はじめに

 2011年の福島第一原発事故から15年を経て、事故の当事者だった東京電力の柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)が再稼働するなど、エネルギー供給における原子力の役割が見直されている。そうした中、昨年7月、九州電力玄海原発(佐賀県)上空にドローンが飛来した可能性が指摘され、原発の運営に新たな課題を投げかけている。

 日本の原子力安全規制は、福島第一原発事故において地震、津波による電源喪失をきっかけに原子炉内の核燃料が溶融(メルトダウン)したことを受け、厳格化された。事業者には電源の多様化など自然災害への対応だけでなく、テロ対策の強化も求められた。例えば、原子炉の運転室がテロリストに占拠されても遠隔で原子炉を操作できる別の施設の設置が義務付けられている[1]。

 しかし、セキュリティ強化は現状、陸上からの施設侵入にほぼ特化しており、上空からの攻撃に対する対策は最近まで手付かずだった。一方で、原子力施設の上空に無人機が飛来する案件は2010年以降、特に海外で増えている。当初は無人機の攻撃力の低さから重要視されていなかったが、性能が日々向上し、さらに、無人機攻撃は非国家主体によるテロ攻撃か、国家の正規軍による攻撃かを判別しにくく、原子力施設を有する国々は対応を迫られている。

 本稿では、玄海原発の事案、世界各国での原子力施設上空での無人機飛来案件を概観した後、日本における原子力施設防護の体制を検証し、今後取るべき対策を考察する。

玄海原発、および世界各国における事例

 2025年7月26日午後9時ごろ、3号機、4号機が稼働中の玄海原発から原子力規制委員会(規制委)に、3機のドローンとみられる物体が同原発に飛来した模様との通報があった。規制委は原子力災害対策初動対応マニュアルに定める情報収集事態[2]に当たるとして緊急情報を発表した[3]。約40分後、玄海原発に異常が見られないとして緊急情報の発信を終了した。佐賀県警は同年9月の県議会で航空機の光をドローンと勘違いした可能性が高いとの見解を示したが[4]、原発内のカメラはすべて陸上監視用で、当時の上空を映した映像はなく、現在も真相は分かっていない。

 表1に示すように、原子力施設上空に無人機が飛来したとみられる案件は、2010年代初頭以降、各国で発生している。無人機の大型化、高性能化に合わせ、複数の大型機が同時に現れたり、編隊を組むスウォーム飛行をしたりする事案も出てきた。無人機による原子力施設への飛来、あるいは攻撃は、行為者を特定することが極めて困難で、日本の泊原発(北海道)近辺でのドローン飛行以外、行為者は判明していない。国家間戦争の状態にあるウクライナ南部ザポリージャ原発への度重なる無人機攻撃もロシア、ウクライナ、あるいは別の非国家主体が行為者なのか、特定できていない。

表1:国内外の原子力施設への主な無人機飛来案件

国名 概要 行為者
フランス 2014 13の原発上空に同時に無人機が飛来 不明
2019 使用済み燃料の保管施設上空から無人機で発煙弾を投下 不明
2023 7つの原発付近を無人機が飛行。うち4施設には同時に飛行 不明
米国 2016 サバンナ・リバー核施設(サウスカロライナ州)上空に無人機が飛来 不明
2019 パロベルデ原発(アリゾナ州)上空に5~6機の無人機がスウォーム飛行 不明
2022~24 国家核安全保障局(NNSA)の施設に計12件の無人機飛来案件を確認 不明
ベルギー 2025 同国北部のドール原発上空に5機の無人機が飛来 不明
スウェーデン 2022 バルト海に面するフォルスマルク原発上空に5機の大型無人機が飛来 不明
ウクライナ 2025 9月下旬、ロシアが占拠中の同国南部ザポリージャ原発付近の送電線にドローン攻撃。外部電源が1か月にわたって喪失 ウクライナ、ロシア双方が相手の攻撃と主張
日本 2023 北海道泊原発近辺にドローン飛行 航空法違反で40代男性を逮捕

