アフガニスタンがタリバーンによって制圧されて半年が経った。タリバーン政権を政府として承認する国はこれまで欧米日等前政権を支援していた諸国の中にはなく、ドナー諸国より供与されていた財政支援はストップしたままである。飢饉と財政難に基づく食糧不足に対しては、国際機関及び各国官民の支援組織により人道支援が行われたが、心配されてきた人権状況は改善するよりもむしろ悪化している[1]。

 日本政府は喫緊の課題である人道支援を着実に行いつつ、引き続き外交的働きかけを行っているが[2]、政府承認に向けてタリバーン政権の対応に劇的変化はないだけでなく、女子中等教育再開延期など逆こうするような動きもあり[3]、人権状況改善等を含む変化を目指すしかないとの状況にあるようだ[4]。国際社会との関係は、引き続き緊張の中、平行線をたどっていると言える。

 しかし、アフガニスタン国内においては、旧政府職員(特に治安関係者)、裁判官・弁護士等司法関係者、大学教授、ジャーナリスト、女性活動家、更には外国との関係を持っていたというだけの者であっても、危険人物とされ、捜査の対象となり、捕まれば死刑を含む処罰が課されている[5]。このような生命の危機にあるアフガン人とその家族は、国内で保護が可能であれば保護し、生命の危機が迫っていれば何とか国外に脱出させるのが、タリバーン政権と国際社会との現在の関係の下では、至当と考えられる。

 筆者は、この度、外務省を含む多くの官民の組織・個人の協力の下、生命の危機にあった元大使館現地職員A氏とその一家を運よく日本に退避させることができた。その経験から導き出せることは、次の通りである。

生命の危機にあるアフガン人

 タリバーンのカブール制圧後、女性の権利と報道の自由が2001年以前に逆戻りした。女性の為の中等教育学校は閉じられ、女性は政府及び民間のほとんどの職場から締め出された。ジャーナリストは殴られ、拘束され、幾つものメディアが廃刊・廃業に追い込まれた。報道の数も劇的に減少したが、多くのジャーナリストが国外に脱出したことも影響している。新しいタリバーン政府には一人の女性大臣もタリバーン組織外からの大臣もいない[6]。

 タリバーンは、旧治安部隊関係者や政府職員、更にはその家族を捜索し、脅し、時には拘束し、処刑している[7]。実際に筆者が支援したA氏は、日本政府が準備した航空便への搭乗予定日にタリバーンの捜査がA氏一家の住むアパートに対して行われ、隠れるのに精一杯で搭乗することができなかった。

 生命の危機にあるアフガン人の退避を行っている認定NPO法人Research Alternatives(REALs)によると、タリバーンのアフガニスタン制圧後迫害されている人たちは、女性活動家、ジャーナリスト、大学教授、司法関係者、治安関係者であり、危険人物として狙われているとのことである[8]。女性ジャーナリストは拘束暴行され、男性ジャーナリストは、「お前を殺すことを許可した。国内如何なるところもお前には安住の場はない」という脅しを受け、国外退避を決意したとのこと。また、音楽等芸術や女性のスポーツも犯罪とみなされている。日本で博士号を取得し帰国後大学教授になった者も大学で女性に職業教育を与えた、外国の思想を持ち込んだという理由で命を狙われた。また、タリバーンを裁いたり、敵対したりした者も捜査対象者である。

アフガン人の国外退避の現状

 欧米諸国・カナダ・オーストラリア等は、これら諸国の政府・軍や支援組織に直接雇用された数十万人のアフガン人を国外退避させたが、人権擁護者、女性の権利活動家、ジャーナリスト、LGBTを含む生命の危機にある何千人もがまだアフガニスタン国内に存在する[9]。しかし、2021年11月現在EU加盟国がいくらかのアフガン人を脱出させたが、更なる難民を受入れることを約束した国はない[10]。欧米各国は、現在では、自力で脱出してきたアフガン人に難民申請させたうえで、受け入れている模様である[11]。

