.au/dangerous-platitudes-trump/.
  6. 6Peter Jennings, “Australia will be more important to the US under Trump”, The Australian, December 3, 2016.
  7. 7https://www.pm.gov.au/media/doorstop-washington-dc 
  8. 8https://www.pm.gov.au/media/press-conference-president-trump
  9. 9John Garnaut, “How China Interferes in Australia: And How Democracies Can Push Back”, The Snapshot, March 9, 2018, https://www.foreignaffairs.com/articles/china/2018-03-09/how-china-interferes-australia
  10. 10https://www.pm.gov.au/media/press-conference-president-trump