バイデン政権の国連回帰と変化する先進国の国連PKOへの関与

 多国間主義と国際協調を重んじる米バイデン政権は、6月の訪欧でG7の結束を新たにし、米欧関係を修復した。米国は既に国連への拠出金を増額し国連人権理事会への復帰も表明している。9月に開催される国連総会では、おそらく「アメリカの国連への回帰」を唱え、国連外交を強化する姿勢を打ち出すだろう。駐国連大使に任命されたベテラン外交官のリンダ・トーマスグリーンフィールド大使がバイデン大統領の就任演説を引用して語るように、「同盟関係を修復し、再び世界に関与し、模範となることによって得られる力で世界を導い」ていくことが予想される[1]。国連を軽視したトランプ前大統領時代の遺した負債を一掃しアメリカの影響力を高める狙いがあるが、同時にそれは各加盟国、とりわけ日本のような同盟関係にある先進国に対して、より多くの貢献を求めることにもなるだろう。

 バイデン大統領は、オバマ政権の副大統領時代に「PKOサミット」を立上げ、主導した。その目的は、国連の中心的機能のひとつである国連平和維持活動(PKO)に対して、各国政府にさらなる貢献をプレッジ(誓約)させることにあった。この会合は、現在も閣僚級会合として継続し、今年は12月に韓国で開催が予定される。日本は2014年の第1回会合から米国などと共同議長を務めており、相応の存在感とリーダーシップの発揮、日本ならではの新たな貢献の提示が求められる。

 日本が考慮すべきは、国連平和維持活動(PKO)への先進国の関わり方が変化をしているという現状である。現在、国連PKOに派遣される要員の過半は途上国から派遣された部隊である。このこともあり、また国連以外の平和活動への派遣ニーズもあることなどから、先進国では以前のような地上部隊の派遣を行う国は多くはない。代わりに、司令部要員の派遣、インテリジェンスや航空輸送など高度な技術および装備品を用いたミッション遂行能力の提供、部隊派遣国の要員に対する能力構築支援など、自国の保有する軍事アセット(資産)を活用した独自の協力形態が増えている[2]。本稿では、日本が優位性を持つと思われる航空輸送力を通じた国連PKOへの貢献について、オーストラリアなどの例を参照としながら検討する。

航空輸送力を活用したオーストラリアの防衛外交

 今年の3月から4月にかけて、オーストラリア空軍の長距離大型輸送機C-17グローブマスターがベトナムと南スーダンの間を複数回飛行し、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に参加するベトナムの医療部隊の要員計120名と約55トンの資器材を輸送した[3]。ベトナムは好調な経済成長と安定した内政を背景に国連を通じた国際社会への関与を深めており、2018年10月、医療部隊をUNMISSに派遣することで、同国初となる国連PKOへの参加を果たしている[4]。オーストラリアは、その準備段階から要員への語学(英語)訓練や関連セミナーなどを提供してベトナム軍のPKO初参加を支援し、救急車や要員の宿泊施設として用いることのできる展開型の大型シェルター、発電機などの機材供与もしてきた[5]。協力の中心となる航空輸送支援はベトナム部隊の初回派遣時から行っており、今回は要員交代にあわせて3回目となる。

 オーストラリアは米軍とともにベトナム戦争に参戦した過去を持つ。北ベトナムの流れをくむ現在のベトナム政府としては仇敵であるが、近年は地域における戦略的利益を共有するパートナーとして関係深化が図られている。豪国防省は「防衛協力計画(Defence Cooperation Programme, DCP)」を通じてベトナムへの関与を深めてきた。DCPは、相手国の能力を向上と継続的な関与を通じて地域安全保障の維持を図り、「豪州の安全保障を最大化」することを目的とした防衛外交のプログラムだ[6]。このDCPの枠内で行われるベトナム軍部隊の輸送支援は、直接的には不足するベトナムの航空輸送能力を補うことを目的とするが、現在オーストラリア軍統合参謀長の任にあるグレッグ・ビルトン中将(Lt. Gen. Greg Bilton)は、2018年のインタビューで「ベトナム軍への戦略航空輸送の提供は、国連ミッションを支援するだけでなく、地域における軍対軍の相互運用性を向上させる」との認識を示している[7]。つまり、オーストラリアにとっては国際安全保障への貢献と二国間関係の強化、さらには地域への関与を深めるという合理的な狙いのもと、空軍が保有する全8機のC-17のうち数機をこの活動に提供している[8]。ベトナム側としても派遣費用や調整の手間を省けるだけでなく、対外派兵経験が豊富なオーストラリアの部隊運用から学ぶことは多い。国連PKOへの貢献を名目として二国間の戦略的な関係を演出し、インド太平洋地域での軍事的影響を強める中国を牽制することも念頭にあるはずだ。

