自衛隊の中東派遣が年内に閣議決定される模様である[1]。アメリカ主導の有志連合「海洋安全保障イニシアティブ」と一線を画す一方、本年6月に起こったような日本関係船舶の安全を確保する上でも、この派遣は賢い決定だと考えられる。日本は引き続きイランを巡る国際緊張緩和努力を行うとともにこのような形での我が国関係船舶の安全を確保することで、日本のエネルギー安全保障を確実にしていくべきである。

自衛隊の中東派遣と日本のエネルギー安全保障

 本年5月2日、日本等に猶予していたアメリカによるイランからの石油輸入禁止制裁の適用除外が廃止されて以来、イランの原油輸出量は、8割減になったと言われる[2]。そもそも、イランは、シリア、イエメン等で、サウジ及びUAEと敵対している。その中でアメリカの核合意離脱・制裁強化がなされた。その結果、イランは、ガソリン値上げに対する国民の猛反発にみられるように、国内経済上も苦しい立場にある[3]。

 また、アメリカは「海洋安全保障イニシアティブ」に基づく「センチネル(番人)作戦」の基地をバーレーンに構え、イギリス、オーストラリア、サウジアラビア(以後サウジ)、アラブ首長国連邦(以後UAE)等とともにペルシャ湾全体ににらみを利かすことで、軍事的にもイランへの圧力を強めている。

 イランは、この状況を変えていく必要に迫られている。イランが後押しするイエメンのホーシー派は、国内内戦での優勢状況を固める一方、国境を越えてサウジ南部への攻撃を行ってきている。また、イランは否定しているが、本年5月にサウジ関係船舶2隻を含む4隻が[4]、また6月には日本関係船舶1隻を含む2隻がオマーン湾で何者かに攻撃を受けた[5]。

 更に、9月には、サウジのアラムコ石油施設が、ドローン攻撃を受け大きな被害がでた。これもイラン政府は否定するがイランが行ったものとみられている[6]。

 一方で、イランは、核査察一部制限などの、アメリカの核合意離脱以降順次行ってきた核合意逸脱の姿勢を見せ欧州諸国に経済支援を迫っている[7]。

 以上から看取できることは、イランは閉塞状況打開のためには、あらゆる手段を使ってきているということ、及び自己の軍事的能力や政治的影響力を誇示しようとしているということである。

自衛隊の中東派遣と日本のエネルギー安全保障

日本のエネルギー安全保障

 日本は、2017年の段階で輸入石油の87.3%を中東に依存している[8]

 しかし、先に述べた事実に照らせば、日本が石油を頼るサウジやUAEの石油施設に何が起こるか分からないし、ペルシャ湾内、ホルムズ海峡、オマーン湾の航行安全も確実とは言えない。

 このような情勢を受けて、政府は10月18日の官房長官会見において、米国が主導する「海洋安全保障イニシアティブ」には参加しない一方、引き続き米国とは緊密に連携していくことを前提に、海上自衛隊の部隊をオマーン湾・アラビア海の北部の公海及びバブ・エル・マンデブ海峡の東側の公海を中心とした情報収集のために派遣について検討を開始することを発表した[9]。

 報道によれば、この検討を受けて年内の閣議決定後、上記の海域に現在海賊対処行動に従事している2機のP-3C哨戒機のうち1機を速やかに活用するほか、新たにヘリコプター搭載の護衛艦1隻を年明けに派遣するとのことである[10]

日本のエネルギー安全保障

 今回の海上自衛隊の派遣は単に日本の情報収集が強化されるだけでなく、同様の活動に従事する他国部隊との情報共有により、この地域を航行する日本関係船舶の安全にも寄与することが期待される。

他に日本が行うべきこと

 日本は、この機会を捉えてイランに対する防災・人道支援・災害復旧支援などの分野での協力を進めていくべきである。イランは地震多発国であり、これらの分野のニーズが存在する。起こってからではなく、起こる前の準備から協力を行う。そこには、日本人・イラン人の直接的接触が生まれ、協働で一つのものをつくっていく過程で信頼関係も生まれてくる。

 一方でハードな取り組みを行い、同時に常に話し合える環境をつくっておく。自衛隊派遣はそのような機会であることも忘れてはならない

追記

 この原稿を書いた次の日、つまり、12月4日、アフガニスタンで中村哲氏が殺害された。前回の報告で同氏を中心とした活動を取り上げたので、一言述べたい。

 この殺害は、同氏のリーダーシップの下16500haの灌漑地とそこで暮らす65万人のコミュニティがつくられたことが、どんなに大きな意味をもっていたかを示している。殺害した側からすれば、これでガーニ大統領の影響力を削ぎ、65万の人々のみならず、中村氏に助けを求めようとした人々に自らの影響力を行使できるチャンスなのかもかもしれない。しかし、アフガニスタンの平和と安定にとっての希望であるこの成果を台無しにしてはならない。道筋ははっきりしている。ペシャワール会のみならず、日本政府もアフガニスタン政府も、人々の命と生活の安全確保、そのための灌漑と農業の発展に向け努力していくべきである。

 中村哲先生のご冥福をお祈りいたします。

(2019/12/13)