 しかし、欧米のNGOの中には、生命の危機にあるアフガン人を積極的に国外退避させようとする団体もある。REALsは、そのような欧米NGOと連携協力し、3月17日までに300人をアフガニスタン国内で保護し、191人を国外退避させた。国外退避者のうち日本が受入れたのはこのうちの1割とのことであり、残りの9割は欧米諸国等に退避させたとのこと[12]である。

 筆者が親しくしていたアフガン人は、一人はオランダへ、もう一人はフランスへ退避した。前者は、日本による復興支援の為に地方の長老や部族と日本大使館との関係を構築してくれた。後者は、岡山大学で開発学の博士号を取得し、一時政府で働いていた。しかし、彼らは日本ではなく、欧州諸国に迎えられた。彼ら二人との個人的友情は今後も続くだろうが、彼らの日本に対する信頼はどうであろうか。

 REALsには、まだ助けを求めるアフガン人が400人程いるとのことである[13]。また、アフガニスタンで活動していた日本NGOも生命の危機にある現地職員等を特定している。一人でも二人でも多くの日本に関係するアフガン人を退避させることが日本の信頼と評判に繋がるのではないか。ドイツ等欧州諸国は、国としての直接支援は行わないが、生命の危機にあるアフガン人の国外退避を支援するNGOと連携して受入れを進めている[14]。

退避ウクライナ人の日本受入れと他の生命の危機にある外国人

 日本が退避させたアフガン人は、大使館やJICA事務所の現地職員とその家族である。彼らに加え、A氏のような生命の危機にあり、日本との関係があると認定された者には本人のみに日本入国査証が付与された。A氏のような日本政府と直接雇用関係にない退避アフガン人が家族とともに日本に長期滞在するには、日本で雇用者を見つけ、特定査証を得るしかない。A氏は幸運にもそれができたからよいが、一般には相当な困難と時間を伴う。

 これに対し、今般政府決定された退避ウクライナ人の日本受入れは、母国が戦火にあり、何百万人の国外退避者がいることを理由に、まずは、短期査証を発給し入国させ、その後特定活動(1年、延長可能)の在留資格に切り替えることができるようにしている。

 生命が危機に晒されているのは、アフガン人だけでなく、先行して危機的状況に見舞われたシリア人やミャンマー人もウクライナ人と同様である。ウクライナ人日本受入れの決定を突破口にして同様の立場にある日本に関係する外国人の日本入国を一般化できれば、国際的危機に対応する為の日本の武器が一つ増えることになる。

 日本政府が、生命が危機に晒されているアフガン人の国外退避を支援するNGOと密接に連携協力するととともに、同様な状況にある日本に関係する他の外国人に対しても、退避ウクライナ人の受入れと同様の措置適用を検討することが望まれる。

(了)

(2022/04/06)

脚注

  1. 1 3月21日のアフガニスタン新年には再開を約束されていた女子中等教育学校の再開が延期された。外務省「アフガニスタンの女児の教育の権利を否定するタリバーンの直近の決定に関する共同声明(仮訳)」2022年3月25日。
  2. 2 日本政府は人道支援の為の人道アクセス確保、女性・少数民族の権利の尊重を含む人権尊重、包摂的政治体制構築、アフガニスタンを再度テロの温床とさせないことを要求した。外務省 「アフガニスタン情勢(岡田駐アフガニスタン大使のカブール訪問)」2021年11月25日。
  3. 3 筆者による外務省関係者へのインタヴュー(2022年3月29日)
  4. 4 筆者による外務省関係者へのインタヴュー(2022年2月21日)
  5. 5 2022年3月17日にオンラインで行われた認定NPO法人Research Alternatives支援者説明会。
  6. 6 Human Rights Watch, “Afghanistan Events of 2021,World Report 2022.
  7. 7 同上
  8. 8 同上
  9. 10 同上
  10. 11 退避アフガン人を支援する複数のNGOと在福岡米国領事館からの情報による。
  11. 12 脚注5参照。
  12. 13 脚注5参照。
  13. 14 脚注5参照。