大陸棚限界委員会に対する各国の申請状況

ロシアの申請

ロシアの申請

2001年12月20日、ロシアは、国連事務総長を通じ、大陸棚限界委員会に対して申請を提出しました。ロシアが申請を提出したことが国連事務総長によって、全国連加盟国に通知され、申請のエグゼクティブ・サマリーが公表された後、カナダ、デンマーク、日本、ノルウェー及び米国がそれぞれ自国の見解を表明する文書を国連事務総長に提出しました。

  • カナダ及びデンマークは、ロシアが提出したデータが不十分でありコメントすることができないが、ロシアの主張を認めたわけではないこと、ロシアの申請がロシアとの2国間の境界画定に影響を及ぼすものではないことを述べています。
  • 日本は、ロシアが提出した地図上、北海道及び北方四島沖の海域にロシアの排他的経済水域の線が引かれていることや大陸棚が設定されていること等につき異議を唱えるとともに、大陸棚限界委員会が北方四島の領土問題または日本・ロシア間の大陸棚及び排他的経済水域の境界画定に予断を与えるような行動をとらないよう要請しています。
  • ノルウェーは、ロシアとノルウェーとの間でバレンツ海における大陸棚境界画定が交渉中であり、委員会の審査によって影響を受けるものではないと述べています。(*1)(*2)

    (*1)2010年4月27日、ロシアのメドベージェフ大統領とノルウェーのストルテンベルグ首相がオスロで会談し、北極海及びバレンツ海において両国の主張が重複していた海域の海洋境界画定について基本合意したと発表しました。これに基づき、同日付で、ロシアのラブロフ外相とノルウェーのストーレ外相が共同声明(下記のノルウェー外務省サイトに掲載)を発表しました。共同声明では、両国間の係争海域についてほぼ等分されるよう境界線を引くこと、国連海洋法条約にもとづく大陸棚の外側の限界の設定について両国間で協力すること等が推奨されており、これにもとづいて、具体的に境界線を定める条約が結ばれることになりました。

    ノルウェー外務省サイト(英語版)

    (*2)2010年9月15日、ノルウェーのストーレ外相とロシアのラブロフ外相が、バレンツ海及び北極海における海洋境界画定及び協力に関する条約に署名しました。この条約により、バレンツ海及び北極海における大陸棚及び排他的経済水域について境界が画定されました。この条約は、両国の議会により承認されると発効します。条約文は、ノルウェー外務省サイトに掲載されています。

    (*3)2011年6月7日、ノルウェーのストーレ外相とロシアのラブロフ外相が、バレンツ海及び北極海における海洋境界画定及び協力に関する条約の批准書を交換し、規定に基づき、批准書の交換から一ヶ月後の7月7日に条約が発効しました。批准書の交換に関するプレス・リリースが、ノルウェー外務省サイトに掲載されています。

  • 米国は、北極海のアルファ・メンデレーエフ海嶺ロモノソフ海嶺が大陸棚の自然の延長ではないと述べています。また、ロシアと米国との間でベーリング海における海洋境界画定条約が1990年に署名されているが、ロシア議会が承認していないと述べています。

 

ロシアの申請のエグゼクティブ・サマリー及びこれら5カ国から提出された文書は、大陸棚限界委員会の下記のページにおいて見ることができます。

2002年3月〜4月に開催された第10回大陸棚限界委員会の会期中に、ロシアの代表がプレゼンテーションを行い、大陸棚限界委員会はロシアの申請を審査する小委員会を設置し、審査を開始しました。その後、小委員会は同年6月に再度集まり、6月14日に勧告案を大陸棚限界委員会の全体会合に提出し、全体会合は、第11 回大陸棚限界委員会の会期中の6 月27 日にロシアに対する勧告を採択しました。この勧告の概要については、第57回国連総会会期中に提出された「海洋と海洋法」に関する事務総長報告書補遺(A/57/57/Add.1)に収録されています。その内容は以下のとおりです。

  • バレンツ海およびベーリング海におけるロシアの申請のうち、バレンツ海についてはノルウェーとの、ベーリング海については米国との海洋境界画定条約がそれぞれ発効した場合に、当該境界線を示す海図及び座標データを提出するよう勧告した。
  • オホーツク海については、その北部海域について、より精密な根拠にもとづく部分申請(well-documented partial submission)を行うよう勧告した。また、大陸棚限界委員会は、当該部分申請は、南部海域における国家間の境界画定に関する問題に影響を及ぼさないと述べており、さらに、当該部分申請を行うためにロシアは(境界画定に関し)日本との合意に至るため最善の努力を尽くすよう勧告した。
  • 中央北極海については、大陸棚限界委員会の勧告に含まれる所見に基づいて申請書の改訂を行うように勧告した。

 

以上のとおり、ロシアの申請は、4つの海域に関するものでしたが、いずれの海域における大陸棚延長申請についても大陸棚限界委員会は、近隣諸国との境界画定のための交渉を行う必要性や、より精緻な根拠にもとづく申請を行う必要性を指摘しています。

その後、2007年8月2日にロシアの有人潜水艇2艇が、北極点周辺の海底を探査し、海底にロシア国旗を立てたとの報道がなされました。(*1) この海底探査は、ロシアの大陸棚限界委員会への再申請の提出に向け、ロモノソフ海嶺がロシアの領土と地質的に連続していることについての科学的データの収集のために行なわれたものと言われており、ロシアがいつ再申請を行うかが注目されています。(*2)

なお、ロシアやノルウェー等の北極海沿岸国の大陸棚延長の動向についての解説記事が、当財団が発行している「北極海季報第4号」(2010年3月発行)に掲載されていますので、そちらもご参照下さい。

(*1) 英国BBCニュース・オンライン版(2007年8月2日付)
朝日新聞2007年8月22日朝刊(14版)、2面(見出し「時々刻々・北極 争奪戦 ロシア 海底に国旗 資源確保へロシア先手」)。
Daniel Cressey, Russia at forefront of Arctic land-grab, Nature 448, 520-521 (2 August 2007).

(*2) Daniel Cressey, Geology: The next land rush, Nature 451, 12-15 (3 January 2008).

 

北極海周辺図

ロシアの申請

出典:米国商務省海洋大気庁地球物理データセンター(NGDC提供のETOPO2のデータ
http://www.ngdc.noaa.gov/mgg/global/relief/ETOPO2/ETOPO2v2-2006/Graphics/ETOPO2v2_Globes/JPEGsmall/NorthPole.jpg

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