2023年10月7日に始まったイスラエル・ハマス間の戦争は、12月11日現在、2カ月を過ぎた今も継続している。150人以上のイスラエル人の人質がハマスに捕えられたまま、イスラエル軍のガザ南部への攻撃は激しさを増している。ガザ市民の犠牲は増え続け、12月10日時点で女性と子どもが多数を占める17,700人以上の死者がでているとの報道がある[1]。

 この悲劇的な武力衝突に対して、国際社会は、二国家解決へ向けての行程表とともに平和かつ安全に共存する将来像を、再度パレスチナ、イスラエル双方に提示し、働きかけねばならない。本稿では、二国家解決へ向けて国際社会がどのようにすべきか、また、その動きの中で日本がどのような役割を果たすべきか論じる。

「落とし所」が見つからない武力衝突

 イスラエルは、ハマス軍事部門のトップとされるシンワル指導者の殺害を目的に軍事作戦を実行していると報じられているが、同時に戦争終結に向けての「落とし所」を探っているなどの指摘もある[2]。実際には、現時点では戦闘停止については何も述べていない。

 イスラエルが「落とし所」を見つけて、あるいはガザの中のハマスの組織を崩壊させるか弱体化するかして、戦闘を停止したとしても、イスラエルとハマスとの戦争状態は続く。イスラエルとパレスチナとの間の問題は何も解決されていないからだ。イスラエルにとっての問題は、国家としてのイスラエルの安全と存続の保障ないし確証であり、パレスチナにとっての問題は、ガザ・西岸地区の人々の命・生活の安全と尊厳の保障及びそのためのパレスチナ国家の建設である。

 イスラエル・ハマス間の戦争を終わらせ、イスラエル国家を含むパレスチナ地域の平和と安定をつくりだしていくには、この戦争後の将来像をイスラエル・パレスチナ双方に見せ、2023年10月7日以来の惨劇を再び起こさず、それぞれの平和と安全の創造に向けてそれぞれが努力していく状況をつくるしかない。将来像の基礎となるものは、1991年にアメリカ・ソ連(92年よりロシア、ただし実質的にはアメリカ)が催してオスロ合意やヨルダン・イスラエル平和条約の成果を生み出した中東和平交渉を通じて、パレスチナの最終的地位確定のため生み出された、二国家解決策である。

 1993年のオスロ合意で生れたパレスチナ自治は、2006年以降パレスチナ自治政府による西岸統治とハマスのガザ支配に分裂した。イスラエルは、このようなパレスチナを相手にせず、ガザ・西岸を塀で囲み孤立させ、西岸の治安をコントロールしつつ同地への入植地建設を進めた。二国家解決策は打ち捨てられた。しかし、今次戦争を通じて、パレスチナ側もイスラエル側もパレスチナ分裂以来のやり方では、双方の根本問題が解決しないことは分かったはずである。

イスラエルを動かせるのはアメリカだけ

 イスラエルを動かすことができるのは、アメリカだけである。イスラエル国家は、周囲全て敵対者という状況の中で1948年に誕生し、この75年間、4度の中東戦争、PLOやレバノン・ヒズボラとの戦い、さらにはハマスとの戦いを続けながら、自国の領土と国民を守ってきた。しかし、今回のハマスの攻撃による1,200人以上の殺害と240人以上の人質奪取は、独立以来なかった最大の領土侵害と国民の犠牲者数である。イスラエルにとってこれは国家の存続を揺るがす事態であって、この危険を取り除くためには何でも行うという姿勢を見せている。国際社会がどのように非難しても、またどんなに多くのパレスチナ市民の犠牲が出ても、ガザにおけるハマス根絶はイスラエルにとって至上命題となっている。

 このような中、11月下旬に行われた戦闘の一時停止とイスラエル人人質及びパレスチナ人拘束者の交換解放の実現はアメリカの働きかけが大きい。停戦(ceacefire)ではなく一時停止(pause)という形で実現した。歴史的にも、第2次中東戦争時の介入、イスラエル・エジプト間の和平交渉と平和条約締結、湾岸戦争後の中東和平交渉など、アメリカが関与することによって、イスラエルは和平に動いた。21世紀に入って、シェールガス・オイル開発によりアメリカは化石燃料の中東依存が薄れたこと、及び中国の台頭への対応のための軍事力のアジアシフトなどで中東への関与が減少した。しかし、今回のイスラエル・ハマス戦争は、このアメリカの姿勢を変えた。イランを警告し、パレスチナの外に戦火が飛び火することを抑え、地中海及び紅海・インド洋へ空母機動部隊を配置した。イスラエルの自衛権行使擁護の立場を貫きつつも、イスラエル・ガザ両市民の人道的配慮をイスラエルに求めてきた。その結果が、戦闘の一時停止である。

 12月12日に、バイデン大統領は、ガザ情勢をめぐって「無差別的な爆撃によってイスラエルは世界で支持を失いつつある」と述べ、二国家解決による和平の実現を望んでいないと踏み込んで苦言を呈した[3]。二国家解決策を行程表とともにイスラエル・パレスチナに提示する場合も国際社会はアメリカ抜きには語れない。

二国家解決策を求める国際社会の声

 「落とし所」が見つからない今回の武力衝突に対して、二国家解決を求める声が国際社会で相次いでいる。

 例えば、アブドッラー・ヨルダン国王は、11月14日のワシントンポスト紙への投稿で、二国家解決策を基礎とするパレスチナ・イスラエル間の平和の上に、平和・安全・繁栄の地域の仕組みをつくり上げるため国際社会が協調して努力することがまず第一に行われるべきこととした上で、以下のように述べた。

