原子力事故を起こした事業者による原発の再稼働
東京電力の柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)の6号機が2026年1月21日、再稼動した。原子炉内で核分裂反応のスピードを調整する制御棒の不具合が発生し、いったん運転を停止したものの[1]、2011年3月に発生した福島第一原発事故から15年の節目を迎えるのを前に、事故の当事者だった東電が原発を再稼働させた事実は、日本のエネルギー政策が転換したことを象徴している。
同事故後、第4次エネルギー基本計画において、事故の教訓を踏まえ、再生可能エネルギーの導入促進と原発依存度の可能な限りの低減が示された[2]。しかし、この方針は長続きしなかった。2025年2月に改定された第7次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーとともに、原子力を「最大限活用」へと位置づけが劇的に変化した[3]。
変化の要因は主に二つある。一つは、2050年にCO2排出を実質ゼロにするカーボン・ニュートラルの達成が国際公約となる中、将来の主力電源と期待された再エネの普及ペースが鈍化し、脱炭素社会の実現に加え、エネルギー安全保障の観点から、原子力の役割が見直されたことである。もう一つは、人口減少により低減すると見込まれていた電力需要が一転、増えると想定されていることである。増加の主因は人工知能(AI)の活用拡大によるデータセンター(DC)の設置増と見込まれるが、AIは今後の国際競争の主戦場と見られており、AI開発に欠かせない電力の安定供給と脱炭素を両立する手段として、国内外で原子力への期待は高まっている。
しかしながら、重大事故のリスクや使用済み燃料の最終処分をどうするか、など原子力発電が内包する課題が解消されたわけではない。本稿では、福島第一原発事故後の日本および世界のエネルギー事情を概観したうえで、日本のエネルギー政策推進上の留意点について考察する。

曲がり角を迎えた福島第一原発事故後の再エネ促進策
柏崎刈羽原発の6号機の再稼働により、日本において運転可能な33基の原子炉のうち、計15基の原子炉の運転が承認されたことになる。原子力を取り巻く状況は福島第一原発事故直後に比べ、大きく様代わりした。
福島第一原発事故により原発の安全性への国民の信頼は失墜し、新たな規制機関として原子力規制委員会が新設され、原子炉を運転するための安全基準が厳格化された。旧安全基準で運転していた原発は定期検査のために順次運転を停止し、2012年5月、日本は、福島第一原発1号機が商業運転を始める1年前の1970年以来42年ぶりに、原発によるエネルギー供給がない状態となった[4]。そのため休止中の石炭火力発電所を再稼動させるなど化石燃料に依存し、2012年度のエネルギー供給は化石燃料が88.3%を占めた[5](図1参照)。
図1:2012年度の日本の電源構成
を参考に筆者作成。
図2:2023年度の日本の電源構成
エネルギー需給実績を取りまとめました(速報)」を参考に筆者作成。
原発事故後、初めて改定された第4次エネルギー基本計画は冒頭で、「震災前に描いてきたエネルギー戦略は白紙から見直し、原発依存度を可能な限り低減する」[6]と宣言し、再エネを基軸として脱炭素を進める方針を示した。
この時、再エネの中で主力となったのは太陽光発電である。2012年から数年間は年間9ギガワット(GW、おおむね原子炉9基分)規模で導入が進んだが、2021年以降は年間5GW未満と鈍化している[7]。大型メガソーラーの適地が少なくなってきたことに加え、太陽光パネルを大量に設置するため森林を大規模に伐採するなど環境への悪影響から、住民の反対運動が全国で起き始めたためである。2025年11月には、千葉県鴨川市でのメガソーラー計画に対し、事業者が許可外の伐採を行ったとして、千葉県が工事の一時中止の行政指導を出す事態も起きた[8]。そのため、政府は2027年度以降、メガソーラー新規事業に対する支援制度を廃止する方針と報道されている[9]。太陽光発電の2030年導入目標103.5~117.6GWに対して、2023年12月末時点の導入量は73.1GWであり[10]、導入の停滞により達成が危ぶまれる。
また、太陽光パネルに欠かせない鉱物のガリウムや風力発電に欠かせないレアアースの生産、精錬において中国が世界シェアの90%超を握り[11]、中国によるそうした希少鉱物の輸出規制が相次いでいることも再エネの促進にとって障壁になりつつある[12]。
太陽光発電を補完し、再エネの主力電源化に貢献する役割が期待された風力発電、特に洋上風力発電も状況は厳しい。2025年8月、三菱商事は資材価格の高騰により採算が見込めなくなったとして、秋田、千葉両県の3つの海域で計画していた洋上風力発電プロジェクトからの撤退を発表した[13]。
結果として、2023年度エネルギー供給において、化石燃料は依然として68.6%を占める[14](図2参照)。先進7か国の中で最も高く、化石燃料の比率が5割を超えているのは日本と米国のみである[15]。再エネの比率(水力を含む)は22.9%まで上昇しているものの、欧州各国に比べて普及速度は鈍く、主力電源への道のりは依然遠い。
復権する原子力
