オリンピック開幕と同時に気になる「閉幕後」

 2月9日に韓国・平昌冬季オリンピックが開幕した。これほどまでに「閉幕後」が気になるオリンピックも過去に例がないだろう。核・弾道ミサイル開発を続ける北朝鮮に対し、国際社会が経済制裁による北包囲網を強める中、米国による北朝鮮への軍事攻撃の可能性がにわかに現実味を帯びてきたからだ。米国有力シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS, Center for Strategic & International Studies)のビクター・チャ(Victor Cha)朝鮮部長の駐韓大使就任が一度は内定し、韓国政府からのアグレマン(Agrément :承認)を得ながらも、同部長がトランプ政権内で検討中とされる限定的な対北軍事作戦「鼻血作戦(Bloody Nose Strike)」に反対したという理由で内定が取り消されたという報道※1は、まさにその可能性を如実に物語るエピソードであった。

 こうした現状に対して、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は自国が巻き込まれる軍事オプションを回避することに躍起なだけでなく、周辺大国の影響を受けることなく南北主導による融和を模索する姿勢を鮮明にしている。このため「平和の祭典」としてのオリンピックを、開催国の立場を最大限に活用して北朝鮮との南北融和を演出した。北朝鮮側は高位級代表団として、朝鮮労働党序列2位の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長を団長として派遣しただけでなく、金正恩(キム・ジョンウン)党委員長の妹である金与正(キム・ヨジョン)党中央委員会第1副部長を金委員長の特使として韓国へ派遣した。2月10日にソウルで行われた文在寅大統領をはじめとする韓国首脳との南北会談では、金与正特使から金委員長からの親書を手渡す際に、口頭で文在寅大統領の訪朝要請が行われた。文大統領は「今後条件を整え実現しよう」と回答した。

 今回のオリンピック開催地の江原道(カンウォンド)・平昌郡(ピョンチャングン)に隣接し、オリンピック競技施設もある江陵(カンヌン)市一帯は、約20年以上前の1996年9月に、北朝鮮の武装工作員が特殊潜水艦によって隠密裏に侵入し、これを掃討しようとする韓国軍との間で銃撃戦が発生した場所である。逃げ場を失った北の工作員が山中で次々に射殺された、あるいは自決していった地域で、冬季オリンピックが開催され南北融和の舞台になるとはこれまで誰も想像できなかったはずだ。この20年あまりの間に日米韓中露の5カ国は、朝鮮半島における危機を煽って実を得る北朝鮮の瀬戸際外交と2000年の南北首脳会談に見られたような微笑外交に翻弄されてきた。その結果として、北朝鮮には独自開発が難しいとされていた核兵器を保有し、核の運搬手段である弾道ミサイルは米本土まで到達する能力を得ようとしている。米国は残り限られた時間にどのような対応を取るのかが今春以降の最大の焦点である。

6月の地方選挙へ向けて

 文在寅大統領が昨年5月に就任以来進めてきた外交安全保障政策は、ここまでほぼ望んだようなシナリオ通りに事が進んでいるだろう。政権発足後高まった米朝対立の中で半島情勢が緊張化し、一時は一部欧州諸国が平昌オリンピック参加への慎重対応も検討していたが、本年1月1日の北朝鮮による平昌オリンピック参加表明によって、そういった懸念を一掃し、オリンピックを平和理に開催して南北融和が実現したことは大きな収穫だ。

 文政権が政策を進めるための原動力は、政権発足以来維持している国民の幅広い支持(63%※2)によるものである。今回の北朝鮮のオリンピック参加を巡る韓国政府による強引とも言える南北共同チームの編成や、先月朴相基(パク・サンギ)法相が仮想通貨取引所を通じた取引を禁止する法案を準備中と明らかにしたところ、それに反対する大統領府掲示板への書き込みが殺到した問題により、支持層の中心である20代から30代の若い世代を失ったとの報道も多かったが、世論調査結果を見ると、20代から30代の支持率は7割を維持している。むしろ、注目すべきは保守層の支持が大幅に下がっていることだ。当初67%あった支持が36%にまで下落している※3。2月12日に発表された別の世論調査もほぼ同じ結果であった※4。今後の焦点は依然6割近い支持を維持している中道・無党派層の動きだろう。保守層の離反が進む中、高い支持率を維持するためには具体的な成果を出していくことが求められる。中道・無党派層の支持が6割を切り始めると政権の政策推進力に陰りが見え始めるかもしれない。