画像出典:航空自衛隊ホームページ

国連PKOへの航空輸送能力の提供と日本の可能性

 昨今の国連PKOでは、ミッション遂行能力の確保や要員の安全確保のため、ミッション展開地への要員や装備品などの物資輸送、そしてミッション内の活動に用いる航空輸送力へのニーズが高まっている。他方、航空アセットは高価であり、運用・保守には高度な技術力が求められることなどから、安定的に航空輸送力を提供できる国は限られている。さらに、現場での活動には偶発的な事故や和平に不満を持つ分子などから攻撃されるリスクが伴うため、圧倒的に供給が不足しているのが実情だ。しかしながら、たとえばカナダは、2019年から「プレゼンス作戦(Operation Presence)」としてC-130J戦術輸送機1機と約25名の要員をウガンダに所在する国連エンテベ地域支援センターに派遣し、UNMISSと国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)の二つのPKOに対する軍事要員・文民・各種物資の戦術輸送支援を実施するなどしている[9]。複数ミッション間の輸送支援を行うという、カナダ発案の、他にはないアプローチだ。目に見える付加価値の高い活動を提供しつつ、自らの役割を限定して現場のリスクや負担を最小限に抑える点は、オーストラリアのアプローチと共通している。

 実は、日本は航空輸送能力の提供を申し出ている数少ない国のひとつである[10]。2020年5月、日本は国連PKO即応能力登録制度(UN Peacekeeping Capability Readiness System, 通称PCRS)に対して、航空自衛隊のC-2輸送機とC-130輸送機による戦略航空輸送(国際拠点間輸送)を登録した。PCRSは、各加盟国の派遣準備状況を国連に事前登録することで、ミッション対応力を強化する制度だ。航空輸送での早期展開支援については、2015年の第2回PKOサミットにおいて安倍晋三前首相が表明しており、約5年を経て準備が整ったことになる[11]。他方、登録したからといって派遣の義務はない。日本は国連の要請を受けて、PKO参加五原則などを踏まえ検討する構えを示している[12]。

 現時点では、日本がPCRSに登録した輸送アセットをどのように活用するかは報じられていない。しかしながら、実現性の高いアプローチとしては、オーストラリアの例にみられるような二国間外交を通じての案件形成であろう。形式上、PCRSでは国連から登録国への派遣要請を受けて検討ということになっている。しかし、日本が自らのアセットの優位性を活かした貢献を国連に提供し二国間外交にも寄与するには、国連や相手国の意向確認だけでなく、外交政策や法令との整合性や通常任務への影響の評価など、多面的な検討が必要となり、事前の情報収集と調整が不可欠である[13]。オーストラリアの航空輸送もベトナム側からの支援要請を受け付けてから案件が検討された経緯がある。

 日本にとって都合のよいことに、日本が戦略的関心を寄せるインド太平洋の国々の多くは国連PKOに深く関わっている。南アジアのインド、バングラデシュ、ネパール、パキスタンおよびスリランカはいずれもPKOへの要員派遣の大国である[14]。東南アジアではインドネシア、マレーシア、タイに次いでベトナムが国連PKOへの参加意欲を高めている。太平洋の小国フィジーは総兵力3,500人の中から300名を超える要員を国連PKOに派遣している。これらの国では自前の輸送能力を保有する国もあるが、他国から航空輸送の協力を得ることは運用負担やコストの一部を軽減するといった利点もある。日本としても、地域への関与を深めるとともに、航空輸送の運用や整備、教育などにおいて新たに提供できる能力構築支援のニーズもあるかもしれない。国産のC-2を用いるのであれば将来的な輸出案件化も視野に入れることができよう。二国間関係を踏まえ、戦略的意義のある案件の検討が期待される。

国連PKO:各国の要員貢献ランキング(2021年4月30日時点)

国連PKO:各国の要員貢献ランキング(2021年4月30日時点)

