中国のアジア支配の進展への対抗

 筆者は、2016年夏に中東地域研究旅行を行ったが、その際、西インド洋地域における中国の進出振りと存在感を目の当たりにした。中東各国へ旅し、在住する中国人の数の多さを肌で感じ、カネにものを言わせたインフラその他の整備への資金拠出とオマーン始め各国幹部の中国への傾倒振りについての状況を目の当たりにした。

 事実、過去数年の間に、中国は、ジプチに自国軍の基地を獲得し、スリランカの港湾の99年間の使用権を得た。スリランカは、債務返済額が歳入に迫り、資金繰りのために更に空港などの国有資産の譲渡或いは使用権付与を行わねばならない危機にある[1]。

 20世紀末までは日本がODAや企業の進出で救済にあたっていたが、今は日本にはもうそれはできない。中国の世界進出に対し、高度経済成長期を終えた日本は、政府のODAでも民間企業の力でも、高度経済成長期にある中国に対抗できるだけの経済力はないからだ。

 中国が一帯一路政策を推進し、世界的にそれを期待する流れができている中で、中国のアジア支配に対抗していくために日本ができることは何であろうか。筆者のこれまでの経験から、日本ができることは、アジア各国との間の実質的協力を民間ベースで進めていくことが、日本が友好国を再度増やしていく上で有効な手段だと考えるようになった。

 筆者は、一昨年、中国の真珠の首飾り戦略に楔を打つためには、西アジアにおいて日印協力を実質化していくことが効果的であることを提言したことがある。[2]真珠の首飾り戦略とは、香港からポートスーダンを結ぶ南シナ海からインド洋とその近隣の海湾に、エネルギー等経済及び軍事的観点から港を確保していくというものである。日本が、中国に対抗するインドのような勢力と、アフガニスタンなどの国々の発展に寄与する協力を行っていくことは、引き続き重要だと考える。しかし、それだけでは、スリランカのように中国にカネで絡めとられた国を、中国への対抗勢力側にひきつけることはできない。アジア各国の顔をこちら側に向けるには、その国が最も困難に感じ最も必要としていることについて、解答を示し、手をさしのべなければならない。

 日本政府や企業の限られた資源を直視すれば、災害対応における民間協力は、アジア各国の顔を日本に向けさせる上で、大きな可能性をもつと考える。

洪水

災害対応を通じた実質的協力関係の構築

 大地震、津波、台風、洪水、地すべりその他の自然災害は、どのような国に対しても大きな被害を与え、災害対応は為政者が真っ先に考えなければならない行政事業である。しかし、政府の対応能力は、国によって差があり、一般的に言って発展途上国の政府の対応能力は弱く、これを補うようにNGOや地域コミュニティ等市民社会が自ら対応にあたる、ということが散見する。一般に途上国は、政府の対応能力が弱いが、それを補うかのようにNGO等市民社会の能力が強いのが特徴だ[3]。

 例えば、フィリピンでは、台風被害にあった貧困市民を政府が強制移住させ住宅等を与える政策をとったが、職、医療、教育の観点から移住させられた市民を支えているのは市民社会のグループであった。[4]また、災害対策の一環としてつくられた災害対応センターの運営を実質的に支えているのは財閥であるし、運営自体は財閥が支援するNGOが行っている[5]。

 フィリピンでは政府の機能不足をうめるように、民間主導で市民社会や経済界の力で災害対応の仕組みがつくられおり、そのような仕組はアジアのそれぞれの国で多少の違いはあっても、民間主導でつくられつつあるようだ。しかし、フィリピンも含め、その装備、機材・設備、訓練などはまだまだ不十分である。自然災害が頻発する国においては、これら不十分なものに対しての供給が切実に求められている。従って、このような状況に対して、日本からの協力は感謝される要素が多く、極めて高い価値をもつことになる。

 上記のような支援は、政府のODAでもできないことはない。特に装備、機材・設備などであれば、JICAのプロジェクト技術協力のスキームを使えばできそうである。しかし、途上国の災害支援でこれらを必要としているのは、政府ではなく、市民社会の災害対応グループなのである。その海外のパートナーは、同じ市民社会に属する国際協力NGOの方が、相性がいいはずだ。

 災害対応においては、アジア各国のNGOを中心に、市民社会・財界・政府間で連携がなされている。すでにその連携を通じて関係者間に信頼関係が生まれている。同じように災害対応を専門にしている日本のNGOがそこに入っていけば信頼醸成も容易になるし、日本のNGOに対する信頼は、そのまま日本に対する信頼になる。

積み木

災害対応支援を行うべきアジア諸国

 偶然ではあるが、災害対応能力強化を行うべき諸国は、中国との関係が深い。スリランカ、バングラディシュ、ミャンマー、インドネシア、ベトナム、フィリピンなどが挙げられる。スリランカ、バングラディシュ、ミャンマーは先に挙げた真珠の首飾りを構成している。また、フィリピン、ベトナム、インドネシアは南シナ海で中国との間に領土問題を抱えている。

 実際に日本のNGOには、これらの問題意識を持って国際的な活動をしている団体がある。例えば、現在、筆者が顧問を務めるパシフィックアライアンス(A-PAD)は、スリランカ、バングラディシュ、インドネシア、フィリピンの災害対応ナショナルプラットフォームと連携しており、実質的協力関係の構築を行っている。A-PADがミャンマーやベトナムの災害対応ナショナルプラットフォームと連携するかどうかは別として、これら諸国の災害対応能力強化に日本の市民社会が協力という点で、重要なケースだと思われる。

 日本の国際協力NGOは、過去10年間に規模や質の面で活動を拡充させ、多いところでは、活動金額を5倍に増大させている。この力がNGOによる支援という形でアジア各国の災害対応能力強化に活かされることが期待される。同時に、日本政府も総額の2%にとどまる。[6] ODAによるNGO支援を大幅に増額させることが望まれる。

脚注

  1. 1「スリランカ 債務の代償」 日本経済新聞2018年5月2日。
  2. 2宮原信孝「アフガニスタン・イランにおける日印協力」2016年9月5日 東京財団政策研究所ウェブサイト
  3. 3国際ボランティア学会第17回大会シンポジウム「市民が主役のまちづくり」における林薫文教大学教授の発言(2016年2月27日、久留米大学御井キャンパス)。
  4. 4グレン・バティカドス、フィリピン大学ロスバニヨス校准教授による基調講演 国際ボランティア学会第17回大会シンポジウム「市民が国際協力のギャップを埋める」(2016年2月27日、久留米大学御井キャンパス)。
  5. 5Philippine Disaster Resilience Foundation(PDRF)による筆者へのブリーフ(2018年3月23日、フィリピン、マニラ市)。
  6. 6以下の資料から算定。
    OECD, “Aid for CSOs: Statistics based on DAC members’ reporting to the Creditor Reporting System database” December 2015.