責任ある指導者たちは、今こそ結果を出さなければならない。その作業は容易ではないが、不可欠である。繰り広げられる殺戮に勝利はない。パレスチナ人に権利と国家を与えない限り、誰も勝利することはできない。それだけが、パレスチナ人にとってもイスラエル人にとっても、平和のための真の勝利となる。そしてそれは何よりも、私たち共通の人間性にとっての勝利となるだろう[4]。

 また、トーマス・フリードマンは、11月28日のニューヨークタイムス紙への投稿で、現在はテロリストグループによって悪化したイスラエルのユダヤ人とパレスチナ人の間の戦争、将来をめぐるイスラエルとパレスチナの戦争、イランとその代理人であるアメリカとその同盟国の間の戦争という3つの戦争が行われており、これら全てをおさめることができるのが二国家解決だと示した上で、二国家解決は「イスラエルとサウジアラビア、そしてより広いアラブ・イスラム世界との関係の正常化のための安定した基盤を築く鍵である…それはイランとその代理人ハマス・ヒズボラ・フーシを弱めることができ、イスラエル、穏健なアラブ人、米国、NATOの間に連携を築くことができる」[5]と述べている。

 さらに、エコノミスト誌では、より踏み込んで、イスラエル、パレスチナ双方とも新しいビジョンの下、新しいリーダーを見つける機会を得たと、以下のように評価している 。イスラエル側では、ネタニヤフ首相は、真の和解にとって障害であり、できるだけ早く退場すべきであり、そのためにアメリカはイスラエルに対して早期の選挙を示唆することができる。パレスチナ側では、ハマスは和平の敵であり、アッバース・パレスチナ自治政府(PA)大統領も腐敗し、民主的正当性に欠けており、新しいリーダーが必要である。穏健アラブ諸国がパレスチナ移行政権をスポンサーし、まずはその移行政権が、パレスチナ人間の信頼を醸成し、その後イスラエルとの信頼も構築した上で、選挙を行うべきである。これらは、新しい交渉につながり、二国家解決が実際に見えてくることになる。

 鍵となるのは、早い段階でのアメリカとサウジによるイスラエルへの圧力である。アメリカとEUが、イスラエルにパレスチナ国家承認に関しシグナルを送る一方、アメリカが、パレスチナのための外交の門戸をエルサレムに開く約束を実行する。しかし、西側によるパレスチナ国家の完全承認とサウジによるイスラエル承認は交渉進展のインセンティブとしてとっておくべきである。

 上述した二国家解決を求める国際社会の声を総合すると、次のことが言える。

  1. ① 二国家解決が、アメリカ、欧州及びアラブ穏健諸国が考える和平への道の基礎となっていること。
  2. ② イスラエルも、パレスチナも新たなリーダーが求められていること。
  3. ③ これを行うためには、アメリカとアラブ穏健派諸国(イスラエルと国交を持つエジプト、ヨルダン、アラブ首長国連邦、バハレーン、サウジアラビアなど)がイスラエル及びパレスチナに対し、働きかけを行うこと。イスラエルには、早期の国政選挙実施に向けて進むように、またパレスチナについては、アラブ穏健派諸国による移行政権づくりを行うようにすること。
  4. ④ 新しいリーダー達は、イスラエルにおいては極右を抑え、パレスチナにおいてはハマス及び腐敗した前政権利害関係者を排除していかねばならない。
  5. ⑤ アメリカ、欧州、アラブ穏健派諸国、及び日本を含む国際社会は一致して、イランや同国影響下の勢力、或いはロシア等の妨害をはねのける対応を行わねばならい。

日本のとるべき姿勢

 日本は、1992年1月に始まった中東和平多国間協議に参画して以来、中東和平支援を多国間連携・協力を築くことで下支えし、パレスチナ自治構築に対し経済・社会・文化の多岐にわたる面で支援を行ってきた。そして支援の基礎となっているのは、二国家解決を追及するという基本姿勢である。

 筆者は、上記協議開始以来、同協議担当官として、また1993年3月以降中近東第一課首席事務官として、多国間協議の環境ワーキンググループ(WG)や経済開発WGの観光部会において日本の積極的な地域協力づくりやパレスチナへの直接支援に関わったが、日本が行う社会経済開発支援が交渉進展のための信頼醸成措置となっていたのを目の当たりにした。多国間協議において日本の指揮をとった重家俊範中東アフリカ局審議官は、クリストファー国務長官(当時)から河野洋平外務大臣(当時)を通じて感謝の意が表された。政治交渉は、合意に向かわせる環境づくりが必要である。その一つで最重要のものが、交渉者間の信頼醸成である。日本は、住民の実際の暮らしや経済的・社会的環境に両国国民の目を向けさせ、具体的な協力関係を生み出す支援を行った。今回についても同じようなことができるはずである。

 日本は、上記①~⑤を念頭に入れつつ、アメリカ、欧州及びアラブ穏健派諸国の動きに参画していくべきである。ガザは破壊し尽されている。ガザの住民に対し、まずは大量多岐にわたる人道支援を行った上で、和平がなった時の果実としての復興があることを現実に合った具体的な提案で見せていくべきである。過去30年以上に亘り、西岸・ガザのパレスチナに多大な支援を送るとともに、今でも平和と繁栄の回廊構想を実施している日本には、ガザへの人道・復興支援は可能であるし、リードしていくことができるのではないか。日本の和平交渉下支えの支援を期待する。

(2023/12/21)

*こちらの論考は英語版でもお読みいただけます。
The Israel-Hamas War: Prospects for a Two-State Solution and Japan’s Role