出典:名古屋外国語大学堀部純子教授が提供した資料を基に筆者作成。

 各国の原子力規制当局は当初、原発、および原子力施設の頑健性から無人機による攻撃で重大事故に至る可能性は低いとして、電力事業者に対し特段の対策を求めていなかった。しかし、米国原子力規制委員会(NRC)は2024年、無人機の高性能化に伴い、重大事故に発展する可能性があるとして事業者に飛来案件の報告を義務付けた。あわせて、軍事用ドローンも念頭に原子力施設への脅威評価を再検討すると表明した[5]。NRCの安全規制は世界各国の規制当局が参照しており、今後、原子力施設を稼働させるうえで、事業者が満たすべき安全規制要件に無人機対策が各国で追加される可能性がある。

日本の原子力施設の防護体制

 日本もこうした国際動向に沿った対策を進めている。まず、警察庁が2025年12月、対応策を取りまとめ、ドローンと航空機の識別方法に関する教養訓練に警備員を参加させることを原子力事業者に要望した[6]。2026年6月には、「重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、原発を含む対象施設周辺の飛行禁止空域が300mから1kmに拡大された[7]。また、規制委は同月、準備期間を設けたうえで原子力施設にドローン検知器を設置することを事業者に義務付ける方針を決めた[8]。あわせて規制委は無人機対策での警察との協力強化を表明した[9]。原子力施設に対する上空からの物理的攻撃があった場合、現場からの正確な情報提供、政府による事態認定が迅速な初動対応に欠かせないことを踏まえた措置である。

 具体的には、図1に示すように、原子力施設において緊急事態が起きた場合、事業者による通報が起点になり、政府の事態認定を経て対応策が決まる。

図1:日本における原子力アクシデントの対応体制

出典:笹川平和財団安全保障研究グループ 緊急事態法制研究会『日本の緊急事態法制の現状と課題~南海トラフ地震から台湾有事まで~』16頁を参照し筆者作成[10]。

 本論考の趣旨から、外部からの故意による攻撃に焦点を絞って、「原子力災害対策特別措置法」と「自衛隊法」「武力攻撃事態対処法」に基づく対処について説明する。原子力施設において核物質防護システムを設計し評価する際の指針となる設計基礎脅威(Design Basis Threat:DBT)[11]の範囲内であり、行為者がテロ組織など非国家主体と判断されれば、治安当局(警察、海上保安庁)の支援を受けながら、原子力災害対策特別措置法に基づき、事業者が中心となって対応する。ただし、非国家主体による行為でも、DBTを超えると判断される場合、自衛隊法の治安出動、あるいは武力攻撃事態対処法の緊急対処事態を根拠に自衛隊が出動する。他国の正規軍による攻撃と認定されれば、自衛隊法、武力攻撃事態対処法により自衛隊が出動する。

 日本の原発では民間の警備員に加え、原発が立地する16道県の警察が銃器対策部隊を設置し、24時間体制で警護に当たっている[12]。しかし、原発に専従部隊を常駐させているのは福井県警のみである[13]。玄海原発の事案では、警備員が最初に上空からの光を検知したが、原発に展開する佐賀県警が光を確認したのは約30分後であり[14]、初動で十分に情報交換ができたとは言い難い。無人機案件については、民間の警備員と警察が緊密に協力しなければ、事態の正確な把握が難しいことを示唆している。ドローン検知器の設置義務付けを契機に、民間の警備員と警察が協力を深められるかが、対策の実効性を左右する。

原子力施設の安全確保のために

 玄海原発ドローン事案から1年を契機に、その後の国内外動向や日本における法律、それに基づく対策を踏まえ、対処力向上のため2点指摘したい。

 第一に原子力施設の現場における警備員と警察の協力強化の具体化である。無人機の性能、および運用が世界各国で向上している現状を踏まえれば、正確な初動通報の重要性はますます高まっている。そこで、上述の「福井方式」、特に専従部隊を原発に常駐させる体制を全国に導入し、事業者と警察の協力を日常から深化させることは検討に値する。