 折しも、今年6月13日に実施される地方選挙の候補者予備登録が2月13日から一部開始された。今回の選挙では国会議員の補欠選挙も同時に実施され、さながら「ミニ総選挙」の様相を呈している※5。現時点で選挙結果を予測する分析は出ていない。6月の選挙までに内政・外交の両面で何が起こるかわからない不確定要素が多いからだ。

 本選挙の最大の注目点は、文在寅政権内での影響力を持つ大統領府スタッフ(首席秘書官など)が首長選挙へ出馬することである。すでに、忠清南道(チュンチョンナムド)知事選に立候補予定の朴洙賢(パク・スヒョン)報道官をはじめ、10名ほどの大統領府スタッフが出馬準備のため、辞職あるいは辞職を予定している。いわゆる386世代※6と呼ばれる学生運動家出身の彼らは、内政だけでなく、外交安全保障政策への影響力を増しているとされる。昨秋のトランプ大統領訪韓の際、文大統領による在韓米軍基地での予告なしの出迎えや歓迎晩餐会での「独島エビ」の使用などを大統領府が主導したのがその典型例だ。彼らが地方自治にも進出するようになると、文在寅政権の国内政治基盤がより強化されるだけでなく、次期大統領選挙に挑戦できる有力政治家が数多く育つ可能性もあり、進歩陣営としては長期政権が視野に入ってくるだろう。反面、日韓関係の観点からは、進歩系の首長が多く誕生することにより、既存の少女像撤去の目処が立たなくなるばかりか、引き続き地方自治体の主導によりさらに多くの少女像が設置され、日韓間により多くの葛藤を生む可能性がある。

今年後半の文在寅政権の行方

 仮に政権与党が地方選挙に勝利したとしても、今年の後半は内政・外交の両面で文在寅政権の思惑通りに政策を実行することは難しくなると予想される。内政面では、若年失業率が高い状態は依然として変わらず、政権2年目において目に見えた成果を求められる中、重要政策として進めている最低賃金上昇策によって、国内企業が生産拠点をより一層海外に移転するのではないかと指摘されている。国会においては与党が過半数を得ていない状況は変わらず、立法による抜本的な社会制度改革は当分望めそうにない。

 外交面では米朝対立の行方が最大の変数である以外にも、同盟国米国との関係がリスク要因となっている。今秋開催される米韓安全保障協議会(SCM, Security Consultative Meeting)で戦時作戦統制権の返還問題が本格的に議論される予定であり、また、米韓FTAを巡る通商問題も依然両国の間に燻る対立の火種となっている。これらはいずれも今後両国間で意見の対立が予想され、すでに今回の南北融和の動きの中で顕在化しつつある北朝鮮への対応に関する米韓間の認識ギャップがより拡大することも懸念される。

 更に、日韓関係も昨年末以来最悪の状態が続いている。韓国側は2015年の日韓合意を認めないとしながらも、合意の破棄や再交渉は求めない姿勢を明らかにした。歴史問題の解決と、経済・安保分野での協力を切り分けるツートラック外交の推進を宣言している。これに対し、日本政府はツートラック外交を受け入れるとは表明せず、あくまで日韓合意の遵守を韓国に求める態度を貫いている。経済面では、日本での人手不足もあり、韓国政府は若年失業率改善策の一環として、韓国の若者の日本での就職を後押ししている。一方、安保面では昨年12月に通算6回目となる日米韓海軍艦艇による日米韓共同訓練(弾道ミサイル情報共有訓練)が行われた。GSOMIA(日韓軍事情報保護協定)も破棄されることなく運用されており、日韓安保協力の実績は積み上がりつつある。韓国側が描く「ツートラック」外交は「既成事実化」しつつあるのが現実だ。このような韓国にとり都合の良い外交を日本国民はどこまで甘受できるのか。時間が経過すればするほど、問題が顕在化していくことだけは間違いなさそうだ。

脚注

  1. “Disagreement on North Korea policy derails White House choice for ambassador to South Korea,” The Washington Post, January 30, 2018,
  2. 「デイリーオピニオン第294号(2018年2月第2週)」、韓国ギャラップ、2018年2月8日
  3. 同上、韓国ギャラップ、2018年2月8日
  4. 「リアルメーター週間集計 2018年2月第1週(5日〜9日)」、リアルメーター、2018年2月12日
  5. 『聯合ニュース(韓国語版)』2018年2月13日
  6. 韓国において1990年代に30代となり、80年代に大学に通い、民主化学生運動に参加していた者が多く、60年代生まれである世代を指す用語。現在は50代となり「586世代」とも呼ばれる。