国連資料より10位まで抜粋:本文中で参照されるその他の国については次のとおり:
マレーシア(25位)、スリランカ(31位)、フィジー(42位)、タイ(44位)、ベトナム(65位)、カナダ(69位)、アメリカ(83位)、オーストラリア(84位)、日本(107位)。

 発展的に考えると、日本が戦略的な関係を深めつつあるベトナムへの協力も含め、オーストラリアの理解を得られれば、インド太平洋地域からの国連PKOへの航空輸送支援を日豪が合同して提供するということも構想できるかもしれない。国際拠点間の輸送であれば、例えば国連がロジスティクスの地域拠点とするウガンダのエンテベ空港までの輸送支援を行うなど、現地PKOミッションに直接的に参加するものではないケースも考えられる。PKO法以外の法的枠組みでの派遣も検討し得るのではないかと推測される。

 アメリカの「国連への回帰」を前にして、各国は国連の活性化を促していくことが予見される。国連は国際社会における法の支配を確立するために不可欠な存在であり、日本は既に2022年に予定される安全保障理事会の非常任理事国改選にも立候補している。この機会を逃すことの無いよう、国際の平和と安定に向けた各分野に対して、日本はよりいっそう関与していくべきだろう。国連PKOへの航空輸送力の提供はその有望な選択肢のひとつである。PCRSに航空輸送力を登録したことで日本は自らの意思と能力を示しており、残るはこの貢献策を積極的に活用することである。

(2021/6/24)

脚注

  1. 1 「国連で米国を代表するリンダ・トーマスグリーンフィールド大使」『アメリカン・ビュー』在日アメリカ大使館、2021年4月6日。
  2. 2 国連PKOの現状についての全般的な背景および日本が積極的に参画する要員派遣国に対する能力構築支援事業「三角パートナーシップ・プロジェクト(TPP)」については次を参照。「複雑化する紛争と平和活動 国連の機構改革と課題を語る。伊東孝一氏(国連オペレーション支援局上席企画官)」(SPF Now. 0065)、笹川平和財団、2019年8月5日。
  3. 3 Liam Garman, ”Australia has supported Vietnam’s third rotation for the United Nations Mission in South Sudan, airlifting Vietnamese defence members and equipment to the country,” Defence Connect, May 04, 2021.
    “Staff of Level-2 Field Hospital No.2 return from South Sudan,” Vietnam+ (Vietnam Plus), April 24, 2021.
  4. 4 “A historic arrival for Vietnam and the United Nations,” United Nations, Oct. 3, 2018.
  5. 5 Brendan Nicholson, “RAAF flies Vietnamese peacekeepers to South Sudan” the Strategist, Oct. 2, 2018.
  6. 6 オーストラリアの防衛協力計画(DCP)については、次に詳しい。
    佐竹知彦「オーストラリアの地域防衛関与-南太平洋と東南アジアにおける『足跡』」笹川平和財団民間防衛外交研究事業国別事例調査報告書シリーズ3(笹川平和財団、2018年9月)。
  7. 7 “ADF supports deployment of critical Vietnamese health capability to UN Mission in South Sudan,” Department of Defence, Oct.2, 2018.
  8. 8 なお、2011年の東日本大震災の際、オーストラリアは豪空軍で当時運用可能であったC-17全3機を日本への救援活動に充てている。
    外務省「外交青書2012」67頁。
  9. 9 “Operation PRESENCE,” Department of National Defence.
  10. 10 2021年3月時点で後述のPCRSに航空輸送(air lift)を登録しているのは計6件に過ぎない(日本の登録を含む)。
    “Current and Emerging Uniformed Capability Requirements for United Nations Peacekeeping,” UN Department of Peace Operations, March 2021.
  11. 11 外務省「『第2回PKOサミット』安倍総理スピーチ」、2015年9月28日。
  12. 12 外務省「国連平和維持活動即応能力登録制度」。
  13. 13 自らの優位性を活かした貢献策を「スマート・プレッジ(smart pledge)」と呼称するカナダの外交官は、日本も「ニッチな領域」での貢献を模索すべきとの認識を示した。
    (2019年3月22日、在国連カナダ代表部での筆者インタビュー)。
  14. 14 2021年4月末において、国連PKO要員派遣数でインドは世界第5位、バングラデシュは第1位、ネパールは第3位。
    “Uniformed Personnel Contributing Countries by Ranking,” United Nations, April, 2021.