こうした状況下、政府内で脱炭素社会や他国の動向に左右されないエネルギー供給の実現には原子力も必要との声が高まり、2023年5月、「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(GX脱炭素法)が成立した。この中で特に原子力利用の強化が掲げられ、最長60年とされていた原子炉の運転期間の延長や次世代炉の推進が定められた[16]。こうした流れの中で、冒頭で言及した第7次エネルギー基本計画において、原子力を最大限活用する方針が明記された。
エネルギー需給見通しを見誤ったことも、原子力の復権を後押しする形になった。多くの先進国で人口減少により低減するとみられていた電力需要は、AIの普及によるDCの設置増により大幅増加に転ずると想定されるようになった。日本も例外ではなく、資源エネルギー庁は2025年1月、従来の見通しを修正し、2034年度の電力需要が8,524億キロワットアワー(kWh)と2024年度(8,059億kWh)より6%増えると発表した[17]。
DCは常時大量の電力を消費するため、現状は天候によって出力が変動しやすい再エネより、出力が安定し発電中にCO2を排出しない原子力への期待が国内外で高い。米国では、マイクロソフト社が発電企業のコンステレーション社と異例の契約を結んだ。福島第一原発と同様に、2号機が1979年にメルトダウン事故を起こし、2019年に1号機も運転を終了したペンシルベニア州のスリーマイル島原発の再稼働をコンステ社に依頼し、そのすべての発電量(835メガワット)を20年間にわたって買い取る契約である[18]。主にDCへの電力供給を見込んでいる。
日本においても、東電が柏崎刈羽原発の近辺にDCの開発を検討と報じられている[19]。東電自身はDC開発についてまだ発表していないが、同原発の再稼働が順調に推移し、DC開発計画が明らかになれば、新たな収益源としての期待から、他の電力会社も追随して原発近辺へのDCの誘致が相次ぐ可能性がある。
このような動向により国民の意識も変わりつつある。世論調査において、原発の再稼働に対し、賛成が反対を上回ることが通例となってきた。各種世論調査のうち、最も新しい毎日新聞社の調査(2025年12月26日公表)によると、原発の再稼動に賛成との回答が48%、反対が20%となっている[20]。
解消されない原子力への不信
しかしながら、原子力が抱える課題が解消されたわけではない。原子力の安全にとって想定を超える事態は今も発生している。例えば、2024年1月の能登半島地震では、北陸電力志賀原発において、同社の想定を上回る揺れが発生し、原子力規制委員会は今後の再稼働に向けた審査で同地震の評価を反映させる方針を示した[21]。また、この地震の際、住民の避難ルートに指定されている原発周辺の幹線道路の大半が損壊する事態も起きた[22]。もし、志賀原発で重大事故が発生していれば、事前に策定していた避難計画が機能しなかった可能性が高い。
使用済み燃料の最終処分については、北海道の2つの自治体で地層処分地の選定に向けた第一段階である文献調査が終了したが、ボーリングなど地層を実際に調べる概要調査への移行には知事が反対を表明し[23]、見通しが立っていない。つまり、日本において使用済み燃料の行き先は未定のままである。
さらには、原子力利用において不都合な情報を隠蔽、放置、あるいは改ざんしようとする電力事業者の姿勢は福島第一原発事故前から変わっていないように見える。2020年、日本原電が所有する敦賀原発2号機(福井県)の再稼働に向けた審査中、原電が提出した文書に、活断層のおそれがある地質データなど80か所を改ざんした跡が発見された。規制委は審査を中断し、結局、2023年8月、新しい安全基準の策定後初めて審査に不合格とした[24]。2026年初頭にも、中部電力が浜岡原発(静岡県)に関する審査の中で、耐震設計の指針となる地震想定について、データを不正に操作して過小評価していたことが発覚し[25]、規制委が審査を中断したばかりである。東電もまた、柏崎刈羽原発の再稼働に向けた準備を進める中、IDカードを職員が不正利用したり、侵入検知装置が多数壊れていることを知りながら放置したり、核セキュリティ上の不備を相次いで指摘された。規制委は2021年4月、同原発における核燃料の移動禁止を命令し[26]、再稼動の時期が遠のく事態を招いた。
このように、原子力利用を進める上で克服すべき課題は多く残されている。先に紹介した毎日新聞の世論調査では、「わからない」との回答が30%を占めている。記事では「再稼働の賛否に迷っている有権者も多い」ことが指摘されており、原子力利用への国民の信頼が完全には回復していないことがうかがえる[27]。
おわりに:原子力利用を続けるにあたって
柏崎刈羽原発の再稼働を機に、福島第一原発事故以降のエネルギー政策を検証すると、脱炭素の要請などを背景に、原子力の役割が再定義されたことは明らかである。国民の意識も現実を見据え変化が観察されるが、原発の安全性や電力事業者への信頼が回復したとは言い難く、原子力利用が一本調子で増加する環境にはない。今後のエネルギー政策と原子力利用について2点強調しておきたい。