 第二に国内原発のぜい弱性を解消しておくことである。テロ攻撃にせよ、正規軍による武力攻撃にせよ、原子力施設を攻撃する場合は弱点を突き、被害の一層の拡大を狙う。ザポリージャ原発で送電線が狙い撃ちされたことはその証左である(表1参照)。日本のぜい弱性は、核燃料サイクルの行き詰まりもあり、原子炉で燃やされた使用済み燃料が原子炉に比べ頑健性で大きく劣る使用済み燃料プールに大量に貯蔵されていることである。関西電力大飯原発(福井県)などプールの貯蔵率が収容可能容量の90%超に達する原発もある(2026年3月末時点)[15]。100%に達すれば、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)に基づき、事業者は原子炉の運転を停止する必要がある。そうした事態を防ぐためには、キャスクと呼ばれる頑丈な鋼鉄製の容器に使用済み燃料を収容する乾式貯蔵施設を整備するなど早急に対策を進めなければならない。ぜい弱性の解消が攻撃を抑止することにつながる。

 これらの対策は事業者にとって原発を運転するコストがさらに上昇する要因になる。しかし、自然災害であれ、外部攻撃であれ、原子炉が制御不能になれば何が起こるか、私たちは福島第一原発事故で経験している。安全対策がすべてに優先する覚悟で進めてほしい。

謝辞

 本稿を執筆するにあたり、無人機飛来に関する資料提供について名古屋外国語大学堀部純子教授、図1の作成や関連法令について千葉科学大学佐藤庫八特担教授に協力していただいた。記して感謝申し上げます。

(2026/07/14)

脚注

  1. 1 正式には特定重大事故等対処施設と呼ばれる。
    日本原子力文化財団 エネ百科「[Q]「特定重大事故等対処施設」は、どんなもの?」2016年5月24日。
  2. 2 情報収集事態とは、原子力施設が立地する施設において震度5弱、または5強の地震が発生した場合や、原子力施設の運転に影響を及ぼすおそれがある核物質防護情報が事業者から通報された場合に規制委より発表される。情報収集事態より深刻な事象は警戒事態になる。原子力規制庁「原子力災害対策初動対応マニュアル~情報収集事態及び警戒事態における対応~」2017年10月30日、5頁を参照。
  3. 3 原子力規制委員会「緊急情報 異常の有無確認中(第1報)核物質防護に係る事案について」2025年7月26日。
  4. 4 『玄海原発“ドローンと思われる3つの光”問題 佐賀県警「航空機の可能性が高い」』サガテレビニュース(YouTube)、2025年9月18日。
  5. 5 “Drones and Nuclear Power Plant Security,” US NRC, January 21, 2025.
  6. 6 警察庁「技術の進展に伴う危険なドローン飛行への対策に関する報告書」2025年12月、最終頁。
  7. 7 警察庁「小型無人機等飛行禁止法に関する警察からのお知らせ」2026年7月7日アクセス。
  8. 8 「原発など22の原子力施設にドローン検知器設置を義務化へ 原子力規制委員会」TBS NEWS DIG、 2026年6月24日
  9. 9 原子力規制委員会「原子力規制委員会委員長定例会見速記録」2026年3月18日、1-3頁。
  10. 10 笹川平和財団安全保障研究グループ 緊急事態法制研究会『日本の緊急事態法制の現状と課題』2025年3月。
  11. 11 核物質防護システムを設計し評価する際の指針。核物質の不法移転、妨害破壊行為を企てようとする内部者、および外部敵対者の特性、性格、限界を指している。文部科学省「用語集」など参照。2026年7月7日アクセス。
  12. 12 警察庁「警察の国際テロ対策~米国同時多発テロ事件から10年の軌跡」2011年9月、2頁。
  13. 13 福井県警察「組織図」2026年7月7日アクセス。
  14. 14 読売新聞「玄海原発の「光を放つ飛行体」、警備員4人や県警の特別警備部隊も目撃…防犯カメラには映らず」2025年7月28 日。
  15. 15 電気事業連合会「<参考>使用済燃料の貯蔵状況と対策(2026年3月末時点)」2026年7月7日アクセス。