1点目は原子力か、再エネかの二項対立をただちに停止することである。双方とも課題があり、他方を凌駕できるほどの優位性はない。将来における再エネの主力電源化を基軸にしつつ、当面は、原子力、再エネが互いの弱点を補完しながら共存し、他国の動向に左右されにくいエネルギー供給の構築を目指すべきだろう。化石燃料から脱炭素電源への移行を図る難しい時期に、電力需要増への対応も迫られるとなればなおさらである。
2点目として、厳格化された原発の安全基準を順守することを挙げたい。福島第一原発事故の遠因となったのは、本来電力会社や他省庁から独立して原発の安全性を審査するべき原子力規制当局が、原子力を推進する省庁や電力会社の意向に押されて安全審査を骨抜きにするなど、事故のリスクを過小評価したことだった。事故後、国会事故調査報告書は「歴代の規制当局と東電との関係においては、規制する立場とされる立場の「逆転関係」が起き、規制当局は電気事業者の「虜(とりこ)」となっていた。その結果、原子力安全についての監視・監督機能が崩壊していたと見ることができる」と厳しく指摘した[28]。原子力利用を推進する過程では、国会事故調が指摘するような安全軽視の風潮に陥りやすい。政府、電力会社には、そのことを肝に銘じ、同じ過ちを繰り返さないことを強く求めたい。

(2026/01/26)
脚注
- 1 東京電力「柏崎刈羽原子力発電所6号機 最新情報」柏崎刈羽原子力発電所情報ポータル」2026年1月23日アクセス。
- 2 経済産業省資源エネルギー庁「第4次エネルギー基本計画」2014年4月、21-22頁。「エネルギー基本計画」は、エネルギー政策の指針であり、おおむね3年に一度改定される。
- 3 経済産業省資源エネルギー庁「第7次エネルギー基本計画」2025年2月、17頁。
- 4 「国内原発 5日に全て停止 42年ぶり、泊3号機検査入り」『日本経済新聞』2012年5月4日。
- 5 電気事業連合会「2012年度の電源別発電電力量構成比」2013年5月17。
- 6 前掲資料「第4次エネルギー基本計画」4頁。
- 7 経済産業省資源エネルギー庁「再生可能エネルギーの導入状況」2024年6月13日、6頁。
- 8 千葉県「知事定例会見(令和7年10月23日)」。会見項目外(鴨川メガソーラー)の箇所参照。
- 9 「新規メガソーラー、電力買い取り価格上乗せ廃止へ…消費者が支払う再エネ賦課金が原資」『読売新聞』2025年12月14日。
- 10 前掲資料「再生可能エネルギーの導入状況」5頁。
- 11 ガリウムについては “Mineral Commodity Summaries 2024,” USGS, January 31, 2024, pp.74-75を参照のこと。 レアアースについては、“World Energy Outlook 2025 Executive summary,” IEA, November 2025, pp. 247-248を参照のこと。
- 12 中国政府は2026年1月6日、軍民両用の規制に基づいて日本への輸出規制を強化すると発表した。レアアース関連製品も対象になった場合、再エネや電気自動車など民生産業分野にも影響を与える可能性がある。
首相官邸「内閣官房長官記者会見 令和8年1月7日(水)午前」中国の輸出規制に関する質疑応答は動画の1分34秒~3分59秒。 - 13 三菱商事「国内洋上風力発電事業に係る事業性再評価の結果について」2025年8月27日。
- 14 経済産業省「令和5年度(2023年度)エネルギー需給実績を取りまとめました(速報)」2024年11月22日。
- 15 「【エネルギー】世界各国の発電供給量割合[2023年版](火力・水力・原子力・再生可能エネルギー)」Sustainable Japan 、2024年8月15日。
- 16 「GX電源法、25年6月施行 原発運転60年超可能に」『日本経済新聞』2023年9月12日。
- 17 経済産業省資源エネルギー庁「今後の電力需要の見通しについて」2025年1月27日、27-32頁。
- 18 Constellation “Constellation to Launch Crane Clean Energy Center, Restoring Jobs and Carbon-Free Power to The Grid,” September 20, 2024.
- 19 「東京電力、柏崎刈羽原発の周辺でデータセンター開発 AI需要に的」『日本経済新聞』2025年12月22日。
- 20 「原発の再稼働「賛成」が48%、「反対」を大きく上回る 世論調査」『毎日新聞』2025年12月26日。
- 21 原子力規制庁「令和6年能登半島地震における原子力施設等への影響及び対応」2024年1月10日、4-5頁。
- 22 「志賀原発避難道路、過半が寸断 能登地震で7路線、計画実効性揺らぐ」『47NEWS』(共同通信)、2024年1月31日。
- 23 北海道庁「文献調査報告書案の審議終了に伴う知事コメント」2024年8月1日。
- 24 原子力規制委員会「原子力規制委員会記者会見録」2023年8月28日。
- 25 中部電力「浜岡原子力発電所の新規制基準適合性審査における基準地震動策定に係る不適切事案について」2026年1月6日。
- 26 原子力規制委員会「原規放発第 2103312 号」2021年3月31日。
- 27 脚注20参照。
- 28 『東京電力福島原子力発電所事故調查委員会(国会事故調)報告書』2012年、12頁。
